忍者ブログ

絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

IF DREAMS CAME TRUE // girl ' s butler 35





これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語―――の、執事編。










 
 
 気が散ったところでヒナギクの体が宙で捻られて、思わず手を離してしまい、彼女は解放された。無論、捻ったのは体だけではなく、竹刀も同時に動かした為に竹刀も無事だ。……相手は余程、自分の正体を知られるのが問題だったらしい。
 しかし、何が問題で正体を知られる事を恐れるのかは疑問だ。わざわざ珍妙な仮面を用意してまで、正体を隠す必要はなかったのではないのだろうか?
「ワシが出場しているとなると……確実に、年齢的な問題が出てくる! 執事といえども、もうワシも歳―――年齢を隠さなければ、馬鹿にされるのがオチよ……」
 なるほど、世間体と云うものである。……他に執事を雇えばいいものの……
「それが出来れば苦労せんよ。何せ、お嬢様は姫神が居なくなってから他の執事を雇おうとしませんから」
 後ろを振り向くと、ナギが余所を向く姿が見えた。
 ……その瞬間、ハヤテは一つの確信を得ていた。あの時、工業区域での出来事……現れた姫神と云う人間は、ナギの元執事だった。なるほど、それならあの場に現れたのも頷ける。さらに三千院家に赴いた時に情報をくれた疾風のような男―――それも、彼だったのではないのだろうか。
 自分を遥かにしのぐ実力と能力。やはり、執事と名乗る人間は皆凄まじい人間ばかりである。臨時執事である自分では勝てない、何かが存在しているのだ。金の為、教育の為、守る為―――様々な事情があるとは言え、確実に、成し遂げる意志。違いはそこか。
 だとすれば、自分も負ける訳にはいかない。自分も、確かな意志を持ってヒナギクを優勝させようとしているのである。……それは、執事のように〝主だから〟ではない。どちらかと言えば〝家族〟の為に……
 拳を握りしめて、構える。相手の事情がどうであれ、負けられないのは同一。そして……相手もそれは同じだと見える。
 仮面を着けて、再びクラウスも構えている。戦いは長引かせる訳にもいかず、無限に時間があるとも言えない。短時間での決着が望まれている。
 先までの戦いの中で、とにかく、彼は二人掛かりで掛かっても無事に勝てる相手ではない事がわかっている。何せ、木刀と竹刀、両者を同時に振るっても、その間を抜けて反撃を加えてくる―――別の一撃を放っても、得物を手で受け止められて、反撃されてしまう。武器は、クラウスにとっては意味をなさない代物だと云う訳だ。
 なるほど、ならば、二対一で勝てないのであれば、三対一にすれば何とかなる可能性もあると云う事……―――
「ヒナギクさん」
 横で竹刀を構えているヒナギクに声を掛けて、こちらを向いた刹那に、自身の持っている木刀をヒナギクに投げる。
「―――え? ハヤテくん?」
「使ってください。僕は―――素手で戦います!」
 これで、三手。木刀と竹刀と云う二本の武器で戦っていた二対一だが、この手段なら、木刀、竹刀、素手の三つの武器で戦う事が出来る。それにしても、単純な足し算だ。逆に言えば、武器を捨てた事によりハヤテは、本当に自身は自身で守らなければならなくなったのだ。
 勝算はわからない。実際にクラウスと云う執事と戦闘を行った事は一度もない為に、戦闘データも少ない。あるとすれば、先に行っていた戦闘での出来事ぐらいだろう。知り合いであるヒナギクも、戦った事など、一度もない。
 実力だけは確かだろう。巨大な壁を破壊して、先に進む―――感覚的にはそうだ。
 ―――足に力を込めて、跳躍に近い駆けだし。真先にハヤテが仕掛ける。スタートフォームは理想的であった。
 走っていく力をそのままに、足の軸を利用して、大きく跳躍。体の目の前に現れるのは、仮面の部分、つまり顔。既に手は握られていた。拳を持って、彼を襲う。
 当然、その手をつかむ為に手を開いて、待ち構えている。咄嗟に、拳にしていた手を開いて、合わせる―――と、合わさった手の部分を焦点に、大きく回転して、背中へと回り込む。落ちる時の重力と力で、手は既に離れている。同時に、体制を崩すと云う行為にも繋がる。
 刹那を見逃さない。背中を見せたまま、回し蹴りに繋げる。当然、目の前からはさらにヒナギクが二刀流を持って、襲い来る。……恐ろしいほどのアドリブコンビネーション。相手を信頼しているからこそ、成し遂げる事の出来る芸当。
 対応は一つ―――クラウスはハヤテの回し蹴りを背中で受けた。代わりに、目の前から襲い来るヒナギクの二本の得物を、素手で掴むと、振り回して、掃う。年齢に似合わず、その辺りは流石一流の執事と言えよう、凄まじい怪力でヒナギクの肢体が一瞬宙に浮くと、投げ飛ばされる。
 回し蹴りが不発に終わったハヤテは、脚を下ろして次の行動へと入る。ヒナギクは転がって、得物を構えたまま受け身を取ると、すぐに体制を立て直す。立ち膝を着いて、右手に持った木刀を目の前に突き出して、一気にまた駆ける。
 気合い一閃、今度は反撃に出るのはクラウス。襲い来たヒナギクの目の前からクラウスの姿が消えた。真横から一閃した木刀が空を斬り、左手で構えた竹刀で防御を取るべく、後ろへとやると―――上空。
「んな――――ッ!」
 出鱈目―――あろう事か、彼はあの状況から跳躍して、ヒナギクの上を跳んでいたのだ。棒高跳びのような見事なフォームで一回転して、後ろを取った。
 ―――この試合では、主はフィールドから落ちる事は許されない―――
 目を見開いて、ヒナギクは後ろを見る事もなく、走りだす。向こう側のフィールドの端から落ちても構わない。今は、状況から立ち直る為に、走る。結果、後ろからの腕からは逃れる事が出来た。
 しかし、今の動きは予想外であった……。人間と云う肉塊が、あそこまでしなやかに、且つ動けるものなのか。木刀と竹刀を構え直して、彼が立ちあがる姿を眺める。
 一方、早い内に下がっていたハヤテは、立ちあがる瞬間を逃さなかった。野球のピッチャーがリリースするように左足を軸に、右足を上げる―――螺子になる―――この体が螺子になって、改造されたスプリング。自動マシンのように左から右へなぎ払うように、踵から真横に蹴る。
 乾いた音を立てて、その靴底を手のひらで受け止める。……そこまでは予想通り。ここからだ。
 凄まじい、常人では考えられない勢いで踵から掃った脚を止められた反動を、体に乗せる。軸は出来ている。クラウスが掴んでいるハヤテの脚自身が一つの軸となり、中心になる。止められた螺子は、再び元に戻ろうと―――回転する。
 今度は外さなかった。横にした棒のように宙を回転して、掴まれた脚の逆の脚を上にあげてクラウスの顔面に直撃する。当然、そのまま体は落ちるが、クラウスも当然倒れる事になる。
「ヒナギクさんっ!」
 チャンスだ。すぐに意図に気づいたヒナギクの体が前のめりに走り出す。風を切る―――疾風のように、一気に走って、倒れているハヤテの肢体も飛び越える。
 双眼の輝きは、得物を狙う獣のごとく、彼を捉えた刹那に、牙をむく。宿りし意思は、揺るがない理想。
 跳躍―――宙を跳び、なびく風の中で躯体を動かし、獅子が獲物を捉える―――爛々と燃える決意の炎の中の一撃は、強い。
 ここに、勝敗は決した。
 嵐のような叫びと歓声の中で、静けさを取り戻した空間。唾を飲む、喉の音すら聞こえない。息をする事すら、うるさい―――爆発するのは間もなくだ。まばたきもしない内に爆発した。一瞬とは言え溜まっていた酸素の爆発は凄まじく、ドームの中をヒナギクコールで揺れ動かす。
 木刀の先端には、擦れた緑のネクタイが存在しており、わずかながら、首から外れて地面に落ちている。勝敗を決するには充分過ぎる。……木刀の先端を毛ほど動かすと、フィールド外にネクタイが飛んでいった。
 ――――――燃え尽きた、ロートルの悔しげな拳の音だけが、小さく、歓声に埋もれて放っている事を、ハヤテは逃さなかった。
 
 

               </-to be continued-/>

感想等をお待ちしております。
web拍手か、若しくは本サイトの方のメールフォームからお願いします。
ネタ、他にもこんな話をやって欲しいと云う事も受け付けます。

拍手[0回]

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © 絶望への共鳴 // ERROR : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

プロフィール

HN:
殺意の波動に目覚めた結城七夜
HP:
性別:
男性
自己紹介:
小説を執筆、漫画、アニメを見る事を趣味にしている者です。

購入予定宣伝

ひだまりたいま~

カウンター

最新コメント

[05/13 Backlinks]
[01/09 WIND]
[12/20 WIND]
[12/18 WIND]
[12/12 WIND]

最新トラックバック

バーコード

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

本棚