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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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ALICE / drive ACT 2 3/3






3/3










 
 
 授業が終わると、大体の人間は街に出ると云う。庭園の人間でも、それなりに気を緩める時間が欲しいとの事である。成る程、気が張っている場所である、その様な娯楽の時間も欲しいと云う事である、それは良く解る。
 時刻は十五時半。丁度間食時である。この様な時間帯に、授業は終了するのである。たった五人のこのクラスは、結局教室を全く変える事無く、教師だけが交代すると云う制度で来た。
 廊下に出て、五人で話をしながら歩いていると……廊下の真中で、一人、部屋を覗き見ている人物を見つけた。良く見ると、それはギルバートであった。
「ギルバート先生」
 真先に声を掛けたのは、フローラであった。金髪を靡かせて、そして話し掛ける姿もまた、優美で演技染みている。
 一同の視線に気が付いたのか、ああ、と言って、ギルバートはその癖毛を掻きながら、答えた。……一体、この部屋にて何が行なわれているのか、全く理解出来ないが……それにしても、廊下に出た時点から、この廊下には、何か、独特の香りが漂っているのである。
 リンが首を傾げて、その扉の隙間から中を覗くと、他の四人も、それに習ってその場所を眺める。奥に一体何が見えるのか、と云う淡い期待を抱いて、その隙間を覗く。
 どうやらこの臭いは、この奥からしているらしい。見える光景は不鮮明であるが、良く見ると、人が何人か存在していて、何かをしている。嫌な臭いでは無いのであるが、これは本当に何の臭いなのか不明だ。
 エリーヌが鼻を押さえながら、何か、と考えている。だが、この臭いの正体に気付いたのは、ギルムであった。
「こりゃ、カレーだねぇ……随分だなぁ、この臭い」
「正解だ、ギルム。オマエ、本当に鼻は良いな」
 ギルバートはギルムの肩を叩いて、それに対して、いえいえ、と答える。このギルムは、随分と鼻が良いらしい。
 しかし、この臭い、リンにはカレーに思えなかった。まさか、この国、フランスのカレーはこの様な香りで、全く違う味がするのであろうか。そう考えると、外国の料理を学んで、日本に居る大切な人達に披露するのも、良いかもしれない。
 顎を擦るギルバートは、そのまま部屋の扉から離れて行く。それに伴い、何かを感じたのか一同も離れて、その場を後にする。
 ――今頃、あの三人は地獄のカレー漬けにあっているのであろう、ギルバートは三人に同情しつつ、何故逃げる術を悟らないのかを少し情けなく感じる。これで戦績は、三十四勝である。それに対して、あそこでカレーを食べているであろう、三人は三十三敗一引き分けである。尚、この一引き分けとは、一度、ギルバート手ほどきで、難を免れた、一種の借りである。
 そんな事を考えている刹那に、後ろから背中を叩かれた。振り返ると、そこにはリンが自らの背中のスーツを掴んでいた。
「なんだ?」
「あの……今日、これから街に行きたいんですけど……」
 成る程、頼み事と云う訳だ。頭を掻きながら悩んでいるギルバートを眺めながら、リンはどうなるのかを眺めていた。そして、答えは返って来た。
「――悪いが、了承出来ない。リン、オマエは居残りだ」
「はぅ――っ」
 それが衝撃の意味を表しているのか、妙な反応である。後ろで待機している四人は、退屈そうに、不満の顔をした。だがこればかりは譲れない。
「駄目なものは駄目だ。今日オマエは居残りだ。ほら、散れ。
 リン、オマエはこっちだ」
「あぅあぅ……それでは、また……」
 手を振りながら、リンは四人と別れた。別れた四人の一同は、顔を見合わせて、首を捻らせた後に、奥へと連れられて行く少女の姿を眺めていた。
 
 腕を引かれ、廊下を歩く。この辺りは、庭園の一般の人間も居る為に、人の姿は疎らだが、居る。――矢張り、他の人間も、この廊下に漂う異様な臭いに気付いている様であるが、この臭いを作っている人間が人間の為に、誰も咎める事も無く、通り過ぎて行っていた。
 流石にエンペラーセブンの一人を敵に回そうなどと云う事柄は考えていない様である。そうした時点で、この庭園での地位は落ちるであろう、この組織ではその様な事柄が絶対である。反論出来る人間など、一部の人間か、彼の弟子だけであろう。
 ……しかし、一体自分はどこへ連れて行かれるのだろうか……そう考えながら、辺りを見渡しているのであるが、皆、ギルバートが通る度にリンの方向を見、そして、次の瞬間にはこの廊下に漂う異様な臭いに首を捻るのである。
 さて、そんなギルバートとリンであるが、そのまま近くに存在しているエレベーターに入り込み、そのままの体制で上の階まで行く事になる。上の階には、知る限りは部屋群と、一番上にはロイヤルガーデンが存在している筈である。
 鐘の音が鳴り、エレベーターの扉が開くと、部屋の扉が無数に存在している場所に辿り着いた。――部屋に戻るのであろうか? そう考え首を捻ったが、それならば自らを連れて行く理由が見当たらないのである。部屋に帰るぐらいなら、連れて行く必要性は無い、一人で行けば良いのである。
 しかし、今現にリンは連れて来られている。そして、その扉の目の前に来た。カードでロックを解除すると、乾いた音を立てて、その扉のロックが解除されたのであろう、手を掛けて、捻ると、音を立てて扉が開いた。
 その奥には、想像していた部屋とは違い、全く別の部屋であった。そこには、様々な書物があり、その中心に、少女が座っている。
「――夢崎、起きろ」
 ギルバートの声が、空間に響いた。目の前の、夢崎と呼ばれた少女が、立ち上がると、一つ背伸びをした。
「寝てない」
「それは何よりだ。……どうだ、無限書庫の中は?」
 それに対して、最悪だ、と少女は呟く。良く見ると、少女の足には枷がつけられており、この部屋から出られない様になっている。――魔力でのセキュリティが掛かっており、恐らく、この魔力を断ち切るか、術者を殺さない限りは解けないであろう、代物である。
 その様なモノに捕まっている少女は、何故こうなっているのか……それより、何故、自らをこの場所に連れて来たのか……それが問題であった。この少女と会話をするくらいなら、別段自分でなくとも他の人間にやらせる事が出来るであろうに、態々連れて来たのである。
 ――しかし、この「無限書庫」と呼ばれたこの場所は何なのか。大量の本棚が所狭し並んでおり、上を見れば天井が見えない。エレベーターの数字が示していた場所と、全く釣り合いが取れない。
 加えて、電灯が装着されていない。ずっと暗いままである。今はまだ夕刻である、夕日が差し込んで来て少しはこの空間も見る事が出来るが、これが夜になれば一体どうなるのか……想像は着く、暗闇に閉ざされて、全く見えないであろう。
 地面に散らかっている本を、一つ取り上げてみる。中は、中国の言葉だろうか? 感じの羅列がそこにはあった。もう一つ別の本を取り上げてみれば、今度は文法的に英語であろう、書物が現れた。此処には様々な言語の書物が存在している。――物語、童話、哲学、教科書、それはまさに無限書庫の名前に相応しい程の量である。
 そして、その無限の書物に埋れている少女、足枷を着けられて動けない少女。この膨大な書物に居る人物は、何なのか……そして何を考えて此処に居るのか。
 少女の容姿は、日本人に近いが、少し違う。その髪の中に別の色が混ざっている。目も少し色が違う――ハーフと呼ばれるモノでは無いか、と思った。髪形は、髪を小さく二つに纏めており、鋭い目は、中に優美さまでも思わせる程である。着ている服は、まるで人形に着せる様なドレスを纏っており――俗に言うエプロンドレスと呼ばれる物である――頭にはヘッドドレスであろうか、その様な物を装着していた。身長は、大体リンと同じほどの長けであり、この少女が先程本棚の本を取る際に立ち上がった時、リンの視線は、目の前の少女と全く同じ目線に立った為に、ほぼ同じなのであろう。
 一体、どれ程の年齢なのであろうか。通常に、リンと同じほどの身長ならば、照らし合わせて、小学生か、中学生……つまり、十二歳から十五歳の間のどれかであろう。
 本を読む彼女は、凄まじい形相をする。まるで愉快とでも嗤っているかの様に、顔を歪めて、その本を眺めて、これも同じく凄まじいスピードで読む。――一冊、辞書レベルの厚さの本を一分ほどで読み終わり、直ぐに別の本に移動する。
 ……後から訊いた話であるが、彼女のその読書スピードは眺めているだけと思っているが、完全に内容を把握し、そして論争をする事も出来る程内容を理解するとの事である。まさに、人間離れしたその脳は、どうなっているのか……解剖までは行かないが、中身を見てみたくなったのは、人の性であろうか……
 リンに関しては、この寡黙で、本を読み進める少女を、何時ぞやの少女と重ねていたのであるが……一年も経たないが、あの出来事は本当に相当前の様に感じるのである。
 ――そこで、少女が読み終えた本を地面に置き、立ち上がった。次の本を取るのかと思われたが、それは違った。彼女は、そのまま足枷の鎖を、音を立てて引き摺り、歩いてくる。
 そして、少女はリンの目の前に来る。身長は、矢張り同じ様に見える。徐に、少女はリンの胸元に顔を近付けて、匂いを嗅いでいる。
「良い匂いだ。オマエ、良いヤツだな」
「ふぇ?」
「……ククク、また面白いクライアントを連れて来たものだな……ギルバート……」
 視線をギルバートに向けると、ギルバートがそのままの表情でああ、と呟いた。
「まぁ良い……女、名前は何だ?」
「――二ノ宮、リン」
 名前を訊くなり、少女は顔を離して、腰に手を当てて、その場に立った。
「我が名は……夢崎。名前はまだ無い――」
 
 
          ×          ×
 
 
 日本とフランスの時差は八時間である。が、サマータイムと呼ばれるものが存在している為に、一時間早まり、七時間の時差となっている。
 当然、フランスで活動をしている頃合――夕刻十七時頃なら、日本では現在は朝の十時頃になるのである。様々な学校では授業中であり、此処、聖マリア女学院でも、現在授業の真只中である。
 しかし、この聖マリア女学院と言われる学院は、単位制の学院であり、中には、授業中でもその時間枠に授業が無く暇を持て余している人間も居るのである。この学院内に幾つも設けられているテーブルやパラソルは、野外での食事、茶などの為に設けられている。
 そんな中で、別の場所で暇を持て余す人間が五人居た。――そこは、生徒会室であり、この学院のブレインと言っても過言では無い場所である。聖マリア女学院は学生中心の学院であり、教師であるエルダーは、あくまで監視役に過ぎないのである。
 生徒会室には、今年の初めに新たに導入したテーブルに、五人の少女が座って、紅茶を飲んでいた。……何時もなら、この場にもう一人居るのであるが、今は居ないのである。
 二人ほど、溜息を吐いて紅茶を飲んでいるのである。残っている三人の内一人は、この様な天気も良く、そして気分も良いこの日にその様な溜息を吐いて欲しくはなかったのであるが……彼女ら二人の心境を考えれば、確かに、溜息の一つでも吐きたくなるのであろう。
「……昨日の夜は……はぁ……」
 これが、容姿端麗、成績優秀、装飾華美のかの生徒会長の姿であろうか。この姿を、今直ぐに全校総会を行い全生徒に見せる事が出来れば、確実に憧れの眼差しは消える事であろう。そして、それはその生徒会長の隣で同じく溜息を吐く、彼女の妹にも言える事柄である。
 しかし、本当にこの落ち込み様は凄まじいものである。一人の少女が居なくなっただけで、昨日からこの状態である。あの少女が帰ってくるのは三ヵ月後の夏休みの終わり頃である。それまでこの状態を続ける気であろうか? ――冗談ではない、その様な姿を見せられれば、此方側の精神もおかしくなってしまう。
「ヒナさん、林檎? その溜息、止めてくんない?」
 我慢が出来なくなったのは、髪は後ろで一つに纏めている、そして物腰は俗に言う〝お嬢様〟と呼ぶには程遠い少女、遠野由香である。溜息を吐く二人、藤咲ヒナと藤咲林檎の姉妹は、その言葉に、脱力した視線を向ける。
「……仕方ないんですわ。リンが居ない日々なんて……耐えられませんわ」
「同感です」
 ……この二人は本当に、二ノ宮リンと云う存在によって生きていたのではないのだろうかと錯覚をする程、駄目になっている。元々はその様な人間ではなかった筈なのであるが、リンと云う存在が現れてから、この少女二人は常に完璧の美少女ではなく、リンが居なければ生きていけない、禁断の中毒症状を持った少女に変わったのである。――まさに爆弾、何時爆発するか解らないのである。そしてその爆発を抑えるモノである少女がこれから三ヶ月居ないのである。もし導火線に火が点けば、消化するのは一体誰の役目なのか。
 その人物が居ないと考えれば、確かに、由香自身も溜息を吐きたくなる。
「ま、まぁまぁ、ヒナさんも、林檎さんも。二ノ宮さんだって、無事に帰ってくると思いますよ。庭園の事ですから、VIPで招いた生徒に手荒な真似をするとは思えませんし……」
 フォローのつもりであろうか? 由香の隣に座る短めの髪をした少女――見た目だけでは、凛とした、男勝りな感覚を受けるが実際の性格は全くの逆である――雨宮カレンは、その様に自らの先輩に言葉を投げ掛けた。
 が、今のこの状況下では、カレンの言葉すらも通用しない。全く効果が無いのである。二人の意気は、徐々に、衰弱して行く。この様な状況で本当に大丈夫なのであろうか? 生徒会の仕事に支障が出ないのであろうか?
「その辺りは割り切っていますから大丈夫ですわ。やるべき事はちゃんとやります」
 成る程、流石は完璧超人である。割り切るべき事は割り切り、やるべき仕事はこなす。しかし、ならば何故、もう行ってしまった少女の事を、仕方ない、と割り切る事が出来ないのか。謎な所である。
 カレンの横で、黙々と弁当を食している少女、那古望も、実際は余り落ち着く雰囲気では無いのであるが、彼女はこの二人ほど騒ぐ人間では無いのである、心の中で少し心配をしつつ、此方側の学業に精を入れなければならないのである。
「……今頃は、家で接続をしている頃でしょうかね?」
 ふと、林檎がその様な事を呟くと、接続? と由香が首を捻る。
「ええ。フランスへの国際電話の為に、そしてテレビ電話の為に、インターネット等々の接続を業者に頼んでいるので……」
 ……この二人は金の使い所を間違えている。由香は頭を抱えた。
 
 
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