ようやく……ようやく、LOVで称号『月光の軌跡』を手に入れる事が出来ました……長かった。
アジルスを入れたデッキで100勝と云う代物でして、まぁ何とか手に入れる事が出来ましたよ。これで他のデッキに行ける!! と思ったらそこからボロボロで、昨日は9敗すると云う凄まじい結果に終わりましたとさ。
まぁそれでも、【】ダークアリスと、ピクシーが出たんでチャラで←
ちなみに最近はラグナ6枚方をプレイ中。「ラグナ」「エーコ」「リリス」「サキュバス」「フェアリー」「桜花」の6枚で戦っています。まぁフォールンが無いからこんなデッキ何ですけどね。
しかし主には最近人獣なんで、称号レベル7の皆さま、EXBと名乗る自分と当たったらお手柔らかに……
……そんなこんだな日々で、戦慄のストラタスをクリアするべくノンストップで行って、blogの更新すらさぼって、ようやく再開なワケですけど、こんな始まりで申し訳ない。まぁお陰で戦慄のストラタスは一週目クリアする事が出来ました。これからはやり込み要素で……
生存ENDとか、他の追加キャラクターを拾う作業に入りましたよ。
今週は火曜日に研究室の先輩たちと飲み会があるんで凄く楽しみです。まぁ短い期間ですけど、やっぱり先輩とは仲良くしたいですからね! ゲーセン話とか出来たら良いですなぁ。
以下、ハスミさんへの小説です。
……ハスミさんに関しては、お疲れ様としか言えません。自分の創作を左右した、恩人、では言い表せない方です。また彼女が帰って来る時を、自分は静かにここで待ちたいと思います。
異変は、徐々に現れて行った。最初こそは手ごたえの一つだと思い無視していたのだが、あからさまにその様子が見えて来ると、それが自らたちのでは無く、全く違った要因によって成り立っている代物だと悟る。
テレシアも、グレイスも、シャルルも、その異変を察知したのはほぼ同時であった。分かれていた一同は、一つの場所に終結し、互いの背中を守りつつ、グールの大群に対応する。
そんな中、テレシアが口を開いた。
「……グール、減った? つか、威力落ちてるような気がすんだけどねぇ」
彼女の疑問は二人の疑問でもある。辺りを見渡してその当のグールの頭を潰しつつ、シャルルが舌打ちする。
「だがまだ大量だ。威力が弱まったとは言え……」
基本的な量が多かった為に、喩え勢いが衰えたとしてもその数は凄まじい。少しランクが下がった程度ではあまり変わらないものだ。
捌く力を弱める訳には行かない。確かに勢いが弱くなったとは言え、手を抜けば全滅するのはこちらだ。
「だが何故突然勢いが弱くなった……?」
三つの槍を作り出し、それをそれぞれの三方向に飛ばして爆散させると、グレイスはふとした疑問を口にする。そう、それが一番気になる所だ。
相手は自らたちを妨害する目的を持って、このようなグールを放っていたとは考えられない。寧ろ、戦う前から武装したグールなどと戦っているテレシアにとっては、グールは他の目的があって用意していたと考えられる。
それを使ってまで止めたい自らたちが存在している。魔族の存在を知り、その目的―――かもしれない―――を知ってしまったのだから、相手にとっては必死だろう。
しかし、それが必要なくなった何かが存在しているのかも知れない。いや、依然としてグールの勢いは凄まじい。こちら側は止めたいが、それでもある程度の準備は整った、次の状態に移りたい―――そんな感覚だろうか? 中途半端に減らせば突破される恐れがある。ならば魔族自身が居るのだから必要最低限の人員で向かう。
「……つまり……こちらのグールの威力を少しでも弱める何か事情が出来たって事か? それこそ、お前が言うのに次の段階に進む準備が出来たとでも?」
「ははん、面白くなって来たじゃない?」
「どこがだ……」
もはや怒る気力も無い。テレシアの非常識さには、会ってまだ一日も経過していないが、呆れてしまうほどだ。
現状を冷静に整理すると……
「……そうしても良い状況か……。グレイス、どう思う?」
テレシアに問うのを諦めて、シャルルはグレイスに問い掛けた。
「そうだな……二通りほど考えられるが……」
「聴こう」
そう言いつつも、目の前に居るグールに対して攻撃を続ける辺り、この三人は常人とはどこかが違うのだろう。通常の人間であれば、余程器用な人間でない限り、この状況下で会話など出来ないだろう。
グレイスが考えている二通りとは、以上の二つである。
―――一つ、魔族がグールを必要としない段階、もしくは大量のグールを必要とする段階に入っているか。つまり、こちらの事は完全に無視は出来ないものの、ある程度は無視をしても良いレベルにまで事が進行した。
「なるほど。それなら確かにグールは必要ないな。……だが、そうなると、テレシアやシュタインが言っていた武装したグールの説明がつかなくなる。恐らくは……」
「後者だろうな。グールを大量に必要とする段階に入っている可能性があるな」
「……まぁ、他にも挙げられる点は幾つかあるけどねぇ」
くくっ、と笑いながらテレシアが会話に入る。
「他の点?」
今の意外に何かあっただろうか? それともまだ言わぬ二つ目の事を言っているのであろうか?
「そうじゃない。他にも考えられるのとして……グールが相手の制御化に納まらなくなった場合と、魔族に危機が迫っている場合も考えられるんじゃないのかねぇ?」
言われてみればそうだ……しかし、そう言った意味では二つ目のものはある意味当てはまっている。
「二つ目は……シュタインたちが魔族と遭遇して戦闘している場合だ」
「それも付け加えると、優劣があるワケだ」
いちいち指して来るテレシアに対して横目で睨みつけながらも、彼女の言っている事は間違えていないのが悔しい。
「つまり、シュタインが思いのほか善戦してて、相手が危険を感じてグールを呼び戻したケース。もう一つは、シュタインは殺されたって云うケース。
まぁ、現実味があるのは後者かね、くくっ」
……愉快そうに嗤う。自らの友人が死んでいるかも知れないと云うのに……もし戦闘中でなければ、シャルルはテレシアに殴り掛かっているところだ。自らの仲間をないがしろにする発言は、喩えグレイスが許したとしても、シャルルは許さない。
「暑苦しいね。まぁ良いさ。わたしはわたしのやりたいようにやらせて貰うしね」
「―――外道め」
「結構だね」
それで居て、実力は確かなのだ。この性格さえ何とかなっていれば、これほど心強い味方は居なかったであろう。……残念でならない。
「喧嘩してる場合じゃないぞ……どうやら……化け物がご来場のようだ……」
目の前に視線をやると、テレシアが口を尖らせて、口笛を吹く。存在しているものは、まさに化け物であったのだから、そうしたくもなるだろう、彼女の性格上は。
そこに居たのは、三メートルはあろうかと云う巨大な武装グールだった。
現状、グールの勢いが少なくなっている以上、突破するのであれば現在が一番丁度良い。ならば、この巨大グールを突破出来れば、あとは無視して先に進むのが可能だろう。なるべく体力を温存して行きたいところだ。
……が、体力温存といえども、魔力の温存はテレシアとグレイスには無縁の代物だ。こう言う時だけは、両眼異色の人間の持つ底なしの魔力が欲しいものだと、シャルルは心の隅で思って、化け物に対して攻撃を仕掛ける。
武装グールに関しては、戦闘を行ったテレシアが一番相手の特性を解っている。……あの時は少し手間取ったが、今回はそうは行かない。二度も同じ手段は自らには通用しない。
先陣を切ったのはシャルルの土の魔術だ。地面から現れた槍のように尖った岩石たちは、相手の足場を崩して行く。そこに、魔力を温存せずとも全く問題の無いテレシアとグレイスが入って行く。グレイスは魔力で強化した脚で跳躍して、上空で弓を構える。一方のテレシアは、今回は接近戦を行おうとしているのであろう、果敢に前に出て攻める。
そして攻撃を受ける側である武装グールの方だが、その腕に持った近代兵器―――バルカンのような代物だ―――を予備動作なしに、そのまま鈍い音を放ちながら弾丸を掃射する。
容赦なく、際限無く次々に装てんされて行く銃弾は、その巨大なグールの腕に装着された巨大な重機の中に入り込むと同時に、一気に発射される。薬莢はその場に落ち、乾いた音を立てる。
―――まるでドラム缶だな……。グレイスはその音を立てて落ちて行く薬莢を眺めながら、その巨大さに苦笑する。
苦笑する余裕がある……そう、テレシアとグレイスは、この巨大グールに関して化け物とのレッテルを貼りつつも、脅威だとは思った試しは無かった。
テレシアなら避けるだろうと、合図無しに、その指に掛けた剣に強大な魔力を込めて発射する。一直線に、ジャイロ回転をしながら真直ぐに走って行くそれは、速度を落とす事を無く、相手の頭を抉った。遠い場所から小さい点である頭を貫く……その正確な一撃は、さすがと言えよう。
テレシアは彼の一撃を避けようともしなかった。恐怖を感じていなかったと言えばどうだかは解らないが、それでも、彼女はその一撃が相手を正確に捉える代物だと解っていたのだ。ある意味、彼らの言葉を使うのであれば、信じている、と言っても良いだろう。
……勿論、テレシアが彼らに信頼を寄せて、友人として認めている訳ではない。ただ、今までの状況を考えて、彼が目標への一撃を外した試しが無いのを考えると、恐らく今回も外さないだろうと、思ったのだ。ではやはり、信頼、と言うよりは確率的な問題と言った方が良い。
脳天を穿たれたグールの体は仰け反る。その凄まじい衝撃に後ろに倒れそうになったのだ。
だが、相手は戦闘本能をベースになっている存在だ。それに加えてこの巨大さ……戦いに関しての能力は通常のグールよりも上だろう。
脳天を穿たれたと云うのに、そのグールは倒れずに脚で踏ん張っていた。そのまま体を手前に持って来ようとしているのだ。これは通常のグールではまず耐えられない威力だっただろう。この巨大さがあるからこそ出来る芸当だ。
それを眺めたテレシアは、今の一撃でこちらの一撃が無駄にならないかどうかを心配していた為に、内心安堵した。発明品の能力を確かめる手間が一つ増える、もしくは先延ばしになるのは面倒だ。出来るものなら一つずつ確認して行きたいのだから。
白衣の奥より現れた次なる一手は、まるで腕―――そう一つの腕だ。と言っても生身の代物では無く、武装した腕。
それはテレシアの腕に巻き付き、テレシアの腕自身が、その武装した腕へと変化すると、刹那の内にその平から一振るいのブレードが姿を現して、それが接近戦専用の発明品だと、遠くから見ていたグレイスとシャルルは理解する。今まで遠距離専用の武装が主だった為に、そのような物は無いかと思っていたのだが……
腕だけが変わったテレシアの腕は、彼女の神経をそのままに、痛みの能力部分だけを遮断する……一種の神経接続のような代物だ。腕の装甲に入っている小さな棘―――その細さもあり、痛みはあまり感じない―――それを通じて動きを伝える。無機物と云う事もあり、腕の装甲自身に攻撃を当てても痛みは無い。問題があるとすれば、その棘の細さゆえに、すぐに折れてしまう点にある。体内に残すと害になる、折れてしまった場合は取り出すのだが、それがまた面倒なのだ。
今回はその棘の部分を調整、変化させておいた。それがどのような働きをするのか、痛みを抑えたまま神経接続を出来るかどうか……それが今回の課題だ。
一振るいしたその一閃は、武装グールの脚を切断させ、ただでさえグレイスの一撃でバランスを崩していたグールは、そのまま倒れ込む。ただ、銃口だけはこちらを向いている。
一歩後ろに下がってそれに警戒する。発明品の展開にそこまでは掛からないが、念の為だ。
白衣の裏側にブレードを仕舞って、次に防御用の発明品を取り出す。……今回は少し棘の入りが甘かった。短く調整して見たのだったが、どうにも動きが鈍かった。再び改良する必要性があるな、とテレシアは思考する。
後ろに下がる光景を見ていたグレイスは、倒れた敵にとどめを刺すべく、手に二本の槍を構成する。跳躍からそのまま木に足を掛けていたグレイスは、そこから相手の武器に向けて一発、次の一発で相手の脳天に再び撃ち込む。
乾いた音を立てて風を切り裂く槍は、彼がその力を開放する必要も無い。相手はそれほどまでに弱っている。一直線に進んだそれらは、見事に狙い通り、武器と脳天に直撃して、グールは完全に動かなくなった。
辺りを覆っていたグールたちは後ろに待機していたシャルルと、他の隊の人間が各個討伐している姿を見ていた。問題は何一つ無い。
敵を殲滅したテレシアとグレイスは、早くも先に向かうべく、歩を進める。
一方のシャルルだが、敵が巨大だったのと、自らの魔力残量の件もあり、一歩後ろの方向から遅れて歩いている。自らがこの魔力残量だ、後ろの小隊の方がどうなっているか解らない。……自分たちだけでは無く、他の部下の状況を知るのも、仕事の一つだ。
後ろから着いて来ている小隊はそこまで多い訳ではない。こちら側の方は、テレシア、グレイス、シャルルの三人が存在している為に、そこまで小隊の人数を必要とはしていない。
グールに遭遇してからここまでで、戦ったグールの数は数知れず、かなりの量存在していた。だが先陣を切る三人の能力が高かった為に、それを感じさせていなかっただけだ。
凄まじい量との戦いの中で、取りこぼしたグールを各個撃破していた後ろの方の損害を調査する。
シャルルの点呼に後ろの方で待機している小隊の人間たちが応えて行く。順調に、何一つ弊害無く進んで行くその様は、シャルルの人望があるからこそ出来る芸当であろう。実にスムーズだ。
後ろの方の数は目視で全てを確認する事は出来ない。相当の量の兵士が存在しているのだから、一人の統括官だけでは本来確認するのは不可能だ。
…………全てを確認するのに、順調に進んで五分を要した。歩きながらと言うのもあり、少し時間が掛かったと言えよう。もし動かずに、止まって、冷静に行っていればもう少し早く終わっていたであろう。それでも相当早く終わっている方だ。
確認するに、現状の被害は一割にも満たない状態らしい。さすがに前の連中が派手に暴れて、その後に取りこぼした、弱ったグールを倒しているのだから、そこまで損害は出ないだろうとは思っていたが、予想以上だった。
しかし、被害が出ないに越した事は無い。治療費もある上に、薬の節約にもなる。何より、怪我をしないで帰る事で安心して家族の元に帰る事が出来る。無駄な心配をさせないで済む。
だがそんな一割の人間の怪我を放っておく訳には行かない。喩え一割未満だったとしても、怪我は怪我だ。
……恐らく、怪我をした少数の人間は、油断していたか、一人や二人などの少人数で行動している時に集団で襲われた……だろう。大方予想はつく。
シャルルは治癒の魔術も一応出来る。このような場所だ、色々と魔物との戦いを行っている間に自身が怪我をしてしまう事も少なくは無い。魔術が使える以上は治癒に関してはかじっておいても問題は無い。
「すみません、油断してました……」
やはり、思った通りであった。油断していたのだろう。笑ってそれに応えて、魔術式を展開して、傷を直して行く。
たいした怪我をしている人間はいないが、治癒しておくに越した事は無いだろう。
「グレイス、少し待っててくれ。後ろの方で怪我している人間が居るからな。もしくは先に行って貰っても構わない」
「解った。……シュタインたちが心配だからな。先に行く。そっちも早めにしろよ」
「解ってるって」
怪我した人間を順番に並べて、両手を使って治癒の魔術を使う。
治癒の魔術は、水の精霊の加護の内に入る。水の力は偉大であり、人間の体内に存在している多くが水分だ。水の精霊の力を使って、その体内に存在している水をコントロールし、自然治癒能力を極限まで高める―――それが治癒魔術の原理だ。
内側から傷を直す……それがもし、自然治癒ではなく人工的に治せる魔術があるのだとすれば、恐らくそれは治癒では無く、再生だ。それを行えるのは、それこそ奇跡―――
シャルルにそんな芸当は出来ない。ただ自然治癒能力を、少しだけ上げるのが可能なだけだ。少々噛んでいるだけで、そこまで達者では無いのだから。
手当を進めているシャルルの後ろに……先に行った筈のテレシアが立っていた。先の件もあり、目を細めて、声を低めると、言葉を発する。
「―――何の用だ?」
あくまでも視線は目の前の怪我人の方に、耳だけは後ろに居るテレシアにだけ向ける。
しばらく黙ってその様子を眺めていたテレシアは、ようやく口を開く。
「…………先に進むのに邪魔な人間は捨て置けば良いってのに…………面倒な人間だな、お前は」
今度はグレイスも居ない……その拳を止める事は出来なかったと言えよう。
シャルルの腕が伸びて、テレシアの顔を捉えようとした所で、白衣の裏側から現れた先程の機械の腕が、それを阻む。
激昂で腕が先に出たのだろう。しかしその反応速度は、テレシアの方が早かった。
「―――お前、何て言った……?」
震える、掴み合った腕同士。
問い掛けるシャルルに対して、テレシアは鼻で笑うと、言葉を繋げる。
「捨て置け、って言った」
歯軋りする音が、ここまで聴こえる。
この言葉に、我慢の限界は突破して、その先に存在している呆れさえも突破して……語る必要も無いまでになっている。この女の言葉は理解出来ないと言わんばかりのその顔。
仲間を捨て置けと言う言葉。それはシャルルにとっては許されない言葉だ。
―――人は独りでは生きて行けない。そこに人の営みがある以上、人との関わりは必ず必要になって来る。他人を拒絶し、それを無駄だとは言えないのだ。
他人……いや、シャルルにとっては仲間か。仲間が居なければ何も出来ない。たった独りでは出来ない事、もしくは独りでは時間の掛かってしまう代物を、仲間が居れば短期間で出来るのだ。
だが、この女はそれを不必要だと言う。鼻で笑い、それを嘲笑する。
独りでは何も出来ないでは無い。他人が居れば、ただそれは邪魔になるだけだ。脚にしがみつき、すがり、足手まといになる。他人は自分が利用する代物であり、それと解り合って、共に手を取り合って行くなどは考えられない。
「それは甘えだ。……独りで生きて行けないんじゃない、行きたくないんだろう、お前たちは」
目をつぶって、鼻で笑うテレシアは、最後に冷たい視線でシャルルを見る。
「違う! 人がこの世界で生きる以上、どうしても独りでは出来ない事がある! だがそれは仲間と共に切り開く事が出来る! より良い未来を作れる筈だッ!」
「筈、だろ? そうして共に手を取り合って来た人間たちは現状に立っている。
町を歩いて見ろ。あそこにあるのは、ただの醜い人間の争いだ。共に手を取り合うなど愚か、対立してるじゃないか!
くくっ、滑稽だろう?」
…………この女はやはり、人間では無い。では一体何なのか…………誰よりも人間とは程遠く、しかし正論を述べる。
―――現に、テレシアには友人と呼べる存在は居ない。居るとすれば、それは家に居る猫ぐらいだろう。それを友人と言うかは別として。他には、彼女は他人を友人だとも、同志だとも思っていないだろう。
そんな言い合いを聴き付けたのか、グレイスが戻って来て、二人の間に割って入る。
「おい! 辞めろ! ここでいがみ合っている場合じゃないだろ! シャルル!」
「解っている! だが……ッ!」
このやり切れない、やり場の無い怒り―――目の前に存在している少女に対する怒りをどこに向ければ良いと言うのか、その答えが欲しい。
睨み付けるシャルルに対して、テレシアは飄々としている。何食わぬ顔で、ただ、冷静にその光景を眺めている。さも当然―――と言ったような顔だ。自分は間違えていないとも取れる。
仲間を否定するテレシアと、それを必要不可欠だと言うシャルル。この二人の軋轢は、歴然であった。
だが解っている、この場でいがみ合っていたとしてもどうしようも無い事も、解らない人間に何を言っても無駄だと言う事を……シャルルも解っていた。冷静さをようやく取り戻したのか、それとも噛み殺しているのか。これだけは言っておかなければならないと、シャルルはグレイスの静止を押し切って、口を開く。
「シュタインはどうだっ!? お前はあれ程好意にしてくれているシュタインに対しても何も思わないのか!? 友人とも、仲間とも……ッ」
彼女の為にと、友人だからと、仲間だからと、気遣ってくれている彼。その好意を、彼女も感じているだろう。それに対しても彼女は無下に出来るのか、何とも思っていないのか……
その答えは、大方予想通りの代物であった。
「無い。
アレはパーツだ。人間でも何でもない、ただのわたしのパーツだ。ここにある、スパナと同じさ。―――〝物〟なんだよ」
―――さすがのグレイスも、シャルルも、予想通りとは言え、その度の越えた発言に、唖然とする。
一番近い人間ほど、彼女は人間とも思っていなかったのである。ただ、自分の研究の為に使えるパーツとしか思っていない……こんな事があってたまるか。
呆然とする二人と、奥に居る隊員一同。彼女に対する考えは様々な意味で打ち砕かれ、一体彼女はどうしてそうなってしまったのか、もはや哀れみにも近い感情が現れつつあった。
そんな彼らに一目もくれる事無く、テレシアは鼻で笑って、その場をあとにしようとする。背中を向けて、歩こうとしていたその先へと、歩を進める。もう語る事など無い、問い掛ける事も興味すらも薄れて来たのだ。
「ま、まてっ……お前は……」
どうしてそうなってしまったのか? ―――と、そう言いたかったのだろう。問いたかった。
しかしその言葉は空を切り、彼女に届く事はなかった。
興味を失ったテレシアは、もうあの人間に用は無い。そのまま先に進む。問い掛けに答える義務も、必要も感じない。
草木を切り分けて、強大な魔力の向こう側に。途中に迫り来るグールは殺す。元々死んでいるのだが、どうでも良い。殺す。殺して、殺して、殺して、殺す。
体中から現れる発明品の山が、それらを貫く。独りなら、戦う相手は多くなる。その分、発明品の力を試す速度は速くなり、一気にその性能を確かめる事が出来る。
特に、今回発明品として初めて持って来た、『全身武装』の類は良い成果を出している。逆に、それを部分的に展開する『部分武装』は余り良い成果を出していない。先の腕とブレードもそうだったが、次にこのような状況になる時は、もう少しましな調整をして、性能に仕上げておく必要があるな……、と、テレシアは独り呟く。
独りでも人は戦える。現に、テレシアは自身で発明をし、そしてそれを使って戦っている。生きる事に関しても、食料等全く問題は無い。両親が残して行った屋敷と財産は凄ましいが、それすらも必要ない。彼女にとって、金は些細な代物に過ぎない。
周りもそれは理解出来ている。グレイスも、シャルルも、彼女の戦闘能力が凄まじいのは解っている。その戦闘能力でどこまで出来るか……国が定めているランク制度を適応しても、スペードクラスと言っても過言ではない。
まさにスタンドプレイの極み。独りで戦う術で、現状彼女よりも右に出るものを、シャルルは見た事が無い。
高度な戦闘訓練を受けている、かなり高度な、実戦に近い訓練だ。一人前の戦士だからこそ、彼女の凄まじさが解ってしまうのだ。
―――実際は、テレシアは鏡の国での発明品の試運転を行っている。戦闘術はそのおまけだ。生き残る為、相手を一撃で仕留める戦闘術を、鏡の国の中で培って来たのだ―――
そう、彼女は天才だ。誰も否定しようがない天才なのだ。だが同時に、彼女は外道だ。
いつまでも彼女をそのまま単独行動させておけば、何をするか解ったものではない。グレイスはシャルルに一言述べて、彼女を追い掛ける。
と、そんな彼に、シャルルが最後に口を開く。
「グレイス。
あの女を……信用するな」
無言でそれに応えて、先に進む。
……述べたように、戦闘に関しては何ら問題無い。あるのはその性格と考え方だ。気を抜く事は出来ない。
グールに対して警戒し、それを操る魔族に警戒し……そして味方である筈のテレシアにも警戒しなければならないのか―――。その事実に、グレイスは深いため息を吐いた。
急がなければ彼女を見失う。暗闇の向こう側に微かに見える彼女の白衣の白に向かって、グレイスは早足で進んで行く。
そこでふと思った。
彼女は他人に対して無関心過ぎる。自分の事しか考えていない自己中心的な性格。自らの実験の為に全てを投げ出す……それこそ、自分自身ですら投げ出すその性格は、折角好意にしてくれているシュタインの気持ちを無下にしている。
テレシア・A・ランサー―――彼女のその凍て付いた心を溶かす日は来るのか……彼女の心が根本から変わる日は、来るのだろうか……
辞めようと、首を振って、グレイスは先を急ぐ。
―――彼女を信用するな。
シャルルの言葉も解るが、述べたように今はそのような事をしている暇は無いのだ。目の前に存在している魔族と云う脅威に対処して、何としても、勝利を掴まなければならないのである。そうでなければ、この国を巻き込んだ騒ぎへと発展するだろう。
ここまで来ると、彼女の身に一体何があったのか。どうしてそのような他人を無下にするような性格になってしまったのか、他人に無関心な性格になってしまったのか。過去に何かがあったのか、それとも最初から精神のどこかが壊れているのか。……後者はあり得ない。人の精神は最初から壊れてなどいない。純粋な代物なのだ。もし、壊れたとすれば、それは周囲の人間が、出来事が、壊してしまうのだ。
彼女と合流すると、隣に現れたグレイスを見て鼻で笑う彼女。その壊れた精神を抱えて、一体どこへ向かおうと言うのか、何を求めているのだろうか。その真相は、本人にしか解らないだろう。
to be continued......
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