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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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IF DREAMS CAME TRUE // come on sweet and cool days 8




今助けるシナリオが残されているのであれば今がその時。
外れた運命を元に戻し、少年は助けに向かう。


それがたとえ、正規の人物ではなくとも、この世界においてそれが少年の事実――



これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。




 身代金は、三千院家の財力を考えれば別段問題のない、それこそ、道端に落とした一円玉程度にしか思わぬ程であった。警察の力、銀行の力を借りて事件を解決する一般市民と違い、三千院家は豪邸であり、権力者である。警察の上に顔がきくであろう、それに咥え、銀行に頼らずとも財源はある、有能な人材も存在している。全く問題は無い。
 金を持っていくSPが隙を突いて犯人を捕まえてしまえば、後の厄介事は警察に任せれば良い。金をやると言えば、警察の上の連中は喜んでその要求を受け入れるであろう。そして、世間に対する警察の完璧性を示しつける良い機会でもあろう。
 だが、問題は三千院家の別の所に存在していた。
 誘拐犯はかなり突発的に行なったとは思えない程調査をしており――人間、追い詰められればなんでもするであろう――三千院家の娘である三千院ナギが強大な敷地面積と財産を誇っている白皇学院の生徒だと云う事も調査しており、その生徒会長が桂ヒナギクと云う人物とも解っていたらしい。……尤も、桂ヒナギクの件に関しては、白皇学院が提供する冊子に多くコメントやコラムを書いている為に多くの人間が知っていることであろう。
 そして誘拐犯が金を渡す際に捕まる事を恐れて三千院家に要求した事は、身代金交換の人間に桂ヒナギクを要求したのである。
 無論、その様な要求を受ける訳には行かなかったが、如何せん相手は切羽詰った人間である。三千院ナギの安全面を考えると要求を飲むのが打倒である。便りであった筈の三千院家、三千院ナギの執事は先日暇を出されている。
 ――早速、SPとマリアが桂ヒナギクと接触を試みる事にした。町中を歩いていたところを捕まえ、事情を説明、協力を求めた。
 幸い、桂ヒナギクは一回の頷きで了承してくれた。マリアは頭を下げ、SPは車に桂ヒナギクを乗せ、一旦屋敷に戻る。

「本当になんとお礼を言っていいやら……ヒナギクさん、よろしくお願いします」
 再びマリアに頭を下げられ、ヒナギクはいいえ、と返す。身代金の入ったバッグである。一千万円が入っていると云う。一千万円の重さはそれ程ではない、只、一億円まで行くと既にかなりの重さを誇る事になる。今回相手が要求したのは一千万円である。
 一千万円の入ったバッグは、犯人の要求通り黒いバッグである。肩に掛ける為のベルトが装着されており、それを弄りながらヒナギクは自らにあった長さにする。
 相手が取引の場所として選択したのは東京港に存在する工場区域であり、遠くには、レインボーブリッジが見える。シャッターの閉まった多数の建物が陳列している。連中は、この様な場所で取引しようと言うのである。
 温かい紅茶に牛乳を入れたミルクティーで体を温める。車の中で取引の時間まで待つ事早三時間が経過している。時刻は既に八時半を回ろうとしている。約束の時刻は九時であり、まだ時刻的に余裕はある。今の内に心の準備をしておくのである。
 ……それにしても。ヒナギクは内心そう呟きながら一千万円の入ったバッグを眺める。
“こんな紙切れで、人っておかしくなるのね……”
 紙切れと言ってしまってはそれはそれであるが、確かにそうである。古来では、この様な金銭の取引ではなく、皆協力をし合い、その場にある物を分けて暮らして居たものである。それが何時からか独占したいと云う事で争いになり、そして交換材料として紙幣が生まれた。全てがそれで取引される中、今度はその紙幣を巡って理不尽な犯罪が繰り返される。
 そう、それは自らと、あの綾崎ハヤテと同じ事が言える。――金銭と云うモノに振り回された挙句、不幸に落とされた。
 取引上、必要だと云う事が解っていても、ヒナギクにはこの目の前にある一千万円と云う紙幣に対して複雑な感覚を感じていた。
 外は暗い。街灯はこの辺りにはつけられていない。元々、この様な工業区域は昼間に稼動するのが常識であり、夜は節電の為に閉鎖されるのである。街灯などと云う物は要らないのである。必要ないものを作っても、税金や市税の無駄である。
 目の前のマリアが何回目かの溜息を吐いた。今は会話は控える。この場で会話をした所でマリアの心配は消えない。この取引を終えた後、会話をするべきである。
 そうして時が流れ、車の扉がふと開けられた。サングラスを掛けた大柄の男がそこに立っており、時間を告げていた。既に、時刻は八時五〇分である。後一〇分で、取引が始まる。

     ■■■

 静止を振り切ってハヤテは走った。ヒナギクがその三千院家の取引の人間として犯人に指定された。義母親から聞いた時は血の気が失せた感覚を覚えた。そして気がつけば駆け出していた。
 ――ヒナギクに居候させた貰う、それだけでも大きかった筈だが、あの家に家族として迎え入れられた……礼をすると云う意味ではなく、家族として当然の事をする。それが今ハヤテを駆り立てる感情である。
 只取引をするだけ。それだけであり、只金を渡すだけ。それだけだと云うのに、ハヤテの心の警笛は忙しなく鳴っており、鳴り止まないのである。――嫌な予感がする。それだけである、何の根拠も存在していない。
 そして今ハヤテは三千院家の家の前に立っていた。調べるのは容易かった。巨大な屋敷で聞き込みをすれば直ぐに見つかったのである。丁度練馬の真中辺りに存在している屋敷であり、見た目本当に東京に存在している敷地とは思えない。
 だがその様な事は今些細な事でしか無い。今この三千院家に来たのは、知っているであろう、取引場所を訊きに来たのである。それだけは幾ら調べても無駄であった。時刻は七時半、既に取引は始まったであろうか? 嫌な感覚である。
 三千院家の巨大な門の隣に存在しているインターフォンを押した。……暫らくして、留守を任されていると言う年齢は定かでは無い男が現れた。
『何の用かね?』
 男は静かにそう問うた。ハヤテは固唾を飲み、そして言葉を発した。
「……桂ヒナギクさんの……家族です。ヒナギクさんの居所を教えてください」
 呆れた様な溜息。それがインターフォンのスピーカーから漏れた。
『キミ、そんな事で此処まで来たのかね?』
「……そんな事ではありません……僕にとっては大切な家族です」
 再び呆れた溜息。この男、融通が効かない男だと、ハヤテは感付いていた。こうしている暇は無い。一刻も早く場所を確認しなければならない。
『それに、キミが本当にあの桂家の人間だと決まったわけでは無い。場所を教える事など到底出来ないな』
 確かにそうか……現実的に考えてそれは無理。見知らぬ人間に、突然機密を教えるほど相手も莫迦では無い。
 ――ではどうする。場所が解らない。結局賭けに負けたハヤテは、ヒナギクの場所も解らないまま、このまま待つしか無いのか……いや、それは出来ない。
 諦めかけて背中を向けた刹那――

「……工業区域」

 そう言葉が響いた。突然のその言葉にハヤテは戸惑うものの、三千院家の柵の向こう側に一人の人影がある。
「聞こえなかったか? 東京港の工業区域。取引開始は九時。今から急げば、少し遅くなっても、何とかなるかも知れないぞ……」
 その言葉を信じるか信じないか。だが、今ハヤテにある宛てはそれしか存在していない。ならば駄目元々で掛けてみる、そう賭けるしか無い。
 瞬きしていたその間に、目の前の人物は消えていた。只、風だけが突き抜けており、幻聴かどうかを疑ったが、それは無いと云う確信が何故か存在していた。
 行くべき場所が解ったのであれば、後は行動する事は簡単である。踵を返し、駆け出す。時刻は七時四五分、走れば、商店街まで掛からない。そして八時までに電車に乗れば、品川の方まで行く事は出来る。――無論、片道のみであるが。
 後は品川を降りてからである。工業区域と雖も相当数存在している。そして敷地面積も中々にある。この中からその取引場所を見つけると云う事は至難の技である。もし、シャッターの閉まっている工場の中で取引をやっていたら見落とす可能性もある。
 だが今は先ずその工業区域に行く事が先決である。相当数存在しているなら、時間が許す限り、走って探す。それだけである。あとは何とかなるであろう。
 駅の中で切符を買い、電車に乗り込む。揺られている間の時間は落ち着かないものであったが、ハヤテは堪えた。

 乗換えを繰り返し、ハヤテは品川に辿り着いた。……時刻は後、一〇分で九時になろうかと云う時間帯。取引は、後一〇分で始まる。
 兎に角、目の前に広がっている光景のどこかに、ヒナギクは存在している。急がなければ、何か嫌な感覚が、先程から続いていた嫌な予感がいっそう強くなる。
 ……しかし、何故相手は此処を選んだのか。見付かりにくいと云う事柄も一理ある。だが見付からない場所と云うのであればもう少し都会でも問題ないはずである。この様な建物が多い場所だと、逆にプロである警察に包囲されやすいのである。
 無論、只の考えすぎであり、単に隠れやすい場所がこの様な場所と云う純粋な思考と云う事もある。だがもしもの事を考え、何故この場所を選んだのかを考える事にする。そしてそれは走りながらでも可能な事である。
 さて、考える事にする。この場所に居て、誘拐を考える人間が自らに有利になると思考できる事柄。理由。物陰があると云うメリットは先程思考したとおりである、もう一つ、存在する理由は……
 と、そこで一つ、重い、低い音が響いた。
 ……そうか、ハヤテは納得した。
「船で逃亡か……。犯罪者集団が海外に逃げる為の船があるって、昔聞いた事あったな……」
 無論、後一歩でハヤテはそれに乗るところだったのであるが……
 しかしあくまでこれは仮定である。もし本当に船で逃げる気なら、一刻も早くヒナギクを見つけなければ。犯罪者がここまで来て、大人しく人質を返す保障など何一つ無いのである。


     ×          ×


 九時ジャスト。
 予告通り、工場の中からその二人組は現れた。……切羽詰った顔である、矢張り、金に躍らせている……ヒナギクは渋い顔をした。
 その後ろ、二人組の後ろに手足をロープで縛られ、そして口にはガムテープを張られた少女が椅子に腰を掛けていた。暴れてはいるものの、少なくとも、食事は与えられていたのであろう。床には、それを物語る即席ラーメンの袋が散乱していた。
 ……無言で歩き始める。後ろの物陰では、SPとマリアが待機している。いざとなれば強硬手段も取る。只相手が武器を持っていない事を祈る。現在この法治国家日本において、幾らSPが銃を持っているとは言え、下手に発砲すれば処罰されるのである。
 一定距離に辺りで、片方の男が止まれ、と言った。指示に従い、止まる。
「まさか本当に来るとはなぁ、兄貴」
「ああ……それより、ブツは偽物とかそう云う類じゃねぇだろうな?」
 焦っているとは言え、冷静に中身を判断しようとする思考能力はあるらしい。ヒナギクはバッグのチャックを開けて、中身を見せる。一枚が風に乗り、男の足元に落ちる。
 男がそれを取り上げ、持っているペンライトや、ホログラムを確認する。――偽物では無いらしい。それを確認した男はバッグを寄こせと言う。
「勿論。でも、その前にナギを返して」
 男が顎をしゃくる。片方の男がナギのロープを解き、ガムテープを剥がす。
 と――
「全く、人の口を塞ぐとは……無能だな、その程度で私が黙ると思ったのか? だいたい――」
 男が舌打ちする。
「――兄貴! コイツ……!」
「解ってるよ! ったく、黙らないからガムテープつけたんだろうが!」
 成る程、ヒナギクはこの間ナギに聞いた、誘拐した犯人全てに文句を云うと云う行為が本当だと云う事を知る。
 ナギは言うだけ言い、男の横を通り抜け、ヒナギクの元に来る。
「すまないな、三千院家の失態だ」
「別にそんな事ないわよ。今は貴女が無事でよかったわ」
 漸く安堵の様子を見せるヒナギクに、ナギは少し困ったような顔をする。恐らくこの様な言葉を余り聞かないのであろう。
「さて、じゃあ私もこのお金渡してこないとね」
 歩いて男の手前に来て、現金の入ったバッグを下ろす。――これで、全て終った。後は警察か後ろで待機しているSPが来て、この二人を捕まえれば全く問題は無くなる。
 そう思った刹那に、ヒナギクの顔色が変わった。
 ――腕が……掴まれた。
「な――!」
 ナギの小さな叫びが響く。顔色を凛とした顔に変えて腕を捻じり、その掴まれた手を解く。……だが男達の足は止まらない。一歩、また一歩とヒナギクに近付き、腕を再び掴むと、顔面に何かを突きつける。
「――っ!」
 マリアの嫌な予感は的中したようである。男の手には銃が握られていた。随分と最新式の銃型から、必ずバックに誰かが着いているのであろう。でなければこの様な男達に作戦実行は不可能である。
 銃の登場により、興奮したSPが壁から背中を離して出た。だがそれが逆効果を招いたようである。男は腕を回してヒナギクの首に腕を絞めつけ、そして銃でナギを狙った。かなりの至近距離である。たとえ誤差が出たとしても、広く、狙いやすい腹なら直撃は可能である。
 こうしてSPは動けなくなった。マリアは携帯電話を取り出し、電話を掛ける。警察に連絡はしておいたが、何時まで経っても訪れない事に焦っていた。掛けるのは警察ではなく、一人の男の携帯電話にである。
『――おかけになった電話番号は、現在使われておりません――』
 虚しかった。マリアの携帯電話を握る手がゆっくりしたに落ちて、携帯が乾いた音を立てて落ちる。
 鈍い音がして、銃が軋む。既に引き金に指を掛けている。
「さぁ来て貰おうか。二人とも……もう少し、稼ぐ為に、な」
 ……矢張りこうなるか。ナギは下を向いて心でそう呟く。
 今まで出会ってきた誘拐犯全てがこれだ。一度犯罪を犯した人間は例外を除いて再び繰り返す。犯罪者と云うレッテルを貼られてしまった彼らにとって、一度と二度、変わらないのであろう。

 ――だが、二人の誘拐犯は二つだけ、ミスを犯した。

 一つは、物陰に隠れる事の出来ない工場外にて取引をした事。
 二つは、この場に居る人間がこれだけと誤認したことである。

 工場の屋根が軋んだ音を立てた。
 後ろを向いた時には、人影が四肢を広げて、まるで獣の様に降下し、腕で男の肩を掴み、その落下の勢いで男を押し倒した。人影は肩に手を着いた刹那に一回転し、地面に降り立った。
 だがそれだけでは終わらない。刹那に体制を建て直し、体を屈ませ地を這う蛇の様に駆ける。後ろで呆然としていたもう一人の男の足を払い、体制を崩した瞬間、手の平で掌――顎を突き上げた後に綺麗に回し蹴りを決める。――鈍い音が男の首から漏れた。
 立ち上がる人影は、ヒナギクを見つけると――
「大丈夫ですか? ヒナギクさん」
 そう言った。
「ハ、ヤテ――くん?」
「はい」
「どうして?」
「嫌な予感がしたんで……いや苦労しました、此処を探すのに……」
 ――事は数分前に遡る。
 見つける事の出来ないハヤテが屋根の上に上がり、辺りを見渡そうとした時、この静かな空間である、多人数が歩けば足音が響く。それをハヤテは聞き逃さなかったのである。上がりかけの屋根を一旦降り、そして意表を突くために屋根から飛び降りたのである。
「……この人を上手く捕まえなかったら死んでました」
「……ハヤテ君ってば……もぉ!」
 しゃがみ込むヒナギク。安堵したのであろう。
「ありがと」
「いえいえ」
 だがハヤテも爪が甘かった。肩を掴んで倒しただけでは、その男が気を失うわけでもなかった。呻きながらも、痛む背中を押さえながら――
 その銃口はナギに向かっていた。
「――え?」
 発、と乾いた音を立てて銃弾が一直線に放たれた。
 流石に、銃弾を防げる装備など存在していない。飛び込んでナギを倒そうにも、距離がありすぎる。
 万事休す――
 ――と思われた。
 だが銃弾がナギに当たる事はなく、地面に直撃した。
「……オレに背中を見せるな。死にたくなければ、な」
 その突然現れた人影は、ナギを救出し、同時に、男の背中に、ナイフとフォークを突き刺していた。深々と刺さるそのナイフとフォーク、隙間からは血が滲み、流れる。
 男はそのままナギをSPに預け、再び姿を消した。――まさに、一瞬、疾風の如くの速さであった。

「――姫神、か」

 ハヤテは落ちた紙に書かれた、『姫神参上』と云う文字を呟いた。



               to be continued......


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意見等も遠慮なく。
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