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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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IF DREAMS CAME TRUE // girl ' s butler 36





これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語―――の、執事編。










 
 
 退場には、同じエレベーターを使う。しかし、先ほどと違うのはエレベーターが動くルートが違い、試合を終えた主と執事が控室ではなく、待機室に送られる事だ。
 四角い、控室よりは一回り小さい白い部屋で、壁のところには自動販売機―――硬化を投下する場所はガムテープで張られており、常に商品選択の赤いランプが灯っており、押せば従来と同じように飲料水が出るようになっている―――自由に飲め、だろう。気が利くと言う事も自由だが資産家が支えている学院だからこそ出来る芸当だ。
 今現在、二回戦目の準備が行われており、場に居る人間はハヤテ、ヒナギク、ナギ、クラウスの四人しか存在していない。戦い終えた戦士たちのつかの間の休息……と、言うのには重いか、そこまで重要視されているモノではなく、これはゲーム。学院の理事長が決めた、一種の娯楽―――食事をしながら観戦するコロッセオでの人間と猛獣の戦いと同じ。ドームの観客席で眺めている生徒たちも同じ気持ちだろう。先に存在している生徒会長と云う座があるだけ。
 ……しかし、おかしな話だ。生徒会長は優秀な能力を持つ人間がやるからこそ、成り立っている秩序。学院の平和の為に、規則正しいルールの為に、選出された優秀な生徒がなるべくモノなのである。教師たちもわかっているだろうに、ここでヒナギクと云う優秀な生徒を落として、別の生徒にやらせる事は、人によれば学院の秩序が乱れてしまう可能性も抱えている。一体どのような事を理事長代理は考えているのか。
 そのような話を自動販売機のボタンを押しながら、現生徒会長の桂ヒナギクに訊いてみると、以下のような言葉が返ってきた。
「……元々、気まぐれな人だから、自分が楽しければ良いんじゃない?」
 そういうモノなのだろうか? その理事長代理も、理事長の代わりになれるほどの実績を持っているからこそ、学院を任されているものと思っていたのだが……。いや、学院自身、資産家の集まりと云う事は、集っている教師もまた、そのような場所の出の可能性もある。なれば今件を、娯楽と考えてしまうのも可能だ。時として退屈は人を殺し、人を狂わせる。電灯に照らされた缶コーヒーのラベルをしばらく眺める事十秒、蓋を開けて黒い液体を喉に流す。
 ―――後ろを振り向くと、モニターに目を向けているナギと、肩を下ろして、ソファーに腰を掛けているクラウスの姿が見える。先ほどから、その位置は変わらず、互いに微動もしない状況が続いている。時折、ナギだけは咳払いをするが、対するクラウスの反応は微弱で、先ほど渡した缶コーヒーの蓋も開けずにつかんでいる。意気消沈……だろう。
 上のフィールドで行われていた戦いの中で、序盤戦確実に有利に事を進めていたと云うのに、たった一回の隙を突かれて、敗北をしてしまった。事実がひたすらに悔しい。情けない。
「クラウスさん……コーヒー、飲まないんですか?」
「汗も拭かないんですか?」
 耐えられなくなって、ハヤテとヒナギクが言葉を掛けるが、ため息が一つ返ってくるのみで、それ以上は何も口にしなかった。
 顔を見合わせて、ため息を吐く。何がそこまで彼を落とすのか……悔しさと情けなさ以上に何か別のモノがあるのではないのだろうか? 異常なほどの実力の提示と、異常なほどの執着。姫神が居なくなった三千院家に新しい執事を着けない訳―――これらは全て繋がっているのではないのだろうか、と思ってしまうのは深く考え過ぎか……
〝とにかく、何とか一回戦は突破する事が出来たし、ヒナギクさんの生徒会長に留まる時も、一歩、近づいたって事かな〟
 一方で安堵もある。敗者復活など一つも存在していない。代わりと言っては何だが、二位、三位決定戦はあるらしい。明日の最後、決勝戦の前に、二位と三位の決定戦を行うとはプログラムに書かれている。
 今日の試合はもう無い。ゆっくりと体を休める時だ。モニターには常にフィールドの状況が映し出されている為に、自分とあたるであろう人間の顔を見る事は出来る。用意されているソファーに腰をおろして、ハヤテは視線をモニターに向ける。
 
 ……敗北者。結局、代わりは居ないと云う事か……
 頭の中で回り続ける確信が、クラウスを悩ませる。そうなれば、自分は一体どうすれば良い。
 これまで数十年。彼女が幼少の頃から、彼女が成人し子供を産み、そして最後の時まで……産まれてきた子供を育てるべく傍に常に着き、守護してきた。年齢を考えて、彼女の娘を守護する人間の後継者を探し、ふらりと現れた男の実力に惚れ、頼み込んだ。本当に一目惚れであった―――彼の腕は本物であり、非の打ちどころがない。家事もすべて、主への忠誠もすべて、守るべき腕もすべて、本物であった。男が惚れたからこそ、すべてを任せる事にした。彼女自身も、彼を受け入れた。
 やるべき事はやった。あとは、残り少ない余生を、三千院家本家で過ごすだけとなったのだが…………それはある日訪れた。
 彼が失踪し、姿を消した。クリスマスパーティに、唐突に消えたのであった。置き書きを残して、突然、彼女の目の前から消えた。信頼していたはずの彼は消えて、丁度クリスマスパーティに出席していた自分が、臨時として彼女の執事として再び任に就く事になった。引退したはずの執事の座に、就く事になったのだ。
 またか、と云う念よりも、何故、と云う念の方が強かった。自分は後継者を見つけた。主を任せられる後継者を見つけたからこそすべてを彼に任せて引退したはずだったのだ。相手も、喜んで受け入れて、彼女を一生、全力で守ると公言してくれた。
 しかし、過ぎてしまった事をいつまでも引きずる訳にはいかず。居なくなった人間をいつまでも恨んでいても仕方がない。こうなれば、彼女の為に完璧な執事を演じて、最後はあの地に自らの骨を埋めよう、と、覚悟した。
 他の執事を雇おうとしないのなら自分がやると決めて、初めての仕事。執事としての守護能力を試す為に出場したのであるが……やはり、歳には勝てなかったのであろうか? 敗北してしまった。
 合わせる顔がない。何と言って、自分は彼女に謝れば良いのであろうか? ―――もう、守護する能力がない、だから自分を首にしてくれ―――そうすれば、彼女を誰が守る。ハウスメイドのマリアでは、彼女を守る事は出来ない。メイドだと云うのに、様々な護身術を会得しているのはわかるが、全方位ではない。時に相手は多人数で襲ってくる事がある。女性の細腕では、限界があると思っている。
 ふと、顔を上げると、そこには先ほど貰った缶コーヒーが握られている。そういえば、もう何分経っただろうか? 自分が、彼女に仕える光景から、今のこの状況までをやり直した気がした。―――死ぬ前に人は未来の夢を視るとどこかで聞いた事があるが―――走馬灯だろうか? 走馬灯は産まれてからの生涯を、一瞬で振り返る事だ。時計を視ると随分時間が経っている為に一瞬ではない。
 白髪に染まってしまった髪を掻き、コーヒーの缶を開けると、音に気づいた勝利者二人―――綾崎ハヤテ、桂ヒナギクがこちらを向いて安堵の表情をした。……目の光と情熱に嘘偽りはなく、真剣に自らの身を案じてくれていたのであろう。長い間止まっていた事を、後で謝罪せねばならないな、とクラウスは苦笑した。
 世代は若い者へと引き継がれる。わかっていたと云うのに、あの時、自分がやると決めてしまった。嫌でも、別の若い優秀な執事に彼女を任せておけば良かったのだ。随分と遠回りして、事に気づく。
 静かに立ち上がって、クラウスは背中を丸めて……扉の向こう側―――外へと出ていく。
「クラウスさん?」
 最初から少し気になっていたハヤテはその背中を追いかける事にした。
 
「あの……」
 適当な所で、脚を止めて、クラウスはその少年の方を向いた。
「……どうした、青年」
「いえ……その……」
「ははは、キミの様な青年に見抜かれるようでは、ワシももう駄目だな……」
 自嘲気味に、苦笑する。
「違います! さっきの戦い……僕たちは、二人掛かりじゃなかったら負けていました……。そのそれで……あまり、落ち込まないでください」
「―――キミは、臨時執事だったね。だからわかっていないかもしれないが、執事とは、常に様々な状況を頭の中に入れて行動をしなければならない。当然、主を守る執事一人に、多人数の戦いを強いられる事も多い。圧倒的不利な状況でも、戦略を練り、主を何としても守らなければならないんじゃよ」
「……いつから僕の事を臨時の執事だと……気づいていたんですか……?」
 喉を鳴らして唾を飲むと、答えを待つ。言わなければ気づかない事柄を見抜かれており、背中は既に冷や汗が流れ始めている。後ろめたい事は何もないのだが、見透かされていると感じるだけでこれだけ汗が流れるものなのか。何と云う存在感と威圧感。
「キミは執事にしては主に対する配慮が足りない。新人だから……と云う考えではない、新人はもっとわかりやすい態度で主を守護しようとするのだが、それも見られなかった。結果、ワシはキミを執事ではなく、執事と偽っている、〝臨時〟と判別したまでよ―――」
〝……この人やっぱり……〟
 凄い。自分が足元にも及ばぬほど、凄まじい何かを持っているのだ。執事としてではない、人間として、人に仕える、人と接すると云う事を知っている。
 勝てない……今の自分では、先の戦いでは勝ったと言われても……絶対に勝てない。
 
 

               </-to be continued-/>

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