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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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ALICE / drive ACT 1 1/3




ハスミさんの要望に応えて、『* A L I C E *』以来の連載小説。



ALICE / drive




ACT 1

 
 
 ヨーロッパとは、巨大な領地を誇る様々な国の集まりである。中に存在している国々は、様々な文化、気候を誇っており、特にイギリスや、フランスは、知らない人間は少ないであろう、その様な代表的な名前を誇る国家が、存在している地帯なのである。
 そのヨーロッパの中に存在する、フランス――そこに、一つ、巨大な図書館が存在している。都会の中に存在しているその図書館であるが、それは表向きの話であり、実際は、その図書館こそ、この世界の異端「魔法仕い」と呼ばれる人物達を統括する、「庭園」の本部である。
 図書館の中は閑静である。無論、現在はまだ朝が早い為に開館していない為でもある。しかし、それでも開館の準備は進められており、現在は、そんな従業員の為のBGMが流されている……モーツァルト……曲に耳を傾ければ、それは人々の心に響く。言葉にしなくとも、メロディが伝えてくれるのである。
 中は、少し、薄暗い。これは、貴重な資料などを、日光などから守る為である。霞んだ小さな窓から差し込むのは、光だけである、しかも微量な。後はライトの光だけがこの部屋を照らしている。
 因みに、この図書館は、国立図書館であり、重要資料が多過ぎる為に、貸し出し可能なもの、貸し出し不可能なものが存在している。あくまで、閲覧専用の図書館である。フランスで出版される書物は、必ず一部がこの図書館に寄贈される事になっている。――しかも、この図書館は、図書に限らず、レコードなどの音楽資料も保管されている。
 上位の階に進めば、眺めを見る事が出来る部屋も存在しており、そこからは、目の前を流れるセーヌ川、そしてそれに架かる二本の橋を観る事が出来る。
 そんな巨大なビルの様な印象を受ける、この図書館。裏で操作している庭園と云う魔法仕い組織は、様々な魔法仕い達が恐れる機関で有名である。特に、魔法の隠匿に関しては、政治家を使っての操作である。下手に公開しようものなら、粛清の手が下される。……無論、魔法を隠匿と言っても、それは大人数へのモノである、少人数に関しては目を瞑る、加えて、その場に庭園に所属している魔法仕いが存在していなければならないと云う条件付である。実際はこの制約は無いに近い。
 それでも、今まで魔法と云う事柄が一般に普及して来なかったのは、矢張り、その後の情報操作や、記憶の操作、ギアスによる強制制約の賜物であろう。
――庭園について少し述べると、この機関は、この庭園を統べる『盟主』と呼ばれる存在によって成り立っている。盟主は、数年に一度交代する様になっており、現在の盟主は、三年前よりこの盟主の座についている。
 盟主は、様々な庭園の理論を決める事が出来る。例えば、この庭園では、様々な国の人間が所属している、無論、言葉の壁と云うものが存在しているのである。一昔前までは、言語の魔法仕い『サンダーバード』と呼ばれる人物が、庭園の本部に結界を張っており、その中であれば言語が互いに理解出来たのであるが、その人物が庭園を脱退した為に、現在はその様な言葉は、盟主が決める事になる。
 現在、盟主の出身国に合わせて、庭園の言語は「日本語」になっている。
 次に庭園のシステムである。庭園は、様々な魔法仕いが所属する、半強制的に所属させられる場所であり、車で考えるのであれば、それは免許に近い。庭園に所属する為に、公式に魔法を行使し、研究する事が出来る。無論、世の中には、庭園に所属しない魔法仕いも存在しており、常に庭園の人間を悩ませている。
 他にも、強すぎる魔力、他にも一線を越えた魔法を行使する人物には、リミッターと呼ばれる魔力制約が課せられる。ギアスにより、一定時間の魔法行使が不可能や、他にも魔力上限が定められる可能性もある。
 以上が庭園のシステムである。
 そんな庭園の内部構造であるが、この図書館は、実際には不可視の結界、加えて人避けの結界の、二重結界により、ビルの様な図書館の屋上には、もう十階のビルが存在しているのである。
 このビルは、庭園本部内の教育プログラムを受けている魔法仕いの人間達の寮、と云うのが一般的である。全百人程の生徒と、庭園本部の人間が寝泊りする施設である。
 ……この、庭園の魔法仕い教育プログラムは、毎年百人限定のプログラムであり、三年間の内の一年間を本部で過ごし、残りの二年を、其々の出身地の庭園支部で受けると云うものである。実際は、三年間全てを庭園支部で受けるのであるが、この庭園本部で受けると云うのは、相当の名誉ある事柄であり、将来を約束された様なモノである。
 無論、一年だけでなくとも、交換留学と云う名の元の短期間での実施や、他にも世界で一枠だけ存在している夏の、六月から八月の、三ヶ月の特別留学実施と呼ばれるモノが存在している。これも、一枠と云う事だけであり、選ばれれば名誉な事柄である。たった三ヶ月といえども庭園本部に所属する事が出来るのである。
 ――他にも、庭園には様々な人物が存在している。特に、庭園の盟主の直属の部下である『エンペラーセブン』は、世界で指折りの七人の魔法仕い、適応者と呼ばれている。
 其々――
 亜牙里
 斬鬼魔人
 舞姫
 リボルバーネック
 狂犬
 将軍
 ナイト
 ――以上の七つの称号と席が存在している。
 が、現在、『亜牙里』『斬鬼魔人』の席は空白である。いずれ、この中に誰かが存在を滑り込ませるであろう、だが今はその時ではないのであろう、誰もその席を取ろうと云う人間は存在していない。
 しかし、そのエンペラーセブンの空白は、同時に、対抗勢力を作る原因にもなっている。それはいまや、庭園に対抗する勢力となっており、庭園の人間は、現在、それを『デルタフォース』と呼んでいる。
 組織の実態は解らないが、四人の魔法仕いと適応者で構成された庭園に反発する組織であり、戦場に現れては、それを駆逐していく。……無論、現在はその身を潜めており、此処二年は報告されていない。
 
 
          ×          ×
 
 
 フランスに降り立った。イギリスで観光を少しした後、フランスに降り立った。
 少女が此処に単身で来たのは、一通の手紙が元である。庭園に所属するとある有名魔法仕いが、自らを六月から八月の、三ヶ月講習に招待したのである。無論、世界で一枠しか存在していない名誉あるモノである……の、だが、少女には一体何の事なのか全く解らなかった。
 そもそも、少女は魔法仕いでは無い。仕えないと言えば嘘になるが、魔法仕いと言えるほどの力を持っている訳でもない、加えて、その様な力は、一つしか持ち合わせていないのである。何故、彼女が選ばれたのか、様々な魔法仕いが首を捻らせたであろう。
 八月の後半は冷えるとの事を聞き、コートを持って来、加えて、大きなスーツケースは、小さな躯体の彼女にとっては、少し、大変な作業であった。
 溜息を一つついて、迎えの車に乗る――車は、リムジンである――そこには、笑顔の優男が一人同席していた。
「どうでした? イギリスは?」
「え、あ……はい、楽しかったです。宿泊先のマーサーさんも優しかったです」
「それは良かった。我々も、提供したかいがありました」
 ……今回のイギリスの旅行、少女の希望であり、庭園には反対をされたのであるが、庭園所属の魔法仕いの家にステイすると云う条件の元の特別措置が取られた。少女を呼んだ魔法仕いが、どれ程権限を持っているかが窺える。
 優男は、申し送れました、と言って、一枚の名刺を少女に渡した、
「ニール・ド・プランサスロンスです」
「は、はぁ……プランサスロンス、ですか……」
「はい。母親の性なのですが、これがまた奇怪な人物でして、わたくしは異世界が何たらと呟く人間でしたそうで、周りの人間からは変人として有名でしたそうです。それと、母親はどうしても料理が苦手な様でして、毎日、父親が作っておりました。そうそう、こうも言っておりました、母は――」
 随分とお喋り人間である。言葉が尽きないのか、そのまま話し続けている。少女は微笑しながらも、その言葉に耳を傾けつつ、別の事を考える。外は、都会である、少女の居た町と殆ど変わらない。ビルが立ち並び、子供達が遊ぶ公園が存在している。
 此処で三ヶ月過ごすのである。
 すると、漸く話を終えたニールが、言葉を掛ける。
「そうそう、申し送れましたが、運転手のギルバート=アバン君です」
「……」
 ……帽子を被って、黒い服を着ている男だ。手入れの足りない――いや、ウェーブでも掛けているのか、前髪が曲がっている。目は鋭く、それでいて、少女は何か彼の奥に優しいものを感じていた。
「ニール」
「はぃ?」
「黙ってろ」
「……これがわたくしの性分でしてね」
 笑うニールは、如何見ても優男である。そのお喋り性格が無ければ、の話であるが。
 
 
 ――暫らくのドライブの後に、その図書館に辿り着いた。
「こ、これが庭園……ですか……」
 少女はその巨大な建造物に口を開く。これが、図書館であり、その裏側に存在している庭園と呼ばれる組織の本部でもある。何度も少女はこの庭園と呼ばれるモノを聞いた事があるが、実際に見た事あるのはこれが初めてである。
 暫し圧巻されていた少女であったが、後ろから、車を止めてきたのであろう、ニールとギルバートが現れ、先に行く様にと促される。それで漸く我に返り、少女は先へと歩を進める。
 中に入ると、受付の人間が眉を潜めた。流石に、風変わりな人間が三人入って来たのである、眉ぐらい潜めるであろう。
 そんな女性に対して、ギルバートが一言、二言呟くと、はい、と言って敬礼をした。成る程、理由が解ったのであろう、受付の扉を開いて、中に入る様に言われた。
「さぁ、ご入じょー」
 背中を押されて、そのまま少女は受付の後ろに存在していた扉を潜ると……そこには、一つのエレベーターが存在しており、中に入り、暫らく揺られる。広い空間のこのエレベーターが止まったのは、それから数分の時間を要した。
 扉が開き、辺りが開けた。……そこは屋上であり、施設からの光景が一望できる素晴らしい場所だったのであるが、少女にとっては、その屋上の場所に存在しているもう一つの高いビルに、目が釘付けになっていた。先程、この図書館を下から眺めた時は、この様なモノは無かった筈なのであるが……
「不可視の結界と、人避けの結界が張ってあるからな。それに、元々屋上はこの図書館の関係者しか入れない」
 ギルバートは、帽子を取り、そう口から漏らした。その言葉を引き継ぐかの様に後から屋上に出て来たニールが口を開く。
「ま、この図書館の関係者って事は、当然、庭園の関係者って事」
 その言葉に、そう言うことだ、とギルバートが更に付け足す。はぁ、と溜息を吐きながら、少女はもう一度その施設を眺めた。本当に、今自分が立っている図書館と大きさはほぼ変わらない。大きさは、十階建て程であろうか……数える限りではその辺りだ。――後から聞いた話、この建物の他にも、地下にも施設が存在していると云う……
 屋上に存在している施設に入り込むと、中はまた図書館とは違った雰囲気を出していた。コンクリートで固められていた外見とは違って、中は案外木造を思わせる様な作りになっていて、様々な部屋が存在していた。
 ――この施設の殆どが、寮の様な存在であり、人が住んでいると云う。加えて、この庭園に居る教師や、魔法仕いの殆どが、この建物の、大半の部屋に住んでいると云う。つまり、学生と教師の寮を統一した様な感覚であると言う。
 上に行けば、行くほど豪華な作りになっていると言う。一番上の人間の部屋は一体どうなっているのか、少女は想像も付かなかった。
 此処まで来て、もう一度エレベーターに乗る事になる。どうやら、少女を推薦し、招いた人物は、一番上の、ガーデンスペースに居ると云う。盟主を差し置いて頂点の場所に君臨していると言う……だが実際、盟主がどの部屋に住んでいるのかは不明である。
「え、それじゃあどうやって連絡を取っているんですか?」
「その点はエンペラーセブンの一人、『狂犬』マルコシアスが居るからな。伝言をすればマルコシアスが伝えるシステムだ」
 今回の盟主は厄介だ――成る程、少女は漸く理解した。盟主と云う人間も大変なのであろう。盟主は男性であろうか? 女性であろうか? ……それは後から訊く事にしよう、エレベーターが最終階を示し、扉が開いた。
 ……扉の向こう側は、本当に此処が、ビルの屋上である事を忘れさせるものであった。草花が茂っており、蝶でも飛んでいるのではないのだろうか、と思ってしまう。しかし、蝶はこの高度では来る事は無いであろう。
 この中に、居ると云う、少女、二ノ宮リンを推薦した男が……
 
 
          ×          ×
 
 
 国際電話と呼ばれる代物がある――国外への人間に電話を掛ける時は、通常の携帯電話、若しくは通常の子機の電話では不可能なのである。それなりのルートを経由して、国外に電話を掛ける事になるのである。
 元来、これは搭載されている様なシステムでは無い。従来の……一般の家庭の電話にこの様なものは設置されていない。国外に居る人間に電話をする事など滅多に無い。それは政治家や、他にも貿易などを職業にしている人間ならまだし、一般の人間であれば先ず無い事である。
 だが、此処に、態々値段の高い、モニターまで設置して国際電話の設備を急ピッチで進める人物が、二人存在していた。業者に高い金を払い、今、まさに、設置させているのは、業者も驚く年齢であった。
 まだ少女である。年齢を問えば、十九歳と十七歳だと言う。そんな人物が、今業者に指導をして、配線をさせているのである。……両者、十九歳、十七歳と思えぬほどの美貌の持ち主であり、スタイルも良い。加えて、指導力に長けており、作業は着々と進んで行く。此処まで作業が早い事は、作業員の中の人間には経験が無かった。
 凄まじい速さで、一時間の時間で配線は終了した。説明書を渡して、業者はその家を後にした。随分と広い家である、帰り際にその家を眺めて、そう呟くが、直ぐに車に乗り込む。まだ、行かねばならない場所もある、この様な場所で道草をしている暇は彼らには無いのである。――不況の世代、これは良い事である。
 車が走り出し、彼らは別の場所へと赴く。
 ……それを眺めていた少女二人は、直ぐに説明者を開き、凄まじい速さで理解、読破した。この時点で、彼女ほどこの機器を極めた人間は居ないと云う程、このマニュアル通りの事をするに関して熟知したのである。
 直ぐに準備に取り掛かった。この国際電話は、インターネット経由で、映像、そして音声を伝えるのである。インターネット配線は先程、業者が設置、接続を行なって行った。後は、サーバーに、データを入力して、起動させるのであるが……この、コンピュータと云うものは、どうにも、彼女達には無理であった。尚、サーバーに関しては、巨大サーバーを一つ、購入した。まさに破格である。
 サーバーは動いているのであるが、インターネットに繋がる気配が無い。むぅ、と二人の少女は顎を擦りながら、PCのモニターを眺めている。業者に帰らせたのは間違いだった様である。今まで、PCが家にあっても使わなかった二人である、この様な時に問題が起きると困る。
 さて、何時までもこうしている訳には行かない。一刻も早く、このPCをインターネットに接続し、モニターに写し、国際電話に繋げる必要があるのである。
 仕方ない、彼女達はPCに詳しいであろう、友人の元に電話をする事にする。この間、学校のPCを新しくすると言った時にも助けて貰った人物であるが……正直、あの人物に電話するとなると、先ず、あの女性の元に電話する必要性があるのである。それはどうも気が引ける。
 だが、今はその様な事を言っている暇は無いのである、此処は、その様な事を全て捨てて、強硬手段に出る必要性があるのである。
 電話は全ての部屋の隅に存在している。無論、子機であり、本体の方はこの家の、一階の玄関に存在しているモノが親機になる。子機は相当数買い込み、全てを接続して、全ての部屋に設置する事に成功したのである。これも全て、とある人物の為に、何があっても良い為に、である。今年ほど、金を湯水の様に使う年は無いであろう。しかし、まだまだ金に余裕があり過ぎると云う事は、それだけこの家は矢張り資産家なのであろう。
 その子機を一つ取り上げ、少女は電話を繋げる。……あの家へは、普通の電話は通じる事は無い。その人物の知り合いの電話会社に一旦掛け、繋げる必要性があるのである。何の為に電話があるのかが疑問な所であるが、その様な仕組みなのだから致し方ない。元々、普通の、一般人の家ではない為だ。
 そうして暫らくのコール音が鳴った後に、その電話が突如として、回線変動した。……今日は嫌にスムーズだ。何時もなら、その女性の知り合いの人物と他愛のない世間話をする事が、少しの楽しみであったのだが……まぁ良い、今日は急いでいる。
 その人物の家の電話に繋がるのには、暫らく掛かる事は解っている。何時までも手を上げて、受話器に耳を押し当てていると疲れてくるものである。受話器を一旦下ろして、隣に居る少女の妹に渡すと、渋々、妹はそれを取り上げ、耳に当てる。紅茶でも淹れて来ると適当な理由を付けて、少女は部屋を後にした。
 ……無論、紅茶は一応淹れる。宣言した以上は実行する事にするのが少女の考えと、そして理念である。嘘は極力吐きたくは無い……それは、とある少女の約束であるからである。彼女は、嘘を極端に嫌う。心が綺麗なのであろう、羨ましい。
 台所に辿り着くと、紅茶を入れる為の機器を取り出す。紅茶は、ティーパックと云う人物も居るが、少女達は、独自にブレンドした紅茶を好む。この間、自らの家の従者である人物にブレンドして貰った紅茶がまだ残っていた筈である。薬缶に水を入れ、沸かす。
 その間が退屈であるが、火を使っている間、この場所を離れる訳には行かないのである。水が湯に変わるまで数分、兎に角、紅茶を持って行く為のソーサーを取り出す。……そういえば、と思い出し、冷蔵を開けると、案の定、その中にはロールケーキが残されており、少女は一つ微笑を作る。
 適当にロールケーキを切り分け、皿に乗せて、一足先にソーサーの上に置いておく。暫らくして、紅茶を入れる為の湯が出来上がった。湯が熱いうちに、紅茶のリーフを入れた大きめのカップの中に湯を入れて、上から布を被せる。蒸らすのである。さて、この間に持って行けば丁度良いであろう。
 少女はソーサーを動かして、先程の部屋へと歩を進める。
 ――尚、この家には、台所も三つ存在しており、一階に一つ、二階に一つ、三階に一つとなっている。冷蔵庫の中身は、大体が二階に全て入っている。これは、少女二人の寝室が二階に存在しており、一階や、三階は掃除をする時、若しくは客人が来た時にしか使用しないからである。本当に、何故此処まで広くしたのか、少女は自らの祖父の神経を呪う。これでまだ別荘である。
 再び元の部屋に戻ってきた時、自らの妹はまだ受話器を耳に当てて、言葉も発していなかった。……まさか、まだ繋がっていないと云うのか……
 その問いは見事に当たっており、妹である少女は、溜息を一つ吐いて、肯いた。どれ程回線が混んでいるのか……いや、依頼人が多いのか、それとも依頼人と長電話でもしているのか、若しくは知り合いと電話しているのか……どちらにしろ、傍迷惑な話である。『魔女』とは、依頼人が一番重要だろう、その様な事柄は早めに終わらせ、直ぐにでも別の人間の電話に気付いてもらいたいものである。――只今通話中です、と云う言葉が出ない限り、電話をしていないと云う可能性もあるのであるが、如何せん、あの家の電話は色々と問題のある電話なのである。
 代わるわ、と言って、少女は妹から受話器を取り上げる。妹は手を振るって、目の前に存在している紅茶に手を伸ばし、フォークでロールケーキを口に運ぶ。因みに、ロールケーキはロールケーキでも、プリンロールケーキであり、甘さは折り紙付である。
 甘さに舌鼓する中、電話の受話器の向こう側で、渇いた音が響いた。
『もしもし……申し訳ありません、遅くなりました』
 少年の声が響いた。成る程、魔女ではなかったか、それはそれで有り難いと、少女は思った。
「お久しぶりです、藤咲ですわ」
『あ……ああ、ヒナさんですか、どうも本当にお久しぶりです。昨年のクリスマス以来でしょうか?』
「そうですわね。まぁその話はまたいずれとして……愛美さんに代わって頂けませんか?」
 その言葉に、え、と言う言葉が響いた。久しぶりに掛けて来た少女の電話の相手は、恐らく少年の主である、魔女だと思っていたのであろう、意外な人物が出て来て少し驚いていると言った所であろう。
 しかし、その辺り融通の利かない彼ではない、直ぐにはい、と言葉を置いて、奥に存在しているのであろう、暫らく待った後に、受話器が持ち上げられる様な音が響いて、明るい、良く通る声が響いた。
『もしもーし、お電話かっわりましたーっ!』
 ……随分だ。まぁ良い、兎に角用件を話し、それに対しての答えが聞ければそれで良いのである。
「お久しぶりですね。突然で申し訳ないんですけど、このPCのインターネットが接続されないので、貴女の弟さんを派遣してもらいたいんですけど……」
 その言葉に対して、向こう側で言葉を発していた少女の言葉が途切れた。弟と云う言葉を出した瞬間に止まってしまったのである。何かあったのだろうか? 首を捻りながら、受話器に耳を押し付けると、今度は先程の少年の声が響いた。
『あ、すいません。少し神経質になっていまして……実は切草君、十一月から行方不明でして……』
「……そうなんですか……。
 ところで、行方不明って事は……まさか?」
『多分……』
 少女は溜息を吐いて、一言言葉を放って受話器を置いた。如何し様も無い、その事は、隣でロールケーキを食している少女の妹にも解っていた事であった。
「……明日業者に来てもらいましょう」
「そうですね」
 それまではお預けである、少女、藤咲ヒナと藤咲林檎は、遠く、異郷の地に行っている少女を思って、唇を噛んだ。
 
 


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