刻印は刻まれた。
張られた結界、戦う“四人”。
そして、その中に現れるのは一体誰か……
戦いはまだ続く。
そして、行方などは知らない。
ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、基点のACT 18
どぉん、と、大きな音が響いた。
由香さんの放った魔術はそのまま真っ直ぐ、それでも、わたくしに当たる事無く、壁に直撃した。無論、壁には貫通はしなかったけど穴が空いた。
由香さんの魔術は留まる事無く降り注ぐ。だけど、狙いが甘い!
トレース、思考を開始して撮るべき行動を想定して、予測する範囲を限定し……読心。
「――っ」
魔術を避ける。野球のボール大の大きさの攻撃は――読める。
「読心術――!」
気付いた。
由香さんは攻撃を一旦止め、階段から飛び降りた。
階段を上るわたくしの上を飛び越えて、下の段に降りようとするのでしょう。
「――Projection and object: I and strengthening.
Gramary, development, and destruction――!!」
刹那、魔術――!? 早すぎる!
手の平が光った瞬間、わたくしの視界が暗転する。
剛! と音を立てて魔術が直撃して、わたくしは階段から落ちる。
その間に、由香さんはわたくしを飛び越え、降り立つ。
「――っ、てっめ――!」
!? 凛! なんで――!
大太刀を手に、凛が踊る。
別段驚いた様子も無く、由香さんは凛を無視し……
凛の大太刀は金属音を立てて、一つの腕に防がれた。
「――ってめ、雨宮!」
「――業火を司るは天の如し。受け継ぐ血は硝子のように煌く――。
アナタも、星の名の元に消えなさい――リンさんのもう一つの人格――!」
そう言い、カレンさんは構える。
「――っく! こんなことして、エルダーが黙っていないわよ!」
わたくしは精一杯の声で叫ぶ。もう、肺が痛い。
「大丈夫よ、先輩。山上の結界を引き継いだから。別段問題ないし、魔力の消費も抑えられる。大半はカレンが補っているしね。流石リミッター付きのシュバリエ、その魔力量も半端ないわね」
そう言って、由香さんはわたくしに近寄る。
その間に、わたくしは体制を立て直す。ならばやるしかないじゃない。
先の戦闘で、先読みは余り有効じゃないみたいね……完全な読心じゃないわけですし、それに由香さんの戦術は、多すぎる。
力押しは余り得意ではないのですけれども……仕方ありませんね……!
ならば、行動に移すのは容易いでしょう?
「Exercise, repetition, and destruction――!!」
「Verfassung, Magie, Ziehen, physische Stärke, Verstärkung, eine magische Macht, Spur, eine Explosion, Zerstörung――!!」
双方の呪文が飛ぶ。
でも、由香さんは早い――! 天才的に、魔術の構成が早すぎる! まるで、魔術だけに特化している身体のように――!
わたくしの腕を魔力が通って、魔力の砲撃が飛んだのは、由香さんの光球が飛び始めてから五秒後だった。
遅すぎた! 魔術の攻撃が由香さんの攻撃を破壊する前に、由香さんの光球はわたくしに降り注ぐ。
足に魔力をトレースし、跳ぶ。
天上に足をつけて、再び急降下。未使用の魔術を展開、打ち込む――!
「五大元素、司り――結界効力!」
――虚しい、わ、ね。
油断していたわ……まさか由香さんの魔術が此処まで何て……いえ、由香さんの魔術はもう――最早……
それはもう、全ての根源の呪文を司る……魔術師。
跳ばされた体……由香さんの放った魔術は、結界全体に効力を及ぼすオールレンジ攻撃。破壊に関する魔術は一級品ね、『使い』のレベルだわ。わたくしのように『仕い』のレベルじゃ、敵わない。
それでも――
◇
ぶぅ! と風が私の頬をかける。
「――ち」
舌打ちをしたくもなる。ヤロウ、本当に人間か!?
一撃、二撃――跳んでくる拳のスピードが馬鹿にならねぇ!
「はぁ――!」
三撃目。
私はそれを大太刀で斬りつける。
縦に構えていた大太刀で上から真っ二つにするはずだった――が、
ご、と音をたてて、雨宮のヤツ、指と指の間で刃を抑えやがった!
なんつう筋力してやがる。
一旦距離を置く。下手に近付いたらあの拳の餌食だぜ。
「――な、に!」
あろう事か、雨宮は、私が下がった場所の目の前にもういやがった! その速さは高速なんてもんじゃねぇ、既に神速のスピードだ。魔術師が並みの鍛錬で手に入れられるような技術じゃあない。
対応に追われた私は、大太刀を水平に斬りつける――!
「はぁ!」
無駄。がぎん、と鈍い音を立てて、今度は雨宮の蹴りが一撃――大太刀は反動で私の後ろに……下がる。と、云う事は、今私は魔防備――!
咄嗟に足を上げる。
その足に、雨宮の拳が直撃する。
私の体重は比較的に軽い。藤咲曰く、一体毎日何を食べていればこんなに軽くなるのかが解らないらしい。だとしても、鉛筆一本程度では倒れないわけであり、女の筋力なんてたかがしれている、全体重をかけた体が吹っ飛ばされるワケがない。
だと云うのに、雨宮の拳は私の足に当り、そのまま私の体を持ち上げた。
「――なろ!」
吹っ飛ばされた私は、空中で一回転し、地面に降り立つ。
二度目は無い、目の前に何時の間にか現れた雨宮は、私の体に、その足を……ぐるりと、
「回し蹴り――!」
咄嗟に屈む、が、それが悪かったか、顔面にその蹴りを受けた。
「――ごっ!」
……ありえねぇ……
つか……死極が、コイツにはみえねぇ……
つまりは――コイツ、隙が全く無い――
大太刀で体を支える。
へ、やべーな。余裕飛ばしてる場合じゃ、無いな……
「降参してください。そして、もうリンさんから出て行ってください。そうすれば、貴女を殺さなくて済みます」
雨宮はそう言う。
確かにな、死ぬよかそっちの方が楽だ。
「いやだね。確かにそっちの方がいいかもしれねぇけどよ……私はもっと殺してぇんだよ――!」
大太刀を構え、突撃――。
死ぬ? 知るか。
◇
わたくしはその布を取った――!
「――!」
由香さんの魔術が止まった。
無理も無いわね……わたくしが手に取ったのは、わたくしの礼装――!
じゃきり、と音をたてて、わたくしの礼装がその姿を現した。
「起きなさい――! “ブリューナク”――!」
その一本の巨大な槍……それこそがわたくしの礼装――ブリューナク!
余り使いたくないし、無駄に魔力つかうから、もう使いたくなかったけど――! リンを助けられるのなら、惜しまない――!!
「離れなさい――凛――!!!!!!」
「――!?」
藤咲の叫び。それは鼓膜を破ろうかと思うほどの叫びだった。
雨宮もその叫びに一瞬隙を見せた、死極が視えた。心臓の下――!
「視えやがったぜ――!」
足に魔力をトレース、刹那に跳び、瞬時に、その死極目掛けて刃を振るう!
「しま――!」
雨宮は対応が遅れた。
が、やろ、あろう事か腕で刃を受け止めた。――腕に突き刺さる大太刀。鮮血が跳び、私の体を塗らして行く。――ち、まぁいい、逃げるにはこれで――!
後ろに下がり、階段を駆け下りた。
最後に見た光景は……
「なんだ、ありゃ――」
槍が――吹っ飛んだ。
槍は先ず、直線運動をした。
遠野に目掛けて直線運動をしたかに視えた……が、あろうことか、ブリューナクは五つに分裂し――。
「Ich störe den Innere――!!」
その藤咲の呪文の下――爆発した。
だれが知ろうか、それこそが、幾つもの戦線を駆け抜け、そして魔の目を抉り取り、意思を持ったといわれる槍――
ブリューナク
『魔真七槍』だと云う事が……
■■■
――――――――――思考、回路、開始、接続。
目を覚ましたら、もう、瓦礫の山だった。
結界でなんとか外への被害は無かったものの、ブリューナクの威力はわたくしの魔力の大半を持っていった。
早く……リンを……
じゃり。
目を開けると、由香さんが目を覚ました直後だった。
立ち上がる。
じゃり、じゃり、じゃり。
まだやる気かしら……でも、わたくしにはもう魔力は――
礼装も現在は待機モードで使用不可……それに、リンも……
じゃり、じゃり、じゃり、じゃり、じゃり、じゃり。
凛は……いた。階段の手すりを持ってる。……そう、あそこまで効力は行ったのね。初めて使ったから威力の程度は情報でしか知らなかったけど……途轍もないわね。
カレンさん健在……でもあれじゃあ動けないわね。凛の大太刀が腕に刺さったまま。
じゃり、じゃり、じャリ、じゃリ、ジゃり、ジャり、じャり、ジャリ、砂利。
――茶番は終わりですわよ……『永遠の論舞曲』の参加者よ――
ふと、そんな声が、瓦礫の山の、一番高いところから響いた。
刹那に、覚醒した。
皆、上を向いた。
「――なに?」
由香さんが呟いた。
上に居るヒトは……途轍もない魔力と、美しさを持っていた。その美しさは……アリスと見間違うほど……
その目は真っ直ぐにわたくしたちを見ていて、カラーコンタクトでも入っているのか、赤かった。
「何者ですか? 『永遠の論舞曲』の参加者はもう、わたしたちしかいないはずですが……」
カレンさんが言う。尤もなことだ。あと、望さんね。
その言葉に、その人は、ええ、と答える。
そして、徐に、服のボタンを取り始めた。
「――!」
行き成り取り始めたのと、その豊富な胸が露になったことに驚いたのではなくて……その胸に、聖痕があった。
「――そんな……莫迦な」
由香さんが驚愕する。無論、わたくしだって驚いている。
だがそれ以上に……胸に、聖痕。
「まさか――貴女――!」
胸に聖痕……元来、この『永遠の論舞曲』に参加する人間の聖痕は、象徴神の死期に刻まれたと云われる両手の平、足に近い場所に刻まれる。その実際の位置に近ければ、近いほど、その力は増す。
だが一つ、例外が存在する。聖痕は死期に、只の杭によって付けられたものである。だが、一箇所……その象徴神が命を落としたといわれる原因の傷が存在する。
礼装中の礼装……絶対礼装と呼ばれる此の世の象徴の証――聖槍『ロンギヌスの槍』。
そして、そのロンギヌスの槍で、付けられた聖痕の場所は……胸。
そして、目の前の人物の聖痕の箇所は、胸……
「絶対神――!」
刹那、女性の足元には、無数の剣が突き刺さっている。
その中には、ランスロットの武器だった筈の……アロンダイト。そして、ガヴェインがしようしていたはずの武器、そして絵でしか見たことの無い武器、ゲイボルグ――そのほかは解らないわ……
「あれは、フルンディングにカリバーン――コールブランド、ミョルニルに、ティルヴィング……全部、此の世から失われた筈のオーヴァーファントムです……」
カレンさんの言葉……そんな遺物を、あのヒトは持っているのか……しかもあんなに……
その内の一本を、女性が取り、
「……カラドボルグ」
そう呟く、と。
その剣は光を放ち……わたくしたちに一直線に……一直線に……っ!
「皆さん! 伏せなさい!!」
―――――――――――――!!!!!!!!
なんて……
「出鱈目……」
瓦礫が跡形も無かった。コンクリートの地面を抉り、一面を黄金の光で照らした。
それだけでは終らなかった。
「ごめんなさいね……グレイプニル――!」
女性の腕から現れた紐は、わたくしたちを縛り上げる。
「なにこれ! 外れない――!」
「無駄です。グレイプニルは神格礼装で無いと破壊できません」
女性の言葉。
ゆっくりと、わたくしたちに近寄る。
「ごめんなさい。それでも……私は、この戦いに勝たなくてはいけないの――」
それが誓いだから、と、言った。
どうやら女性は無数の兵装を一気に使用することは出来ないみたいだった。
それでも、持っている礼装は限りない。
その中で、一つ、全く見たことも無い兵装が現れた。
どんな礼装でも、美と云う装飾が存在する。勿論、わたくしのブリューナクにもそれはある。だと云うのに、その礼装には……それが無い。只無垢。底なしの何かが渦巻いている。
空虚な……何か……
「終らせます。
目覚めよ、ギンヌンガププ――」
それは剣でもあれば、槍でもあり、弓矢でもあれば、鎚でもある……そんな物……
「その命……私が貰います」
刹那の内に、何も考える、感じることもなく、
クリアな光景を、眺めて……
生涯に幕を閉じた。
* A L I C E *
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