抱いた幻想を破壊しろ。ブロークンファンタズム。
悪夢を破壊しろ。デストロイトゥナイトメア。
理想を求めろ。キャッチザドリーム。
お前は先を読む。
先を読む者は、心が判る人間だ。
お前の力は――
ハスミさんに捧げる――
『* A L I C E *』
the FINAL -the second part
掃射されるは、一つの礼装。優にわたくしの身長の二倍はあろうかと云う剣がわたくしを襲う。
――彼女の欠点は一つ。
礼装を持っていても、一発ずつしか発射できない事。
だからこそ、まだ対抗は出来る――
心は相変わらず読めない。もう全く視得ない。何処から砲撃が来るかは研ぎ澄まされた勘しか無いわ。それ以上、方法は無い。武装も凛の使っていたナイフしか存在しない。
「避けてくださいね――、次」
空に浮かぶ三つの剣。
それを――三ついっぺんに!?
個で三つ、三つで一つの礼装……と云う訳ね。直前、後方、直上、三方向からの礼装掃射。
魔力構成開始――強化、脚――跳躍――!!
ぶぉ、と髪を揺らす。上に跳ぶ。人間の跳躍力なんてたかが知れてるし、魔力で強化してもそれは変わらない。それでも約二メートルは跳べる――!!
直ぐ直下に三つの礼装が刺さり、爆破。
「――ぅぐ」
爆風がわたくしを襲う。空中で体性を崩し……背中から!!
「ご――ッ!」
とっさに受身を取ったから良かったけど……今の、下手すれば腰の骨が……。運が良かったわね、幸い骨に異常は無い。
倒れるわたくしに、女の礼装砲撃。――一本、大太刀。
咄嗟にナイフを取り出し、目を強化――ばちばち――っ――打ち落とす! ぎぃん、と音が響いた。大太刀はわたくしの一撃で因子分解され、落ちる。
痺れる腕を我慢して立ち上がる。何時までもあそこに居れば確実に殺される。
っ――もう! こっちの体力も考えなさいよね!!
掃射された礼装――強化、脚、跳躍で右方向に……!
「――、 逆理 」
――え……。
女の一言で、礼装は方向を変えて、真っ直ぐわたくしに……っ!
ナイフで応戦。魔力をつぎ込めるだけつぎ込んで!
ばきん、と音が響いた。ナイフが勝った。やっぱりこのナイフ……いえ、今は問題なのはあの礼装がまるで聖凪の能力の様にあらぬ方向に曲がった事……! 以外は驚愕には値しないわ。
刹那、女の言葉が響く。
「――一つ、二つ……構成すべきは二つの束縛」
放たれた二つの鎖。異様の魔力を持ち、わたくしを襲う。
「っ――Verteidigung:Ich arrangiere einen, zwei, drei, vier, eine magische Macht, sich zu entfalten!!」
咄嗟の防御壁。魔力によって空間に定着された魔力の壁は、鎖を相殺する。
けどフィールドバックは大きい――、ぅ。ぼたりと血が口から垂れる。続く嘔吐感を堪えて、脚を強化、後ろに下がる。
それにしても……今の魔術構成と属性は……
「発火!」
――! 考える暇も無く、女の発火を眺める。発火した炎はそのまま一時的に魔術で凍結、それが此方に飛び、凍結解除、爆破。
ぱん、と音をたてて氷が飛び、同時に炎がわたくしを襲う。
「Verwenden Sie wieder!!」
先ほど利用した魔力の盾の欠片を魔力で組み合わせ、先程の盾一枚分の魔力強度の盾を構成する。
ばきんと割れた。氷は防げても炎は防げない――!
まだ魔力はある、わたくしは走る。炎は一度存在を定着されたら移動は不可能。
「まだですよ!」
相手は乗ってきたのか魔術のラグが……
「――っ、たぁっ!」
ナイフで礼装を落とす。ぐ! 今の効いた! 大きさがナイフ程度だったから良かったけど……下手したら死んでいましたわ。
休む暇は与えられない。
あろう事か、次は女自らが剣を取り、走ってくる。
「――強化!?」
急いでナイフに魔力を叩き込む。今出来る事はそれだけ――!!
刹那、ひゅ、と音をたてて、剣がわたくしを掠める。正確で、急所を的確に狙ってくる! 太刀筋はあくまで綺麗、無駄が無い。こんな綺麗な太刀筋を、わたくしは凛の一撃以外見たことが無い。
駆け抜けるは疾風の如く、女の一撃は、凛の言葉を借りるなら確実に死極を……
――待ちなさい。このデジャビュ……さっきも……――
そんな事を考えているうちに、女が下がった事も忘れ、我に返ったときには礼装の槍が五本飛んできた。
「しま――!」
った、と言う前には遅かった。
五つの灼熱の槍は、わたくしの腕を深々と突き刺す。
「ぐ――!」
そして……………………あの手に、例のあの礼装……
ギンヌンガププ――それは前にわたくし達を殺したあの礼装。
「――もう終わりにしましょう。争いも、この世界も……」
そんな言葉を聞いて思った。
今度こそ死んだ、と……
■■■
……此処は何処?
目が覚めたら、わたしの目の前には暗闇が広がっていた。
其処に一人、わたしが立っている。
「……何処、此処」
呟く。
でも言葉では呟けない。まるで頭に文字が浮かぶような感覚。声が出ない。それでも、思考が働くだけ幾分かましだとわたしは思う。
「……」
其処に一人の訪問者が来た。
……わたし?
「そうだ、私はお前、お前は私。私はわたし。昔歩む筈だった二つの運命の具現……」
その子は私と云う。
わたしはわたし。あの子は私。
色を失った世界にたった二人ぼっち。
「ねぇ、此処何処?」
わたしは聞いた。
「……私tが知りたい」
私は答えた。もっとも聞きたくない言葉だと思った。
ぱんぱん、と音がした。
わたしと私が其方を見ると、眼鏡をかけて時計を持った白いウサギさんが居た。
「ウサギさん?」
首をかしげる。
「此処は人が夢見るモノ……此の世にあってこの世に無い、心理空間の塊――『無意識の零』」
そんな事を言った。
ウサギさんが一つ、時計を視て、さん、にぃ、いち。
ぱんっ!
と、暗転して、景色は変わった。
ざざざざざざざっざざーーーー。
変なモザイクをかけたような光景が広がった。
一人の少女が居る。その子は忌み嫌われ、そして醜い容姿をしていた。
アヴェンジャー――復讐者の中の復讐者。全ての罪を背負った聖母の影。絶対神に寄り添うイヴとして生まれた女性の影であり、影は外に居るイヴの全ての罪を背負わせられる。たとえ、イヴが何をしても、それは全て影の責任――あんまりに、酷いと思う。
それでもそれは現実のことだとわたしは思う。
それは私も思う。
そうさ、人は自らと違うものを受け入れる事が出来ない。
醜ければその醜さを理由にその人間を迫害する。其処には人の支配欲が存在する。
男が女を支配したがるように、強者が弱者を支配したがるように、世界が人を支配するように、宇宙が世界を支配するように、概念が宇宙を支配するように、無が概念を支配するように……輪廻は回る、回る、回る、回る、回る。
その上に、自分の乗せたまま……
自分は誰だって大切だ。だから人は自分を守る。何時だって、自分よりも他人が大切な人間なんていない。それは幻想で、そんな人間は居たらそいつは人間じゃあない。
只の機械だ。
目の前の光景は、先程の女の子が泣いている。
「……どうして……私は悪くないのに……! なんで醜いだけで……苛められるの……!?」
そんな言葉を、呟いた。
醜い少女は捨てられる。捨てた人間は……ほっとすると思う。
じゃあ、捨てられた子はどうなるの?
おーーーーーーーーーーーーん、どん。
戦争が始まった。
私の目の前では先程の少女が居た。
「殺さないで!! 殺さないで!!!」
必死で少女は自分を守った。
少女はそのままどうなるのか子供心に知っていたのであろう。持っているものを全て捨てた。金なんて持っていないから、せめて体を売ろうと思ったんだろうな。
でも、少女は直後に爆撃で吹っ飛ばされた。
わたしは見た、目をそらさずに。
吹っ飛ばされた少女はそのまま地面に落ちた。幸い、腕が折れている程度、本当に、奇跡。
えぐ、と嗚咽が漏れる。少女は泣いていた。もう出ない筈の涙を振り絞って……
戦争は終わった。
少女はそのままどうもせずに倒れた。
そして呟いた。
「コンナセカイ――――――――イラナイ」
そう、断固たる決意で、ソイツは言った。
当り前だ。
此処までの仕打ちを受けて、思わない人間はいない。
私はその少女を別段特別には見ていない。まったく同じ境遇を、私は一度歩んでいる。
それは、何時の事だろうか? もう記憶に無いけど。わたしも昔あったような気がする。
少女は、立った。
怒りだけを胸に、悲しみを捨て、全てを捨てて、
「なら……この世界を私が壊す。
美しい姿、美しいアリスになる――!」
正論だ。
私は思う。
だが、何故……今はそれを否と思うのか……?
世の中に陵辱されつくされた少女。
裏切られ、醜いと蹴られ、罵られ、そして最後まで絶望の淵に居た少女。
元を辿ればどうなのだろう?
私はふと思った。
少女は――――藤咲ヒナにそっくりだった……
■■■
どしゃり、と、背中から死んだ。
わたくしの……切断、切断、開放……回路は……切断、切断、開放……切れてる。
動かない。
動かない。
動かない。
動かない。
動かない。
「……ぁ」
最後に視たのは何時だろう? そう思ってしまった。
何を視たのだろう? それも同時に思った。
「……か」
凄い、死ぬ前に走馬灯を見るのは本当なんですね……
――――――あれは、何年前かしら。
最後に思い出す記憶が、記憶に無い事なんて……
結局はわたくしは、何も守れないのかしら……
昔も今も。
昔のわたくしは、二人の少女の泣き顔を見ていた。
誰……?
「ヒナ、雛菊、■■■、何をしているの?」
奥から出てきたのは……お母様。
だれ?
小さなわたくしが、母親に言う。
「おかあさま、雛菊と■■■が喧嘩して、それで……」
「はいはい、解りました。
二人ともいらっしゃい」
二人の泣きじゃくる女の子は……お母様のもとへ。
幸せだった……
何も考えなくて良かった。あの頃は……
取り戻せるのなら、取り戻す。でも所詮は過去の話。今は過去にとっては未来。過去は過去に過ぎない。
場面は変わる。
「雛菊に■■■――まさか両方に『林檎』が在るとは思わなかった……」
お父様……
「――如何なさるんですか?」
お母様……泣きそうな顔をしている。
「片方には死んでもらおう」
……………………駄目!!!!!!!!!!!
そうして、■■■は、少し雛菊より醜いと云う理由で、戦場に置き去りにされた。
それからどのような迫害を受けて育ったのかは、解らない。
雛菊は、名前を雛菊から『林檎』に変え、藤咲林檎として過ごし始めた。
■■■は居なかった……そう思いなさいと言われた。
変な感覚……その捨てられた子、わたくしとそっくり……
――――――――あぁ、思い出した。
その子は何時もわたくしに助けを求めていた。
それでもわたくしは助けなかった。何時も藤咲家の長女として育ってきたわたくしは、自分だけを見て、雛菊と■■■を見ていなかった。只自分だけ見て、前に前に前に前に前に……
それがわたくしの役目と知っていたから。魔術師と識っていたから。
その子はその死ぬ間際までわたくしを頼った。なのにわたくしはソレに目を背けた。
「そうだ……それが業だ」
あの男は言った。
守れるのか? と。
リンを守れるのか、と、耀子を犠牲にしたお前が守れるのか? と問うた。わたくしは決意して頷いた。
あの男は識っていたんだ、■■■がどうなったのか、そして誰なのか……
「お前の心は何だ? 読むことか? 違うな。
人の心を読むと云う事は、それは即ち、心の世界を視ると云う事だ――」
わたくし
忘れるな、決して藤咲ヒナは……戦う人間じゃない。
かちゃん。
切断、開放、開放。
■■■
立ち上がった。
動ける筈は無い。だけど心配は無用、死んだ部分は心が修復する。そもそもわたくしに魔力なんてものは必要ない。魔術なんてものも持っていない。
「立った――!? ギンヌンガププを受けて――!」
何やっていたのかしら。わたくしが倒れている間に、リンを殺しておけばあなたの勝ちだったのに……とことん、甘いわね。
「ええ、おかげさまでね。アナタの正体も解ったことですし」
――そう、世の中で、出会い、戦った魔術師、超能力者の礼装、魔術、能力を完全にコピーする。
それが彼女の能力。
それ以上は持っていない――
そう、元来、藤咲家の人間は二つも能力を持てるはずも無い。
混合属性が生まれると云うけど、それは間違いね。だって照明がこの場に二人居るもの。
「ねぇ? そうでしょう?
藤咲マリア。
わたくしの妹――」
……莫迦なのはわたくし。
知っていたくせに解らない振り。
その結果がこれ。ランスロットに言われても仕方ないわね。
「アナタは……何を望むの?」
問う。
「世界の破滅。私を迫害した人間の消滅と、私が世の中で一番美しいアリスになる――」
案外あっさりと答えてくれた。拍子抜けね。
甘いのは今も昔も同じね、今直ぐわたくしを殺せばいいものの。
「――可哀想な子」
その呟きに、マリアは、
「…………誰の、せいだと、思っているのッッ!!!!!!!!!!」
激怒した。
展開するは剣。……多分、ガヴェインと戦闘したのね、この無限の剣はそういうわけなのね。
ランクは高いのでしょうね。単体とはいえ、礼装を生み出すくらいですから。
「誰のせいでも無いわ。確かに、アナタを捨てたお父様も悪いわ。それでも、アナタ生きているじゃない! 生きているのに……その生きていると云うヨロコビを知りながらどうして人を殺すのッ!!」
「――ッ!」
「わたくしは知ったわ、リンと出会って――」
さぁ、始めよう。
走り出す。
それを迎え撃つは、マリア。
問題は無い。わたくしは戦う気は無い。今は、その横を……
通り抜ける!
あんなに苦戦していたのが嘘のように、横をすり抜け、
「しま――っ」
た、と言いたかったのでしょうね、後ろから飛ぶ礼装を、わたくしはナイフで叩き落す!
お陰でナイフは折れたけど、問題はないわ。
わたくしの目的は、リン――!!
「リンと、出会って――アリスとは……」
誓おう。今こそ。
リンの唇に……わたくしの唇を……
ばち、ばち、ばち、バチばち……
切断、開放、開放。
開放、切断、開放。
開放、開放、切断。
落ちる。落ちる。
破裂寸前。心臓音が高鳴る。その先にあるのは全てを凌駕しつくすわたくしとリンの世界と云うことを知っている肯定を知らない知らない知らない知らない。
ばちばち―――ばつ。
開放、開放、開放。
刹那――全ての光景がクリアになった。
ぼぅ、と世界の色が変わる。
わたくしの心が閉じて、別の心に切り変わる。切り替わった心は壊れ、わたくしの手によって修復され、復元、壊れ、復元、繰り返す。
最後には……定着された。
マリアの目には如何映ったのかしらね。
其処に広がるのは、そう、黒き世界。白い太陽の光が一点だけある、『白銀の地平線』。
平行結界――自らの畏怖の象徴を作り出す結界。
だけど、わたくしの作る平行結界は違う。
自らではなく、他人の世界を創る。
心を読む。
それの本当の意味はそれだ。
他人の心を読み、その読んだ心の世界を具現化させる――ソレがわたくしの、礼装。
「――そう、アリスって云うのはね。
女の子みんながそうなる可能性があるの。
何時か、きっと、その子を本当に好きな人が現れる、その時、女の子はアリスになるの。
完全な少女なんて……いないのよ――」
さぁ……最後のときだ――マリア、アナタはわたくしが開放します――!
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