忍者ブログ

絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

IF DREAMS CAME TRUE // come on sweet and cool days 10





やり直しは必ず訪れる。
楽しいやり直しは夜の舞台、クリスマスパーティは始まる。

一つの事件を終えた彼は、これからも生きる為に道を進む。



これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。







 近くの商店街は、朝だと云うのに活気があった。流石は練馬の中心街である、東京にあると云う事だけはあり、人口はあるようである。
 その中で、今夜の二日遅れのクリスマスパーティを行なう為に様々な食材を買い込んでいるのが、ハヤテとヒナギクである。――クリスマスも終わり、既に年越しの雰囲気が漂うこの商店街では、クリスマスの道具や、食事、ケーキがほぼ半額に近い価格で売られており、人とは過ぎれば直ぐに忘れるものか、と呆れ半分、寂しさ半分である。
 先ずは食材だ。ケーキを買うのは最後で良い。それにクリスマスツリーは恐らくまだあるだろうし、義母が雰囲気の問題でセットしているであろう。
「何食べますか?」
 ハヤテの言葉に、ヒナギクが少し悩んだ様な表情をする。
「……クリスマスか……定番の食べ物って……」
「七面鳥とか、フライドチキンに……なんか、肉類ばっかですね……」
「そうね。じゃあ、ケーキ以外は普通で良いわね」
「ですね」
 その様な会話の後に、ヒナギクの好物と聞いているカレーとハンバーグを作る事にしたハヤテは、先ずは精肉店へと赴く。そこでせめての鶏肉と、ひき肉を買い込む。次に、カレーを作る物であるが、カレーは昨日冷蔵庫を開いた時に食材が一通り揃っていたので、問題ないと判断した。
 一方のヒナギクは、ハヤテの好きな物を作ろうと思っていたのであるが……そういえば、ハヤテの好物を訊いた事が無かった、と思い、ハヤテに訊いて見る事にした。
「そうですね……なんでも食べますね。昔は両親も貧乏で、夜逃げばかりしてましたので、好き嫌いなんて言っていれば餓死しましたしね」
 ……その答えを聞き、ヒナギクは自らがかなり恵まれた環境に生まれた事を実感し、そして兎に角、なるべく美味しいものを作ろうと決意した。
 食材が一通り買い終えたところで、このまま家に帰ろうとする。もう他に買うべき物は無い。クリスマスパーティと言っても結局は食事を家族と楽しむと云うモノである。……他にも、子供達にはクリスマスプレゼントと云うものが存在するが……
 ――そこまで考えて、クリスマスプレゼントの事を考え始めた。ハヤテは首を横に向き、ヒナギクの横顔を眺める。それを考えると、ヒナギクの義母にも何かプレゼントをしてあげたいところである。だが自分は無一文の中で桂家に拾われた人間である。金など無く、アルバイトの収入もまだ貰ってはいない。金の居るプレゼントは出来ない。
 だからと言って、まだ居候して一週間も経っていない。それぞれの趣味も殆ど解らない中で――唯一、義母に関しては少し垣間見えている様な気がするが――何をプレゼントして良いのか解らないと云う事も理由の一つである。
 ヒナギクの顔を見れば、かなり綺麗な人物である。髪留めなどは要らないであろう。ならば他に何が喜ばれるか。
「ヒナギクさん」
 兎に角訊くのが一番である。さり気無く、悟られぬ様に。ハヤテの方を向き、ん? と問う。
「えーと……何か欲しい物って……今有ります?」
 質問にえ? と言って首を傾げる。そうして少し考えた後に、二つ程頷き、
「ないわよ」
 と答えた。
「……いや、あの、一つぐらいありますよね?」
 慌てて再び問い掛けるが、ヒナギクは無いの一点張りである。……まさか悟られた、と思い話題を変えようと思ったが。
「ハヤテ君。私にクリスマスプレゼントとか考えていないでしょうね?」
 先手を打たれた。
「えーと……」
「……はぁ。もうそんなの良いわよ。それに、ハヤテ君まだアルバイトのお給料とか貰ってないんだから……」
 尤もな事を言われて、ハヤテは確かに、と思いながら頭を抱えた。今は矢張り金の問題がある、それを解決しない限りはクリスマスプレゼントなどと云う物は用意出来ない。
 諦めて、ハヤテはせめてもの配慮で、今日の食事を全て一人で引き受ける事にし、それだけは譲らなかった。

          ■■■

 下からはかなり良い匂いが漂って来ている。ハヤテが今頃食事を作っているのであろう。ハヤテの料理の腕はこの数日で知っている、任せても全く問題ない上に、台所の手入れも欠かさない。義母のあの料理後の台所の汚さとは全く正反対である。
 しかし……ヒナギクは昨日の事を考えると本当に溜息を吐かざるを得ない。無論、溜息を吐く理由は、またしても、下の台所で料理をしている人間なのであるが。
 あの時、あのままハヤテが現れなければ両方連れ去られていた。その中を、ハヤテは身を挺して助けに来てくれた……。そして、彼の境遇は自らと同じ。……気にしすぎていると云う事はこの間も理解していたが、多くの事をわかり始めて、更にヒナギクがハヤテに対する感覚が早くも変わり始めていた。

『――大丈夫ですか? ヒナギクさん――』

 その言葉がリフレインする。頭を掻きながら、忘れようとするが、結局忘れられずに何時までも記憶に残り続けてしまうのが何時ものヒナギクのパターンである。
「――おかしいわね……私……」
 あの時のハヤテを、「格好良いヒーロー」と捕らえているのである。――昔から女の子らしくないと言われ続け、助けを必要としなかったヒナギクであるが、それでも一応憧れと云うものは持ち合わせている。子供の抱く夢と変わらないが、何時か自らを守る「ヒーロー」が現れる事を、ヒナギクは待っていたのである。
 ハヤテがそうなのか? と考えると、ハヤテのあのゆるい笑顔を思い出す。少なくとも、その姿だけ見れば、あの人物ほど抜けた人間は見た事が無い。
 それでも、確かにあの時だけはヒーローに見えたのである。それだけは紛れも無い事実。
 ……妙な感覚に悩みながらも、ヒナギクは兎に角、勉学だけは励む。勉学をする事でその様な感覚や感情を全て忘れ、無の境域で、只一点のみに全てを注ぐ事が出来るのである。


 無の境地に入ること二時間。……義母からの一言で漸くこの世界へと戻って来、夕食の完成を告げられる。
 一つ背伸びをして、夕食兼、遅いクリスマスパーティの会場へと赴く――

 料理はテーブルの上に所狭しと並べられ、少女を迎えた。料理の中には、カレーとハンバーグもあった。
 ハヤテは着けていたエプロンを取り、椅子の後ろに掛けた。つまり今先方まで料理をしており、今目の前に広がっている料理は殆どが作り立てと云う事である。
 義母の言葉で始まったクリスマスパーティは、グラス同士をぶつける乾杯から始まった。義母は一目散にハヤテの作った料理を取り、早くも口に運んでいる。口の中に料理を入れたままでハヤテに些事の言葉を投げ掛ける義母の姿に、行儀が悪いと注意しつつ、自らもその料理を口に運ぶ。
「どうですか? ヒナギクさん」
 料理の出来が如何かを問うハヤテに、美味しい、と返す。するとハヤテの頬が緩み、笑顔になる。……矢張り、昨日の夜とは違うハヤテだ。
“ずっとあのままだとカッコイイんだけどね”
 そんな事を内心呟き、矢張り、意識し始めると止まらない事を反省する。
「クリスマスと言えば! クリスマスプレゼントよね! ね、ヒナちゃん!」
 と、唐突に義母がその様な事を言い始めた。刹那にハヤテの肩が小さく跳ねた事をヒナギクは見逃さない。矢張りまだ気にしていたか……と、思いながらそれを悟られぬ様に料理を口に運ぶ。義母の話は半分無視しつつ、そうね、と空返事で返す。
「もぉ……じゃーん!」
 そう言って義母が後ろから小さな包みを一つ取り出した。そこには、「ヒナへ」と書かれた紙が一緒に挿入されていた。……義母の文字ではない。その達筆を思わせる文字は……父親の物である。
「お父さんから……?」
「うん。昨日の夜に届いてたんだけど、流石に昨日あんなことがあった後じゃ渡せなくてー」
 食卓を挟んでそのプレゼントを受け取る。中身は解らない、此処で空ける訳には行かない。後で部屋に戻ってあける事にしよう。――だがあの父親が送ってくるプレゼント……前まではヒナギクの趣味を捉えたプレゼントを渡してくれていた為に、今回も何かと楽しみにしている。
 食卓は、そのまま義母の会話が蔓延る賑やかなまま終了した……


 洗い物は流石にハヤテ一人に任せる訳には行かず、ヒナギクも手伝う事にした。
 無言で洗い物をするヒナギクに対して、ハヤテはかなり積極的に話題を振ってくる。恐らく、この黙ったままの空気が嫌なのであろう。
「……それよりヒナギクさん。お父様からのプレゼント、開けなくていいんですか?」
 思いついた様にハヤテの言った言葉に、ヒナギクはああ、と言葉を紡いだ。
「大丈夫よ。この洗い物が終わったら開けてみるから」
「そうですか」
 プレゼントの話題に対してはかなり反応を先程まで見せていたハヤテであったが、今となっては半分諦めの感覚があるのか、クリスマスプレゼントと云う事柄に対して、先程まで対して反応も示さなくなった。只、暗い口調に変わるだけであり、それも意識しなければほぼ無視できるレベルである。
 だがそれに気付いたヒナギクにとっては、それは放っておく事が出来ないのである。

 洗い物を終え、ハヤテは自らの部屋に戻ろうとしたのであるが……後ろからヒナギクが着いてきている。
「あのー……僕これから休むんですけど……」
「ええ、解っているわよ。でも、勉強もするんでしょ? ならみてあげるわよ」
 等と口実を言っているが、ハヤテにはどうにも、別の目的があるようでならなかった。
 部屋に入って勉強を始めても、ヒナギクの指導が耳に入らず、何かを考えながら夜は深け、既に今日と云う日が終わろうとしていた。そろそろ眠りに就く頃合である。既に学校に通っていないとは言え、明日もまた早く起き、朝食に取り組まなければならない。
「――と云う訳で、ヒナギクさん、僕はもう寝ますんで……」
「あ……そうね……うん」
 曖昧な答えを返すヒナギクに不信感を抱いたものの、今は寝て体力を補充しなければならない。
「……ハヤテ君」
 扉を前にふと止まったヒナギクがハヤテにそう切り出した。
 この時、ヒナギクは様々な事柄が頭を回っていたが、兎に角、一つだけ言える事があった。
「ハヤテ君、昨日は、有り難う――あと、来年のクリスマスプレゼント、楽しみにしてるから!」





          -          -

拍手[1回]

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © 絶望への共鳴 // ERROR : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

プロフィール

HN:
殺意の波動に目覚めた結城七夜
HP:
性別:
男性
自己紹介:
小説を執筆、漫画、アニメを見る事を趣味にしている者です。

購入予定宣伝

ひだまりたいま~

カウンター

最新コメント

[05/13 Backlinks]
[01/09 WIND]
[12/20 WIND]
[12/18 WIND]
[12/12 WIND]

最新トラックバック

バーコード

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

本棚