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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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ALICE / drive ACT 2 1/3





ALICE / drive



ACT 2







 
 
 ……教室は静かである。流石は名門魔法仕い養成施設である。しかも、庭園の有能な人間が直に教えると云う事なのである、全員が、その言葉に耳を傾けるのであろう……が、その予想、そして感覚は、大きく覆される事になる。
 そこには、たった五人しか人間が存在していなかったのである。階段式の講義場、広過ぎるこの講義場に座っているのは、たったの五人、全く持って少な過ぎる。教師は未だに来ていないらしい、腕時計を眺めると、時刻は十時をそろそろ挿そうとしている頃合である。
 兎に角、一つ適当な場所に座る事にする。魔法に関しては、少女自身、良くは知らないが、聴いておいて損は無い情報である。加えて、何か解かる事もある可能性もあるのである。
 先程の話では、この講義は、ノートを取る、取らないは自由らしい。難解な部分をノートに取る事は、自主的となるのである。取れば、それなりに勉強が出来、取らなければ、その記憶力を力にするか、感覚を力にするか、である。余程記憶力が良いか、若しくは勉学に自身が無い人間でなければ、ノートを取らないと云う状況は余り宜しくは無い。
 ――庭園が選出した、将来有能な人間はそこまで多くは無い。実質、近年の魔法仕いの質は落ちて来ているのである。
 魔法仕いの繁栄は、金銭の景気と同じである。大きな波が存在しており、それが大きくなる時もあれば、小さくなる時も存在している。そして今のこの時代が、落ち込んでいる真只中と云う訳である。これからは上がり、百年後には再び魔法仕いの質は上がる事であろう、予想されている。
 無論、今を生きる魔法仕いにとって、死徒にならない限りは、その時代を眺める事はほぼ不可能に近いのであるが――
 そんな少ない魔法仕いの将来有望な人物が集められたのであるが、このクラスは特異であり、魔法仕いでありながら、魔法仕いでない。若しくは適応者、使い所の不明な能力を有する人物達が集る特別クラスであると云う。
 ……落ちこぼれ……と云うには有能すぎるが、実戦レベルで使えるか、と問われると微妙な所である。その様な人物達が、この場に存在している五人の人物と云う訳である。
 見渡す限りでは、座っている少年少女達は、少女と同い年位の人物達である。無論、少女の身長が低い為に、その様に見えてしまうと云う事もあるが、恐らく、本当に同い年か、それに近い年齢なのであろう。
 バッグを手前に持って来て、ノートと、筆記用具を取り出す。それにしても、矢張り、このスーツは動きにくい。少女は腕を伸ばしたり、戻したりを繰り返すが、全く慣れる気配が無い。柔軟性が少なく、硬い。――スーツとは、元々社交場などで着るものであり、動く為に着る服では決して無いのであるが……少女が昨日まで着ていた服は、破られてしまった為に、仕方が無い。
 腕を捲り、ズボンの裾まで折り曲げて無理矢理少女は着ているのである。ペンでノートにモノを書く度に、裾を引き摺る。乾いた音の原因は、着けられているボタンがテーブルにぶつかっている為であろう。
 ――教室の内部構造は、階段式の教室であり、巨大な黒板が設置されている。テーブルは相当数存在しており、百人は余裕であろう。周りには窓が設置されており、そこから太陽の光が流れ込んで来ている。……この下に存在している図書館には無い日光が、代わりに此処に注ぎ込まれていると言った様な感覚である。
 講義場に設置されている時計が、十時ジャストを示した所で、奥に存在している扉が開き、周りに居た少年少女も、席に着いて筆記用具を取り出す。
 ――だが、問題はそこではなかった、少女が先ず驚いたのは、その、講義場に入って来た人物にあるのである。
 ……そこには、先程公務があると言って別れた筈の、ギルバート=アバンが存在していた。先程と全く変わらない格好で、全く変わらない雰囲気で、只、先程とは違う手に持っている巨大な本――それだけが違っているだけで、後は何も変わってなど居なかった。
 少女、リンはそのギルバートの姿を、口を開けたままで眺めていた。黒板の内容が良く見える様にと、少し手前の席に居たリンを見付ける事は、一番先頭に居るギルバートにとっては簡単な話であった。リンを見つけるなり、微笑をした。
 そこまで来て、先程、遅れるなよ、と言った意味が解った様な気がした。自らが講義をする故に、遅れ無い様にと釘を刺したのであろう。その言葉通り、時間に間に合う様に此処に来た訳であるが。
 チョークを持ち、本を開く。魔法仕いのする講義とは、一体どの様なモノなのかと少し期待していたのであるが、実際は通常の高校の授業と殆ど変わらない様である。目の前に立つ教師がチョークを動かし、黒板に板書する、それに対しての補足を教師がする。注意深く聞く生徒は、それをノートするなり、質問をするなりする。全く変わらない。
 只一つだけ違うのは、目の前で行なわれている授業は、物理法則に法っていつつも、此の世の不思議、そして一般の人間が扱えない事柄に関してのモノだと云う事である。それ以外は、通常とは変わらない。
 現在目の前で行なわれている講義は、何やら、魔力の停滞、そして貯蓄に関する授業なのであろう。魔法石を喩えとした話が展開されている。
 ――魔法石は、魔力の塊であり、強大な魔力を貯蓄され、実体を持った半霊体の物質だと云う。これを用いる事により、魔力の更なる使用、喩え魔法戦で自らの魔力が切れ、魔法が行使出来なくなったとしても、予めこの魔法石に〝式〟を刻んでおけば、投擲し、破裂させるだけでその中の魔力が、刻まれた式に従って魔法を展開するのである。
 成る程、肯ける。しかし、リンの周りには魔法石を使っている人間など居なかった。……例外として、自らに、この胸に下げられているペンダントを渡してくれた人物が使っていたが……その魔法石と思われる物体は、今下げられているペンダントその物である。
 金属音を響かせて、そのチェーンの先につけられている、青い、宝石を眺める。これが魔法石――魔力を貯めて、実体を得た半霊体の物質……つまり、これはあの少女の魔力の結晶と云う訳である。
 一体どれ程の時間が掛かるのであろうか……リンは好奇心に駆られて授業中にギルバートに向かって手を上げた。
「なんだ?」
 目を細めて、ギルバートがリンを見る。――何か、怒っている様な感覚をリンは受けて、手を引こうとするが、そうしようとすると更にギルバートが目を細めた為に、リンはそのまま喉に引っ掛かっている質問を口にする。
「あの……その魔法石は生成にどれ位かかるんです、か?」
 ああ、と視線と姿勢を黒板から離して、教卓に手を付けて、辺りを見渡すと、徐に手を伸ばして、一人の少女に指をさした。
「エリー、答えろ。オマエは知っているだろう?」
 ……格好を後ろに回して、エリーと呼ばれた少女を見る。自らの様な癖のある髪と、両方に結ばれた髪、所々から枝毛が飛び出ており、眼鏡を掛けた少女が、控え気味に、立ち上がり、言葉を発する。
「……えーと……先ず、魔法石を作る為に必要な土台を生成するのに一ヶ月、それからそれに魔力を貯めます。大きさによって、時間は異なりますが――」
 目の前で、一つ、小さな丸を両手で作ってみせる。
「これくらいになるのに……大体、四ヶ月ほど掛かります」
「そ、そんなに……」
 ――再び、自らの首に掛けられているペンダントを見る。今例として出された大きさよりも数段大きい。これになるのには、本当にどれ程掛かったのだろうか……一年程であろうか?
 言葉を終えた少女は、再び着席する。と、ペンを持って、ノートに何やら書留を始めた。一方の目の前でよし、と言っているギルバートは、持っている本の端に何かを書き込み、講義を再開する。
 尚、講義は一つにつき、九十分であると言う。そして、特別クラスの場合は、これを毎日三単位存在していると云う。毎日の講義は違い、魔法学に関する事柄、他にも物理、数学――一般の教科も様々である。一般常識を身につける事も、魔法仕いに求められる事柄だと言う。
 しかし、九十分も授業をした事も無いリンにとって、この講義は退屈以外の何ものでもない。そもそも、リンは魔法を行使する事が出来ない。行使するのは、この内に秘められた別の人格の話である。リン自身は少しの知識を齧っているだけである。
 ……しかも、二ノ宮リンと云う人物は、真面目な性格に反して、その体は眠り体質であり、高校の授業の際にも時折――いや、かなりの頻度で寝ているのである。
 この講義は、リンを眠りの世界へと誘うのには、丁度良いモノであった。
 ――薄れいく意識を、必死で繋ぎとめる。此処で寝る訳には行かない。此処で寝れば、此処からの三ヶ月間、ずっと授業中に眠る事になる。人とは、習慣付く事が一番怖いのである。それは、何でも一緒である。
 ノートを取る。腕を動かす事で、何とか意識を繋ぎとめている状態である。動作をしなければ人は簡単に授業中に眠る……と、リンは高校の教師から言われ続けて来た。授業中の昼寝の常習犯の一人だからである。
 この学院では、その様なレッテルは貼られたくは無いと云うのが真理である。嫌なレッテルとは、一度貼られると、中々落ちないものである。良い印象は直ぐにでも消え去るものであるが、嫌な印象とは、中々に消えない。
 それを解っているからこそ、こうして、必死に意識を留めているのである。――結果、リンはこの九十分、一度も眠る事無く――無論、危ない時はあったが――過ごす事が出来た。
 授業の内容は、取り敢えずはノートに取られている。授業が終わったら、これを眺めて何とか眠りそうになっていた場面を思い出すしか他無い。危ない所である。
 この教室は、次の授業にも使われるらしい、リンは溜息を吐きながら、テーブルに伏して、頭の中身を整理する。授業が終わると、自然と眠気とは収まるものである。
 はふぅ、と声を出すと、何やら、人の気配を感じる。上目遣いに、目の前を見ると、先程指名を受けていた眼鏡の少女と、一人の少年が立っていた。……怖い顔はしていない、リンは笑顔で迎えた。
「……えーと……君が、マルコシアス先生が言っていた、世界枠の子?」
 どうやら、リンの事を知りたい様である。世界枠、とは、この間説明を受けた事柄であろう。確かに、あのマカロニ将軍の推薦により、世界枠の人を落選させて、態々リンを枠に入れたと云う事を聞いた。
 つまり、世界枠に選ばれた少女と云うのは、確かに当てはまる。少年の問いに対して、肯定の頷きを返す。
「やっぱりだ! ほらね! 僕、エリーヌ、エリーヌ・ゼビル・ルビン! オランダ出身の適応者だ、ヨロシク!」
 短い髪の少年は、手を差し伸べる。それに対してリンが応えようとすると――
「乙女の柔肌が安いと思わない事ね……」
 ……後ろから、何か低い……だが少女らしさを持った声が響いた。それに反応して、後ろを振り向くと、そこには、綺麗な金髪をし、長髪で目が隠れるほどの前髪をした少女が、不敵な笑みをしたまま現れた。何時からそこに居たのか――気配に敏感なリンが気付かなかった。この庭園と云う場所に来てから、人の気配を感じる事が鈍くなって来ている。相手側が消しているのか、それとも自身に異常が起きているのか……
 恐らく、前者であろう、この場に存在している人物に対して、心の奥に存在しているもう一人の人格が、危機を感じているのである。敵対ではない、戦いの中の感覚である。その様な感覚を、心の奥の彼女は、〝死極〟〝戦慄〟と呼んでいる。
 しかし、少なくともリン自身には目の前の人物達が自らの敵とは思わない。
「……フローラ……どういう事だい?」
 エリーヌの言葉にフローラと呼ばれたその少女は目を光らせた。
「フフフ、乙女の肌に触れる人物は……そう、同じ乙女、そして心を許した相手のみ! 普通の乙女は、何でも無い男子とは触らない主義なのよ……」
「さ、流石ラヴ師匠……ッ!」
 何を言っているのか、全くリンには解らなかったが、兎に角差し出された手はそのままなので、その手を取り、握手をした。
「よろしくお願いします」
 その行動が予想外だったのか、二人は口を開けたまま、暫らくリンを眺めている。それに対して小首を傾げると、フローラが何やら気付いたかの様に、口に手を当てる。
「て、天然キャラとは……っ」
 オーバーリアクションを取るフローラは、そのまま地面にへたり込み、はぁ、と溜息を吐く。それはまるで、悲劇のヒロインを演じるオペラの主人公の如く、完璧な姿であった。それを不思議な視線で眺める事に気付いたのか、後ろに居た眼鏡の少女、先程エリーと呼ばれていた少女が説明の言葉を紡ぐ。
「フローラちゃんは、その、オペラをする演技者を母親に持っている子なんです……」
 嗚呼、成る程、リンは納得をする。それならば此処まで演技力に優れている事も肯ける。
「ま、出来るのは演技だけだけどね……」
 ――更なる登場者に、視線が其方に集中する。演技の余韻でまだ地面に座っているフローラを眺めて後ろから現れたのは、これもまた、フローラと同じ様に金髪の、まさに美が着くだろう少年であった。鼻が高く、そしてエメラルドグリーンの瞳……鋭いが、軟らかい印象の目付きは、全ての女性を虜にする様な感覚である。
 しかし、少々格好と、言葉使いに問題がある。明らかに、ナルシストと呼ばれる類なのであるが……どこか憎めない。
「やぁ、ジャパンからのお嬢さん。どうだい、今日の講義が終わったら、少し、ディナーでも?」
 リンの顎を手で上げる。目と目のアイコンタクト、この視線で、一体どれ程の美女を虜にして来たのか……
 しかし、相手が悪かったと言える。リンは笑顔で――
「良いですよ、何食べます?」
 と、応えた。……余りにも即答だった為に、少年は髪を掻きあげて、驚いた、と呟く。
「キミは……なんだい?」
「わたしは二ノ宮リンです」
「いや、名前を訊いたんじゃなくて……あぁ、成る程、天然だね、キミ」
 再び首を傾げる。一体何を言っているのか、理解が出来なかった。食事に誘われた、夜は予定が無い、だから受けただけである。それに、大人数で食事をした方が、リンにとっては楽しいひと時である。それは、日本でも、此処フランスでも同じ様に思えたのである。
 触っていた顎から手を放して、少年は自らの顎に、手をやる。
「さて、名前を名乗られたからには僕も名乗るべきだろう。
 ――僕の名前はギルム・ルイ、ご覧のとおり、美少年サ」
 はぁ、と微笑しながらギルムを見るリン。――しかし、リンにとっては美少年の基準など解りはしなかったのである。同性である人物が、綺麗か、どうかは辛うじて解る人物であるが、少年に関しては、どの辺りが美少年で、どの辺りが宜しくない顔立ちなのか、リンには解らないのである。
 それにしても、このクラスも、個性揃いである。聖マリア女学院にて、自らを取り巻く環境もそうであったが、皆、優しく、気軽な人物なのである。届かない、と云うレッテルを貼らせない、常に自分の届く所に自らを置いてくれる、優しい人間達。自然と、集るのである。
 ――二ノ宮リンとは、その様な人物を引き付ける、同じく優しさを持っている。その様な人物なのである。
 
 
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