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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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IF DREAMS CAME TRUE // come on sweet and cool days 9




迎えた結末。
運命は撒き戻された。
再び運命のレールに上るか、それとも外れたままの螺子で行き続けるか――

少年の選ぶ道はどちらか?



これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。







 暖房の効いたその高級車に乗り込んだ。後ろを見れば、誘拐犯達は直ぐにでも駆けつけた警察官が取り押さえており、もう問題は無いであろう。
 三千院家のリムジンに乗せられたハヤテとヒナギクは、目の前に居るナギと呼ばれる少女と、マリアと呼ばれる女性と向き合っていた。――無論、存在を知らないのはハヤテだけであり、同じ白皇学院に通い、そして知り合いであるヒナギクには別段見慣れた光景である。
 リムジンは先程から動き出しており、練馬の三千院家に向かっている。
「しかし、なんとお礼を言って良いのやら……まさかあの時公園に居た人がヒナギクさんと知り合いとは思いませんでしたし、こうして助けに来るとは……」
 マリアの言葉は尤もである。誘拐など、一般人が解決するには大きすぎる事件である。それを解決に導く為に行動する一般人など、ドラマの主人公以外に見た事が無い。現に、それをしてしまった人間が目の前に居る訳であるが。
 礼をしたいと言う言葉に、ハヤテはいえ、と言いながら首を横に振る。
「僕は何もやっていませんし、結局三千院のお嬢様を救ったのはこの姫神と言う人じゃないですか!」
 姫神、と云う言葉が出るなり、その当の本人であるナギは顔を不機嫌に歪めて、横を向く。助けて貰ったと云うのに、余り機嫌は良くない。……何かあるのであろうか。
 よく考えてみれば、その姫神と呼ばれる人間は何故この三千院ナギを助けたのか、それをハヤテは理解できないで居た。無論、知り合いと云う線が濃厚であるが、だとしたら何故この少女にずっと着いていなかったのか、と云う説明がつかない。
 そんなハヤテの内心を察したのか、横からヒナギクが言葉を紡ぐ。
「姫神って人は、ナギの執事よ」
「あ、そうなんですか?」
 それならば辻褄が合う。執事であるのなら、確かに助ける理由が生まれる。……となると、矢張り気になるのは何故執事でありながら自らの主の横に着いていなかったのかである。
 だがそれは相手方の事情である、深追いは失礼に当たる。ハヤテは口には出さずに、心の中に仕舞っておく事にした。
 しかし……改めて車の中を見渡す。本当に豪華な車である。リムジンと言えば、テレビに移る、レッドカーペットを歩くセレブリティーの共々が乗る車として有名であるが、まさか、自分が乗る事になるとは思わなかった。――同じ資産家とは言え、ヒナギクの家にはリムジンなど存在していなかった。確かにあれ程の屋敷の巨大さを誇っているのであれば、肯ける話でもある。
 黒いリムジンは首都高速を降り、そして練馬の街を走る。腕時計を見れば既に二二時半を回っている。流石に飛び出してからと言うもの、一つも連絡を入れていないハヤテである……かなり拙い感覚が頭を過ぎる。あの温厚なヒナギクの義母が怒る姿を考える。……背中が震えた。
「大丈夫よハヤテ君。私がなんとかするから」
 その掛けられた言葉に少しは安心するものの、矢張りどこか不安を隠せないで居た。
「私達の方でも言っておきますので……」
 マリアからの言葉にも、矢張り不安は消えない。此処まで来れば流石に重症である。
 だが何時までもそう考え込んでいるハヤテに、横に座るヒナギクの中で何かがはじけた。この様な姿を見ていると、ヒナギクは放っておけないのである。いや、ハヤテに関しては、“放っておけない”と云う概念よりも、“叱咤”に近い感覚だ。
「ああん! もう! シャッキっとしなさい! ハヤテ君がすると決めてやった事なんでしょう!? ならなんで起こられる事恐れてんのよ!
 男の子なら! 自分が正しいと思ったこと貫きなさいよ!」
 立ち上がり叱咤するヒナギクの剣幕に押されて、小さな、呟きに似た声ではい、とハヤテが答える。よろしい、と言ってヒナギクは腕を組みながら再び席に座る。
 それを眺めていたナギはその剣幕に、ハヤテと同じ様に少し後ろに下がりそれを見、マリアは苦笑しながらハヤテに対して少しの同情を示していた。……ヒナギクの言いたい言葉も半分解る様な気がしたのであるが、今はハヤテに同情する事にする。
 当の叱責を受けたハヤテはその言葉を脳内で何回か繰り返した後に、漸く真の意味で覚悟を決めたらしい。説明すれば解ってくれる人であろう。
 数分の後に、リムジンは桂家の家の前に到着した。車から降りたハヤテとヒナギクは、ナギとマリアに礼を述べた後に、家に体を向けた。……本当に数時間のみ空けただけだと云うのに、二人は何か懐かしいもの感じていた。漸く帰ってきた……そんな感情である。
 玄関の柵を開き、扉に手を掛ける。乾いた音を立てて、扉が開くと、見慣れた下駄箱の姿。
「ただいま」
「只今戻りました……」
 ヒナギクと対照的に、覚悟を決めたとは言え、暗い口調のハヤテに一瞬ヒナギクは顔を顰めたが、そのまま玄関で説教をする訳にも行かず、兎に角中に入る事にする。
 リビングでは、テレビを視ているヒナギクの義母が居た。背中越しに、その姿を眺める二人に嫌な予感が過ぎった。まさかと思うが、これは叱責されると云う事であろうか、ハヤテはゆっくりとヒナギクの方に近付き、耳打ちをする。
“――ヒナギクさん。義母様が起こる時って……どんなですか?”
“私に聞かないでよ。私、義母さんが怒ったところなんて見たことないもの……”
“じゃあこの状況は?”
“解らないけど、義母さんがこんなに黙ってテレビ見ている事ないもの”
 テレビでは、義母が好きだと言っていたお笑い芸人が自らの笑いのネタを披露している。この状況で笑っていないと云う事は無いらしい。それは何時もと違うと言う事である。
 矢張り叱責か? ハヤテが一歩後ろに下がるのを見て、ヒナギクがその腕を掴む。目が、逃がさない、と告げている。
 そこで、ヒナギクが決心をして義母の元へと歩いていく。その後ろに続いて、ハヤテも歩いていく。
 徐々に近くなる義母の背中。そして、近付くたびにその何時もと違う雰囲気に二人は息を飲む。
 そうして、二人は義母の元へと辿り着いた。目の前に回りこんで、直ぐにでも謝る準備をしていたのであるが……
 聞こえて来たのは、静かな呼吸であった。そして、見たのは義母が目を瞑って、ソファーに背中を預けている姿であった。
 ――そう、寝ているのだ。
 その姿を眺めて二人は脱力した。叱責されるものと完全に思っていた二人は、その義母の行動に完全に意表を突かれたのである。
「……ふぅ」
 溜息を吐く。脱力して、本当の意味で安心を手にしたのであろう。考えてみれば、三千院ナギが誘拐されてから、ヒナギクの緊張の糸は今まで張っていたのである。それが解けた……ヒナギクの安堵の気持ちは、本人ではないハヤテにも伝わった。
 兎に角、安堵すると、人と云うモノは空腹が訪れるものである。しかも、ハヤテもヒナギクも、夕食は食べていないのである。空腹は今絶頂にある。
「何か食べますか? 冷蔵庫の中身をお借りします」
 有り難う、とヒナギクの礼が耳に届く。

     ■■■

 ――冬の外に、夜も更けた頃合に、桂家の目の前で立っている男が居る。
 執事服に身を纏い、そして腕を組みながらその家を眺めているその姿は、周りから見れば奇怪な光景であろう。だが、今は深夜であり、人通り等全く無い。近くに存在しているコンビニエンスストアから帰る途中の若者や、仕事帰りの会社員などは居るが、それらは男の事など気にも留めずに通り過ぎていく。
 男がポケットより取り出したのは、一つの手紙と、一つのペンダントだ。手紙は自分宛に、そしてペンダントはこの家に居る少年宛に……
 だが、男はこのペンダントを少年に届けるべきか、否かを考えていた。渡すに足ると云う理由ではなく、渡して良いのかと云う話である。
 確かに、少年は一〇年前、此の世の奇跡に触れた。神々に愛された少女に会い、そして時間を共にし、真実に触れた。無論、その事を少年が覚えているかどうかは存じない。だが喩えそれに触れた唯一の人間だとしても、その人間を巻き込んで良いものか……それが気がかりであった。
 彼がもし、三千院家の執事として仕えるのであれば、何の躊躇い無く、恐らく自らではなくあの男が少年にペンダントを渡したであろう。
 今は運命が違い過ぎる。少年は桂家の人間だ。……何時か、彼が三千院家の執事になる時が来るのだとしたら、その時に、このペンダントを渡す事にしよう。
 男は、数十分その場に居たが、遂に背中を向けて立ち去った。


          ×          ×


 まだ五時も二分しか過ぎていない頃合に、ハヤテは自らの部屋である小屋で目覚めた一二月二七日の朝である。
 別の部屋、ヒナギクも五時を三分しか過ぎていない頃合に起きた。
 ヒナギクの義母も、五時ジャストにソファーで起きた。昨日、ハヤテとヒナギクの帰りを待っていたのであるが、何時の間にか寝てしまっていたらしい。そのままリビングの扉を開けて玄関を眺めると、そこにはハヤテとヒナギクの靴が存在していた。
 そうして廊下の階段の下で、三人は邂逅した。眠い目を擦りながら、一同は暗黙の了解を経て、リビングで朝食を摂る事にした。

「あら、あのあとちゃんと帰ってきたのね。お義母さん、てっきり朝帰りしてくると思ったわ」
 ヒナギクの顔が朱に染まり、朝食のハムエッグを吐く所であったが堪えた。
「でもハヤテ君だったらそれでOKかなって……ね?」
「“ね?”、じゃない! なんでお義母さんは朝食時にそんな話しか出来ないのよ!?」
 だってー、と義母が腕を組んで悶える。自らの娘にその様な事を言うのも問題であるが、ハヤテの目の前でその様な事を言う事も問題である。
「ま、まぁまぁ……ヒナギクさん落ち着いてください」
「ハヤテ君は落ち着きすぎ」
「す、すみません……」
 なんで謝るのよ、とヒナギクの呟き。それを愛想笑いでハヤテは返す。
「……それよりも、昨日は本当はクリスマスパーティしようと思っていたんだけどねー」
 突然の義母の一言に、ヒナギクは自らも昨日パーティをしようとしたが、ナギの事を考えて取りやめた事を思い出した。そしてハヤテは昨日夕食を作るとき、冷蔵庫の中に多くの食材があった事を思い出す。成る程、あの食材はその為にあったのか、と肯く。
 突然のその告白に、昨日出来なかった事をしようと云う念が生まれた。
「じゃ、今日やる? もうクリスマスでもなんでもないけど、今年はハヤテ君も来た訳だし……」
 その提案に義母が賛成、と言いながら手を上げる。
「じゃ、今日は買い物に行かなきゃね。ハヤテ君、手伝ってね」
「はい」
 ヒナギクの言葉に肯きながら、ハヤテは口に入っている朝食を飲み込む。



                    to be continued......


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