静かさはわずかな綻びを作る。
結城七夜です。
……拙いほどだるいです。つまり風邪を引いた可能性が大と云うワケですね、解ります。
昼間は元気だったのに、夜になって突然ダるくなる事ってあるんですかねぇ。ただデュエマの新しいデッキを組んでただけなのに……。
まぁ今回の風邪は鼻水と頭痛ですな。
頭痛は毎回の事として、鼻水は自分にしては珍しい類。いつもはそこに咳が入るんですけどね。うぅーむ。
とにかく今日は早く寝たいので、縮小更新です。
ただ、ハスミさんへの小説は忘れません。
(2/悪霊残留思念)
………………………………刻は、「拾玖の刻」を迎えてしまった。シュタインは暗くなった道を照らす為、ライトの魔術をなるべく魔力を消費しない程度に使って先へ進んでいた。
目の前を歩く、事の張本人のテレシアは右手にボックスを持ち、左手に小型ライトを持って先に進んでいた。後ろでシュタインがライトの魔術を使っているのである故に、足元だけ最低限照らして、前へと進む。
ちなみにこの数時間でボックスの中には充分な魔物、動物が入れられており、これ以上どうして森の中で獲物を探しているか不明だ。ボックスの中にまだ入るのであれば話は別だが、先ほど捕まえた魔物など、入れるのに十分ほどの時間を要した。もうボックスには何も入らない。
それだけあってまだ彼女は、良い、とは思っていない。一体何を求めて森をさまよっているのか、そろそろ目的を失いかける。
「ねぇテレシア、まだ集めるの? もうボックスに入らないんじゃ……」
たまらず問い掛けると、テレシアが足を止めた。そして、振り向く。
「……気づかなかったのか?」
「え?」
いつにもなく―――珍しく真剣な顔をしている彼女の顔が目の前にある。
「―――わたしたちはつけられているんだよ」
「嘘ッ!?」
予想外の事実を告げられてシュタインが後ろを振り向くと誰も居ない。冗談じゃないかと苦笑しながら前を見直すと、呆れた顔のテレシアが居り、瞬時にいつもの嗤い顔に戻る。そしておもむろに、歩きながら説明を開始した。
「ったく、これだから。―――良いか? 最初見つけたグールには妙な感覚があった。まるで、怨念じゃなくて魔力で操られているような痕跡があった」
「え、それってどういう事?」
「つまり、意図的にグールにされた可能性が高いって事だよ、頭悪いな阿呆」
「い、意図的にグールに!? そんな事が……」
出来るのか?
グールとは述べたように、強力な思念によるもの。思念を植えつける催眠の魔術は多く存在しているが、それでも強固な人間の身体を、グールに陥れるまでには至らない。
しかし、テレシアは無駄な事は滅多に言わない主義だ。となると本当にあのグールには何かしらの痕跡が存在していたと云うのであろうか?
そしてもう一つの疑問。つけられている……一体何者が後ろからつけているのだろうか?
疑問は絶えないが相手の姿は見えない。それにこの辺りは何回も来た事のある場所。つまりテレシアの設置した機器の結界があるのだ。ここで戦いを挑んでくるなどあり得ない。完全にこちら側有利なようになっているのだから。
急ぐ。森の先に進む彼女の背中を追いかけて行く。追いつかれるその前に。
だが正直な話、シュタイン自身は人につけられている気配は全く感じていない。妙な違和感はこの森に入ってから常にあるモノで、いつも来る時にはこの違和感に悩まされているのだが、最近は慣れて来ていた。
―――もし、この違和感がそれだと云うのであれば、自分たちは初めてこの森に入ってからつけられている事となる。今まで相手側はつけているのにも関わらず何も手を出さず、見るだけに留めて置いたとでも……。あり得ない。
そしてその事実を、テレシアも感じているはずだ。いつも飄々としている彼女が今日このまま森の奥地へと向かって行くのは―――
そこまで思考して結論に至る。そうだ、今日は今まで行って来た一定のプロセスの中で唯一違うプロセス―――つまり、操られたと思われるグールがこちらを襲って来た―――があったからこそ、警戒しているのだ。
喉を鳴らして唾を飲む。念の為、剣を半分柄から出して警戒。
……時は来た。それは、突然目の前に現れた。
「……あ」
シュタインが抜けたような声を出した。剣を出す前に現れたそれは―――
「……趣味悪いな」
―――思わずテレシアが毒づくほど、奇怪な姿をした人間だったのだ。
変態してしまった体の至るところは、グールとは違う。機械兵器が装着され、体中から炎のような何か青白い光を放っている。上半身裸のそれには、胸のところに十字型の傷がつけられている―――そこから、魔力を感じるのだが……
〝何か違う―――?〟
魔力とは思えぬ、何か、もっと違う代物があると感じる。
突然の邂逅に驚き、準備する暇など無い。
右手が挙げられた刹那に、青白い光が槍のように尖り、放たれる。しかも無数、二十を超すほどの量を一気に放たれたのだ。
反応に遅れた二人だったが、防御する術を持たぬ訳ではない。テレシアは白衣を翻して魔力を通すと―――硬化。
しかし……
「通り抜ける……っ!?」
舌打ちして、体の中心を軸にして回る。横に転がって、放たれた光に対する対処は、避けるか、隠れるしかないと悟るやすぐ木々に隠れる。
観察すると、どうやら木々には直撃している様子。ただ、魔力を通した白衣を通り抜けた原理が不明。魔術兵器であろうとも、実態のある代物を抜ける事はどう考えても不可能だ。
一方のシュタインも持ち前の戦いの勘でそれを悟っていた。剣で防御しようと思ったのであるが、剣の柄を握り締めた時点で通り抜けていたのを確認して、木々に逃げ込んだ。
だが、シュタインはテレシアよりも情報量は多かった。
柄を通り抜けた事により掴もうとしていた手の甲に先の一撃をかすってしまった。傷口は浅いが、少し血が滲み始めた。……人間には直撃すると云う定理をもう一つ、見切っていたのである。
口を使っての会話は出来ない。相手がただのグールであったとしても、人間がどこに居るか、声を出せば解ってしまうだろう。今は、こうしてここで静かに待ち相手の魔力弾数が尽きるのを待つしかない。
―――――しかし、待てども、尽きる気配が無い。どこかで、機械的な何か音が聴こえる。観察していたテレシアは後ろの機械を眺めていた。
仮説であるが、あれはもしかすれば魔力を増幅させる装置なのかもしれない。もしくは、魔力によってあれが動き、魔術を放つ装置。どちらにしろ、魔力に対する何らかの中間装置である事に間違いはなさそうだ。
あれを破壊する事が出来れば、動きが止まるかも知れない。なればこちらのもの。一気に決着をつけて機械を分解させてもらうとしよう。
解ってしまえば行動は早い。一撃は確かに脅威だが、一気に片づけば良い話。
魔方陣を展開し、詠唱を始める。相手に気づかれるその前に一気に式を作り出し、証明をして、魔術を展開するしかない。……今回は、前のように薬品を使った攻撃は出来ない。恐らくあれは防御にも応用が利くだろう。
ならば、こちら側の魔術が、相手の魔力質量を超えれば良いだけの話。そうすれば貫通して対象物に魔術を直撃させる事が可能だ。
後ろでその詠唱の瞬間を眺めていたシュタインは、時間を稼ぐ役割を必然的に負う事になるのだが……
〝剣は使えないん、だよね〟
魔術しかない。しかも簡単ですぐにでも放てるような代物を使うしかない。
剣は杖の変わり、魔術を行う時彼は剣を媒体にして魔術を展開する。尚、魔方陣は必要無い、剣に必要な魔方陣を刀身に刻んでいるのだからこれが代わりになる。一気に工程を作って、展開に必要な魔力を剣に注ぐと刀身に魔術が定着させられる。
大きく振りかぶった体制のまま木から跳び出すと、向こう側の視線がこちらに向かう。
真横―――よりも少し上。斜め上からそのまま一閃、下に下ろすと刀身より添付された魔術が姿を現す。当然、簡単な魔術で、すぐにでも展開出来る故に威力は低いが、相手の注意をこちらに向けるには充分過ぎる一撃だ。
案の定、途中で青白い光の槍と交錯し、四散した。が、その中を突き進む槍がシュタインの元にたどり着く頃には彼は木の後ろに隠れていた。
〝危なかったぁ―――っ!〟
心臓がある上の胸に手を当てて、深呼吸。あとこれを何回繰り返すか……心の中で覚悟を決めて、もう一度詠唱を始める。下手をすれば、命はない。だが向こう側の槍に直撃しても、どちらにしろ、命はないのだからリスクに変わりは無い。
もう一度木から出て、魔術を添付した剣を真横に振る。
一直線に進む魔術の中―――彼女の魔術が完成した。
「ひぃぃいいいいっ!」
悲鳴にも似た叫びをあげて、シュタインは避難をする。危なかった……
そのかいはあった。彼女の魔術が完成した。ならあとはそれを放つだけ。そのまま立っていて彼女の魔術に巻き込まれたのは記憶に新しい。
魔術を放つ本人である彼女は最終調整へと入る。
「―――設定感度、良し」
目がまるで銃を放つ時のスコープのような役割を担う。
「―――相手の動き……微弱」
射線上の敵。動きが少なければ少ないほど、直撃する確率は上がって行く。
「目標セット、しかし、当る確率、そして射出後の安定―――おおむね良し」
……動く。
腕。
腰。
足。
安定したスローイングは、理想的な斜め上からのフォームで……発射。
―――凄まじい音が響いて、敵と同じ青白い一撃が姿を現した。
違うのは、発射された魔術は、彼女の設定した魔方陣の簡略化された代物を中心に、四つの羽にも似たマークが追加され、凄まじい勢いで奔っている点だ。
奔った一撃は、光の線を引いて、真直ぐに、一つの標的を目指す。質量は多く、迸る魔力は滲み出る。即興で作ったにしてはなかなかの上出来だったが、綻びは仕方ない。願わくは、直撃する前に、防御を破る絶対ラインを下回らない事だ。
極光、轟音。
耳に響く最上級の轟音によって木々は揺れ、巻き起こる魔力の奔流は、まるで竜が唸っているかのようだ。……周りに居る魔物を、そして動物を逃がすには充分過ぎる。
当の一撃の方は―――絶対ラインを越えているか、下回っているか。今のところ、魔術は変形した青白い槍とぶつかっていた。
魔力同士のぶつかりは強大なうねりを作り出す。中心点から歪んだ魔力が放出し、それが竜のような咆哮を放っているのだ。
五分と五分。今の状況だ。先に進むのはいつか……固唾を飲んで見守るシュタインと、確実に突破出来ると自負しているテレシア。
―――だが、今回ばかりは、シュタインのネガティヴな思想があっていたと言える。
捻じれて行く魔術と魔術がようやく動く時、見えたのは相手の防御していた青白い極光がこちらに向かって動く光景であった。
to be continued......next week
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