独立枠です。
もうこのペースで行きます。
それでは、ハスミ林檎 様に捧げるこの小説……どうぞ。
がちがちがちがち――そう、音が聞こえた。
-13 days
先日の考えどおりにわたしは早めに就寝した。
と、云う訳で疲れはとれていた。昨日ヒナさんから渡されていた書類も全て終っていて、後はこれを提出するだけ。
わたしは寮の扉を開けて、生徒会室へと行こうとする。
と、
「……」
珍しい。わたしの目の前には望さんが居た。
「ごきげんよう」
「……はい」
コクリと人形のように、数ミリ単位で頷く望さん。
「え、と……何か御用でも?」
望さんは首を左右に振った。つまりただ一緒に登校したいだけなのかな? でもわたしはこれから生徒会室に行ってこの書類を届けなければならない。直に教室に行くわけには行かない。
それを聞いた望さんは、一緒に行く、と言って付いてきてくれた。
階段を上る。
昨日の様に五階まで上ると、生徒会室の大きすぎる扉が目に付く。相変わらず手入れは中途半端なまま。何時か掃除しようかしら? と思ってしまう。
生徒会室の扉をノックして中に入る。
「ごきげんよう、ヒナさん」
わたしは中に居るヒナさんに向かって挨拶をした。
「ごきげんよう。今日も早いのね」
「いえ、ヒナさん程早くはありませんよ。……一体何時に起きているんですか?」
ふとした疑問である。わたしが起きるのが六時。朝食を取って部屋に戻って支度をして学校に入って、こうして生徒会室に辿り着くのが、目の前にある時計からだと七時半。朝食は自由で、食堂で食べることが出来る。……数十年前までは全員一緒だったらしいけど、今は夕食以外は各自で食べることになっている。
話を戻して、わたしが七時半に此処に来る頃には書類作業を殆ど終えているヒナさんは一体何時に着ているのであろう?
「わたくしは先日も言った様に、生徒たちが元気に登校してくる様子をこうして見なくてはなりません。生徒会長たるもの、生徒の良きお手本にならなくてはいけませんから……。
そうですね、何時もは朝の五時前には起きていますわ」
「そんなに早く……お体のほうは問題ないのですか?」
わたしの心中を察したのか、ヒナさんは笑顔を一つ作って。
「いえ、別に苦しいとは感じたことはありませんわ」
そう言った。
完璧超人とはこういうことを言うのだろうなぁ……わたしは感心しつつ、昨夜に終らせた書類をヒナさんの前に提出する。
「確かに受け取ったわ。それではわたくしは授業の方がありますので……」
え? ヒナさん今日午前授業?
それは拙い。生徒会室には誰かが居ないと困る。なんてったって学校中の全事情があるんだから誰かが居ないと……。
「では、リンさん。貴方が午前中此処に」
「ふぇ!?」
「よろしくおねがいいたします」
そう言って、ヒナさんは行ってしまった。
わたしと望さんは生徒会室に取り残されてしまった。
確かに、午前中わたしに授業の選択は無いけど……わたし一人じゃあこの広い生徒会室を管理するなんてとても出来る話ではない。
と、弱音を吐いていても始まらないし、午前中だけだ。わたしはふぅ、と一息ついて、所定の席に座った。幸い、書類の整理だけで済みそう。わたしはヒナさんの席の後ろにある棚から一〇枚ほどの書類を取り出し、作業に入る。
「……私、授業……」
望さんがボソリとそう言った。
「あ、ごめんなさい。一緒に行けなくて」
わたしが誤ると、望さんは、良い、と言って、
「確認は出来たから」
ボソリと、そんな事を言って生徒会室を出て行った。……何を確認したんだろう? わたしはそんな疑問を抱えながら、生徒会室に設置されているポットからお湯を注いで紅茶をいれた。
書類は一〇枚と云う少なさからか、直に終らせることが出来た。
時刻は一〇時半――午前中の授業が終わるのに後一時間以上ある。わたしは生徒会室をぐるぐると歩き回ってみた。
言われて見れば、今まで生徒会室を全て見たわけでもなかったし、いい機会だから少し覗いておこう。
そして先ず最初に、生徒会室と同化している書庫を覗いて見た。
「うわ……凄い」
聞いたことはあったけど、此処までとは思わなかった。四階にある図書室よりは数で劣るけど、なんか、こう、普通じゃない感じの本がある。
わたしは書庫の奥に歩を進める。
あるのは、物理学に、神話――バイブル……魔術学? 何それ?
興味本能に駆られて、わたしはその魔術学と書かれた本を取る。
「何コレ、英語?」
本には意味不明な言葉が書かれていて、わたしには読めなかった。そのまま本を本棚に戻して、わたしはそのまま更に奥へと歩を進める。
次第に、埃っぽくなって行く……と、
「――」
息を呑んだ。
そこには、魔法使いが使うような、魔方陣があったのだから……
◇
時刻は一二時半。ヒナさんが戻って来た。
「有り難う。助かりましたわ」
相変わらずの笑顔で、わたしに接してくれる。正直、わたしなんかに優しくしてくれるのが時々不安になる。
わたしはいえ、と言って書類を纏めてヒナさんに提出する。
「やってくれたのね。有り難う。……そうね、お礼にこれをあげるわ」
ヒナさんはわたしに一つの宝石をくれた。
青くて、何処までも透き通っているそのキレイな宝石は、土台の上に接着されていて、その土台に鎖が付いている。キーホルダーなんかに付いている鎖ね。
「こんな高価なもの……! だってわたしはここでお留守番していただけですよ!?」
そうわたしが言うと、ヒナさんはクスリと笑って、
「良いのよ。わたくしの気持ちよ。お守りとでも思って大事にしてちょうだいね。わたくし、その様な装飾品には余り興味が無いのよ。だから遠慮は要らないわ」
そう言うヒナさんに負けてしまい、わたしはその宝石を受け取った。幸い、小さい宝石なので、服の下に隠れていてもばれない。でもなんか違和感があるから、わたしはそれをそのまま掛け、リボンの後ろに隠すような状態で掛けることにした。
笑顔のヒナさんに釣られて笑顔になる。
「有り難う御座います。大切にします」
そう言った後、わたしはふとした疑問をヒナさんに言う。
「あの……書庫のほうのチェックに行ったんですけど、そこで不思議なサークルを見つけたんですが……」
そう言うと、ヒナさんの顔が変わった。
「……そのサークルは?」
「え、と、魔方陣みたいなものでして……あ、消していません。あの、消したほうが良いでしょうか……」
おずおずと聞くわたしに、ヒナさんは少し考えた後に、
「いいですわ。わたくしが何とかするので。多分、生徒の悪戯でしょう」
「はぁ」
ヒナさんのその返事を聞いて、わたしは安堵半分、不安半分を抱えたまま、生徒会室を後にした。
生徒会室から出て、階段を下りる。時刻は一二時十五分。今から昼食を摂ってから授業に行くことになる。
「あ、リンー!」
と言いながらも、後から、さん、と付け加える。由香である。この学院では皆が“さん”付けを義務付けられている。だから幾ら慣れ親しんだ人同士でも、さん付けは怠ってはいけない規則になってる。親しき仲にも礼儀あり、と言うのかな?
「これから授業?」
「うん。由香は?」
「私は午前に一教科、午後に一教科」
「科目は?」
「宗教学」
他愛の無い会話を続けつつ、今日午前中にあったことを報告しあう。
「……ふぅん、あの生徒会長サマからねぇ」
「うん、すっごく嬉しかった」
首に掛けられたペンダントを見せながら、わたしは由香と話を続ける。
その時、
「調子に乗るんじゃないわよ」
と、後ろから山上さんの声が響いた。
山上さんはわたしを見下ろす状態で見ている。
「別にわたしは……」
弁解しようとすると、山上さんはヒナさんから貰ったペンダントをひょいと取り上げる。
「あ! 返してください!」
立ち上がるが、わたしの身長では山上さんに届く筈も無く、ぴょんぴょんと跳ねるだらしない格好である。本当に情け無い。
「そんなに書記が偉い?」
容赦ない言葉が飛ぶ。
騒ぎに気付いて、他の生徒たちが此方に注目を始める。
「ちょっと、調子に乗ってんのはあんたじゃないの?」
由香が立ち上がる。
由香の身長も山上さんには及ばないけど、その刃物染みた目はしっかりと山上さんの目を見ている。一触即発、まさにその再現だった。
「またアンタ? こんな子のお守りで大変ね」
「何よ、私の勝手でしょう? それよりアンタは、そんなに権限とやらが欲しいわけ? それとも何か? 生徒会長サマに近付くものをシメる騎士のつもり?」
由香の言葉で、山上さんの眉間に皺が寄る。
もう止められない。二人とも戦闘体制に入っている。
そこに、
「何をやっているのですか!!」
エルダー・サキが現れた。
ち、と舌打ちのような音が聞こえた後、山上さんは行ってしまった。
「女性たるものが何てはしたない! 恥を知りなさい!!」
「申し訳ありません」
わたしは弁解しなかった。言ってもそれは言い訳だし、何より、山上さんは何も悪いことはしていない。
「リン、アンタ将来苦労するわよ」
説教を終えて、やつれた表情で生徒指導室から出てきた由香は第一声にそう言った。
結局問題行動と云うことで午後の授業は出れなかった。説教と反省文と、神様への懺悔で午後は終えてしまい、現在の時間は四時半である。季節が季節なので、外は既に薄暗くなっている。
「……生徒会長サマは何も言わなかったわね」
「うん、多分事情を知っているから……だと思う」
そう、と由香は言って、わたし達はそのまま寮に戻った。
由香と別れて、これから部屋に戻ろうとしたとき、
「――っ、いったああああああああああああああああ!!!!」
焼きつくようなこのこのこのいたいたいたみみみみ!!!!!! 何コレ!!! 手の平? 違う!! コレはお腹!? ううん、頭も……割れるように!!!
がちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがち……がちがち
震える、震える、わたしの……体が……!!
「、、、、、、、、!!!!!!」
言葉にならない。さっきの叫びで誰も気付かないのがおかしいぐらい。
ん、あ―――――――ッ!! 何かが!! わたしを……
「■■■■■■―――ッ!」
痛みは治まらない。
わたしは、そのまま寮から校舎に戻る。この場合、保健室――!
「――――――――――――――――――あ」
誰も居ない……怖いほど、誰も居ない校舎……
「――――――――――――――――――だ」
れか、と言いたい。けど言葉になって出ない。何で? どうして?
「――――――――――――――――――あ、あああぁ」
そんな中、辿り着いたのは、保健室じゃなくて……倉庫。
――い、しき……が、たも……
◇
――あぁ。
目覚めると、時刻は一一時を回っていた。
夕食に出なかったから、エルダー達は心配しているかも……。そんな事しか頭に浮かばない。
体は動く。あの痛みももう無い。
立ち上がる、視界は暗い。
「……此処、何処?」
倉庫……だと云う事は判るけど、暗すぎて何処の倉庫かは解らない。
ガラリ、と扉を開ける。目が慣れてきて、少しは見える。
「取り敢えず、部屋に……」
そんな中、何か音がする。
ソレヲミテハイケナイ。
歩を、進める。
ソレヲミタラ、ショウキデイラレナイ。
目を凝らして、階段を踏み外さないように、上がる。
トマレ、トマレ、トマレ、トマレ……
そして、何かの音がするのは屋上だと、気付いた。
ソノトビラヲアケルナ――!
鍵は掛かっていない。
わたしは、その扉を……開けた。
そしてわたしの日常が崩れた。
「――え?」
轟音、爆音……様々な音が、響く。
手の平が、汗で滲む。
そう、それは見てはいけなかったんだ。
目の前で起こっている“奇妙”――、それは、長髪の女性と、顔はよく見えないけど、この学校の制服を着た生徒が……
刃物を持って、殺し合ってる?
響く。
刃物と刃物が重なり合い、音を立てる。
澄んだ音、そして轟音……
長髪の女性が後ろに下がる。口がかすかに動くと、見たことのある魔方陣が現れて……
「きゃあ!」
炎が……飛んだ!
何て……出鱈目。
わたしの叫びを聞いて、此方に気付いたのか、女性が刃物の切り先を――わたしに向けた。
「――え」
一秒も経たないうちに、わたしの視界は暗転した……。
* A L I C E *
この記事にトラックバックする