忍者ブログ

絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ALICE / drive ACT 1 3/3





3/3









 
 
 顎をテーブルに着いて、煎餅を齧っている少女は、突然の訪問者を見るなり、溜息を吐いた。……何故此処に居るのか、と問いたくなったが、理由は一つであろう。
 恐らく、庭園の方に行ってしまったリンに関する事なのであろう、何を今更、少女は呆れ返る。元々、少女を送ったのは自らでは無いか。それに、去年のクリスマスから、庭園とは敵対同士にあるのなら、リンを送らなければ良かったのである。
 後悔先に立たず、である。
 少女は煎餅をもう一枚取り出して、口に運ぶ。
「……で? 何で此処に来たワケ?」
 乾いた音を響かせて、透明の包装を開き、中身を口の中に運ぶ少女、遠野由香は、目の前で正座をして紅茶を飲んでいる自らの先輩である藤咲ヒナを見ながら、そう問うた。
「ですから……リンが……」
「そんなもん知らないわよ。貴女が行っても良いって言ったからリンは言ったんじゃない。それに、クリスマスの時に庭園と敵対してんのに、どうしてリンを送ったのよ」
「そ、それは……その、庭園と敵対したと言いましても、藤咲家の面子と云うモノが……」
 その言葉に、目じりを上に上げる由香。その表情に、ヒナはしまった、と口を手の平で覆った。
「へー……生徒会長サマは、自らがだーい好きなリンを送ってでも面子が欲しいワケ?」
「いえ決してそう云う訳ではありませんわ……」
「……私にはそう聴こえたけどなー」
 ……居心地が悪くなったのか、紅茶のカップを置いて、ヒナは立ち上がり、部屋を出ようとする。……何の為に態々学院に戻って、由香の部屋に来たのか解ったものではない。来なければ良かった、とヒナは心の中で後悔をする。余計に心配事が増えた上に、もう如何し様も無いと云う事を嫌と云う程思い知らされてしまった。
 出る為に、扉のドアノブを掴んだ所で、由香が背中越しに声を掛けて来た。
「ま、確かに魔法仕いにとって、庭園に対する面子が重要な事は解るわよ。私だって、魔法仕いの家系だからね。
 でもさ、それって大切な人間売ってでも欲しいもの? 私には理解出来ないね」
「……そうですわね」
 ヒナは、今度こそ由香の部屋の扉を開き、外に出て、閉めた。――外に出ると、そこには林檎がベンツの目の前に立って、待っていた。この事を解っていたからこそ、林檎は同席しなかったのであろう。今更ながらに、互いに後悔しているのである。
 静かに、涙を拭いながら、二人はベンツの中に入った。藤咲家、ヒナと林檎の身の回りの世話役である森本は、そんな二人にハンカチを渡した。
 
「言い過ぎた、かな……」
 一方、取り残された由香は頭を掻きながら、横になっている体を起こして、ヒナが出て行った扉を暫らく眺めていた。解らない事は無い、あの少女が言っていた、庭園に対する面子が、魔法仕いにとってどれ程重要なものか、本当は解っているのである。
 ……だが、少女は今までリンを守り続けてきた。それは、自らの代わりに、自らよりもリンを好きで居てくれるからである。どの様な時も常にリンの味方だと思った為に、リンをあの少女に預けたのである。
 それを裏切られた――その様な考えがあったのだろう、嫉妬とは違う、何か違う黒い感情が由香の心の中を渦巻いているのであろう。それが原因であの様な事を言ったのであれば、謝るのは由香自身である。解っていながら言葉を紡いだのである。
 ――そう考えれば、明日学校で謝る事にしよう、由香は微笑しながら、テレビの電源を入れる。
 しかし、庭園は一体何故リンを指名したのか……それが理解出来ない。研究する訳でも無く、しかも庭園での盟主に次ぐ最大の権限を持つエンペラーセブンの人物の弟子とする……待遇が良すぎる。この事柄に、何も裏が無いと考えて良いのであろうか? また厄介な事柄に、リンを巻き込む訳には行かない。矢張り、リンをフランスに一人で向かわせるのは拙かったか……
 再び体を横にして考える。
「相手は……あのマカロニかぁ……」
 あの厳格な人間の容姿を思い出す。顔に似合わず、子供の様な性格をしている人間であるが、どうも取っ付き難い。それにあの人間の周りに居る人間、それが一番気になるのである。由香自身、マカロニ将軍に会った事はあったが、その周囲を取り巻く人間の事までは知らない、会った事も無いのである。
 矢張り、調べてみる必要性がある。そう思えば行動は早かった。確か、と呟きながら、部屋の隅に存在している聖マリア女学院の資料を取り、中身をテーブルの上に丁寧に置いて行く。と、そこに一枚、紙が出て来た。
 その紙には、休校届け、と書かれている。
 ――聖マリア女学院は、高校でありながら単位制を取っている学院である。単位を取れればそれで良いが、無断欠席をする事は許されていない。故に、一年間に十枚、休校届けを渡される。その間で、休暇を取るのである。無論、それは夏休みや冬休み、春休みは含まれない。あくまで、〝欠席〟の為のシートである。正当な理由があれば、〝公欠〟とも出来る。
 今回、この一年間のシートを全て使う事にする。……正直、十日で足りるかどうか……それは不明であるが、兎に角、やるべき事はやってみる。行くだけで、先ず一日は潰れるであろう。帰ってくる事を考えると、五日間程は滞在出来るであろう。
 時計を見ると、時刻は夕刻の六時半。今から新幹線に飛び乗れば、明日には着くであろう。
 ――日本庭園支部……「タケミカヅチ」と名付けられたそれは、京都に存在している。
 
 
          ×          ×
 
 
「申し訳ありません」
 ……今、リンは厳格な女性である、エリザベスに謝られていた。如何にも万能であろう、その容姿、印象を見る限り、この様に頭を下げている光景は中々に見られないであろう。いや、今考える、感じるべきはそこではない。人の失敗を笑うほど、リンは人でなしでは無い。
 この状況を見て、一番困っているのはギルバートであった。そこは計算に入れていなかった、と云うのが率直な感想である。
 何が問題なのかと云うと、何の手違いか、リンの部屋が確保されていなかったと云う事である。――この庭園の寮を使用するには、一ヶ月に一度の受付が必要となる。その受付を逃せば、一ヶ月は部屋を使う事が出来ないと云う、忘れてはいけない作業なのである。それは、新入居者にも、そして現入居者の契約更新の際にも適応される事柄である。
 面倒な話を全て要約すると、この六月、リンは部屋を持てない、と云う事なのである。廊下で寝ろと云う訳にもいかず、何より、この二ノ宮リンと云う人物は、庭園内、エンペラーセブンの一人であるマカロニ将軍の弟子なのである、この様な待遇は許されない。通常であれば、処罰ものである。
 しかし、リンの性格は優し過ぎたと言える。そんなエリザベスに関して咎める事は何もせず、如何しようかと迷っている所である。
 そこを通り掛ったのは、笑顔を絶やさないニールである。
「おや、どうしましたか?」
 先程とは違い、スーツに身を包んでいるニールは、その笑顔のままで、頭を下げるエリザベスの顔を覗き込む。
「いえ、ニノミヤさんの部屋の手続きを失念しておりまして……」
「ふむふむ……そりゃ拙いねー。
 りょーかい、じゃ、その件は僕が何とかしておくからサ、今日は誰かの部屋に泊まってよ。まさか、地面に寝かせる訳には行かないしねー」
 ……と言われても、誰の部屋に泊めると云うのか……一番打倒なのは、エリザベスか、千裕の部屋なのであるが……エリザベスは公務で忙しく、人を置く程の余裕は無い。と言って、千裕の部屋に泊めればどうなるか解ったものではない。飢えた野獣に極上の肉を投げ込む様なモノである。
 しかし、その他の面子は、男であり、女性を泊める様な神経をしていない。ニールはどうだか……ギルバートは視線をニールに向けると、毎回の様に、終始笑顔である。
「オマエは――」
「いやー、こう見えても実は僕、ロリータコンプレックスでしてー」
「んなもんカミングアウトせんで良いわッ!」
 これで残された道は一つ、明日、ミス・ニノミヤが、ミセスに変わらない事を祈って、千裕の部屋に泊めるしか無いのである。
「いやー、だってギルの部屋でいーんじゃない?」
「はぁ?」
「多分、庭園の男で一番無害だと思うよ」
 しかし、それに異論をしたのは、隣で頭を下げていたエリザベスであった。
「それはいけません。兎に角、ニノミヤさんにはカワサキさんの部屋に泊まっていただきます」
 はぁ、とリンは肯く。別段問題は無いのであるが……
 
 
「え~、それって……誘ってる? それとも、OKの合図?」
 ……千裕の部屋に入って、先ず言われた言葉はそれであった。一体、何の事か理解は出来なかったが、凄まじく、嫌な予感がしていたのである。だが、その感覚も、確証は無いのである、リンはすみません、と誤って、部屋の中に入った。
 部屋の中は、比較的片付いている。この少女の性格にしては、かなり清潔な空間である。……尚、余談であるが、時刻は既に九時を回っている。ロイヤルガーデンでの集合以降、リンは庭園本部の施設を見学、授業の為のモノの仕入れ等があった為に、夕食は食べていなかったのである。……先程、ギルバートより軽い食事を貰った。
 しかし、この部屋……何か、嫌な臭いがする。まるで、モノが腐った様な臭い――にしては、悪臭には程遠い。軟らかい匂いが混ざっている。
「……にゃあ」
 ……その匂いが、何処かで嗅いだ事のある匂いだったのである。それを嗅ぐと、まるでリンは目の前が歪んで見える、そして、眠気に襲われるのである。下がってくる瞼、それに体を預けて、少女はベッドに横たわった。
 
     ■■■
 
 ……にゃあ……
 
「――ぁ……はぁ……」
 
 ………………
 
 ――熱い感覚が、襲う――
「……ち、ひ、ろ、さ、ん、?」
 目の前には……裸の千裕さんがわたしを押し倒している。わたしも下を見ると、わたしの体も……裸だった。
 でも別段何も思わなかった。なんでだろう? まるでそれが当たり前の様に、わたしは、千裕さんの唇が、わたしの体を舐め回して行く光景を、不思議な事一つ無く、眺めていた。
 
「にゃ……ぁ――はぁ――」
 
 わたしの声じゃないような、変な声が出る……でも、それも別段おかしく思わない。
 
「かわいい……」
「――にゃッ! あああああああああああああああッ!」
 
 途端――何か重い音が響いた。
 
     ■■■
 
「だぁああああッ!」
 鈍い音を響かせて、千裕は叫び声を上げて、ベッドから転げ落ちた。……リンの秘所を、舐め上げる前にリンの脚が動いて、千裕の顔面を蹴り上げたのである。
「……ぁ……?」
 顔を擦りながら見上げると、月明かりに照らされて、リンが――いや、それは……
 
「勝手に人の体を好き勝手、弄るんじゃねーよ……女」
 
 全く違う人間である。
 解離性同一性障害――確かに、それを遥かに凌駕している。少女は全く違う意志と、そして感覚を持っているのである。……それは、体を舐め上げた時の舌触り、そして味で解る。この少女は、二ノ宮リンでは無い、全く違う人間である。
 二つの心、二つの操作、二つの感覚――それを持っている二ノ宮リンは――そのもう一つの世界を持ち合わせている。
 
「二ノ宮――凛。
 貴女も、可愛いのね……」
 
 背筋を震わせて、千裕は凛の脚に、縋り付く様に、抱きついた。
 
 
          ×          ×
 
 
 次に目覚めた時、リンは自らの内に存在している凛が、やけに怒っている事に気がついた。
〝……凛――?〟
〝何だ?〟
〝どうしたの?〟
〝別に……只、ヒナを裏切りたくなかっただけだ……〟
〝え?〟
〝――あの女……呪いの使い手か……っ〟
〝ちょっと……凛?〟
 ……目を開けると、そこは、先程と作りは一緒だが、全く違う雰囲気を出している部屋であった。……服は先程と同じで着ていないが、ワイシャツと、スーツだけが掛けられていた。起き上がると、暗闇の中で、ランプだけが点いている状態である。
 奥に存在しているのは……
「起きたか?」
 ……猫を抱えている、ギルバートが居た。服装は、上半身裸にタオルを掛けている。ズボンは穿いており、髪は濡れている……風呂上りなのであろう。
 どうして自らが此処に居るのか、と云うのが一番訊きたかった事であるが――リンは性的な知識を一つも持ち合わせていない――今は別の事柄を口に出した。
「猫、好きなんですか?」
 ん、と下を向いて、体を摺り寄せる猫を撫でる。鋭い目、人を寄り付けない様なその感覚だが、猫は解っているのであろう、この人物が優しい人間だと。
「コイツは俺の猫じゃない。だが……まぁ、猫は……嫌いじゃないな」
 声を上げて、ギルバートの脚から飛び降りると、猫はそのままリンの元へと来る。わ、と呟きながら、リンは猫を抱き寄せる。笑顔で猫と戯れるリンを、一回直視して、ギルバートは立ち上がって、部屋から出る。
「シャワー浴びろ。それと、着替えろ。飲み物は冷蔵庫に入ってるから――好きに使え」
 と、言ってもギルバート自身、この部屋以外入る場所は存在していない。今日一夜だけ、リンと過ごす事になる。……時刻は二時を回った、が、今日はそこまで眠いとは思わなかった。今は、あの二ノ宮リンを何とかする必要があるのである。
「ふーん、何もしないんだー」
「……ッ!」
 そこには、全裸で廊下に座っている千裕が居た。……この人物は、懲りると云う言葉を知らないのか……
「服……ッ! 着ろッ!」
 ふぅん、と呟いて、目を細める千裕は、ギルバートの目の前に、完全に全裸のまま、何一つ隠す事無く立つ。そこに、恥じらいと云う言葉は見当たらない、寧ろこの姿を見て欲しいと言わんばかりに、少女はギルバートに近付いていく。
「言ったでしょ、私、男でも女でも良いって」
 だから? とは言えなかった。頭を抱えて、ギルバートはその場を早足で立ち去った。――尚、部屋の鍵は閉めておいた為に、千裕は入る事は無いであろう。
 
 数分後、再び部屋に戻って来ると、リンが置いて行った服を着ていた。……サイズは矢張り合っていない。千裕から借りる訳にも行かず、先程エリザベスより借りて来た服である。彼女は、スーツ以外のモノを持っているのか疑問な所である。皺になると問題である、上着だけは自らのジャージを渡した。
 冷蔵庫の中身は使って良いと云う言葉に甘えたのか、リンはオレンジジュースにストローを入れて飲んでいた。猫は先程から、ずっとリンの周りを歩いている。時折、鳴いてはリンの体に自らの体を寄せている。
 溜息を吐いて、ソファーに腰を掛けると、リンが歩いて隣の場所に座る。
「あの、有り難う御座いました」
「ああ?」
「凛が言ってました。わたしの事、助けてくれたの、……その……」
「――ギルで良い」
 何時の間にか乾いている髪をかき上げながら、ギルバートはそう言う。
「ギルさんですよね?」
 それに対して、ああ、とは言わなかった。別段助けた訳でもない、通り掛った際に千裕に対して少し制裁を加えただけである。矢張り、千裕に預けたのは間違いであったと、今になって後悔しているのである。
 あの時の状況から考えて、何とか、ミスからミセスに変わる事だけは防げたようである。額を擦りながら、ギルバートは安堵の溜息を吐いたものである。……その後の、リンを如何にして部屋に持って行くかは苦労したが。
 兎に角、今は大丈夫である。全く、明日からまだ遣るべき事があると云うのに、時刻はもうそろそろ三時になろうとしている。充分にリンを休ませる義務が、ギルバートにはあるのである。
「解ったから、もう寝ろ。……明日から講習とか色々とあるんだ」
 その言葉に対して、はい、とリンが笑顔で応えた。
 ――嫌な笑顔だ。視線を逸らし、別の場所を見る。この、作り笑顔でも無く、完全な、心の底からの笑顔は、余り得意ではない。
「布団は使って良い。俺はソファーで寝るから……」
「え! でもそれじゃあ……」
「俺は男だっ! 解ったな! 寝ろ! さぁ寝ろ! 良いから寝ろッ!」
「は、はぃ――――――ッ!」
 布団を被ったリンを見て、胸を撫で下ろす。手に握っているチューハイの缶をゴミ箱に入れて、横になる。
 
 
 
 日差しで目覚めた。随分と深く眠れたのは、矢張りアルコールが効いているのか。頭を抱えながら、起き上がる。ベッドに、昨夜見たリンの姿は無かった。――出掛けたのか、それとも、もう授業に行ったのか……まぁどちらでも良い。基本、庭園に所属している、ギルバートの様なフリーの人間は、庭園での公務をこなせば、後は本当のフリーである。
 起き上がり、台所に行こうとする。一応、朝食は取らなければ空腹に耐えかねる事態になる可能性があるからである。
「あ、おはよう御座います、ギルさん」
 ……しかし、全く思いもよらない展開に転じた。居なくなっていると思っていた少女であるが、まさか台所に存在しているとは思わなかった。
 ――この、ギルバート=アバンの住む部屋は、高級ホテル並みのスウィートルーム並みの大きさを誇っている。それに加えて、台所、トイレ、シャワー等、必要な施設を全て揃っている。尚、この部屋の大きさは、この庭園の寮の、最上階から数えて下に二階……つまり八階の部屋であり、八回はあの広さで、たった十部屋しか部屋が存在していないのである。そして、その十部屋しか存在していない部屋の一つに、ギルバートは住んでいるのである。凄まじい広さの部屋である。
 台所で、昨日寝た時と全く同じ状態で料理に勤しんでいるリンは、頭を抱える事情にとって充分の刺激であった。どうしてこうなる、と頭を抱えて、テーブルに着席する。
 直ぐに、目の前にトーストと目玉焼きが渡される……サラダも忘れない、加えて、紅茶がその場に置かれた。上を見上げると、リンが笑顔のまま、ギルバートを眺めている。下を向いてトーストに手を伸ばした所で、再びリンが後ろを向いて、フライパンを動かし始めた。
「……なんでだよ……オマエ、行ったんじゃないのかよ……」
「だって、ギルさんは冷蔵庫を使っても良い、って昨日言いました」
 あの時は成り行きで言ってしまったが、今その事柄に対して初めて後悔をした。……冷蔵庫の飲み物は飲んで良い――それにすれば良かった、と頭を掻く。しかし、後悔とは先に立たないものである。その結末として、この様な状況になっているのである。
 トーストを食べ終えた所で、紅茶に手を伸ばす。――準備してくれた人間に言うのもあれだが、正直、紅茶より、コーヒーの方が良かった、と難癖を漏らす。少女には聞こえていない様である、恐らく、今調理しているだろうベーコンからはねる油の音で、聞こえていないのであろう。――何でも良いが、火傷をしない事を祈った。
 サラダに手をつけようとした所で、ベーコンが渡された……
「……おい」
「はい?」
「オマエ……ベーコンの油、取らない主義か?」
「え?」
 首を傾げる少女。嗚呼、成る程、立ち上がり、キッチンペーパーに手を掛けると、それで徐にベーコンの油を取り始めた。
「俺はギトギトした物が嫌いなんだよ」
 ――無論、これも裏返しなのであろう。何か、その様な事を言って置きたかった。
「ご、ごめんなさい……」
 謝る少女――何故謝るのか……自然と伸びた手は、リンの頭を捕らえていた。
「はぅ――っ」
「オマエは謝り過ぎる」
「そ、そこまでこっちに来てから謝ってないです……」
「つまり、ニホンじゃ謝ってるって事だろーが」
「……にゃあ」
 苛立ちを覚えて、一つ、頭に拳を作って叩いた。
「その言葉と、謝るの、禁止な」
 ……無論、リンに反抗の余地は無かった。ギルバートは立ち上がると、ベーコンを口の中に入れて、紅茶で流し込んだ。着ているワイシャツの上から、スーツを掛けて、その場を後にする。
「――お前の着替えはベッドの上に置いておいた。着て来たお前の服は、全部、千裕が破いちまったからな。
 それと、授業は十時からだ、遅れるなよ――リン」
 それだけを残して、ギルバートは部屋から出た。
「リ――ン?」
 ……名前で、しかも呼び捨てで呼ばれた事に少し、違和感を覚えつつも、リンは、ベッドの上に上がっている服を眺める。……ダークスーツである。この様なモノを自らが着ると云うのか……抵抗もあったが、これ以外着る服も存在していない為に、スーツを着る事にした。
 鏡の目の前で色々とチェックをし、そしてポケットの中身を確認した時、三つ、カードが飛び出した。
 一つはキャッシュカード――伝言の紙が入っており、伝言には欲しいものは全てこれで買う事、そして領収書を貰い、全てギルバート=アバン宛に送る事が書かれていた。
 二つ目は何かの会員カードであろうか……「Break」と書かれた洒落たカードである。光っている事から、特殊加工の施されたカードなのであろう。伝言の紙を見る限り、この庭園の近くに存在しているクラブの会員カードだと云う――何の為に入れたのか、理解出来なかった。
 最後のカードは、庭園のカードであった。このカードが庭園内でのパスポート代わりだと云う事が伝言には書いてあった。
 暫し呆然と、ギルバートの出て行った扉を眺めていたが、慌てた様子で準備をして、リンも部屋の外に出た。――後ろで扉が閉まると、鈍い音が響いて、オートロックが働いた。
 
 

                    </-to be continued-/>

拍手[0回]

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © 絶望への共鳴 // ERROR : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

プロフィール

HN:
殺意の波動に目覚めた結城七夜
HP:
性別:
男性
自己紹介:
小説を執筆、漫画、アニメを見る事を趣味にしている者です。

購入予定宣伝

ひだまりたいま~

カウンター

最新コメント

[05/13 Backlinks]
[01/09 WIND]
[12/20 WIND]
[12/18 WIND]
[12/12 WIND]

最新トラックバック

バーコード

カレンダー

08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

本棚