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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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ALICE / drive ACT 1 2/3




2/3






 
 
 このガーデンは、ロイヤルガーデンと言うらしい、リンはギルバートよりその様に説明を受けた。この先に存在している男の嗜好――と言うべきか、兎に角、何か自然に囲まれたいと云う兎に角一種の我が儘だと云う。
 ……その推薦した男は、通り名が『マカロニ将軍』と云うらしい……リンはそのマカロニと云う部分がどうも気になっていたのであるが、その将軍と云う部分を聞くと、完全に、エンペラーセブンの一人、と考えざるを得ない。
 そしてそれは的中していた。はぁ……と、溜息を吐く。しかし逆に考えてみれば、その様な人物が何故自らを推薦したのかが気がかりである。厳しい先生で無い事を祈っているのであるが……将軍と云うイメージのビジュアル上、完全に強面の人だと思っているのである。
 ――ロイヤルガーデンの広さはそこまでは無い。元々は、そのマカロニ将軍が趣味で作り出したモノである。そんなに巨大な敷地に作る事は許可されなかった為にこの場所に作ったのだと云う。尚、手入れは、マカロニ将軍の助手が行なっていると言う。
 その助手の一人が、この場に居るギルバートだと云う事も同時に聞いた。
「お手入れをしているんですか?」
 リンの問いに、まぁな、とギルバートは背中越しに答えた。……愛想が無い人物である、リンは口には出さなかったが、余り得意ではない人物だ、と心で呟いた。
「あーっ!」
 ……そこで、妙な叫び声が後ろから聞こえた。リンがその言葉に気付いて、加えて、後ろからの人の気配を感じて後ろを見ると、そこには一人の少女が走って此方側に来ている。――あの人間も将軍の助手であろうか? それとも、単にこの庭園の人間なのであろうか? 年齢は、リンと同じほどに見える。
 しかし、走ってくる速度が尋常では無い。呆然と見ている内に、少女はリンの直ぐそこまで来ており、そのままリンに抱き着いた。
「はぅ――ッ!」
「女の子っ!」
 少女はそのままリンを押し倒す。おい! とギルバートの声だけが響いた。
 一方の、倒されたリンは、吐息が掛かる距離まで、少女と密着していた。
「……女の子……だよね」
「え、あ……は、はぃ」
「うーんっっ! 可愛いッ!」
 そのまま抱き締められ、リンは意識が飛びそうになるのを必死で留める。その際に見えるのは、少女の髪型が、リンの友人である遠野由香の様に後ろで一つに纏めている事と、少女の服装がドレスだと云う事。加えて、正面から少女を見ると、胸に下着を着けていない事――いや、既に下着と云う概念がこの少女には存在していない。全裸の上からドレスを着ただけの状態である。
 ……つまり、上下、下着は着けていないと云う事である。当然、この様に暴れればその服は乱れて行く訳である。加えて、少女は現在リンを押さえつけて抱きしめているのである、つまり地面の上なのである。
 身動きが取れないリンに対して、上の少女は、無理矢理唇をリンの唇に着ける。
「むぐっ!」
 そこまで来て、漸く助けの手が入った。上に乗っている少女の腰を片手で持ち上げ、そのまま上に上げる。ギルバートが溜息を吐きながら少女を持ち上げた。
「千裕!」
「だってー……ねー」
 よく見れば、日本人である。リンは回る目と、痛む頭を抱えながら立ち上がる。……少女は片目を瞑りながら、リンにアピールをしている。
「私、男の子でも、女の子でも、どっちでも良いの! 只、心が燃えたらその子と一緒になるの」
「そんな事は訊いていない。良いからお前は戻れ」
「だって、将軍に来いって言われてんだもん」
 その言葉を聞いた途端に、ギルバートは自らの頭を擦りながら、千裕と呼ばれた少女を下ろす。無論、そのままリンに駆けていかない様に襟だけはしっかりと掴んでいる。
「離してよー! 偽物ギルバートぉ!」
「誰が偽物だ。俺は正真正銘、本物のギルバート=アバンだッ」
 えー、と千裕は不満そうである。
「だってー、銃は持ってないし、十年間主待ってないしー、レイヴンって言う偽名持って無いでしょー?」
「何の話だっ!」
 落ち着きを取り戻したリンは、目の前に居る少女は兎に角として、後ろ側で何やら人の気配が刷る事を感じる。……心の奥に存在している、〝もう一人〟の自分が、その人間に警笛を鳴らしている。その奥に存在している人間は危険だ、と。
 だが、先までの案内を見る限り、この先に存在しているのが、自らを推薦した、マカロニ将軍と呼ばれる人物である。強面の人物と予想している、人物である。魔力を感じる術は無い、その様な感覚は全て、心の奥に存在しているもう一人の自分が解る事柄である。表に出ている人格では、全くと言って良い程感じない。
 人が居る……只それだけは感じる。
 ――後ろの二人をそのままに、一人、その場に歩を進める。
 その場所は……本当に綺麗だった。居る筈の無い蝶がその場に飛んでおり、白いテーブルの上には紅茶、そしてそこの椅子に座っている初老の男……横には、スーツを着込んだ女性が一人立っており、読書に勤しむ男を見守っている。
 強面の男……確かにそうだ。男の顔は確かに威厳に満ちている。しかし、その本を読む鋭い目は、優しさを秘めている様に、思った。それは車の中で、ギルバートを見た時と同じ様な感覚……
 視線が本から反れた。そのまま本を閉じて、テーブルの上に本を置くと、此方側を見る。鋭い目が、リンを見る。
 怖い、と云うのが第一印象であるが、兎に角、進まなければ全く変わらない、リンはそのまま将軍の元へと歩いて行く。進むに連れて、その飛びまわる蝶の一匹ずつが、消えて行く。まるで幻想だったかの様に、次々と消えて行く。
 そうして、将軍の目の前まで来た。将軍は真顔で、どこまでも、強面のままで、こうリンに問うた。
「……カレーライスは作れるか?」
 
 
 
 ――庭園本部の地下……盟主と、エンペラーセブンだけが通る事の出来るエリアが存在する。名前を、エリア『0』。名の通り、0である、周りを見渡しても何もない。只暗闇だけが支配している、所謂、庭園が此処から動けぬ訳である。
 庭園がフランスに拠点を構えるのは、このフランスが錬金術――つまり魔法発祥の地と云う事もあるが、正直フランスの地力は衰え始めている。近代化が進み、既に地力が人間の手によって歪められており、その地力を使い魔力の動力源を作り出す庭園のシステムでは、そろそろ限界があるのである。一刻も早く、このフランスよりも地力の高い地域へと本部を移す必要性があるのであるが……
 如何せん、最近の地価が高騰している事と、このエリア『0』の問題が残っているのである。加えて、長くこの地に定着し続け、別の土地に行きたく無いと云う人物も存在している。……確かに、この場所を離れると云う事は、庭園に所属する魔法仕い、加えて実習生等々の迷惑も買う事になるのである。
 一旦、移転の話しを置いておいて、今、この庭園の議会が話し合っているのは、このエリア『0』である。
 この場所をそろそろどうにかする必要性が存在しているのである。
 一部の魔法仕いの間には、魔の世界に繋がっていると云うエリア『0』。そこが作られたのは、庭園発祥の時代へと遡る事になる。魔法と云うモノを法律で定めなければならない事件が起こる。その名を、『アルバトロン事件』。有名な錬金術魔法使いであるアルバトロン伯爵による、吸血鬼、死徒等々の、生き物錬金の暴走により、一般人数万人が虐殺されたと云う悲惨な事件である。
 それを機に、この庭園は設立された。様々な違法魔法……所謂「タブー」を作り出し、封印、リミッターを装着すると云う事が義務付けられた。
 ――だがその後の庭園設立の歴史は不鮮明なモノになる。この庭園に存在している、一般魔法仕いも閲覧する事の出来る「庭園歴史書」はこの辺りから五十年の間、空白なのである。まるで、意図して消したかの様に、見事に抹消されているのである。
 その空白の五十年間を知るのは、当時の天才魔術師――当時、魔法を〝使う〟や、〝仕う〟の概念は存在していなかった――アルバトロン伯爵、マリア・アイアス老婆、アウゼス、アントワネット、オーバー・カウント・ゼロ、ブレーカー、ルカと呼ばれている七人の――現在で言うエンペラーセブンの初代と言うべきモノであろう。
 しかし、その七人は現在行方知らず。アルバトロン伯爵は魔女との契約により、平行世界を転々としているらしく、時折この世界にも姿を現しているらしい……年齢は、どう言う訳か、そこまで歳を取っている様には思われないらしい。
 マリア・アイアス老婆は既に死亡している。……七十一歳で障害に幕を閉じた。曾孫が魔法仕いとして存在しているが、どの様な人物か庭園は把握していない。名前は確か……アイリだった……
 アントワネットは数年前の事件により行方不明中であり、現在も捜索が続いている。つい三年前に、極東の地にて姿を見たとの報告が来ているが、信憑性に欠けている為、調査隊は向かっていない。
 オーバー・カウント・ゼロは、現在死徒の一角である。会える様な人物ではない上に、現在死徒の危険レベルランクSである。見つけた場合、殺すか、若しくは封印の指令が出ている。
 ブレーカーも既に死去している。百三歳と云う年齢である。最後、手紙をマカロニ将軍の父親に渡していたらしい……が、それを息子であるマカロニ将軍は見せようとはしておらず、現在ではエンペラーセブンに所属している為に誰も文句を言わなくなっている。
そして……問題は、この最後の七人目、ルカと呼ばれる人物である。
 ――男は、そのままエリア『0』の中で一人、顎を擦っていた。男は嘗て、ルカと呼ばれる少女に出会った事がある。黒髪の、長髪の少女である。三つの礼装を保持し、立ち向かう人物であるなら、死徒でも、吸血鬼でも、人間でも、魔法仕いでも虐殺する人物である。……しかし、要は魔女と同じであり、依頼があれば死徒を殲滅する、「殺し屋」……いや、「壊し屋」と言った方が良いであろう。
 しかし、問題はそこではない、そのルカと呼ばれる人物が……歳を取らないと云う所にある。初代の庭園は、二百年前の十八世紀後半に発足した。無論、全身も存在していたが、それは紀元前より存在していると云うのが噂である。――兎に角、現在の形になったのは、現代社会が確立し始めた頃合である。そんな、二百年前発足後にあった五十年の空白を知り、そしてもしそのまま身体の時間が進んでいるのであれば、彼女は既に老婆か、死亡している筈なのである。だが、少女は永遠に少女であり続ける。無論、資料に出ている当時の彼女よりは少し歳は取っているが……不可解だ。
 死徒や吸血鬼が、半不老不死である事は実証されている。原理は解らないが、既に心臓が止まっていると云う事と、脳だけが行き続けていると云う事にあるらしい……死徒に関する研究は、タブーの一つとされている為に良くは解っていないが、古代の資料を閲覧する限り、死徒とは、血を使わずに、全ての情報、そして生きる為の酸素を運び、加えて脳の衰えを止め、体の機能の衰えを止める何かしらの処置を施したモノと呼ばれている。
 本当にその様な事が可能なのか……そして、あのルカと呼ばれる少女は死徒へと変貌したのか……
 考えるだけ無駄なのである。只解るのは、あの少女、若しくは今ロイヤルガーデンに居るマカロニ将軍、この二人にしか空白の五十年間と、このエリア『0』に関する事、そしてヒントすらも訊く事が出来ないと云う事のみ。
 ……このエリア『0』は、一体何を、如何する為の空間なのか、何故この空間は作り出されたのか……この奥に何が存在しているのか。
 刹那、静寂空間に似合わぬ、電子音が響いた。男が胸ポケットに手を滑り込ませると、携帯電話が握られていた。この時勢にはかなり高価なモノである。これが安価で手に入る日が来るのであろうか。男は携帯電話に向かって微笑して、通話ボタンを押した。
「はぃ?」
 呑気な声が、エリア『0』に響く。
『ニール、何時の間に消えた』
「つい先程……少し調べ物がありましたので、書庫に居ます」
『戻って来い』
「りょーかい……」
 そうして、切ボタンを押し、電話を再び胸ポケットに戻す。兎に角、今日はこのエリア『0』を散策する事は出来ないであろう、それに、見張りの人間がそろそろ目覚める頃合だ。目覚めた時にこの場所に居れば、誰が暗示の魔法を掛けたのか一目瞭然である。
 含み笑い、それを一つして男、ニール・ド・プランサスロンスは直ぐにこの場を後にする。
 
 
 電話の通話を切り、ギルバートは頭を掻いた。目の前では、リンが既にマカロニ将軍と邂逅しており、自身はそれを邪魔しない様に、千裕を必死で抑えている最中である。その状況下での携帯電話は、如何あっても無理がある。
 しかし、ニールが来れば大体は何とかなる。話は、全ての人間が集ってからであろう。元々、将軍自身が、この二ノ宮リンと云う人物を推薦すると言ってから事が始まっているのである、それくらいの説明は欲しい所である。
 千裕を降ろし、走るな、と一つ釘を刺しておく。乱れた髪を整え、脚を動かし、将軍の下へと歩いて行く。
 ――一方のリンは、突然マカロニ将軍より言われていた言葉に口を開けっ放しであった。強面の男が、リンに対して最初に話した言葉は、「カレーライスが作れるか?」である。全く持って意図が掴めない。……まさか、この庭園では、カレーを作れる事が、入学条件なのであろうか? と有り得ない思考をしてしまった。
 真顔でその様な事柄を話した将軍は、そのままテーブルの上に置いてあるカップに、紅茶を注ぐ。注ぎ終えると、そのまま口に運び――
「まぁ、座りなさい」
 そう述べた。
「は、はい」
 急いでリンは椅子を引き、着席した。すると、将軍の隣に立っている女性が紅茶をもう一つ、別のカップに入れて目の前に置いた。礼を言ってそれを口にする……美味だ、自らが淹れた紅茶とは比べ物にならない程、美味だ。それはリーフの高価、安価は関係ない、完全に腕の問題なのである。
 面と向き合って話をする前に、先程まで共に居たギルバートと千裕も着席する。心なしか、ギルバートはやつれた様に見える。目を細めながら、千裕を見張っている。――そんな二人にも、直ぐに紅茶が手渡される。
 そういえば……。今気がついたかの様に辺りを見渡す。このロイヤルガーデンに入ってくるまで同席していたニールの姿が見えないのである。何時の間に消えたのか、寧ろ、人の気配に敏感である自らが全く気付く事が出来なかった。人が消えると云う事は有り得ない、人は必ず気配を持っている。
 ……兎に角、ニールが来れば、もう良いのであろうか? これ以上の人間は此処には来ていないと感じる。他に人間が居れば、これも、気配で感じる。だが、今感じるこの場の人間の気配は五つだけである。
 そうして、三分もしない……女性が紅茶の準備を終えた刹那に、向こう側の茂みから、笑顔そのままに、ニールが姿を現した。
「いやぁ、遅くなりましたぁー。すみません、すみません」
 二回、すみません、と呟きながら、ニールは席に座る。
「大事な事だから二回言った!」
 それに対して、千裕が指をさして、そう指摘した。無論、ニールは解っては居ない。いや、この場に存在している人物全てが解っては居ない、只、重要な事は二回言うのであろうと云う感覚である。それ以上でも、以下でもない。
 紅茶が全員分揃った。将軍の隣に立っていた女性も、着席して、一同が紅茶に手を伸ばした所で、話は始まった。
「……此処に集った六人の人物よ……今日は私事に付き合ってもらい、恐縮だ」
 開口一番、将軍は謝罪の言葉を出した。紅茶を飲む手を止めて、言葉に集中する事にする。この事情、一言たりとも聞き逃してはいけない、皆がそう思っていたのである。何せ、この男は、盟主直属の、エンペラーセブンの一人なのである。
 ギルバートは紅茶を飲みながら、ニールは微笑したまま、千裕は手で顎を支え、肘を着いたまま、女性は椅子に礼儀正しく座ったまま……話を聞く。
「話は……新たな私の研究所に入るミス・ニノミヤ君の話だ」
 突然名前を言われて、リンは赤面するものの、直ぐに前を見る。そして、今は自らの自己紹介をする所だと解り立ち上がり、言葉を発する。
「に、二ノ宮リンです……ご存知の通り、日本出身で……その、魔法仕いさんじゃありません」
 それは大体、渡された資料で一同は解っていた。この少女は魔法仕いでは無い、そして適応者でも無い。それはこの、二ノ宮リンと云う人物に当てはまる事柄である。――問題は、この二ノ宮リンの奥に持っているモノの話なのである。
 それは解っている、庭園が欲したのは、二ノ宮リンで無い事は、リン自身が一番良く解っている事柄なのである。
 ――二ノ宮凛――彼女の存在が、庭園にとっては大きいのである。半年間の幼児状態のリンの奥に存在していた、確かな魂の固定……それは普通の人間には出来ない事柄である。しかも、脳の権利を乗っ取り、その体を利用する事が出来ると云う事も、常人の二重人格では有り得ない状態である。
 所謂、解離性同一性障害――しかし、それをも凌駕した存在が、この凛と云う人物なのであろう。
 証拠として、二ノ宮リンは魔法仕いでもなければ、適応者でもない。凛を保有していると云う観点においては、一種の適応者と考えるのもあるが……。しかし、その奥に存在している凛と云う人格は、魔法をある意程度行使する事が出来るのである。強化と云う魔法と、魔力暴走、この二つの、比較的簡単なモノなのであるが、それは有り得ない。
 ……要約すると、元来、魔法仕いとは、体の中で魔力を精製出来、且つそれを動かし、コントロールし、世に不思議を生み出す行為の事を、魔法と俗に言う。そこには、魔力を精製出来ると云う事が前提の話なのである。魔法の事柄を知っていようとも、魔力が精製出来なければ、魔法仕いにはなれない。無論、魔法遣いと云う手段も存在しているが、この人物は間違いなく、その魔法遣いと云う部類には入らないであろう。
 二ノ宮リンには、魔力を精製する事は出来ない。それは解っている事柄である。一年半前、幼児化しているリンを、処理する為に庭園が動いたが、その辺りは、遠野家の現当主の言葉により、引き下がった。その際、遠野由香の言葉より説明された。二ノ宮リンには、魔力を精製する機関は存在していない、と。
 しかし、それは裏を返せば、リンには不可能でも、その他の人格には可能だと云う事である。無理矢理ではあるが、果たしてそれは確かであった。その後に行なわれた「永遠の論舞曲」では凛が魔法を行使した所を目撃している庭園の魔法仕いが存在していたのである。
 つまり、二ノ宮リンと、二ノ宮凛は、脳と身体の使い方すら違うのである。リンの人格の際に解放している体・身体の機能、そして凛の人格の際に解放している体・身体の機能――それぞれ、別の部屋が存在していると言う、最早、これは解離性同一性障害の一言で片付けられる事柄では無いのである。――全く使用方法の解らない魔力と、そしてその魔力を生み出す身体の使い方を知っている凛は、リン以上に、庭園が注目している人材なのである。
 故に、庭園は凛を収集しようとしていたのであるが……如何せん、邪魔者が存在していた。
 庭園が様々な貸しを作り、頭が上がらない状況下に陥っている資産家――藤咲家である。現当主は、藤咲林檎であり、彼女がリンに対する庭園のコンタクトを悉く断わってきたのである。加えて、永遠の論舞曲の勝利者である、林檎の姉、藤咲ヒナもそれに対して拒否を行なっており、事実上、去年のクリスマスの事件以降、完全に庭園と敵対状態にある。
 今回は、その様な関係を修復するための措置である。二ノ宮リンを庭園の研究所に留学させる事である。無論、研究は行なわないと云う約束の元、エンペラーセブンのマカロニ将軍の研究室に入室させる事にしたのである。
 無論、マカロニ将軍も、その際の条件を一つ提示している。二ノ宮リン、及び二ノ宮凛に関しての研究は行なわない、代わりに、このリンを一時期、研究生兼、自らの弟子として育てると云う事柄であった。
 ……弟子にすると云う事は、留学生としての授業に加えて、弟子としての修行も存在している。更に、マカロニ将軍の直属の弟子になると云う事は、エンペラーセブンより二階級下の権限を持つと云う事なのである。
 勿論、庭園本部は反対をしたが、相手はエンペラーセブンの一柱、つまり盟主の直属の部下と云う事なのである。盟主の権限が無ければ逆らう事も出来ず、結局二ノ宮リンは、留学研究生及び、将軍の第二弟子としての権限も得たのである。
 ――その様な説明を受けると、リンは再び赤面して、縮こまった。状況を整理してみると、リンは現在、凄まじい権限の位置に存在しているのでは無いのであろうか? と考えたのである。
 ギルバートの説明によると、この庭園と云う組織は、ピラミッド式の組織図を持っているらしい。組織に関する地位もピラミッド、そして、その組織の中の階級もピラミッドと云う、組織としては完全なる実力、そして権力主義の組織である。無論、努力に報いる結果は渡す、その様な一面も存在している。前の代の人間が功績を残したと言ったとしても、その人物本人が実力を残さねば、家系に泥を塗る事になるだけなのである。
 組織図を確認すると、先ず、頂点に君臨するのは、「庭園」、そしてその次のナンバー2として存在する組織が、「機関」と呼ばれる組織である。この機関と呼ばれる組織は、様々な世界に庭園の支部を作り出す役目を持っており、いわば庭園の別支部と考えても問題は無い。――この二段だけのピラミッドを纏めて、庭園と呼ぶのである。
 そして中の階級は、一番下の「末端」、二番目の階級「中立」、三番目の階級「騎士」、四番目の階級「エンペラーセブン」、そして、盟主となっている。無論、この階級の中にも更に細かく階級付けされている。
 話を戻すと、エンペラーセブンの魔法仕いの弟子になる場合は、エンペラーセブンの階級によって変わる。……マカロニ将軍の階級で考えるのであれば、三階級目の「騎士」――この中に存在するのは下からF~Aのランク、加えてSとEXのランクが存在している――の中に存在している、Aのランクに入る。騎士Aの権限は、弟子と云う事もあり、そこまで大きい訳ではないが、通常の騎士よりは優遇される。
 もし、弟子ではなく、普通の騎士のAとして居られるのであれば、それは相当の階級である。一般の、教師が中立F~騎士Bまでの中に入る。通常の騎士Aは、教師の権限を退ける事が出来るのである。
 随分な階級である、一気に大出世……そう言っても過言では無い状況である。勿論、それは庭園に所属している人間に限るが……先ず、リンは庭園と云う組織を去年のクリスマスに知った上に、所属もしていない。その為に、リン自身は全くその様な事は解っていないのである。
 解らなくても良いだろうとは、ギルバートの言葉である。
「兎に角、だ、これから三ヶ月間、ミス・ニノミヤと良くしてくれる様に……。特に、チヒロはこれから三ヶ月間、弟子同士と云う事だ……」
「はいはーい、ミス・ニノミヤを、三ヵ月後には、ミセスにしてみせまーす」
「ヤメロッ!」
 どうしようもない言葉を宣言する千裕に対して、ギルバートの拳が直下、直撃した。脳天に直撃した拳と、頭が乾いた音を放った。
「はしたない……」
 それを、横で眼鏡を上げる女性が咎める様に呟く。
「そ、そう言えば、皆さんの名前……訊いていませんでした……」
 忘れていたと、一同は頭を掻く。無論、ギルバートとニールに関しては、此処に来る途中の車の中で、紹介を受けていたが、他の人物からの紹介は受けていなかった。これから共に行動する事も多くなるであろう、知っておいて損は無いと思ったのである。
 それに対して、真先に言葉を紡いだのは、先程リンを抱き締めに来た、チヒロ、と呼ばれていた少女である。……先までの話上、この人物はマカロニ将軍の一番弟子と云う事になる。凛と下中に、軟らかさのあるアイラインと、リンの友人を思わせるヘアースタイル……
「私の名前は川崎千裕、アナタと同じ日本人~」
 びしぃ、と擬音を口で叫びながら、敬礼をした。そうしてそのまま再び、ぐでー、と擬音を口で漏らしながら、テーブルに体を預ける。……着ているドレスの隙間から、その胸元が見える……先程から思っていたのであるが、この少女、穿いてもおらず、着用してもいない。
 次に、解らなかった女性の方に視線を向けると、全く表情を変えず、眼鏡をもう一度上げながら――
「エリザベスです。……以後、お顔見知りを……」
 下を向き、用紙に何やら書き込んでいる。厳格な人だ、リンはそう思考する。そして、最後に視線がマカロニ将軍の方向に向く。
「……だって、マカロニさんって名前じゃないですよね?」
 笑顔でそう問うと、将軍は一つ咳払いをして、変わらぬ状態で、重く、地鳴りの様な声で答えた。
「……ロニ=アバンだ……」
 ……アバン……リンはその言葉にどこか聞き覚えがあった。
「――ギルバートの父親だ」
「え、ええ?」
 将軍とギルバートを交互に見る。
「えええええーっ」
 信じられない、リンは呟いた。
 
 




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