くずれいく魔女。
そして、始まりと終わりは唐突に……
複重された結界の中で始まる戦い……
そこに、友情と信頼などは……無い。
ついに交錯。護るべきものは同一だと云うのに、何故争うのか? ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、本気のACT 17
夕食は全てリンがしてくれた。
リンが風邪をひいたときと同じ様に、夕食を食べ後に、テレビを視ながら片付けをするリンとわたくし。
別段変わったことは無い。凛も話を終えた後、直ぐにリンに戻ってくれた。……最近、凛が直ぐにでてくる様になったわね。
さてと、問題の夜になったわね。……案の定、いえ、当り前の様にリンの部屋には布団は一式しか無いわけであって……
「と、云う訳でして、床で寝るわけにも行かないので……また一緒に寝ることになります」
――はぁ、やっぱりこの様な展開になるのね。
わたくしはもう諦めていた。故にスムーズにリンの布団の中に入ることが出来た。
リモコンを使って電灯を消す。時刻は既に一〇時を回っている。
「おやすみなさい……ヒナさ、ん―――――すぅ」
疲れていたのか、リンは直ぐに眠ってくれた。
寝顔を眺めること数分。完全にリンが眠ったことを確認して、わたくしは布団から立ち上がり、服を着替えて、礼装を手に取った。『永遠の論舞曲』脱落者であるわたくしにはゴルディアン・コフィンの恩恵が無い。なら、その恩恵を超えるほどの力を必要とする。だから態々林檎に礼装を持ってきてもらったのよ。
礼装を持ち、わたくしは部屋の扉を開けようとする。
「待てよ。護るとかいっときながら置いていくのかよ」
後ろ。直ぐ直後に、凛が立っていた。
「凛」
「全くよ。見回りに行くんだったら私も連れて行けよな。……えーと、あったあった! 私の剣!」
わたくしの礼装があった箪笥の裏から、一振りの大太刀を取り出す凛。元々はアナタのじゃ無い筈よ。
「んなもん知るか。あいつが落として、私が拾っただけだ」
紐をくくりつけて、腰に大太刀を下げる凛。危ないから林檎に頼んで鞘も一緒に発注してもらって正解だったわ。満足そうな笑みを凛は浮かべている。
わたくしは溜息を吐いた。どうやって凛を説得しようかと思ったけど、考えてみれば確かに凛の言い分の方が正解なのである。……連れて行くしか無いじゃないの……
わたくしと凛は、玄関の扉を開け、エルダー達に気付かれぬように寮を抜け出した。
正門は開いていた。恐らく誰かが見回りに出たのでしょうね……それが由香さんかカレンさんか、望さんかは解らないけれども、少なくとも、今の現状で戦うとしたら、この三人。もう、この三人と、凛しか『永遠の論舞曲』の参加者は居ないのだから……
戦えるのでしょうか……この三人と……
無論、そんな生半可な気持ちで、勝てる相手じゃない。特にわたくしが危険視しているのは、カレンさん。それはあの聖凪との戦いの時に良く解っている。
肉弾戦を中心にした戦闘展開。そして魔術を織り交ぜた攻撃……。わたくしにとっては天敵ともいえる。
街は比較的に静かだった。
無理も無いでしょうね。辻斬り事件は終った。あれから辻斬り事件は起こっていない。それでも、また何時起こるか解らない。皆死にたくは無いでしょうからね、家に引っ込んでいるのでしょう。結局、辻斬り事件は現在のところで、一〇人が犠牲者となった。
そして、その内の三人が……『永遠の論舞曲』の参加者。
――矢張り辻斬り事件も『永遠の論舞曲』に絡んでいたとしか言いようが無い。
「そういえばよ」
暗黙の中、凛が口を開いた。
「何?」
「お前の部屋を片付けていたときにな、妙な写真を見つけたんだが……」
「妙な写真?」
全く心当たりが無い。と、云うより写真なんてわたくし、聖マリア学院に入学してからは撮っていないし、持ってきてもいない。今頃、本家のわたくしの部屋にあるはずよ。
「どんな写真?」
わたくしが聞くと、凛は、あぁ、と思い出すような仕草をしたあと、
「お前が二人写っていた」
そうとだけ答えた。
わたくしが……二人?
ありえない。だってわたくしには林檎以外に妹はいないもの。
「それは何時ごろの写真だった?」
わたくしが聞くと、
「そうだな、お前がかなりちっこかったころとしか思い出しようがねぇ」
頭を掻きながら、凛はそう答えた。
……何時だろう? そんな記憶は無いし、第一、林檎とは小学五年生の時に初めて合ったのよ。
藤咲家は、生まれてきた赤ちゃんが複数居た場合、本家で育てる側と、そうでない側に分かれる。わたくしは人の心を読む『読心』に長けていて、魔術の素質もあったと父様に聞いたわ。だからわたくしは本家で育てられて、林檎は他の場所で魔術師としての教育を受けていた。わたくしが小学五年生の頃に、一時的に父様の教育を終えて、本家に林檎が戻って来たとき、初めて顔を合わせた。
それだけの話。故に、わたくしには幼少時に、自分と瓜二つの人間なんて、出会える筈も無かった。
「その写真はどうしたの?」
「部屋においてきたよ。ええとな、クローゼットの横においておいた筈だけどな」
「そう。じゃあ、この見回りが終ったら見るわ」
そう答えて、わたくし達は再び言葉をなくした。
誰かが、見つめているような感覚を、かすかに感じた。
◇
-6 days
結果から云うと、町では別段、変わったことなどなかった。
寧ろ誰もいない。二四時間体制で自動販売機とコンビニが点灯しているだけで、他は何処も真っ暗だった。……今のご時勢では、余り見られない光景ね。
寮に戻るために、再び門を抜けた。
「……?」
「凛?」
門に入るなり辺りを見渡す凛。
「……結界か?」
そんな事を呟く。わたくしには感知出来ない……
「一応校内も見回っておいてもいいんじゃねぇの?」
凛はそう言う。
驚いた。凛は面倒臭いことがキライな体質だったと思ったのだけれども……
「私だって、身の危険があるのなら、それくらいはするわよ」
成る程。わたくしは納得をする。
問題は幾つかある。校舎に侵入する場合、先ず、エルダーたちの目を誤魔化す必要がある。今現在の時刻が丁度一時を回った辺りだから、皆さん寝ていると思うけど……わたくしは『永遠の論舞曲』から脱落していることになっている。それなのに夜の巡回や、戦いの舞台になったような場所でうろうろしていては『ジャッジメント』であるエルダー・サキに見つかってしまう可能性もある訳ですし……
「面倒なら私だけでも行く。お前は部屋にでも戻っているんだな」
そう言って、凛はじゃあな、と付け足して歩き出した。
少し躊躇ったものの、わたくしも付いて行くことにした。問題は、直面したときに対処すればいいわ。
学校の中は、修理の最中と云う様な状態で、所々にブルーシートに覆われている箇所があったけど、歩けないほどではなかった。
「……魔力が停滞しているな」
凛が上を見上げて呟く。
「アナタ、気を失っていたから表に出てこれなかったものね。此処で起きた戦いなんて知らないわよね」
「そうだな」
凛にしては素直な一言。
別段、街と同じ様に変わったところは無い。耀子が入れた魔術円も消滅しているし、少なくともわたくしは結界の発動を感知はしていない。
かつかつ、とわたくし達のローファーが床で音を立てる。
かつかつかつかつかつかつかつかつかつかつかつ……
かつり。
上を向く。
階段の踊り場に……
「……」
汚らわしいものでも見る目をした、遠野由香さんが、立っていた。
「……由香さん?」
「そう……それが答えね。解ったわ」
そう呟くと、由香さんの二の腕が……光った。
「っ! 遠野!」
凛が叫ぶ。
一瞬由香さんは動揺したけど、直ぐに顔つきを戻して、
「凛――、いい加減に、その女から離れなさい! 目を覚ましなさい!」
魔術を行使した。
* A L I C E *
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