オカリンマジイケメン。
オカリンスリーブが到着しましたとさ。いやぁ、本当は届かないと思っていたんですけど、クロネコさんが時間外に来て届けてくれたのでありがたい……本当にありがたい。
まぁ先日のレーシングミク同様、これは使えないんですけどね。使うデッキも無いんで、まぁ、今度新しいデッキのアイディアが出来たら使って見たいなぁ、とは思っているんですけど……スリーブだけずるずると増えて行って、溜めスリーブが増えて行く……その間にも新しいめぼしいスリーブは増えて行く……無限連鎖。
だけど欲しい物は欲しい←
イラストは昨日のテレシアさまの完全版(?)。
いやだって明らかに昨日のは手抜き過ぎたのでちょっと変更を加えてこんな感じに。
ズボンかスカートか悩んだ挙句、お母様は多分娘であるエニシダさま以上に自由だったから動きやすさ重点だろうなぁ、と思ってズボンに変更。寧ろ穿かないと云うラインも考えたんですけどそれはさすがに拙いと判断してズボンに落ち着きました(笑
服から飛び出ているのは、破れた服を針金で止めているからだと妄想。その針金は錬金術にも役に立つと云うスグレモノに違いない…………!!
そんなワケで、以下はハスミさんの作品外伝を更新。
戦いの一番槍を切ったのは、シュタインでもエリセでも無く、魔族の一歩前に出る仕草と、後ろに待機していた益荒男たちであった。一斉に、足並みを揃えて、立ち向かう。
この数瞬の間に、その益荒男たちの中に存在している魔術師は魔術を組み立てる詠唱も、そして式も展開し終わっており、いつでも魔術が放てる状態になっていた。故に、戦いが始まればすぐにでも攻撃に転じられたのだ。
最初に攻撃に転じたのは、そんな詠唱を終えている魔術師たちであった。その手に展開された魔方陣が姿、カタチを変えて、その中央に魔力を集中、縮小―――刹那の内に拡散、掃射する事で凄まじい濃度の魔力が実体を持って宙を走る。
様々な魔術が魔族に向かって飛ぶ中、先頭に居た益荒男たち、二番槍―――剣などで武装した兵士たちが、一気に掛け声よろしく前に向かって行くのだ。まるで地震かと思えるほどの振動に、シュタインは出遅れてはならないと、意識を集中させる。
次の時には、もう兵士たちは魔族の元にたどり着いている。当然、魔術も何発も魔族に直撃していると思われる。そんな中さらに追撃とばかりに兵士たちが押し寄せているのである。
乗り遅れたシュタインは、真中辺りの集団に混じっていた。周りは巨漢ばかりであるが、そこに埋もれぬよう、剣を掲げて、そして魔力で身体を強化する。……それでも、立派な兵士だ。戦いにおいて体格が必要だと言うのは、一昔前の常識なのだから。今は、純粋に強い方が勝つ……
先ほどまで隣に居たエリセはいつの間にか姿を消していたが、元々彼は後方支援に特化している魔術師だ。ここに居なくても然程問題は無い。寧ろ、何か作戦でも練っているのだろうと、シュタインは自らの教師に対してそう思いを巡らせる。
そうして一人の魔族に対して益荒男たちが突撃をしようと試みた刹那―――そこに、一瞬だけ黒い影が横切ったと思ったら、次の瞬間には無数のグールたちがそこで待っていた。
一体今何が起こった……? まるで、何も無かった空間から突然グールが湧いて来たような印象を受けたが……。一同はその突然の出現に困惑する。
「怯むなッ!」
だが覇気一閃。戦闘に立つ小隊長の言葉に、益荒男たちの士気は再び上がり、大きな掛け声と共に、グールとの戦闘になる。
突然現れたグールたち。恐らく、何らかの魔術によってカモフラージュされていたのか……それとも、本当に彼によって召喚され、一瞬にしてこの数が現れたのか……謎は深まるばかりだ。
だが考えてばかりも居られない。現状はグールの登場によって解らなくなってしまったのだ。実は、とても深刻な事態だ。―――が、本来現れるべき数はもっと多かった筈だ。やはり、その辺りは後方でグールを狩っているテレシアたちの働きが大きいだろう。
どの辺りが深刻な事態と言うと、元々は複数対個人の戦いを想定した一同だ。何せ魔族の実力は未知数であり、通常の人間を遥かに凌駕する力―――としか現状解っているところが無い。故に、こちらは数で押さなければ彼らに勝つ可能性は低い。数でようやく、五分に持ち込めるかどうか……と言う考えを持っていた。―――が、このグールたちの登場により、戦いは複数対個人では無く、複数対複数……もっと言えば、一体のグールに対して一人の人間で対処する、一対一の状態に持って行かれたのである。
相手は見越していたのだろう。人間は魔族の魔術や魔力にはどう足掻いても―――それこそ、両眼異色でない限りは―――勝てない、と。そうなれば一体どのような手段で勝ちに来るのか、考えて見れば簡単な事だ。数で押し切れば良いのだ。
様々な知略や戦略を重ねて、個人では成し得ない事を、多人数で成し得る。そう考えるのが妥当である。
故にそれを読んで、グールを配置した。複数対個人の状況では無く、複数対複数の構図を作り出す為の一手を出したと言えよう。恐らく忽然と姿を消したグールたちの正体がこちらのグールなのであろう。温存していた。
お陰でこちらは戦力が分断され、一対一の状況をやむを得なくされている。当然、魔族との戦闘も、殆どの場合は一対一か、一対二、三のような状況に持ち込まれるであろう。圧倒的に不利な状況だ。単体で魔族に勝つ可能性は限りなく低い。
……こちらの戦力を分断させるのに成功した当の本人、魔族は、苦笑するとこちらの方に手のひらを向けて待機している。相手は魔術を使うつもりだ。
シュタインはその様子を注意深く観察する為に、目の前のグールを切り捨てて、追撃のグールの肩に足を掛けて、そこから跳躍して、魔族の様子が良く見える広い場所に出た。勿論、そこにもグールは来るのだが、先ほど居た場所よりは多少ましだ。
刹那、魔族の目が赤く変化したのを、シュタインは視認した。両眼異色である魔族の瞳が、突然赤に統一されたのだ。
何が始まる……? そう思った時にはそれは始まっていた。
彼の足元に突然、巨大な魔方陣が姿を現す。
〝あれだけの大規模な魔方陣を一瞬で……!〟
驚きに値する行為だが、相手が魔族だと考えれば、常人離れした魔術を使えても、おかしくない。展開された魔方陣から、魔力が漏れて赤く輝くのを見た。それは魔術発動の瞬間だ。
腕を振るった時に現れた炎は、辺り一帯を焼き尽くす訳では無く、そのまま水のように地面に落ちて、まるで生き物のようにうねり出すと、地面を走って炎を広げて行く。その勢いは凄まじく、地面にて戦闘を行っていた益荒男たちだけではなく、グールたちもまたその炎に焼き尽くされて灰となってしまった。
兵士たちは辛うじて、その場から離脱して、後ろの方で待機している魔術師たちに身体強化を受けて跳躍して難を逃れたが、何人か動けない状況になってしまった。どうやら脚を火傷して、痛みがあるようだ。
今の魔術一つだけで、多くの兵士の脚を奪い去った。やはり、凄まじい魔力の持ち主だ。シュタインもまた、多少は火傷をしたが、許容範囲内だ。簡単な治癒で事足りる。
一方、引火した炎は納まる事を知らない。勢いはそのままに、辺りの木々に引火し、このままでは大火事になってしまう。そうなれば、刺激された魔物や、他のグールが、この森から出て別の場所に向かう事もあるのだ。
……例えば、それは人間の住んでいる町……など。
そうなればこれ以上の騒動になってしまう。それは避けなければならない。
待機組の魔術師が、水の魔術を使って何とか鎮火しようとしているのだが、火力が強過ぎる。鎮火させるには相当の時間を必要とするだろう。一度完成した魔術は、喩え術者である彼を止めたとしても、もう止まらない。
とにかく、今の炎で負傷を追った兵士を優先に水魔術を施し、撤退を進言する。……このまま留まっていたとしても、同じ炎で焼かれて、今度こそ命を奪われかねない。寧ろ、今の炎の魔術で怪我人だけで、死人が出なかったのは奇跡に近い。
残った方の兵士たちもまた安心は出来ない。追撃が来る可能性がある。逃げた方の兵士もまたその脅威にさらされる可能性もあるのだ。
相手はやはり常人離れした魔族。魔力も、魔術も、そして戦闘技術もまた人間よりも一枚も二枚も上手だ。これをかいくぐって、何としてもこの手に勝利を勝ち取らなければならない。
再び魔族が動く―――シュタインは再び見た……魔族の瞳が今度は赤だけでは無く、琥珀も混じった色になった事を……
次の瞬間には、先と同じ炎と共に、土の属性の魔術が顕現した。炎は先ほどのとは違い、宙を飛び、辺りの兵士たちを灼熱地獄へと誘い、土の魔術は地面よりまるで巨大な槍のように先端の尖った岩石が突き上げて来る。
大地に足を着いていればその岩石に貫かれ、跳躍すればそこに待っているのは灼熱の炎。二段構えの戦略だ。
シュタインや一部の兵士は、その岩石の隙をかいくぐって避けて行くのであるが……シュタインはその中で、彼の観察を辞めなかった。
―――結果。解った事があった。
それは、相手の魔族が魔術を使う時、目の色が変色する。そして次の瞬間には魔術が発動する。つまり目の色が変化した時は、魔術が飛んで来ると思った方が良い。
まだある。魔術を扱う際に変化する瞳の色は、扱う魔術の属性に関係しているように思えるのだ。火の場合は赤、土の場合は琥珀……どれも、それらの属性を象った色に思える。
「なるほど……」
その旨を密かに兵士たちに伝えると、納得の頷きを返して来る。
「確かに、シュタインくんの言う通りかも知れないな」
「……少しでもお役に立てれば良いんですけど……」
「充分だ。相手の魔術の発動タイミングと、その属性―――これだけ解ればたいしたもんだ」
飛んで来る炎を視認して、岩石の上に足を掛けて、跳躍すると、木の上に立つ。ようやく攻撃の範囲外に出る事が出来て一安心―――
「ぐあっ!」
……出来る訳は無かった。突然響いた悲鳴は、木の上に現れた魔族の出現が、何があったかを物語っていた。
その長く伸びた爪、そして今木から落ちて行った兵士を見るに、どうやら瞬時に現れた魔族の攻撃に対処し切れず、落ちてしまったのだろう。
慌てて体勢を立て直す。下を見ると、落ちた兵士はうめき声を上げているが、軽傷のようだ。
すると再び魔族の姿がぶれる。そして安全地帯に退避している兵士たちに向かって、その爪が襲い掛かる。……一人、また一人と確実に仕留められていく……まるで狩りだ。
シュタインはその爪を見て、あの時の、剣と同等の強度のあった爪だと、思い出す。
彼の標的が別の方に向かう前に、こちらから仕掛ける。何にせよ、後方支援に回っている魔術師の元に彼を向かわせる訳には行かない。インファイトは、こちらの役割だ。
木の上から跳躍して、同じく木の上に立って爪を向けている魔族に向かって、一斉に攻撃が集中する。四方八方から襲い来る兵士たちの一閃を、一つの動作だけで全て躱し切ると―――跳躍、瞳を青に変化させる。
来る。水の魔術だろう。一同は身構える。
思惑通り、水の魔術であった。魔族の青年の手前に展開された水の壁は、魔術師からの魔術攻撃から身を守りながら、その魔術のレンジから離脱。次の時には再び地面に降り立っていた。
くそ―――と、一部の益荒男たちが舌打ちする。今度は地上戦をするつもりなのか……そう考えつつも、地面に降り立つ。
が、次の瞬間に、先ほど魔族の炎によって灰になったグールたちが再び目の前に現れるのであった。
「……ッ」
シュタインは右手に握った剣を振るって一体、また一体と斬って行く。……その感覚は手に残る……まるでバターを切っているかのような感覚。腐ったチーズのような臭い……生臭い……嫌な、鉄の混じった臭い。
これが殺人だと解っている。が、敵は無限に湧き出るゾンビのような代物だ。グールは正確には生きてはいないのだから、殺人とは言えないのだが、良い気分はしない。
しかし突如として現れたグールの大群によって、一同の脚は鈍りつつある。魔術の詠唱をしている魔族の元に行って、妨害したいところだが、グールが邪魔で、先に進めないのだ。その間に、魔族は着実にプロセスを踏んで、魔術を完成させて行くのだ。
―――埒が明かない。このまましていても、ジリ貧になるだけ。地面に足を着いていたとしても、グールによって脚を止められ、魔術によって攻撃を受ける。
と言って、上空に逃げる、や、木の上に逃げるなどを行えば、瞬時に追って来て、足場の悪い場所でのインファイトを迫られる―――
そうして考えている間にも、完成した魔術の魔方陣が展開され、炎柱が登る。辺り一帯に灼熱の波動を撒き散らしながら、うねり、そして龍のように襲い来る炎に対処する。
巧妙なのは、何度も同じ手段には掛からないだろうと思い、全ての魔術にはそれぞれに別のアレンジがされている事だ。少しずつ、何らかの付加能力を付け、攻撃して来る。何一つとして、同じ魔術が存在していないのだ。
……実力が違い過ぎる……。明らかにこちら側は消耗戦だ。たった一人の魔族に対して、こちらは苦戦を強いられているのだ。
そしてそんな中で、シュタインは一度も魔族と交戦していない。自らの無力さに……一体何の為に志願してここに来たのか解らないもどかしさに、歯軋りする。
ここは一つ、相手に接触する一つの手段に賭けて見る……失敗すれば初めて命を落とした存在になる可能性もある。……恐怖で押し潰されそうになる。目の前に死が迫っている……暗闇で何も考えられない世界が待っていると思うと、シュタインは脚が、肩が、震えるような感覚を覚える。これが戦い、これこそが戦場。解っている、だとしても……これ以上目の前で益荒男たちが倒れて行く姿を、傷付いて行く姿を黙って見ているのは苦痛以外の何物でもない。
作戦は至って単純明快だ。全く解り易い戦法だと、作戦を立てた自分自身に皮肉を込めて苦笑する。
剣を握り直す。ずれ始めた眼鏡を直して、いざ、次の行動に……
刹那、脚を強化してしゃがむと、まるでバネのように脚を使って一直線、魔族に向かって跳躍した。当然、それを見ていた魔族の取る行動は一つだ。
目の色が琥珀に変わった。大体予想通り……もし琥珀にならなかった場合は、早くも第一段階失敗であった。
その様子を後ろで眺めていた兵士の一部が、その様子を見て少年を一人で行かせる訳には行かないと、同じ要領でシュタインに向かって跳躍する。多くの兵士がそうしたせいか、魔族の目の色が琥珀だけかから、琥珀と赤に変わった。
来る。火と土の一撃が……先とは違う何かが違う能力を付加されて、襲い来るだろう。
渦巻く炎が展開されて、次に、岩石が下から突き上げられる。突き上げられる岩石の大きさは先ほどよりも大きく、そしてより鋭利さを増していた。スピードも上がり、一歩間違えれば体を貫通しかねない。
跳躍の力を抑えて、減速―――一旦地面に着く。次の岩石がどこから来るか……考えている間に答えは現れる。
それは、直下、だ。
突然現れたそれに呆気に取られそうになったものの、そうしている時間は無い。すぐに切り替えてその直下より現れた岩石の側面に咄嗟に足を着け跳躍すると、後方からの魔術支援を受けて、難なく躱す。
横目で後ろを見ると、先ほどまで姿が見えなかったエリセの姿もあった。どうやら、こちらに援護を与えてくれたようだ。ありがたい。
そういえば、彼は他人を強化、ブーストする術に長けていたな、とシュタインは思い出す。
守りはバックの魔術師たちに任せるしかない。今は目の前に向かって跳躍―――早いところ、あの魔族を抑えなければならない。その気持ちは後ろから同じく跳躍して来た益荒男たちも同じだ。
いつ、後方支援をしている魔術師たちに、魔族の矛先が向かうか解らない。それまでに、戦いの流れをこちら側に引き寄せておきたいのだ。
戦いの中に存在している流れとは重要なものであり、一度でも流れが傾けば、そのまま行ってしまうと言う恐ろしいモノだ。それをこちらに手繰り寄せるのが可能なら、まだ勝機はある。
襲い来る岩石、突き上げられる岩石―――それらの動きは既にシュタインは見抜いていた。今まで実践レベルの修行を重ねて来ていた彼には、同じ手段は二度も通用しない。……相手は解っている筈だが、それでも岩石の不規則な動きには対処出来ないだろうと、一番若く経験も無いシュタインを侮っていたと言えよう。
シュタインは突き上げられる岩石に足を乗せて、そのまま跳躍。さらに速度を上げた。それを繰り返して、何度も、何度も倍増された速度は、いつしか、直下の岩石など避けずとも追い付けないほどになっていたのだ。
シュタインと同じように、岩石を蹴って追って来ていた兵士たちは、途中でタイミングを間違えて負傷、脱落した人間が一人居たものの、大半がこちら側に向かって来る事に成功していた。……やはり、彼らもシュタイン以上に一流の兵士なのだ。彼に遅れなど取らない。―――まだ、魔族一人に対して、多人数で戦えるチャンスは存在している。このまま、無事に魔族の手前にたどり着ければ、の話であるが……
……ようやくこの戦いの中で、彼らの役に立てると言う安堵にも似た何かを抱えたまま、シュタインは無事に、魔族の前に立つ事となる。
「―――っ」
「…………」
刹那、交錯した。今初めて、魔族との直接対決が成立したのであった。
グレイスより受け取っていた剣を両手で握って、大きく勢いを着けて―――ここに来るまでの加速も加えて―――振るう。それを魔族は伸ばした爪によって迎撃する。
鈍い音……乾いた音……それぞれが響いて、まずは一回。
すると追い付いた後ろの益荒男たちが、魔族にそれぞれ攻撃を仕掛けるに至る。それを後ろに下がって、爪を構えたまま避けに徹する。
そう、何度も言っているように、こちらは数で勝っているのだ。数だけなら、負ける要素は何一つ存在していない。ここまでたった一人の魔族に苦戦しているのは、やはり彼の異常なまでの戦闘能力と、強大な保有魔力による魔術が理由としては大きい。
五、六合―――打ち合う一同の勢いはさすがと言えよう。益荒男たちの攻撃は留まる事を知らず、そのまま魔族を圧倒しているように見える。
だがシュタインはそれに対して違和感を覚えていた。……そう、彼は……目の前の魔族は顔色一つ変えずに、その攻撃を受けているのだ。明らかに防戦一方だと言うのに、平然としている彼に感じる違和感……それは、すぐにその益荒男たちも察した。
それを払拭するべく、強い一閃が魔族を襲う。一人の兵士が一歩後ろに下がって、周りの人間が足止めしている間に魔力で自身を強化、そして大きく振りかぶって、上から一直線に叩き付けるように強い一撃を放ったのだ。
その一撃によって大きくふっ飛ばされた魔族。しかしあくまでその表情は平然としている。何食わぬ顔で、逆らわずそのまま吹っ飛ぶと、空中で体勢を立て直す。
あり得ない……空中と言う、重力と力の中で、瞬時に自らの体勢を立て直すなど……
だが驚いてばかりはいられない。吹っ飛んで距離が出来た。つまり、次に来るのは魔術だ。
目を凝らして、彼の眼の色を確認する。属性と関わっているのは解っている。そして今までの状況を見て、どの色で、どのような代物が具現化されるのも解っている。
次の瞬間色が変わった。蒼だ……綺麗な蒼の瞳に変わったのだ。察するに、つまり属性は水―――治癒系統の魔術と思われる。
治癒魔術などさせる訳には行かないと思った周りの兵士が、一気に追撃する。距離を縮めて、攻撃範囲まで踏み込もうと言うのだ。一歩遅れる形で、シュタインはその中に飛び込んだのだが……何か、嫌な予感を感じていたのだ。
―――そしてそれは現実となる。一歩遅れたシュタインだからこそ、それを回避する術を瞬時に見出して、行動に移そうと出来たのだろう。
そこに現れたのは、巨大な氷で出来た槍だったのだから。
「……ッ!」
息を飲む。それは魔力によって生み出された巨大な氷を、風の魔術を使って極限まで研磨された、巨大な槍。おおよそ、現実の氷が持ちうる質量を遥かに超えたそれは、直撃すればどのような事になるのかを理解するのには充分過ぎる質量を持っていたのだ。しかも猛スピードで。
その巨大さに戦慄しつつも、まずはそれを避けなければならない。何としても……直撃すれば命は無い。極限まで零に体温を近付けられた挙句、その一撃によって体を貫かれれば、ひとたまりも無い。
しかし、前の方に出過ぎた兵士たちがそれを避けられるかどうかと言えば―――五分だろう。後ろの方で待機していた魔術師たちが、何とかしようと炎の魔術を飛ばしているが、焼け石に水―――変化などある訳がない。それほど相手の質量は高く、そして巨大な代物なのだ。
一歩後ろに構えていた為に、何とか避ける範囲内に居たシュタインは遮二無二、横に逃げる。最初は先の魔術のように、脚を掛けて跳び越えて、また距離を縮めようと思ったのだが踏み止まった。恐らくあれは触れただけでも拙いだろうと、直感的に思ったのだ。
遮二無二避けて、辺りを確認してさらに戦慄する。
そう、相手はあの氷の槍だけでは無く、先ほどから展開している岩石の槍、そして炎―――それらも全て展開したままだったのだ。明らかにこちらの逃げ場を限定させる作戦だ。
―――どうにも相手の動きは、戦略は、軍対戦慣れしている。数で勝るこちら側を圧倒し、様々な戦略でこちらの数を確実に減らして来る。個人対多人数の戦いに慣れている。
魔力の保有量や、魔術の凄まじさで何とでもカバー出来る場面ではあるが……この青年はそれに加えて持っているその知略の数々でこちらを陥れているのだ。
……数瞬の後、氷の槍が地面に着弾した。そこを中心に半径十メートルは確実に凍結した。白い地面が一瞬にしてそこに出来あがったのだ。
「うわぁ!」「ぐぅ……」「くそっ!」
数名の人間が凍りついた地面に巻き込まれて負傷したものの、見たままでは死人は出ていない。それは不幸中の幸いと言ったところだろう。通常であれば死人が出てもおかしくない状況であった。
その一撃はそれだけではなく、地面を抉り、今もなお、そこに氷の槍を存在させ続けている程の魔力質量を持っている。……全く出鱈目だ。
これが魔族の実力―――思い返して見れば、この広い場所を選んだのも、多くの人間を見渡せる多人数との戦いを見越したものだったのだろうと思ってしまう。納得の行く話だ。……そこまで見越していたと考えると、背筋が凍るような感覚を覚える。彼の手のひらの上で踊らされていたと云う訳だ。
その膨大な魔力は、多くの戦術を可能にし、こちらを追い詰めている。戦略も然る事ながら、それを成し得る技量。
この状況を何とか打破しなければならない。今の状況を確認するに、魔力で勝る彼に、魔術で戦おうとしても勝てる見込みは無い。インファイトに徹しなければ、先のような凄まじい質量を持った型破りな魔術が来る。
だが、接近したとしても相手はそれを突き放そうとする。攻撃に耐え、魔術を交え……純粋なインファイトを受けてくれる程、相手は甘くない。
「―――、―――、―――」
たった数合しか打ち合いをしていないと云うのに、シュタインは肩で息をしていた。……一旦離脱する為に登った木の上で、背中を木に預けて、肩で息をする。……相手のペースに乗せられているからだ、とシュタインは思う。他人のペースに乗せられれば疲れるに決まっている。
ここで何とか次の策を練らなければならない。先の策は、接近までは良かったが、その後の展開が拙かった。結果として多くの怪我人で兵士を戦線から失う羽目になった。
しかしどうする? インファイト、魔術、戦略―――全てにおいて相手はこちら側を凌駕している。もはやあれは、人間のカタチをした対軍兵器に近い。
「かと言ってな……魔術で太刀打ち出来ないのは解っているだろう?」
後ろで魔術を放つ後方組の魔術師がそう述べる。
「だが、このままってワケには行かないだろう? 現に、失われて行くのは接近戦をする方の兵士だ」
「しかし我々は後方支援が目的で、前線に出る程の戦闘能力は持ち合わせていない」
話し合いを続ける隣で傍聴し続けているのはエリセだが、どうやら彼も考えたまま動いていない。作戦が浮かばないのか、立証しようと言葉を選んでいるのかは解らないが……
どちらにしろ、いつまでも首を捻らせてばかりで策は浮かばなかった。その内、魔族の攻撃も再開される。
だが先のような巨大な氷の槍は撃たれていない。……やはりあれは連打出来る代物では無いのだろう。再び始まったのは、先と同じような岩石による地面からの攻撃と、宙に炎を展開する魔術だ。当然、様々な属性を付加して、一つとして同じ魔術では無いのは、先と同じだ。
「インファイトをするなら今がチャンス……って事か……」
シュタインは唇を噛みながら、剣を握り直す。実行するには、あまりにも細い線だ。だが先ほどのような強大な魔術を、これ以上許す訳には行かないのだ。
……しかし、相手は一体どれ程のサイクルで魔術を使用する魔力を貯めているのであろうか……?
幾ら両眼異色とは言え、魔力の補充はしている筈だ。いつだったか、シュタインはテレシアの言葉を思い出す。
『両眼異色っつっても、魔力の器が巨大なだけだ。魔力を調達する必要はある』
その言葉を間に受けるのであれば、彼は今この状況下でも、魔力の補充をしている筈なのだ。
先の戦闘では、グールによってこちらの動きが鈍くなっていた頃合だと思われる。しかしそれは、今行われている岩石や炎の魔術の時の話だ。先に行った氷の槍は、凄まじいスピードでの展開であった。他の魔術に比べてチャージが速い。
故に、少しでも隙を見せれば、氷の槍が再び飛んで来る可能性もあるのだ。
魔力充電の仕組みは、魔術師であれば誰でも知っている事だ。このプレザンス王国にて、知らない人間は少ないだろう。
魔力充電は、自然界に存在している『マナ』を『オド』に変える事だ。
……そして魔術は、如何にそれを使って速く精霊にアクセスするかに掛かっている。
―――まず、使いたい魔術を選ぶ。それが炎の魔術でも、水の魔術でも構わない。魔術を選ぶ所から、全てが始まるのだ。
次に、それが自分で扱える魔術かどうかを考える。もし、扱えない……身の丈に合っていない魔術であれば、ランクを少しずつ下げて行く。
そうして自分が扱える最高のランクを定義すると、次はその属性を扱う精霊にアクセスする必要がある。自然界に存在しているマナを扱い、アクセスする。
そうしてアクセスした先に存在している精霊の力を借り、この世の不可能を可能にする穴―――人々は『ラプラス』と呼ぶ―――を作り出し、そこにさらにアクセス、現象を引き出す。それらの工程全てに必要なのが、魔力だ。
魔力には二つの種類が存在しており、それぞれ『マナ』と『オド』と呼ばれている。
自然界に存在している、人間では扱えない強い自然な力を秘めている魔力が『マナ』。それらを人間が使えるようにフォーマットを施したのを『オド』と呼ぶ。
『ラプラス』にアクセスするには、まずは魔力を体内で変換して、オドを作成する必要性がある。体内でマナを変換して、オドにすると、それらはようやく人間で扱えるレベルまで落ちる。―――無論、中にはそのような工程を全て飛ばして、マナのまま魔術を扱う奇異な存在も居るが、それは一握りの天才だけが行える代物だ。
オドを使ってラプラスにアクセス。そしてその先に居る精霊と言う無機物、概念のみの存在の情報を、力を、この世に引き寄せ、具現化する。それこそが魔術―――
……広場の中央にて魔術をコントロールしている魔族の姿を見るに、明らかにその魔術を組み立てる工程が尋常ではなく速く、上手い。そこまでのスピードだと云うのに、綻び一つ無い。
そこから察するに、相手は魔術を、オドでは無く、マナのまま扱える術を持っているのだろう。そうでなければ説明が付かない程速く、的確に魔術を展開して来る。
そう、それは、精霊の力を直接この場に持って来ている……シュタインはそう予想する。
まさか、とは思うが、確率は零では無い。魔族は魔術に関して天才的な知識と実力を持っている……そうであれば、確かに御伽噺で魔族が強大な存在で描かれる理由に納得が行く。
と、いつまでもそのような思考をしている暇は無い。そろそろこの場を脱出しなければ、魔族の魔術がこちらにも来る。こうして考えている間にも、相手の攻撃は続いているのだ、気を緩める事は出来ない。
戦いに集中する。気持ちを切り替えて、シュタインは深呼吸すると、剣を握り直して、その場から跳躍して、移動を開始する。
あれほどの魔術を放ったあとだと云うのに変わらない魔術の威力と勢いに、魔力の保有量の多さを改めて痛感する。戦闘前の竜巻の件もある……やはり魔族でも両眼異色は強大な魔力を秘めているのだろうか?
底なしの魔力に、シュタインはテレシアとグレイスの事を思い出す。……彼らもまた両眼異色であり、底なしの魔力の器を持っているのだ。
両眼異色……底なしの魔力……魔術の組み立て……そこに、目の前にいる魔族と同じものを感じたのだ。
いや―――、と思い首を振る。同じだが、同じではない。
だがもしかすれば、この相手は、テレシアが『科学者』では無く、『魔術師』として本気で牙をむくべき相手なのかも知れないと、密かに思った。
だがそれを思うと、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
to be continued......
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