忍者ブログ

絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ALICE / drive ACT 4 2/2







2/2








 
「……ロイヤル、ガーデン?」
 ふと、その様な事柄を呟いた。そういえば、気付けばこの場所で自らは浮遊しているでは無いか……目を見開きながらも、余裕を演じる。此処で動揺している事を気付かせれば、相手が有利になる。
 上に上げていた、アリスの指が親指に変わり、下に下げると……瞬きをしない内に、逆さまになり、周りの世界の色も再び変わった。
 突然、轟、と音を立てて、自らの体が下に落ちる。先程まで浮遊していた筈の体が急に重くなり、重力により下へ下がっていくのである。
 それだけではない、周りの風景も、先程の城、穴の光景から、周りは土で出来た壁に変貌した……その壁には棚が存在しており、様々な本、そして食料、ビンがあった。これは、序章でアリスが数日間落ちたと言われる……正真正銘本物のうさぎの穴。
 存在する全てが、妙な感覚。本当に不思議の国に連れて行かれているかの様な感覚である。腕と脚のバランスを整えて、宙での体制を整える。それ程までして、漸くこの環境に慣れたと云うのに、目の前の少女は顔色一つ変える事無く、その体制を崩さずにいる。先程の、熊のぬいぐるみに腰を掛けた体制のまま、その場に居る。
 果物ナイフを構えると、アリスもまた、手の平を再び目の前に差し出した。景色が変わる、心の中で覚悟を決めた刹那に、景色が変わった。予想通りだ。
 塗り潰される世界と、変貌する世界。凛はその直下している体が突然柔らかい物に辺り、有り得ない程バウンドした。そのまま空中で何も出来る訳も無く、正面から地面に落ちた。――鈍い音が響いて、顎から地面に落ちた凛は、顎を擦りながら飛び上がる。隙だけは見せてはならないと、本能が告げているのである。幸い、顎は折れていない様である、体は無傷である。
 視線を動かすと、先程まで居た少女が姿を消している――何時の間に消えたか……だが先程、世界が塗り潰される時には、確かにその場に存在していたのである。消えたとすれば、バウンドして、視線がその少女に向けられていない時の話であろう。
 この世界は、彼女の作り出したいわば庭。まさに、彼女の言葉を借りるのであればロイヤルガーデンなのであろう。敵のテリトリーだと云う事には変わりは無い。
 ナイフを構えても、目標が見えないのであれば意味が無い。相手が姿を現した時、それが勝負である。
 ――しかし、考えても見ろ。先程までの魔法を考えれば、普通の人物では無い。この結界内でも、突然何かしらの事柄を突然行なっても不思議ではない。
 チェスや将棋で考えれば、これは〝詰み〟なのではないのだろうか? 先ず、平行結界を発動させてしまった事が問題だったのである。それを行使する人物だと知らなかったとしても、平衡結界は、いわばそれを生業とする人物にとっては最強礼装なのである。
 感覚を研ぎ澄まし、辺りを見渡す。一回りした所で、全くそこに何も居ない事が解った。完全に姿を消しているのである。光景としては、何時の間にか、地面には芝生、そして城が見える。城にはトランプの兵士が、まるで蝋人形の様に、リアルに展示されており、今直ぐに動き出しそうな程である。
 何も起こらない……息を一つ吐いた刹那――
 
「――動け――」
 
 その様な言葉が空間に響いた。直接脳に響いた様な感覚もあったが、いや違う、空間自体が震えて、居る。何かが起こると、直ぐに察知した。
 瞬間、乾いた音が響く。その方角には、先程眺めたトランプの兵士が存在しており、蝋人形かと思ったが本物である。突然ダンスパーティーが始まったかの様に動き出した。それぞれ、剣、槍、盾など、様々な兵装を持って、襲い来る。数は数える範囲で、九体。Aから10までの数字を持ったスペードの兵士が一気に襲い来る。
 舌打ちをして背中を向ける。数には勝てない、この場合は狭い通路か何かに入り込み、その中で、一対一で、一体ずつ潰していくしか無いのである。それ以外、単体で数相手をするには分が悪過ぎるのである。先ず、勝てないと考えても問題ない。
 しかし、これを仕向けたアリス本人は何処に居る? この場合、軍政に紛れて攻撃を行なうのが一番効果的な戦闘方法なのであるが……後ろを見る限り、その中に存在しているとは思えない。
 首を戻して、目の前を見る。
「――ふふふ」
 ……そこには、逆さまのアリスが存在していた。目の前に、座ったままの姿勢で、重力、物理を無視して、アリスがそこに座って移動している。腰を掛けているのは先程のぬいぐるみではなく、亀だ。亀が空中浮遊して、移動しているのである。
「てめっ!」
「焦るな。コイツはな、そろそろスープになる代物だぞ?」
「知るかッ!」
 その様な話はしていない、と言わんばかりに、ナイフを振るって斬り付けるが、それが当たる様子は全く無い。紙一重などではない、完全に当たらないのである。空を斬るだけで、ナイフはまるでアリスを通り抜けるかの如く――
「なぁに、この世界は余興だよ。私の本気は滅多に見れない、この世界は只の遊びだ」
「遊び……だと?」
 この平行結界が、遊び? ふざけるな、凛は吐く様に呟く。如何見ても、この世界は少女の最終手段に見える。だがこれが遊びであり、最終手段では無いと云うのか。では、この少女の最終手段、本気とは何なのか。この結界を凌駕する代物を持っていると云うのか?
 この人物が、如何して契約無しに力を発揮出来ないのか解った様な気がした。平行結界でも行使するのに相当の魔力を消費する事は、凛の知り合いである魔法仕いの言葉によって良く解っている。そして、それを凌駕する能力をまだ持っているのであれば、相当の魔力を消費する。人一人の魔力では補いきれるものではない。
 ――待て、では自らの中に存在していた筈のもう一つの人格はその餌食になっているのではないのだろうか? 魔力を吸い出され、自らを押さえ込む力が出ない為に、呼びかけにも答えず、表にも出てくる事が出来ないのでは……
 そうなのであれば拙い、彼女には魔力と云うモノを生成する能力は無いのである。只、週に二、三度、知り合いの少女からの無理矢理補給と、自らが表に出ている時に生成された魔力が停滞しているだけなのである。そこまで魔力が長く続くとは思えない。
 只でさえ、現在、扱っている魔法は平行結界なのである。既にリンの魔力ゲージはレッドゾーンと考えても問題ない。存在を維持している能力を削り始めている。
 詰まり――この体の現在の表である凛自身も、魔力を消費し始めている。
 精神に宿っている魔力は元来消費する事は無い。だがこの少女と契約を交わした事により、その様な、有り得ない事柄が起こっているのである。
「ヤロウッ! 今直ぐ平行結界を止めろッ! でないと……お前の契約者が消滅するぞッ!」
 なに? とアリスの顔が、嗤いから真顔に変わった。話を聞く気になったか……
「良いかっ! 契約しているのは二ノ宮リンで、私じゃない! つまり……お前の契約は変則的に、精神の魔力を消費しているんだよ!
 私達が互いに存在出来るのは、確かに人格と云うモノが二つに別れた事もある解離性同一性障害もあるけどな、機能を一部停止して、リンの機能と私の機能と分けて使っていると云う事もあるんだよ! 同じ体を使っていたとしても、機能は違う。それがお前の契約によって、まるで体が二つに存在しているかの様に認識して、〝リン〟と云う存在を蝕んでいるんだよッ!」
「な――に――」
 ……詰まりそれは、このまま平行結界を続けるのであれば、自らのマスターを消滅させると云う事。それ即ち、マスター消滅は、自らの能力の再びの封印と云う事にも繋がる。本来の力を解放出来なくなり、弱体化し、再び将軍のリミッターの手に落ちるであろう。
 早く言え、その様な言葉を放ちつつ、結界が消滅を始めた。そして十秒も経たない内に、結界は姿を消した。
 
     ■■■
 
 ……不思議な国は姿を消し、将軍保有のロイヤルガーデンが再び姿を現した。その場には、立ち膝を着いて、肩で息をする凛と、その目の前に存在しているアリスがそれを眺めている。
 間に合ったか、凛は深層心理の奥に存在しているもう一つの存在に語り掛ける。だが、未だに反応は無い。自らが裏に戻ろうとしても、戻れない。バトンタッチが出来ないのである。……金髪のまま、〝わたし〟が〝私〟のまま、その場にあり続けるのである。
 拳を地面に、力なく叩いた。既に凛の魔力すら、体力すらままならないのである。体の操作の仕方は凛よりリンの方が上手い。だが魔力の運搬なら凛も一級品である。魔力を全て、リンの時に使われる器官に流す。活性化すると思われたが、反応は殆ど無い。
 まさに虫の息か、このまま暫らくの間、凛として過ごすしか無い。何時か、リンに再び活力が巡り、目を覚ますまで、何もする事は出来ない。眠りで意識を無に返しても、どの様な状況にあっても、リンではなく、凛でなければならなくなったのである。
 視線を上にやり、立っている少女を睨みつける。好き勝手自らの魔力を使った為に、リンで足りなかった分、全て凛に回って来たのである。今では体力も魔力も心許無い状況である、立つ事さえも苦痛となっている。
 それでも、そんな体に鞭を打って、立ち上がると、アリスの肩に手を乗せて体を支える。だが、睨みつける目だけはそのままに、一直線にアリスを眺めている。縋りつきながらも、確実に、殺そうと、手に握ったナイフを振り上げる……
 だが、それがアリスを突き刺すことは無かった。虚ろな瞳で後ろを眺めると、何者かに手を握られており、振り下ろせないのである。
「く……そ……………………ぁ」
 意識が、途切れた。
 
「心配になって来て見たら、これか」
 鼻で笑って、アリスはその人物を迎えた。目の前で倒れた少女の手を握り、そのまま脚を引っ掛けて、上へと上げると、首と脚を抱える格好になる。
「ギル、お前の行動には必ず裏があるな。まさか、マスターを消滅させる事になるとは思わなかった」
「――気付いたか。まぁ良い、俺は元々その為にコイツを選んだ訳じゃない」
「なんだ、てっきり、余興かと思っていたぞ。この少女を消滅させて、事を運ぶのかと思った」
 その言葉に、まさか、と返す。
「流石に人を一人、しかも女子供を殺してまで成し遂げようとは思って居ない」
 そこまで自分は愚かでは無い、と付け足す。成る程、この人物は今まで何を思い自らに接近して来たかと思ったら、その様な魂胆があった訳だ。事を運ぶ事は薄々感付いていたが、一応、理念と理想を持ってそれを成し遂げようとしているのか。
 鼻で一つ笑い抱えている少女の顔を覗き込む。寝顔だけは、二つの人格と同じく、穏やかである。今頃、深層心理に戻ろうとしているのであろうが、それをする事は当分出来ないであろう。片方の人格は既に精神力のレッドゾーンに存在しており、交代も出来ない状態だと、先程聞いている。ならば、喩えこの目の前に存在している人格の精神力もレットゾーンだとしても、深層心理からもう片方の人格が現れない限りは戻る事が出来ないのである。
 全く面倒である。魔力を生成出来る人格は今の人格である。この少女が魔力を大量に生成し、人格を交代しない限り、自らは真の力を発揮出来ないのである。これでは、余りリミッター状態と変わらないでは無いか――
 そこまで考えたところで、気付いた。この男が、何故この少女と契約させたのかを……
「策士だな。勝手に能力を行使し無い様に、この少女を選んだ訳か」
 その言葉に、顔色一つ変えず、ギルバートは背中を向けた。
「――言っただろう。それだけじゃない……と」
 ――まだ何かがありそうだな……アリスはもう一度だけ、鼻で一つ笑うと、先程の様に、ロイヤルガーデンの端に腰を掛けて、脚を宙に投げ出して、外の世界を眺める。
 何処かに、将軍の言っているあの死屍、グリン・キャットが潜んでいるのであろう。全く、妙な死屍だ。人を惑わす術には長けていると云うのに、それで混沌へと導かず、光へ導く時もあれば、闇へと導く事もある幻術師。庭園が追うのも解る様な気がする。あれは精神専用の傭兵の様なモノである。
 精神操作だけなら、霊能力者か、若しくは精神科の医者でも雇えば良いのである。だが、確実性と、魔法仕い社会と云うモノを知っている政府の人間は、時折死屍や適応者に頼るのである。それがどれ程愚かか解っていると云うのに……
 一体何処の人間がグリン・キャットを雇い、誰を狙っているのか……全く、阿呆な人間である。繰り返す様だが、よりにもよってグリン・キャットを雇うとは。後先を考えていない人物と考えるのが普通である。
 ――まぁ良い、来た者を倒す。その為だけに自らは封印を解放されたのである。そしてもう一人、何かの魂胆を持っている人物の真相を確かめる為に、暫らくは道化に成り下がるとする。将軍の目を欺くには、思い通りに動いた方が良いであろう。
 そう、あの男はこの少女を蘇らせたのである。契約と云うモノを取り交わし、元の力を取り戻した自らを復活させたと云う事は、つまり、それ相応の対価が必要と云う事なのである。
 夢崎アリスは、口を歪ませて嗤った。
 
 
          ×          ×
 
 
 本を閉じて、テーブルの上に置く。……この本こそが、先程の事柄に紛れて、将軍の部屋より取って来た、二ノ宮リンに関する資料である。随分とページが嵩んでいるが、これはこの少女の監視者である庭園の人物二名が書いた報告書だと云う。
 内容は大体理解した。だが全部を読破するのに、三時間ほどの時間を有する事になってしまった。陽は当の昔に沈んでおり、現在の時刻は二十二時を回った辺りである。夕食も食べずにこの場に座って作業に勤しんでいた為に空腹は感じなかったが、今終わってみると、空腹が襲って来るものである。
 腰を上げて、部屋に存在している台所に入り込み、冷蔵庫を開く。そろそろ買い足しに行く頃合かも知れない。冷蔵庫の中身は、既に数日分の食料しか存在していない。その内から、今これから食べる物を取り出すのであるのだから、明日には、買い足しに行かなければ食べる物が無くなるであろう。
 インスタントのスープとパスターソース掛けたパスタを作り、それを口に運ぶと、何時もの様にチューハイを一缶飲み、捨てる。
 今日は疲れた、そう思考してベッドで眠ろうと思ったが、ベッドの目の前まで来て、そこで横になっている少女に気付く。そうだ、あのまま部屋は確保されなかった為に、此処で寝かせていたのであった。
 ……しかし、この少女のこのままにしておいて良いのであろうか? 先日も、この様に眠らせたが、自らが男な故にシャワーも浴びせずに、スーツのまま寝かせているが、それでは拙い様な気がしたのである。
 だがそれを気にしても仕方ない。繰り返す様だが、自らは男なのである。異性の人間を裸にしてシャワーを浴びさせる様な真似はしない。――明日朝一番に起こして、シャワーを浴びさせる事にしよう。それに、その後この少女には講義が待っているのである、今は寝かせてやろう。
 金髪になっている少女の頭を撫で、そして自らは着ているスーツを脱いだ後、ソファーで横になり、意識を無に返す。
 
 
 早朝、五時頃にギルバートは目を覚ました。何時もより早く起きたせいか、頭は相当嫌な痛みを放っているが、今問題にするべきはそれでは無い。朝食と云う件も存在しているが、それはそれで考える。
 今はベッドで寝ている少女を起こす事にする。相変わらず、髪色は金髪のままであるが、起こさないよりはましである。来仏早々、講義を休む事は拙いであろう、庭園のイメージ的にも、である。
 さて、どうやって起こしたものか……先日は勝手に起きた為に、自らが起こす様な事も無かったが、今こうして起こそうとなるとそれ相応のやり方があるのでは無いのだろうか? 異性を朝起こすなどと云う事柄をした事が無い為に、その様な葛藤が生まれるのである。
 普通に揺すっても問題無いであろうか……おい、と言いながら、少女を揺する。呻き声の様なものを上げたが、起きる気配が無い。この少女、朝には弱いのだろうか? いや、早朝早くに起こされて、起きる人間はごく希であろう。眠いものは眠いのである。
 それでも、怯む訳には行かない、決意の後に、少女を覆っている毛布を取り上げて、起こそうとする。大丈夫だ、千裕の様に裸で寝ている訳ではなかった、昨日見たままのスーツで、そこで寝ていた。
 そして、部屋に存在している窓を開く。……この庭園の上の部分に存在している寮は相当の高さを誇っているのである。吹き込む風は凄まじいものであろう。
 案の定、風が吹き込み、寝ている少女が少し身震いをして、自らの上に掛かっているだろう毛布を探して手が動き出す。だが毛布は今まさに、ギルバートが剥ぎ取ったばかりである。ある訳も無い。
 そして漸く諦めたのか、少女は目を覚ました。機嫌は悪そうである。それを見て、部屋に吹き込む風を遮断すべく、窓を閉める。――しかし、何故相当の高度を誇っているこの部屋に、開く事が出来る窓が存在しているのか謎の所である。
 腰に手を当てて、眺めると、どうにも目線が覚束無い。思考能力がはっきりしていないのか、それとも、何時の間にこの場所に連れてこられたのか、あれからどれ程の時間が経過しているのか……その方に思考が向いているのか、どちらかである。
 最後に、髪を何回か撫でた後に、立ち上がった。漸く活動をする気になった様である。何時もの柔らかい目付きではなく、凛とした目付き、そして未だ金髪のままの髪色に、この少女はまだ、人格を交代出来ていないと考える。
 ――少女、二ノ宮リンが、解離性同一性障害に似た適応者且つ魔法仕いだと云う事は資料を眺めて解っている事柄である。二つの、明確な意思を持った人格が一つの人間の中に存在しており、その時、人格を交代している時の記憶は、眠っている際の人格には全く解らないと云うモノである。
 しかし、この少女の特異な所は、その解離性同一性障害によって作られた人格が、全く別の記憶と器官を使用すると云う所である。つまり、本当に、全く違う存在なのである。リンに存在して、凛に存在しない、記憶、感覚、器官、性格――そしてそれは逆の方にも言える事柄である。
 更に違うべき部分は、リンと云う人格は、魔法仕いでは無い、ごく普通の少女である。だが凛と云う人格は、魔法仕いである。
 体の使い方が違う。つまり、リンは体の全てを扱う事が出来る。だが凛は裏側の使い方のみ使う事が出来る。……故に、リンが失われた時、凛は動く事も出来ないのである。加え、彼女達は一年前の事件により、脳の何処かに損傷を与えてしまったのか、本来繋がる筈の無い二人の器官が繋がってしまい、記憶のみは、両者が望むのであれば共有する事が出来るのである――
 今現在、凛が動く事が出来ていると云う事は、少なくとも、リンは無事だと云う事である。あの時、倒れたのもリンと云う存在が薄れた為であろう。人格の交代は、リンが眠るか、凛が眠るかシフトされるのである。意識を失ったままのリンでは凛は動く事が出来ない。
 それにしても、このままではリンの存在が何時戻って来るか解ったものではない。これからリンには授業が待っているのである。昨日と全く違う人格の中で、あの場所に行く事が出来るのであろうか。
 いや、考える理由は全く無い。どの様な事情があろうとも、特別推薦枠の人間が授業を早々休む事は許されないのである。このままの状況で、授業に出すとなると、相当な問題が存在しているが、その辺りは、授業前に言うしか無いであろう。要らない誤解を招く事になる。
「――大体理解したか?」
 授業を受ける旨、現在の状況を一通り話し終えたギルバートは、凛に確認の言葉を投げ掛けた。あー、とか言いながら頭を掻き続ける凛の顔は、まだ寝惚けているのか、片方の目は開いているのであるが、片方の目はまだ半分閉じている状況である。
「……なんで私がリンの代わりに授業出なきゃいけねーんだよ……公欠だ公欠! 病欠!」
 はぁ、と溜息を吐いて、ギルバートは額に手を当てた。それが出来れば誰も苦労はしないのである。授業を請け負っている教師だからこそ言えるのである、そんな事で欠席出来る程、庭園のコースは甘く無いのである。特に、リンがこの庭園に留学して来た事も、マカロニ将軍が必要としたからである。だがエンペラーセブンである彼には下手にその様な事が出来ない……故に、庭園の特別推薦枠に無理矢理入れたのである。
 つまり、そこに本来入る筈であった人物を蹴落として留学させたのである、下手に欠席などしたものなら、庭園の面子にも関わる。
「そっちの都合だろーが」
 そう言われればそこまでなのであるが、仕方が無いのである。庭園は個人ではなく、組織なのである。信用を失えば、この世界は無秩序蔓延る世界になってしまうのである。庭園が居るからこそ、魔法仕いは統括され、リミッターを装着され、安定しているのである。
 庭園の崩壊は世界の秩序崩壊にも繋がる。
 大そうな事だ、凛は鼻で笑いながらその様な事を呟いた。事実である、理想論でもある。本当に庭園が全てを統括しているのであれば、タブーを犯す魔法仕い等は現れないであろう。力が行き届いていないからこそ、その様な事態になるのである。
 今そんな事よりも問題にするべきなのは、あの少女との契約により、リンが消滅しかけていると云う事が問題なのである。それを理由に公欠すれば良い……と云うのが凛の口実なのであるが、実際、夢崎と契約させる事は、ギルバートの独断であり、これを公表されれば叩かれるのは自らである。庭園から追い出される、若しくは異端として粛清される可能性もあるのである。
「そんなに拙いもんなのかよ。あの女は」
「……ああ。お前達が一年前にやっていた永遠の論舞曲――それで、最初にALICEになった少女だ」
 ――その言葉に、凛は可笑しくなり、しんぞこから笑いこけた。
「――ッ! っはははははははッ! おまっ、私を笑い死にさせる気か!? 永遠の論舞曲が始まった年、知っているだろう、調べたのなら!」
「ああ知ってる。相当昔の話だ、数百年前になるか?」
「知ってるなら解ってるだろうがっ! あの女が死屍じゃない限り、そんな事は有り得ないんだよッ! はははっ! それにな、喩えALICEだとしても、ALICEは概念を世界に定着させるだけで、本人の存在は消滅する偽りのものだ! この世界に居るなんて――」
「もし、その概念を具現化出来る人間が居たら如何する?」
 ……その言葉に、凛の笑いは突如として止まった。
 ――概念を、具現化する……? 洒落にならない。冗談にも程がある。程度と云うものを考えて貰いたい。その様な、魔法仕いが扱える様なモノでは無い、いや、世界と云う概念自身、自らを具現化する事が出来る訳無いと云うのに、人間如きがその様な芸当が出来てたまるものか。否定の概念の方が多いであろう。
 あの人物、確かに先日戦闘を行った時、平行結界を平然と行使し、そしてまだ本気では無いと言っていた。相当なやり手だと云う事は薄々感じていたが、まさか本当に概念を具現化する様な芸当が出来るのか?
 平行結界は自らの欲望、望む世界を忠実に具現化する……要はキャンバスの様な物である。自分が夢に描いている世界を作り出すモノであり、それは自分が知らない世界でもある。知らないながらに、描いている世界を作り出すのである。それは確かに、概念の具現化の一端と云う事で、平行結界を行使出来る人物は奇異な才能と言われている。
 ――本当なのか……
「……ああ。夢崎――今はアリスだったか……
 ――彼女は、そう、永遠の論舞曲の、初めての勝利者――ALICEだ」
 
                    </-to be continued-/>

拍手[0回]

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © 絶望への共鳴 // ERROR : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

プロフィール

HN:
殺意の波動に目覚めた結城七夜
HP:
性別:
男性
自己紹介:
小説を執筆、漫画、アニメを見る事を趣味にしている者です。

購入予定宣伝

ひだまりたいま~

カウンター

最新コメント

[05/13 Backlinks]
[01/09 WIND]
[12/20 WIND]
[12/18 WIND]
[12/12 WIND]

最新トラックバック

バーコード

カレンダー

08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

本棚