男の最後の戦い――
すべてが終わった。
四月一日は消えた。もう二度と来ぬ、光の向こう側の幻想となった。嘲笑うのなら嘲笑えば良いさ、愚かなと呟きたいのなら言えば良いさ。それでも、この物語は、真(まこと)に、『神聖エニシダ帝国』を築こうとした、たった一人の、哀れな男の物語である。
一人の青年の名前と体を借り、将軍と名乗った男は、最後に、元に戻してすべてを托して此の世を去った。一度でも良いから手に入れたかった理想郷。それらを完遂出来た彼は最後に、安心した、とだけ呟いて消えて行った。勿論、それを、裏側で観察していた結城七夜が知るはずも無い。彼は何も知らない。
只一つ言える事は、二人は互いにその世界を望んでいた事、此の世に具現化させようとしたこと。それだけである。そこに、嘘偽りは存在していない、確かな事実のみが、存在しているのである。信じて欲しい。
「―――長い夢を見ていた様だ」
男はそう言った。
「夢かい?」
「……ああ……とても、素晴らしい夢を見た」
乱れた髪を直して、男は暗闇に解けて行く体を見て、隣に居る青年に視線を向ける。何故か、その青年の顔は、満足そうな顔をしていた。
「―――――後は……頼んだぞ」
「ああ。それまでは―――――夢の続きを………」
彼は眠る。
何時か目覚めるその時まで。
それまでは、架空の夜空で、架空の月を見て――嗚呼、今宵も架空の夜空、架空の月は綺麗だ。
何時か見た夢は儚くてキレイで……とっても、美しく見えたんだ。
「彼女」が描くセカイがスキだった。それに憧れた。それだけだった。
嘘は消える、カオスになって、ガスの様に……消える。
それが運命だ。抗う事は出来ない。
さようなら、ナナヤ・Y・ロフォカの夢。
せめて、夢の中だけでは、その理想(ユメ)の続きを……
―――――4月1日、エイプリルフール………完結。
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