掲載する写真も無く……うぅーん、スキャナーが無くとも何かしら考えて置く必要性がありますなぁ。
新しい小説を書く時は―――大方、自分の昔の小説の焼き直しだったり、他様の小説をうったりするワケです。
まぁ、皆様には、他様の小説をうっているイメージの方が強いかも知れませんね。自分自身の完全なオリジナル小説は、結城七夜は本当に稀で―――自分の作品だと筆が余り進まないのかも知れないと、逃避してみたり。そんな時もあるワケですよ。
特にハスミさんのキャラクターは一番小説としてうっている類だと思いますね。昨日の追記小説もそうでしたし。
今日は風も強く、雨も降っていましたが、カードを買いに行く為に出掛けて行ったわけですよ。
自分は本当にカードにどうしてこんなに情熱を注いでいるのか、最近解らなくなってきたりしますねぇ。この情熱をもうちょっと別のところに持って行けるんじゃないんだろうかと―――なれたらいいですねぇ←
さがしましたよ、ゴーズ。遊戯王R3巻に封入されているんですけど、どこにもその3巻が売っていなくて、今日相当自転車で走り回ってようやくアニメイトで発見して……本当にアニメイトさまさまですよ。
通常にシングルで一枚買うと730円するんですよ。だったら410円で本を買った方が安い罠。
本当にシングル価格どうかしていますよねぇ……
実は今日は昨日と同じくハスミさんへの小説をまたまた更新。いやだって今まで更新していませんでしたし……
「……兄さま、この方たちは……?」
白い服……青い髪……両眼異色の少女が、姿を現したのだ。
そして目の前に居るグレイスに向かって、兄と言った。つまり、この少女こそがグレイスの妹であり―――この森一帯に結界を張り続ける巫女。
「ルチア……もう出て来て大丈夫なのか?」
「―――はい。それよりも、この方たちは……?」
白き少女、ルチアと呼ばれた少女は膨大なマナを率いて、この場に足を着いた。
「紹介しよう、森でグールに襲われていた―――」
「テレシア」
「エリセ」
名乗った二人に対して視線を向ける両眼異色の少女。心の底から無垢で、見られていると、心の奥底の代物を全て見透かされているような気がして、テレシアは舌打ちをした。
このルチアと云う少女は純粋だ。エリセもまた、苦笑しながら少女の出で立ちを眺めていた。
紹介を受けて顔を眺めていたルチアは、少し小さなため息を吐いて、顔に影を作ると、口を開く。
「……やっぱり、わたくしには、その光景を見る事が出来ませんでした……」
「本調子じゃないんだ、仕方がない。魔力の収集率はどこまで行っている?」
「まだ……四分の一もありません」
手のひらで光球を作り出すルチアから発せられる魔力は、確かに微々たるものであった。先ほど感じた強大な魔力とは比べ物にならないほど、微弱である。
「先ほどの魔力は一時的に強大な魔力を吸い込んで一気に放出しただけです。……わたくしの魔力は、もう、森全土を感じるだけ存在はしていません。下手をすれば、それこそ、一般の魔術師の方が保有している魔力量が上でしょう」
そこまで衰弱していたとは予想外であった。森全土を把握し切れない時点で、どこで異常があったのかをここから知るのは不可能となった。
ではこれからはどうやって異常を察知するのか……
「今までは、把握しきれない場所に一つの部隊を配置して、情報を補っていた。―――だが、徐々にルチアの魔力が落ちて来て、補う魔力分の箇所に人を配置出来なくなって来た。
人の数を少なくすれば補う事が出来るが、中にはまだ個人戦で大した成績を残していない人間も居る。いざ、敵に直面した場合、被害が出る」
ふむ、とエリセが頷きながら考え事をしている。―――と、口を開いてこのような提案をした。
「なら、テレシア、キミのシステムを使えば良いんじャないの?」
突然の提案に、テレシアは目を見開いた。
「は? 何でこいつらにシステムを使わせる必要性がある?」
「なァにッて、僕たち、助けられたんだョ? それなりの使わせるアレはあると思うけどねェ」
確かに、あの時グレイスが場に介入しなければ、確実に二人はあの場で死んでいたであろう。大量のグールたちに最後の力を粉砕されて、殺されていたであろう。悪ければそのままグールに取り込まれている可能性もあったのだ。
それを考えると、そのような状況から助け出して貰った、借り、と云う代物があるのではないのだろうか? と、エリセは言っているのであろう。
―――舌打ちをした。テレシアは白衣の裏側から何やら一つの機械的な装置を取り出した。そう、それこそが機械をコントロールするスイッチなのである。
これのスイッチと、あとは自らの魔力によって機械は起動する。森に入った時点で、魔力を食い過ぎると拙いと思い、電源を落としていたのである。
「魔力の配給はアンタがやると良い。それで補えない部分を、そこの女がやれば大丈夫だろうさ」
そう説明をして、テレシアはスイッチをテーブルの上に置く。
当の魔力配給を任されたグレイスは、物珍しそうに機械仕掛けのそれを見て、首を傾げる。―――機械は単純な物ではない。赤いスイッチの他にも、起動させる機械一つずつをコントロールする代物も存在している。起動させれば、残りは魔力の波動のような特殊な代物でコントロールが可能である。
これは、テレシアが魔力に存在する個人ずつの色と、周波数が存在している特性を発見した際に考え着いた方式であり、将来魔力の波動だけでテレパシーのような事が出来るのではないかと考えて試作した。
要は、スイッチは起動させる為の微弱な電波を飛ばすに過ぎない。コントロールは、別の魔力を使う。初起動で使った色の魔力で動くようにセッティングしたのはつい先日の話だ。
……一通りの説明を終えて、理解したグレイスは、自らの魔力を込めて、電源スイッチに指を入れる。押し込まれた刹那に、脳裏の魔力に様々な情報が流れ込んで来る。
映像ではない、直感的な、何か。物を触れた時のような繊細な感覚が、体中の神経に流れて来る。
なるほど、これが科学の力か……改めて、スイッチの着いている機械を眺めて納得をする。
―――当然、ただの科学だけの力ではない。テレシアの頭脳、そして技術力、高い魔力があってこそ完成出来る代物でもあるのだ。現段階の科学技術では、それ単独でここまでの物を作るのは不可能だ。
魔術と科学の融合―――誰もが一度は思い、だが葛藤の中で諦めて行く夢だ。
当然、森の外の世界の事は断片的には解っているグレイスであるが、それでも解らない事は多い。……やはり、数人を外の世界に出して、常識などを学ばせる必要性があるのではないのだろうか……。だがそうした場合、世間を知らぬ事などの迫害を受ける可能性も零ではない。
今はそれを考えている暇ではない。これでルチアを助けられるのなら……
「ルチア、これからはこれで私が殆どを監視する。お前は私が監視し切れない部分を監視してくれ。残りは、別働隊の部隊に任せる」
「お兄さま……申し訳ありません」
「謝るな。お前の為だ」
はい、と返す妹の頭を撫でて、グレイスはテレシアの方を見る。
「…………ありがとう」
一瞬の躊躇いがあったのかどうか、少しの間が存在したあとに、彼は頭を下げて、礼の言葉を放った。
そのような言葉を滅多に聴かない彼女は、目を細めて、何か忌々しいものを見るかのように彼を眺めたあと、ため息を吐いて余所を向いた。
そして思う。考えて見れば、こんな人の役に立つ事をしても一文の特にもなりはしない。―――だが、今、彼の言葉を聴いた瞬間に―――あの青年の言葉を不覚にも思い出してしまったのである。
邪念だ、頭を振り、それを掃う。自分にとって大切にするべきは、研究の成果と、目の前の利益、欲望を満たす事。そう、今回のこの行いも、機械のセッティングや、他の自分以外の人間がこの機械を動かしても正常に動かすのを確認する良い機会だとする。…………と、言っても例の青年での実験で一度は動いている為に、あまり実験の価値は無いが…………
つまり自分は無償で貸したと同じか。舌打ちをする。
エリセの説明は尤もの話だ。命を救われているのは確かだが…………しかしそれが事実故に、腹立たしい。
思わず机に手を着いて、一回叩いて見る。小さく、本当に小さな音がその場に響いたが、誰も気づいていない。
目の前では、グレイスとルチアの会話で、森の監視結界の展開を持ち越す何かが行われている。その光景は異様であり、彼女の魔力が―――白い魔力―――体中に、視認出来るまでに展開され、少し宙に浮いている感覚だ。祈りをする体制を取り、それをグレイスが見守って、何やら呪文のような代物を呟いている。それを聴き取るのは無理だ。
……しかし気になっているのは、彼女は、ここに現れる前に一体どこに居たのか……と、云う事だ。
突然現れた白い扉から現れた彼女。途轍もない、消耗しているとは言え凄まじい魔力を持っている彼女。その魔力量や、その使える魔術を考えると、それはまるでアレの如く―――
と、そこまで思考して、何かを感じた。もしや、と云う彼女への不信感が、一つの核心を得た気がしたのだ。
だが、それを口に出すよりも、ルチアが動く方が早かった。
白い魔力を拡散させて、目を見開くと、何かを見たのか、察知したのか……小さな口を開いて、異常事態を知らせる。
一瞬の魔力奔流の後に―――
「……何者かがこの森の中に侵入しました。そして―――凄まじい力を秘めた存在が、それを眺めています。
恐らく………………魔族。
侵入した二人のビジョンを、送ります―――」
―――魔力奔流に乗せられたビジョンが、脳裏の画像を処理する神経を犯す。割り込む映像の中に―――シュタインと、グレイの姿が視えた。
当然近くに居たグレイスも見たのだろう。知り合いかどうかを問い掛ける事無く、剣を取り出して、支度をする。
「出る。もし魔族なら、放っておく事は出来ない」
扉を開けて早足で出て行く彼を見て、エリセも背中を向ける。
「まァ、教え子が死んじャうのは忍びないからなァ。寝つき悪そうだしねェ、くくッ」
そうしてついて行く。
一方取り残されたテレシアは、ルチアの顔をしばし眺めていたのであるが……魔族が居る事が証明出来るだろうと、鼻で一つ笑ってから、彼らの後ろを急ぐ。
いつも通りの嗤いの表情を、口の端で作って。
◇
ただならぬ違和感だった。それこそ、魔力を流す事によって掛かる負荷は解っているつもりだ。魔術を使うのだから。
まさに、魔力の負荷を常に掛けられているような状況に、森の中に足を踏み入れてからなっているのである。それがどのような理由によってなっているのかは解らないが、この森に入って常に感じていた違和感に加えて、さらなるこの魔力の負荷に、シュタインは珍しく眉間に皺を寄せていた。
ちなみに、同じく隣を鼻歌交じりで歩いているグレイは、全くその違和感には気づいていないらしく、ただ魔力の負荷を体中に掛けられているかのような感覚は同じくするらしい。
そこまで解っていて、何故この違和感には気づかないのかは謎なところだが……自らは戦闘訓練を受けている。恐らく、殺気やら、五感以上の何かで感じているかも知れないと、手のひらを眺めて、そう思う。
……ここまで来て、今のところ変わったところは何一つ無い。例の戦闘を行った場所も二箇所行って見たのであるが、結局何も解らずじまいであった。本当に彼女がこの森に入ったのか謎なところであるが、やはり、彼女の発明品の機械が停止していると云う事実が、この森に彼を留める。
まだ奥の方に居るのかも知れないと、先ほどから奥を目指して歩いているのだが、まだ、道なき道ではなく、踏み荒らされ、自然の道が出来た場所を通っている。記憶には無いが、ここにも来た事があるのだろうと、歩きながら記憶を手繰り寄せる。当然、思い出せるはずもなく。
しかしこの森も、良くもここまで自然体で残っているな、と科学故に様々なものを学んでいる彼ながらの感想であった。
精霊の森である名無しの森と違い、加護が存在しないこの森は破壊の運命を免れる事が出来ない。……だが、どれほどこの森がここに存在していたかは存知ないが、それでも殆ど変わらず、この自然を維持し続けている。自然の生命力、と言ったところであろうか。
その力に惹かれて魔物はやって来る。住みやすさ、様々なものもあるのであろうが、豊富なマナなどを求めて、魔物、霊魂の類がここに集まる。精霊の力に常に守られている名無しの森には無い現象だ。
それを自然の力と称えるか、人間の脅威として魔物を嫌うかどうかは、個人の価値観の違いによって変わって来るのであるが、シュタインはどちらかと言うと前者に近い。魔物も、当然人間も自然の一部であり、自然の力だ。
息を吸い込みその胸に自然の空気を吸い込むと、吐き出す。やっている暇など無いのだが、どうしても、やってしまう。
……今のこれが、ただ散歩の為だけに来ているのならどれだけ素晴らしい事か……。それと、この場がいつも来ている場所よりも奥に居なければどれだけ素晴らしい事か。
額に手を当てつつ、そのような思考を抱えたまま先に進む。
乾いた音を響かせて、足元で折れて行く小枝たち一つずつの音に反応は出来ない。が、中には人の足音も混ざっている可能性もある故に、油断は出来ない。違和感は、人じゃないとは言い切れないのだから。
鼻歌をいつの間にか止めて、未知なる空間へ興味を示し始めているグレイは、そんな殺気と戦うシュタインと違い、かなり気楽であった。そんな、魔物以外の代物は出て来ないと楽観視していたのである。話では、この森には管理者などが居るらしい。もし何かあろうとも、何とかなるだろうと思っている節がある。自分の身は自分で守ろうとしているシュタインとは大きく違う。
が、念の為の魔術は準備している。―――魔術の優れているところは、科学技術と違い、荷物を必要としない点だ。科学技術はどうしても、剣と良い、銃器と良い、スペースを取る。小型化が進んでいない事によるものだ。それまでは魔術とは使い勝手の良い護身術は無い。
展開している式は、状況を考えて火の魔術にしておいた。威力、そして火によりこの場に小火を起こせば目くらましにもなる。攻めるにしろ、逃げるにしろ、この場で火ほど使い勝手の良い属性の魔術は存在していない。
それに、接近戦となればシュタインも居る。彼は剣の扱いに長けている。自らが魔術で後方援護をして、彼が攻めれば良い。
単純かつ、理想的な戦闘の、攻防の図だが、実際それを極めた者が昔の様々な戦いを生き抜いて来ている。結局、魔術一つだけで勝利を収めた人間はごくわずかの、一握りの魔術師だけだ。寧ろ、剣などを極めた人間が一人で多くの戦果をあげたと云う事は多く文献に残っている。
世の中には様々な達人が居る。その道だけをひたすらに極めた人間が居るのである。幾ら長けていようとも、それは達人のレベルまで到達した人間から見れば弱い人間だ。
だからこそ人は足りない部分を他人で補おうとする。もしくは極めている部分をさらに極めようと他者を求める。兵士と魔術師が手を組んだのも、人間の当然の節理の結果だ。
兵士は、達人でない限り、魔術師には遠距離からの攻撃で敵わない。
魔術師は、一握りの達人によって、多く殺されて行く。喩え達人でなくとも、一瞬気を抜いて接近戦に持ち込まれれば、勝ち目はまず無い。
以上の問題から、兵士と魔術師は、いつの間にか手を組むようになる。
……現在では、科学革新派の登場により、別の方程式が生まれつつあるが、それもごく一部の人間だ。科学革新派の中にも、テレシアやシュタインのように、争いを行わずに、魔術や兵士の力を合わせる異端の人間が居る。
グレイはそれを否定するつもりは無い。科学革新派によって完成されたゲーベル学院に入ったのは、ただ、自らの両親が科学革新派だったからと云うだけの話。本来なら、別の学院に入学しているであろう。―――ちなみにローゼン、リリィナ、カメリアは女子学院の為に、男子禁制ではある。特にリリィナは、聖職者以外の男を敷地に入れる事を極端に嫌う。ローゼンや、カメリアの中には男教師も居る為に入学は認められなくとも、課外学習などは広く取り入れている為にフリーだ。
そう考えると、四大学院として共学であるゲーベル学院をカウントしてもよろしいものかどうか……しかし、偏差値は高く、実績も残している為に、名門と呼ぶには申し分ない。が、女子高三つが混在する中にこの一つだけ共学とは……なかなかに、信じられない。
―――と、そこで二人はその場所にたどり着く事になる。思わず、二人は目を見合わせて、もう一度前を見る。
そこは明らかに、今まで自分たちが歩いて来た自然の道ではなく、まさに切り離されたばかりの道が存在していたのだ。しかも、複数の足跡が存在している。……これが出て来たものなのか、それとも入って行った代物なのか……足跡が混在し過ぎて検討しかねる。
「……後ろの方で妙な気配はするけどな……」
へぇ、とシュタインは顎を擦る。どうやらグレイでも感じる何かが後ろにあると云う事だ。
では後ろか……? 二人は踵を返して、道の後ろに存在する、まるで墨汁をひっくり返したかのような闇に目をやる。確かに、妙な感覚だ。
シュタインだけ別の木々の根元を眺めていると、そこにはテレシアの発明品は存在していなかった。その木の根元だけか、と思いつつ別の木々も調べて見たが無かった。―――つまり、この辺りは既にテレシアの発明品の範囲外と云う訳だ。
「あの変人の発明品も、こんな時には役に立つんだなぁ」
「……うーん……どうだろう?」
今のところ、あまり助かった記憶は存在していない。彼女にとっては役に立っているのだろうが、正直他に使い道があるのか理解しかねる。
とにかく、この辺りは未知の空間だ。奥の方に彼女が居ても既に問題無い領域まで来ている。
息を飲み、唾を飲み。二人はその闇へと足を踏み入れる。
…………グレイは比較的に、歩くスピードが早く、その一歩後ろをシュタインが歩いていると云う格好だ。先の戦闘方針を考えると逆なのであるが…………まぁ良いだろう、とグレイはため息を吐く。
しかし、こちら側は伐採されている木々の数が尋常ではない。風の魔術で一気に切り裂いたかのような―――二人はそんな印象を受けた。
違和感、殺気は消えずに歩き続けるが他に何も見えていない。暗闇と言っても、木々の隙間から注ぎ込む太陽の光はある。ある程度の明るさは維持されている。だが、妙に暗く感じるのは、精神の持ちようであろうか?
鼻歌も、言葉一つ交わさず歩き続ける。辺りを警戒する事―――十分が経過した。
小さな殺気が、シュタインを襲った。感覚としては、小さな、手投げナイフを複数背中に突き刺されたかのような印象を受けた。とにかく、それは小さな殺気。普通であれば無視するレベルだったのだが―――
「グレイッ!」
―――無視出来ない何かがあったのだ。
咄嗟に目の前を歩くグレイが言葉に振り返り、ん? と言う中、シュタインは彼を押し倒して、茂みに隠れる。
一体何が起こったのか解らなかったグレイは目を点にするが、すぐ目の前、自らが今まで立っていた場所に凄まじい勢いで何かが降られたビジョンが見えた。
「―――んなッ」
体を捻って、地面を転がって、少し体を起こしてから状況を確認する。
惨状は、地面にまるで巨大な魔物の爪痕のような傷がいつの間にか現れており…………それだけではない、木々にも先まで存在していなかった爪痕がつけられている。
巨大な魔物がその場を通り掛かったのだろうかと、思考するがしかし……違う、とシュタインは確信の無い根拠があった。矛盾しているようだが、それは一種、勘のようなものだ。
―――シュタインは指を使ってグレイに合図すると、二人は個別に隠れる。グレイはその場に隠れて、シュタインは匍匐前進で別の場所へと向かう。剣を手のひらに置いて、殺気を隠し、辺りを警戒する。
〝どこだ…………?〟
暗闇にまみれて視認は出来ない。だが、気配だけは無数に存在している。相手は複数と考えるか否か―――シュタインの戦闘においての技術と勘は、通常の人間を凌ぐ。
……あった、と思わず心の中で微笑してしまった。殺気の端を見つけた。恐らくこれが敵の殺気であろう。無数ある中から見つける彼の勘はやはり鋭い。
だが今は飛び出ない。まずは相手の状況などを確認して、もう少ししてからだ。戦いにおいてタイミングは重要な位置づけになる。状況も確認せずに飛び出すのは危険だ。
しかしそれは戦闘慣れした人間が行う事であり、通常、それを考える事は出来ない。
だからこそ、突然の事態に気が動転しているのであろう、グレイは手の魔術を一気に開放し、隠れている敵に対して火の魔術を展開する。
「ば―――」
か、と言いたかったのかそれともどうかは解らないが、叫んだ時には遅かった。火の魔術はその場に魔術円を描いて、一気に発動する。周辺の酸素と、燃えやすい木々の葉を巻き込んで、炎は強くなり―――奔る。
そこに何一つ捻りは存在していない。真直ぐに奔るだけの単直な一撃。それでは駄目だ、と解っているつもりだ。だが……今の彼にそれを考える余裕など存在していなかった。
目の前に確かな敵が居る―――それだけで魔術を放つには充分過ぎる理由であった。
軽率かどうかは解らないが、彼にとってはその行動こそが正義だった。身の保身の為に、目の前の敵を排除する。
一直線に進む単直な一撃を、暗闇の向こう側に居るそれは、容易く破壊して見せた。
光景は異様なものであった。放たれた魔術は一直線に向かったはずだと云うのに、手らしき代物が暗闇から突如として現れて、それを鷲掴みにした刹那に、ディスペルされた。
それだけではない。魔術をディスペルしただけではなく、一気に降りて―――その鋭い爪をグレイに向ける。
悲鳴は出ない、それ以上の恐怖が彼を包んだからだ。
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