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絶望への共鳴 // ERROR

深層心理へのアクセス。結城七夜の日々。徒然日記。 裏; http:// lylyrosen. xxxxxxxx. jp/ frame/ water. html

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* A L I C E * ACT FINAL - the third part



さようなら。




ハスミさんに捧げる、



『* A L I C E *』

the FINAL - the third part




 撃音撃音、撃音撃音――!
 動ける筈のない体と身体を動かしてわたくしの一撃は限界を超える。
 手に取ったのはない。只この世界と云う現象が魔術を、兵装を、礼装を、防具を、無限に取り寄せる。何処かの世界より、呼び寄せる――!
 そこに有限は無い。無限だけが存在する。
 因子は無い、魔力もない、存在さえもない世界で朽ち果てるのはどちらかすらわたくしには解らない。
 ぎん、と音をたてて金属がぶつかる。勝てるはずがない、そう、マリアは如何あってもわたくしには勝てない。
「――う!!」
 退いた。
 それだけで此方の一手が変わる。戦いは一瞬で決まる。わたくし達みたいに魔術師にも、超能力者にもなれない半端な人間は魔術を行使することなんて出来はしないわ。只出来るのは人の心を読んでその読んだ心を具現化するだけ。心理を作り出し、心理を破壊する。心理の動きを把握し、心理の根本を知る。それだけに神経を集中させる。目の前の敵は無意味で、見る必要は無い。見れば綻びが生じる、刹那の内にわたくしは消滅するであろう。
 手の平に掴む、一振りの槍。それを振りかざし、マリアの手にあった剣を完膚なきまで、粉々に砕く!
 まるでカステラか何かの様に砕ける剣を眺めながら、今までと状況が逆転したことに驚愕したのか、マリアは目を大きく見開いてわたくしを直視する。
 怯む必要は無い――心配は無い――補強しろ、補強しろ。
「――っ! アナタ如きにィ!!!」
 七つ、剣が出てきた。

 ――知っている。わたくしはそれを知っている。
    七つで一つの剣は世の中に数個と存在する。
    七つと云う七夜を司るモノは此の世に無限と存在する。一つで七つ、七つで一つ……――

 知っているからこそ、能力を知っているからこそ、わたくしは一振りの剣を心理より呼び寄せる。
「はぁ―――ッ!」
 ずどん、と音をたてて、マリアの腕が落ちた。
「ひぃ――ぁ!」
 後ろに下がるマリア。これで全ての攻撃を向こう下に等しいわね。
 落ちた腕を抱えながらマリアは一旦下がる。逃がさないわよ!
 疾走、右手には別の槍、左手にはわたくしの身長ほどはあろうかと云う大太刀――持てるのが不思議なくらいだけど、今は考えている暇は無いわ。
 懺悔をしているかの様な表情のマリアを、再び大太刀と槍で一撃。咄嗟にマリアが取り出した礼装も意味を成さずに砕けた。
「……ぅ、勝てない……!」
 マリアが背を向けた。本当に逃げるね。
「逃がしませんわ――ッ!」
 ぶわッ! と風が顔に当たる。これほどの風圧が人が走るだけで具現できるものなのかと思うほど、わたくしは速かった。
 その光景を見て危機感を感じたのか、多くの礼装に混じって、一本、あの礼装……ギンヌンガププを……
「させはしないわ!」
 しゅっ、と剣を飛ばす。剣は真っ直ぐにギンヌンガププを貫き、結界外に飛ばす。これで、一番怖いモノはなくなった。後は、マリア倒せば戦いは終る。
 ギンヌンガププを失ったマリアは、わたくしの次の一撃のもとに、倒れた。
「――、――、――、」
 息は荒い。だけど此処で倒れるわけには行かない。
 新たに取り出した大太刀を、マリアの喉もとにわたくしは突きつけた。
「さぁ……もう終りよ……降参なさい……」
 ふわりと、風が靡く。刹那の内に結界は姿を消した。
「……アナタは、間違えたのよ……」
 その言葉に、マリアはうなだれた。

 刹那――、

 ぞくり、と、背筋が震えた。

     ■■■

 その場を支配した悪寒は、全ての魔術師に感知された。
 少女、藤咲ヒナの悪寒は正しい。背筋が凍りつくようなその悪寒は、たった、コップ大の大きさのそれより放射されているものであった。到底信じられない話であるが、事実である。
 暗闇の中、赤く光るそれは、一帯をまるで血の海のように染め、其処に降臨していた。
『ゴルディアン・コフィン』――アリスに昇華するためのそれが、其処には降臨していた。

「なんですの……アレ――!」
 その光景を見て、藤咲ヒナは目を大きく見開いた。当然であろう、自らの魔術師としての目が正しければ、あれは間違いなく、理を動かすほど膨大な魔力……そしてこの『永遠の論舞曲』の結末に待っているたった一つの答え――ゴルディアン・コフィンに他ならないのである。
 確かに、その膨大な魔力は自らをアリスに昇華させるほどのモノである。が、藤咲ヒナは他の何かを感じていた。――その奥に存在する……何かに……
「アレが……ゴルディアン・コフィン――?」
 地鳴りがする。一瞬何の地鳴りか想像もつかなかったが、直ぐに把握した。
 そう、ゴルディアン・コフィンは今この場に停滞する魔力を枯渇させる勢いで吸収しているのである。
「……そうですわ……! あのゴルディアン・コフィンは未完成、まだ一一人分の魔力が備わっていないのよ……!」
 詰まる話……あのゴルディアン・コフィンは暴走していると云う事。見境なく魔力を捕食し、そのゴルディアン・コフィンとしての存在を作り出しているだけに過ぎない。そうと知った時、ヒナは、あのゴルディアン・コフィンがアリスに昇華させるような神聖なものでは無いと云う事に気付いた。
 そう、人が創りし聖杯に、神聖なものなどないのだから――
 あのゴルディアン・コフィンは、只人を取り込み、存在だけとして世界に定着させるもの。つまり、存在と云うものが永遠に残るだけであり、アリスにはなれず、その人間は永遠を何も考えられずに、何も出来ずに、無限地獄の中を生きるに等しい。それは最早、死ぬより残酷な結果。
 皮肉な話である。命を賭けて求めた奇跡は、只の一度もその少女達を救うことは無い。
「……そんなモノ巡って、わたくし達は今まで殺し合ってきたのね。結局、ゴルディアン・コフィンは奇跡なんかを起こせない……わたくしの願いも……アリスとなって、神に等しい力を手に入れて、あの願いを叶える事も、出来ないのね――」
 苦虫を噛みしめた様な顔をして、ヒナは目を閉じた。
 たが、今はそんな事をしている場合ではなかった。もし、ゴルディアン・コフィンがこのまま魔力を吸収しようと目論んでいるのなら、この結界も解ける。そうなったとき、一般の人間にどれ程の被害が出るか想像も不可能である。この結界に突入してからどれ程経ったかは不鮮明だが、少なくとも、皆寝静まっている頃合である。そんな中でこの様なものを降臨した場合の被害は……考えるだけ無駄である。
 そして、この場には、マリア、遠野由香、雨宮カレン、そして何より、
「リン――!」
 そう、ヒナがもう離さないと決めた少女が居るのである。
 先の戦闘の最中に、あの木の下に居たのをヒナは知っている。マリアを戦闘の際に追いかけたときにあの木から離れてしまった。
「……マリア、アナタはアナタの道を行きなさい。
    わたくしも、頑張りますから……」
 最後に、うなだれるマリアにそう言い、ヒナは走り出した。

 木の下に辿り着いたのは、暫らく走り続けてからであった。そうしている間にも、ゴルディアン・コフィンは向こう側で魔力を吸い取っている。結界の破壊も時間の問題であることをヒナに報せていた。
“どれほど行けるか解りませんけど、リンを助けたらアレを何とかしないといけませんわね――!”
 そう心で思いながら、木の下に辿り着いた。
「――え」
 だが、現実は何処までもヒナに残酷であった。
 その場に居たはずのリンは――既に居なかった。

     ■■■

 ごくりと唾を飲んだ。
 ……痛くない?
 急いでお腹の辺りを触った。……あ、穴がない。やった! なんだか知らないけど、助かったみたいね!
 起き上がる。あの上川とか云うのにやられてから随分経った見たいね……てかよく私生きてたわね。そういえばあの上川もこの顔をしているヤツは死なないって言ってたっけ? なんか思惑通りになったみたいでムカつく。
 上を見上げる。どうやらそんな事を言っている暇は無い見たいね……。其処には赤い空が広がっていた。
 本来、結界と云うモノは不可視で、相当の魔力を持った人間がディスペルしなきゃ見えない様になっている。元々陰陽師の人間が自らの修行場所を見つけられないようにするのに、神の使用していた神域を元に作り出したものだしね。で、つまりは周りの風景とは変化はしないものなんだけど……目の前に広がっている世界は真赤。
「……拙い? てか……あれ、もしかしてゴルディアン・コフィン?」
 向こう側の上空に見える何か一つの物体。其処からこの赤い魔力の源が漏れている感覚がする。それに、あの物体、魔力を吸い取っている……このままだと結界の存続が拙いわね。てか、私も危なくない?
「そうと決まったら撤退するに限るわね……。と、その前に、ヒナさんがどうなったのかと、カレンの回収をしないと……」
 そう思い辺りをぐるりと見渡す。と、向こう側のビルに寄りかかる感覚で倒れるカレンを発見。
 走り寄る、うん、大丈夫、私より怪我は軽いわね。まぁ早い内からカレンはリタイヤしていたし……むぅ、そう考えると複雑な感覚。私だけ一度死に掛けたと云うことか……まぁこの戦いが終ったら、何かおごらせてやるわよ。
 カレンを背負う。重ッ! この子一体体重何キロ!? てか、殆ど筋肉の重みじゃないの? これ!

 ずるずるずるずるずるずるずるずる…………

「ん! か! はぁ――!」
 引き摺っているけど……良いよね? 死ぬよりは。
 暫らく引き摺ると「うっ」と声がした。
「あ、気付いた!」
 急いでカレンの顔を見る。
 ひゅーひゅーと音をたてて呼吸をしている。と、その内苦しそうに呼吸を始めた。
 過呼吸――呼吸のし過ぎで逆に駄目とか云うパニックの時に良く起こることだ。
 拙いわね……此処に袋なんてないし、ましてや吸入なんてものもないし……。
 と、ふと、名案が頭を過ぎる。……大丈夫よね? だって、此処来る前に一度……
「むぐ……」
 カレンの唇に私の唇を押し付ける。はい吸ってー、はいてー……と暫らく続けると、カレンの方も落ち着いたみたいで、漸くその目を開けた。
「!!」
「あ、大丈夫?」
 問う。カレンは顔を真っ赤にして何か金魚みたいに口をぱくぱくしている。
「あ、ああ、あの、そ、、、その、ゆ、由香さん、と……きききき」
「はいはい。今はそれ所じゃないのよ」
 はい、と現在の惨状を見せる。
 取り乱していたカレンも、流石にこの光景を見ては真面目にならざるを得なかったみたいね。私も吃驚よ。
「これは……まさか、ゴルディアン・コフィンの……」
「見たいね。ヒナさんがしくじったのか、それとも勝利したのか解らないけど、今は結構拙い状況みたいね、結界も解けかかっているし、あのゴルディアン・コフィンらしき物体は魔力を無尽蔵に吸い取ってるし……」
 腰に手を当てながら説明する。我ながらかなり冷静で居ると思う。
「兎に角、行くわよ。その調子ならいけるでしょ?」
「はい!」
 私達はそうして走り出した。

     ■■■

 これが彼の望んだことだった。
 彼が望んだことは全て人を不幸にする。だがしかし、それでも望むべきものがある。『彼女』に会う為に、『彼女』を救うために、少年は追い続ける。
 そして、この世界ではこのゴルディアン・コフィンこそが彼の望みだった。

「――上川、強気」

 少女、二ノ宮凛は目の前に居る少年、上川強気と対峙した。

「ようこそ、と言いたいところだけど、オレはこのゴルディアン・コフィンの降臨を見届けなくてはいけないんだ」
 その言葉に、凛は答えなかった。
「キミも望んだだろう? ゴルディアン・コフィンの降臨を……」
 その問いにも答えなかった。
 只一言、


「――上川強気。お前が居る限り、リンとヒナは……笑えない」


 そう憎悪を込めた声で言った。
 少女、凛の変貌ともいえるであろう。殺害以外に興味を持たなかった凛が此処まで変わるものなのか、劇的に変わるものなのか……
 否、答えは簡単だった。
 二ノ宮凛――二ノ宮リンの畏怖の対象から生まれた二つ目の人格。それは、リンが自分が嫌いと云う事から生まれたモノである。
 だが、リンは今は違う。
 藤咲ヒナと云う少女との出会いによって変わっていた。二ノ宮リンは確実に自らの事を好きになっている。自分が此の世に居てもいいと思っている。この世界に居てもいいと思っている。その気持ちが、凛を変える。
「お前を倒して、ゴルディアン・コフィンを壊す……! それが、変わってしまった意思だとしても、リンの変化によって無理矢理強いられた目的だとしても、私にとっては……真実だ」
 その変貌に、強気はどう思ったのかは解らない。だが、只言える。

 今、目の前に居る少女は紛れもなく、上川強気の敵であること。

 ならば交わす言葉などあるまい。
 刹那、両者疾走。 


 上川強気の戦闘能力――それは計り知れない。接近戦での戦闘能力は、連結接続によって作り出される兵装、礼装全般有り、非常に危険。魔術による攻撃――現段階では使用していないために見出すことは不可能。全て、過去に“とある人間”から仕入れた情報によるものである。
 身体能力自体は高くは無い。魔力による強化も藤咲ヒナ程熟練したものではない。故に、突破的な身体強化による不意打ちは皆無と考えても良い。
 以上のことを考慮し、パラメーター化した場合、矢張り一番危険視すべき点は、連結接続による兵装と礼装の無限である。ある意味、凛が戦ったガヴェインよりも性質の悪い敵といえる。彼女こそ、無限の兵装を持っていたが、礼装程のランクは持っていなかった。更に、無限と言っても、一つずつが同じ兵装の為に能力はたかが知れている。
 以上が、二ノ宮凛知りうる情報内での上川強気の戦闘能力である。
 二ノ宮凛の戦闘能力――それは強化による身体強化が本文といえるであろう。魔術は使用可能だが、本人自身は余り好んでいない。使用する兵装は、渡辺明日香より手に入れた大太刀のみ。ナイフを使用していたが、先の戦闘で藤咲ヒナが現在は所持しているものと思われる。
 身体能力自体は、表の人格である二ノ宮リンの方が扱い方は上手いといえるが、性格により上手く使用はされていない。逆に現在の人格である二ノ宮凛は身体能力は強化で補っており、扱いが悪い。故に、自らとの身体能力とほぼ変わらないと考えられる。
 以上のことを考慮し、パラメーター化した場合、矢張り一番危険視すべき点は、その身体能力の“上手さ”である。自らの身体を把握し、最善な動きが出来る身体の扱いの上手さ――それが二ノ宮凛で危険視すべき点であり、彼女の全てといえる。
 以上が、上川強気の知りうる情報内での二ノ宮凛の戦闘能力である。
 成る程両者は良く熟知していた。互いの戦闘能力を良く把握しており、次の取るべき行動がわからずとも、敵の戦闘行動パターンを読み、戦闘に生かすことが出来る。それが熟練した殺人者同士の戦いであった。互いに、“殺し”と云う事だけに特化した身体を持っている――
 先ず、考慮すべき点は、こうだ――互いの戦闘能力を知っている上での戦闘の場合は、ケアレスミスが怖い。つまり、一瞬のミスと隙が勝敗を決すると云うことである。
 先ずは一撃。凛の大太刀が曲線を描き強気を襲う。
 当然、強気の左の虚空から兵装が姿を現し、それを掴んだ強気によって大太刀の一撃は落とされた。刹那、反動で後ろに下がった凛に更に二撃、剣を飛ばす。真直ぐに、凛を襲う。その兵装には魔力が纏ってあり、通常の兵装で応戦した場合、魔力によるどのようなフィールドバックがあるか解ったものではない。
 凛は体を捻り、これを躱す。背中の数センチ横を剣が通りぬけていく。
 体制を低くし、更に後ろに下がった後、脚を強化、刹那の内に跳び大太刀で水平に斬りつける。無論、そんな単直な一撃は躱される。次の一撃に備え、再び脚を強化、そして跳躍して後ろに下がる。
 瞬間、地面に足がつこうとする頃合に、強気が動く。軽視していた身体強化を施し、接近戦へと持ち込んだのである。すぐさまに対応する。大太刀を構えなおし、強気の死極を視る――が、矢張り凛の予想通り、死極は視えない。
 ならば、心臓を狙えばいい話。凛はそう思い再び脚に魔力を注ぎ強化する。
 二つの大太刀が一度、すれ違いさまに交錯した。乾いた音をたてて、二つの影は再び足を地面に着く。互いに、外傷は見られない。
 直ぐに次の動作に移る。新たな兵装を取り出す強気と、身体強化を一旦緩める凛。――魔術の連発は身体を蝕む。魔力を通す管のない人間には、魔力を通すこと自体が毒である。最早この戦いに魔術は要らない。間合いすらも意味を成さない。只、この手に握った兵装と、自らの戦闘、殺害技術だけが試されている。それ以外に必要なモノなどない。
 強気が次に取り出した兵装は槍であった。まるでこの空間のように赤い槍が姿を現した。数は三本、一本は強気の手によって投げられた。後、残りの二本は腕に強化を施した強気が握ることになる。
 凛は先ず、第一手である一本目の槍を躱す。投擲は槍の場合は一直線と云う単純な動きしかしない。曲がるとすればそれはあの聖凪の行使する『逆理』に似た能力の持ち主だけであろう。
 が、しかし、二本の槍は対処できない。凛は大太刀を構えたまま間合いを取ることにした。
 だがその考えは甘かった。あろう事か、強気は腕だけではなく、同時に脚にまで強化を施した。瞬時に凛のもとへと辿り着いた強気の猛撃が始まる。
 一撃、二撃、三撃、四撃……全てが重い。大太刀は受ける兵装ではない。流すことしか出来ない大太刀では、二本の槍を対処できる筈もなく、凛は追い遣られていく。
「っ――Destruction explosion and two stages!! Final Accel!!」
 魔術。凛は強化のに使用していた魔力を全て魔術に変換し、刹那、爆発。
 強気の赤き槍は突然の爆発に耐えられず、その破片が飛び散り、刹那の内に因子化する。
 両者札を失う。だが未だに凛には大太刀、そして強気には連結接続をするだけの魔力が残っている。互いに、まだ万策は尽きていない。
 再び疾走。強気が先手であった。取り出した剣の刀身を砕き、魔力で網を縫う。と、魔力の網で出来た刀身が完成する。それに更に魔力を注ぎこみ、当初の三倍の大きさに膨れ上がった刀身を、強気は凛に向けて投擲する。
 それは不自然に振動をし――軌道を変える――

 直撃、と、思われた刹那、

「左よ――!」
 その言葉に助けられた。
 強化もせずに凛は左に跳んだ。間一髪、凛は避けることが出来た。
「――藤咲か」
 強気の動きが止まる。まるで最初から本気など出していなかったかもように直ぐに止まった。
 凛は肩で息をしており、突然割り込んできたヒナに、
「てっめ、藤咲――! 何を勝手に……」
 その後の言葉を言う前に、凛はヒナに抱かれていた。


     ■■■



「――な」
「良かった……生きてて……良かった」
 その、泣きそうな顔を見て――凛は思った。


 ――ああ、そうか……


 その時に、凛は漸く理解した。
 泣きじゃくる少女を見て、凛は漸く理解した。

 そう、凛は、藤咲ヒナを失いたくなかった……二ノ宮リンと同じく、凛もまた、ヒナに惹かれていたのだ。


「……ごめんなさい」


 初めて、凛は心の其処からの言葉を放った。
 そうして、凛は決心したのだろう。

 そんな姿を眺める強気に、ヒナは言った。
「……ゴルディアン・コフィンはアナタの求めているものじゃないわ」
「――そうか……今回もハズレか」
「ええ、だからこの惨状をなんとかして、うせなさい……」
 強気はそのヒナの様子を眺めて言った。
「それは良いが、良いのかい? アレを壊す方法を教えて」
「……」
 それはつまり、既に強気の手では如何しようも無いと云う事実であった。

「簡単な話だ。
 誰か一人が犠牲になれば良い。すれば、確実に不確定要素として、“彼”がこのゴルディアン・コフィンを止めるだろう」

 …………それは死刑宣告。
 如何しようもない、現実だった。
「馬鹿げてる」
 それは確かにそうだ。
 こんなモノは要らない、確かにそう願った。物を捨てるのは簡単だ、イラナイと言って捨ててしまえば良い。其処に等価交換などない。だがしかし、ゴルディアン・コフィンは、誰か一人の人生を犠牲にしなくては止まらないと言うのである。これが馬鹿げているといわずして、なんというのであろうか……
 だが同時に覚悟していた。もし、止められないと云うのなら、わたくしが行こうと――ヒナは覚悟をしていた。
 そして同時に、リンを幸せにするのはそれしか無いとも、思っていた。

 そうして、ヒナは立ち上がった。

 迷う必要は無い。只、その一人愛した人間の為に死ぬ。どれ程美しいことか。




 たがせめて……死ぬ前に、少女と、歩きたかった。
 笑顔で、互いのことを思いあい、互いのことが好きで……幸せな日々を送りたかった。
 何気ない日常、何気ない運命、魔術師なんて云うしがらみもなく、只普通の恋する女子高生として二ノ宮リンと出会っていればどれだけ幸せだったことか。今更変えられない運命であっても、少女は願った。
 もし、もう一度彼女に会うことが出来るのなら……と、


「――そんなに死にたくないか? リンと、歩きたいか?」


 ふと、そんな言葉が聞こえた。


「ええ、とっても……」


 正直に答えた。


「承知した……それがお前との契約だ。
 あの時、リンから引き受けた契約と同時に進行しよう」

 振り向いた。
 急いで。
 契約とは何か……契約とは何か、契約とは何か……!!!!!!!!!


「ヒナ、お前はリンと生きろ。
 死ぬのは、私一人だ」


「――まっ」
 待てと言いたかったのか、ヒナがそれを言う前には、ヒナは強気によって心臓を剣で貫かれていた。
 遠のく意識の中、ゴルディアン・コフィンが壊れ、その中に凛が吸収されていく光景だけを見た。



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