七つの曜日が世の中には存在する。
日月火水木金
それが人の定めた七日。
――そう、これは七日だけの物語。
『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』
みーん、みーん、みーん。
耳に鳴り響く蝉の音が段々と大きくなっていく頃合。……時刻は十時半を挿している。露出した肌にはジリジリと照り付ける太陽の光、でも不思議と汗は掻かない。元々汗を余り掻かない体質だからわたしはとても暑い。体の温度を汗として外に放出できないから。
今わたしは一人の人を待っている。ずっと、ずっと、わたしの事を見ててくれる人で、こんなわたしの事をずっと大事にしてくれているとっても綺麗な人。
うーん、服、変じゃないかな……? クルリと回ってみたり……うーん。
あんまりくるくる回ると目、回っちゃうし、人に見られちゃうからやめよ。
「あら、麦わら帽子ね」
そう言われてわたしは顔を上に上げた。
其処に、わたしが待っていた人は居た。
「おはよう御座います、ヒナさん」
ええ、と返してくるヒナさん。
――藤咲ヒナさん。わたしの通う全寮制の附属学院、『聖マリア女学院』の生徒会長さん。一つ年上さんです。普通なら年下の人と付き合うことは殆ど無いんだろうけど、わたしも生徒会の人と云う事で結構良くして貰っています。
と、云うより最近はヒナさんわたしの家にたまに泊まるほど仲良しさんです――
ヒナさんは黒主体の服で来たんだけど……こんな服、ヒナさん持っていたんだ。
「いえ、わたくしは持っていなくて……全部、由香さんが……」
ああ、そうか。今は夏休み一週間前で、由香はフランスから一時帰国してるんだ。
「ええ。
それとリン?」
「はい?」
「言ったでしょう、わたくしのことはヒナさん、じゃなくてヒナと呼びなさいと」
「……えーと……無理です。やっぱり先輩にはさん付けで無いと……」
「わたくしが良いと言っているのですから……。それに、わたくしは学園の生徒会長なんですよ?」
「それはそうですけど……」
良く解らないけど、二月の最後辺りからヒナさんの様子がおかしい。なんか突然お布団の中に入ってきたり……それはいいですけど……授業が終わった後、わたしを迎えに来てくれたり……これも嬉しいですけど……あと、手を繋いでくれたりします。
まさかヒナさん………………病気でしょうか!? でもこんなに長く続く病気は聞いた事……いえいえ、世の中にはわたしの知らない病気があるのかもしれないです!
わたしの調子は、二月にちょっと悪かったけど今は治ったし。
「じゃあ、行きましょうか」
まぁ、余り気にしても問題ですし、今日は此処までにしましょう。
「で、その当の誘った由香はどうしたんですか? ヒナさんに服を着せて……」
わたしがそう聞くと、ヒナさんは一つの紙切れをわたしに見せた。なんですか? それ。
「此処に来いって言ってましたわ」
その紙には地図が載ってた。
■■■
「此処に来いと言っていたんですね、由香は」
「ええ」
随分歩いたところに、それはあった。
休日に呼び出して、ヒナさんの服まで変えて何処に行くかと思ったら……体育館? 一体由香は此処で何をしようとしているのかな?
「二ノ宮さん、藤咲さん」
と、突然後ろから聞き覚えのある声で声をかけられた。
「あ、カレンさん、望さん」
「はい、おはよう御座います」
「……」
カレンさんは挨拶をして、望さんは無言で頷いた。
「えーと、由香さんに呼ばれて?」
ヒナさんがカレンさんに聞いた。
「はい。協力して欲しい、と」
「……これを、もってけとも言われた」
望さんが手に持ったパンフレットをわたしに渡す。? 何これ?
其処には『5 on 5大会』参加者募集と書いてあった。
「ごーおんごー?」
わたしは首を傾げる。
「ああ、バスケットボールよ。少人数でやるバスケットボールのことを5on5と云うのよ」
「そうなんですか?」
へぇ、そんなスポーツあるんだ。パンフレットを眺める。
「……って、ええええええええええッ! なんでこんなのにわたし達が呼ばれているんですか!?」
由香! 何を考えているのぉ! わたし、運動オンチなのにぃ!
「ああッ! リン落ち着いて!」
ヒナさんがわたしの肩に手を置く。すみません、取り乱しました。……と思ったら、突然ぎゅう、とわたしを抱き締める。ヒナさん、どうかしたんですか?
「いいえ、少し」
ヒナさんが抱き締めてくれている中、向こう側から何時ものアンダーシャツ姿の由香がやってきた。
「よ、朝っぱらから何やってんの」
「それは此方の台詞ですわ。なんですの、この『5on5大会』って」
わたしを抱き締めながらヒナさんが由香に聞いている。あの、苦しいです。でもヒナさん……良い匂いがします。むぐむぐ。
「まぁいいじゃない。少し手伝ってよ。
……ほら、前の時に『庭園』で居た大平君って子」
「ああ、あの時の……」
? 何のお話でしょうか? ああ、『庭園』って春休みにヒナさんと由香、そしてカレンさんに望さんが行って来た観光地ですよね? そこに大平さんって人が居たんですか?
「でね、大平君の知り合いがね、この5on5大会の主催者で、今回は参加人数が少なかったから参加してくれって……昨日国際ダイヤルで」
「……色々と貸しも有りますからね……あの“魔眼持ち”の件で」
「そうなのよね。其処が問題なの。因みにこの大会の優勝品は……これ」
由香はパンフレットの端を指差す。……カニ三ハイだって! うわ、なんでバスケットボールの大会にカニ!?
「ははぁ……今日の夕ご飯はカニになるかもしれませんね……」
「――ふふふ! 私もね、カニ食べたいから……! 今日は助っ人を呼んできたのです!」
由香がじゃじゃーんと言って後ろに居た人を目の前に出した。全部で三人。
「私のコネで来てもらいましたぁ!」
一人は女の子、もう二人は男の子。
「この大会はね、年齢別のトーナメント式なの。だから男女別のヤツがないのよ。だから助っ人で男子を呼んできたわけ」
……5on5だから、五人のチームだよね?
「うん。そうなんだけどさ。でも途中交代ありなのよ、変則ルールでね。まぁ元々地域の交流を深めよーうとか云う理由だし」
「ふぅん」
で、漸く皆の視線が名前の解らない由香のお友達に向けられる。
金髪で、じゃらじゃらしたブレスレッドを巻いて笑顔を見せる男の子……
「ちわっす。遠野とは色んな意味で腐れ縁でっす。釘山ユウマでっす」
手を上げて此方を見る。……うう、この人結構苦手です。
そしてその釘山さんの横に居たもう一人の男の子が自己紹介する。
「どうも、綾波キラです」
……あれ? 何処かで会ったことありません?
「気のせいですよ」
笑顔で返す綾波さんは、そのダークスーツを整える。暑くないのかな、こんなに暑い日にそんなスーツなんて着て……
「ねぇ、あの子は?」
「ああ、愛美さんは今日は駄目だそうです。やっぱり色々と堪えているようです」
「あちゃー。やっぱり駄目か」
何の話か良く解らないけど、もう一人来る予定だったみたい。
そして最後に女の子の方に視線が向けられる。
「こんにちは。平賀アラタです」
ぺこりと頭を下げる平賀さん。うわぁ、大人の人だ……
「女の子なのにアラタ?」
「はい。変でしょうか?」
「いえ……で、見たことろ、学生では無いように伺えますが?」
「はい。朝比奈グループの使用人をしています。……一言で言えば……いけないメイドさんですっ」
顔を赤らめて平賀さんはくねくねしてる。変わったひとだなぁ。
「……」
その半面、他の人は何か凄いものを見るかのように平賀さんを見ている。釘山さんは少し笑ってるけど。あと綾波さんも無表情だ。
「……取り敢えず、この八人で行くと云う事ですか?」
とヒナさんが言う。
と――
「いいえ。私を忘れてもらっては困りますわ」
そんな聞き覚えのある声が聞こえた――わっ!
「お久しぶりですわ。リンさん」
手を取り、わたしを引き寄せるのは……林檎さん!
「林檎……! 貴女何しにきたの!?」
ヒナさんの妹である林檎さんは、なぜだか何時もわたしの目の前だとヒナさんと喧嘩してばかり。もう、仲良くしなきゃ駄目です! と言っても何時も聞いてもらえないのが現実だけど。
「何って……他ならぬ由香さんからの頼みですわ。リンさんに会いに来る“ついで”にお姉さまにも顔を合わせておきましょうと思いまして」
「……いいからリンから手を放しなさい!」
わわっ! 引っ張らないでください! ぎゅううううううう、ヒナさん、胸が当たってます、苦しいです! きゅうううう。
「嫌ですわ。別段、私とリンさんの友情を引き裂く権利はお姉さまにはありませんもの」
……こんどは林檎さんまで……むにゅむにゅと、顔に当たる感触。
ここら辺からわたしの意識が朦朧としてきた……ぁ、駄目だ。
「いやぁ、女の子同士っていいね」
釘山ユウマは頬を緩めながらその光景を眺める。
「……悪趣味ですよ」
綾波キラはそんな釘山を連れて、受付へと歩いていった。
* A L I C E *
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