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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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IF DREAMS CAME TRUE // girl ' s butler 31





これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語――の、執事編。










 
 
 午後の部は十三時二十分から始まる。十二時前からの休憩を考えると、相当な休み時間だった。勢いに乗っていた人間がこれで落ちると云う事も考えられるが……それはその時点で、一流ではない。
 コンディションを整える事を怠る事はこの戦いの中では許されない。常に、命を狙われる御曹司を助けるのは執事の役目である。それをコンディションの為に助けられなかったとあれば叱責では済まない。
 ――乾いた音がその場に響いた。裸足が剣道場の木造地面とぶつかり、音をたてているのである。
 その音の主は、ヒナギクである。両手で構えた竹刀を持って走り、目標であるハヤテに容赦なく振る。対して、木刀を使ってうまくさばく彼も流石と言えよう。あの生徒会長桂ヒナギクの太刀筋を、すべて躱し、もしくは木刀を使って受ける事が出来るのだから。
 ふ、と短い息継ぎをして、脚を勢い良く上へと上げた。相手に対して肉弾戦をしかけただけでもなく、その鋭い一撃は、ハヤテの腕を直撃して、木刀を落とさせる。
 目をくれる事もなく、後ろへと跳躍。短く跳躍を繰り返して、距離を作る。――落とした時点で、木刀を再びこの手のひらに納める事は出来ないと悟る。あとは――己の肉体だけで、武装した彼女を倒すまで――
 脚を軸にして、爆発的な加速を得る。溜め込んだ力を一気に解放したのである、勢いはある。途中で止まれないと云う弱点も存在しているが、その辺りは、丁度良い所で体を止める。
 同じ力を込めた脚をストッパーとして加速を止める――走っていた分の加速も加算されている為にそう簡単には止まらない。結局速度を低下させるだけであったが、これを続ければ。
 このような動作を三.七秒の内に終了させ、ヒナギクの前に現れた時には、彼女はその竹刀を上に振り上げており、確実にこちらの脳天を捉えていた。〇.三秒の間に、一撃はハヤテを直撃するであろう。
 ならばその、〇.三秒の前に、〇.二でも〇.一でも速く、腕を上げる。受け止めるのではない、手のひらでつかむ。
 乾いた音がまた響いた。勢い良く振り下ろされた竹刀が吸い込まれるように手のひらに落ちた――いや、叩きつけられた瞬間につかんだと云うべきか……どちらにしろ、竹刀は彼に直撃せずに、手のひらに納められた。
 つかんだ竹刀をそのまま手前に引くと、ヒナギクがバランスを崩す。横をすり抜けて後ろに回り込むと、腕をヒナギクの首に回して――試合は終わった。
 本番前に冷や汗が流れる。背中を気持悪い感覚が襲う。
「……わかったわ、降参」
 両手を上げると華蘭、と竹刀が床に落ちる。それと同時にハヤテのから開放されたヒナギクは首を擦る。……これがもし、本番の戦いであったら、そしてハヤテが敵だった事を考えると、背筋が震える。
 さて、時刻はそろそろ十三時。二十分後には執事VS執事の午後の部が始まる。生徒会長の座を守る為の戦いが始まるのである。
 果たして、この学院に居る超一流の執事たちをかき分けて――勝利と云うたった一つの代物を取る事が出来るのかどうか……それが問題なのである。
 実戦を積んだ訳ではないヒナギク。同じく執事の戦いなどした事のないハヤテ。ここから先にいるのは本物の実力を持った執事だと考えられる。多くの実戦を積んだ執事たち。だがその代わりに主に実戦を積んだ事がある人間が居るかどうか――――それに対しては唸る―――解らない。
 ハヤテは記憶を辿る。
 ――一人、野々原楓。彼は一流の執事である。先も共に昼食を摂っていたが、彼の主である東宮康太郎は、前のように戦えない彼とは違う。勿論、彼一人で戦えるか、と言われれば答えはNOだ。そこまでの領域には到達していない。結果として、彼は満足には戦えないと云う事に辿りつく。
 二人、冴木氷室。彼の主はまだ幼い。初等部の少年である。あの容姿、そして体格だけで判別すれば――他にも氷室と一度拳を交えた経験の中で――戦えないと考えるのが普通だろう。
 ……それ以外の執事は不明だ。棄権した人間もいるだろう、自分が終わった後に決まった人間も居るだろう。だが少なくとも、この二人だけは上に上がってくる――そんな気がしただけだ。
 落ちた木刀を拾いあげて、息を整える。
「あ、ハヤテくん」
 思いついたかのようにヒナギクが声を上げた。
「はい?」
「私、汗かいちゃったからシャワー浴びてくるね。だから先に行ってて」
「え、シャワーって……」
「この部室、更衣室にシャワーあるのよ」
 この間、この部室に来た時にそのようなもの、あっただろうか……? 記憶を辿る。
「男子更衣室、散らかっているから……もしかしたら扉の前に色々と積みあがっているかもね」
 なるほど、それなら理解出来る。
「でも服とか――その、下着はどうするんですか?」
「大丈夫。替えの下着は毎日持ってきてるから。ほら、部活した後だと、汗掻いちゃうから、シャツは持ってきてるの」
 はぁ、と言葉を漏らす。――シャツ? と思ったのはその後の話であるが、深く触れない事にした。
「じゃあ、先に行っています。ドームの入り口で待ってますから」
「んー」
 戦いの中で乱れた執事服を正して、ハヤテは道場を後にした。
 
 更衣室と道場の間にある扉――その隙間から外を見て、ハヤテが居なくなってからヒナギクは自分の装飾を解き始める。汗でまみれたシャツを脱ぎ、バッグの中につめておく。家に帰ったらすぐに洗濯機の中に入れておこう。
 すべての装飾を解き、糸一つ纏わぬ姿になって、シャワールームの扉を開いた。
 青いタイルが張られ、乾いたタイル張りの床が――
「あれ――?」
 ――乾いてなどいなかった。瑞々しい。水が流れてまだ時間が経っていない――
 誰かが、このシャワールームを使ったと云うことだ。
「誰――?」
 居るかどうかもわからないその人間に向かって声を掛けた。シャワールームに、ヒナギクの声が響く。
 暫らく反応がなかったが、ヒナギクが歩いていくと、その足音に気づいたのか――正確には足音と云うよりは、歩く事によって響く水が滴る音なのであるが――その人物は上半身だけ、そのカーテンの隙間から姿を現した。
「……ば、ばれてもうたか……。いやぁ、まさか生徒会長が居るとは思わなかった……」
 妙な関西弁が混じった少女が姿を現した。
 
 
 道場を後にして、執事VS執事の戦いが行なわれるドームの場所へと歩いていく途中――何か、妙なモノを見た気がした。
「……」
 息を飲んでその人物の服装を眺めた。いや確かに執事と呼ばれる人間がこの学院には蔓延っているほどだ。居てもまったく不審とは思わないのであるが……その姿は、この町を出て、もう少し東京よりに行かなければ見られないと思っていた格好だ。
 何を隠そう、その場所には、その純白のドレスに似た代物と、頭につけた、カチューシャにも似たヘッドドレス――背中には、コルセットを縛る同じくリボンと、やけに目立つ。シンプルに見えても、所々にはリボンのようなものと、フリルのようなもの――多くが着けられている。いわゆる、メイド服だ。――それに、なにか……サングラスのような物を装着していた。
 思わず足が止まってしまった。あまりの風景とのミスマッチだ。最初こそ、執事が溢れているこの白皇学院に随分とミスマッチと思ってしまったものだが……執事服も、何かスーツのようなものに見える為にすぐになれた。
 だが、このメイド服は――。この学院にメイド服を着た人間を連れている者が少ない故に見慣れないのかも知れない。加えてサングラスだ、サングラスをしているメイドなど、見た事がない。
 不審者だ……、そう思ったハヤテは、ここは、何も見なかった事として、立ち去る事にした。
 止まっていた執事を見ていた、当のメイド服の少女は――
「咲夜さん、どこ行ったのかしら……」
 自分の雇い主を、落ち着かない様子で心配していた。
 
 

                    </-to be continued-/>

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