集いし九人のアリスの卵。
彼女達は何を思い、何を求めるのか……知る者は皆無である。
只殺しあう。最強を証明し、アリスを証明し、それは魔術のように複雑な式を作り出し、行使する。
ならば、そう彼女達はまるで、人形のようだと誰が言っただろうか?
全ては此処から、ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、あのシーンに繋がるACT 9です
バトルロイヤルと云うモノは、手負いの人間、若しくは此の中で一番都合の悪いヤツを殺すために他のヤツが飛び掛ってくると考えればいい。……と、なると、私が戦力を測っているのは藤咲ヒナとあの女ぐらいか……。
私は大太刀を奪った相手である女を眺める。既に新たな大太刀を入手しており、銀色の刃をちらつかせている。け、やっかいな。
九人の魔術師が一挙に集まるなんぞ、今までの『永遠の論舞曲』であっただろうかねぇ、いや、無いわね。
引き出す記憶は名前だけ。二ノ宮リンは二ノ宮凛に情報を提供する事は無い。だからこそ、漸く闇の奥底から引っ張り出してきた『わたし』の記憶から、此の場に居る人間の情報だけを持って来た。梃子摺らせやがって。コレだから二つの人格って云うのは厄介なのよ。
判るのは数人――
言うまでも無く、私の目の前に一度現れている藤咲ヒナ。
髪の毛をツインテールで纏めてやがるのが那古望。
髪の毛をポニーテールに纏めてやがるのが遠野由香。
ショートカットで、腕に何か魔術を纏わせているのが雨宮カレン。
眼つきが悪くて、物騒な得物を持っているのが山上耀子。
膨大な魔力を持ってやがる、一番殺気放ってんのが斉藤カヲリ。
以上の奴らなら記憶にある。あとの二人はしらね。
さて、如何したものか……
「此処に集まったと云う事は……少なくとも、皆この結界を察知してかしら?」
藤咲が開口一番にそう言い放つ。
奴らは無言だ。暗黙の了解と云うやつである。
「驚きました、皆さんがこの戦いの参加者だったとは」
次に声をあげたのが雨宮だ。
「……同意」
で、那古。
ふん、皆気付いてなかったみたいだな。ま、魔術師は魔力を隠すモノだからな、斉藤みたいにあんな馬鹿デカイ魔力を持っていない限り、魔力が漏れることは防げる。『吸血鬼』とかは別だけどな、アイツは鼻が良すぎる。
「まぁ、一番驚くのは……」
斉藤の一言で、奴らの視線が私に注目する。
「貴女……よね。二ノ宮さん」
「は! 私をあんな間抜な『わたし』と一緒にすんな。殺すときは容赦しない」
返した言葉に一同は眉を顰める。
そんな中、轟音と共に屋上のフェンスがぐしゃぐしゃに潰れた。
「つまんない」
一同の視線は、私から呟きを放つ少女に向けられる。
その目は……尋常では無い。
「……忘れてたわ。彼女、言った言葉の意味が反対になる力と、反対にした言葉を現実にする超能力を持っているわ」
藤咲がさらりととんでもないことを口にする。
つまりそれは『逆理』。理を逆さまにする頂上の力。成る程、ソイツは良い。
私はナイフを握りなおし、駆け抜ける。
命令を無視することは簡単だ。それを行使する光情報を斬ってしまえば良い話。――つまり、ヤツが『逆理』の命令を出した直後に、このナイフを情報に突き立てれば、ヤツの能力は攻略したも同然。
バトルロイヤルにおいて、目の前の敵に背を向けるのはアレだが、ま、奴らにとっても面倒な能力を持っているこいつを殺せれば問題は無いだろう。
先手必勝、私はナイフを振りかざし、
「――ふ」
一閃。
殺ったか?
「あ――」
はは、野郎、やってくれたぜ。
見れば、私の体飛んでる。
「ご――ッ!!」
背中から、屋上の壁にぶつかった。
薄れる、霞む目。それに写ったのは、やつの騎士。
やってくれる。騎士なんざと契約しているとはな、しかも女か。
「ランスロット!」
藤咲の声が飛ぶ。は、コイツもか……
ぁ――やべ、もう意識が ―― 、 。
◇
がんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがん……………
ぁ――――――――痛い?
薄れている視線、光が目に差し込む。
わたしの意識は覚醒した。これ以上無いほど、思考はクリアだ。肝心の視界はぼやけているけど、まぁ、見えないことは無いと思う。
でも……その光景を見なければ良かったと、“私”は思っている。
あれ……今、私って言った? なんで? だって二つの意識は……二つの意識って何?
わたしは私。私は、わたし。
何も変わらない、響きは同じ。
だと云うのに、不鮮明な記憶と不鮮明な映像が頭を過ぎる。
人が見たものは光情報として目を通り、脳で処理される。故に、この光景は脳裏に過ぎるものだ。
「……ぁ」
キレイと云う言葉は、“綺麗”と“奇麗”と云う二つの言葉に取れる……。
私の目の前に広がっている光景は、どちらかと云うと“奇麗”だった。
きぃきぃ、と、カチリ、カチリ、と、耳障りな音が響く。嫌な音。耳を塞ごうにも、腕が動かないのだから仕方が無い。命令を聞かない腕はまるで、元から腕なんか無かったかの様に感覚がなくなっていた。……よく見れば、腕の二の腕辺りからあらぬ方向に曲がっている。
夢……だと思う。うん、多分。
目の前には、六人の少女がトンデいる。しかも血塗れで……
「は――は、は、は、は、」
狂ったのかな。わたしの思考回路がおかしくなったのか、自然に笑みがこぼれた。
だって私の手は血で濡れてる。他の人の手も血塗れだ。皆、キレイな赤色。紅色。
青き月がわたしを見る。赤き月が私を見る。
それがたまらなく不気味で、そして美少女達の気味悪さをいっそう強くしていた。
綺麗だから争うのか……へぇ、知らなかった。私も知らない。わたしも知らない。
思考は無に還ろうとしているのか、段々頭の痛みは増していく。
がんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがん………………
様々な悪行も綺麗なら許される。
そう、流れ込むのはそんな感情。
――何故なら……呪われた宿命からは逃れられないからだ――
それは違う。
わたしは……呪われてなんか……無い。
――オマエは呪われている。キレイ故に、オマエは呪われている――
違います! 違う!
だって、わたしは、私は……
――なら見るか? お前の罪を?――
「あ――あぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」
殺人罪予備罪自殺関与同意殺人罪未遂罪堕胎罪遺棄罪過失致死罪業務上過失致死罪危険運転致死罪傷害罪暴行罪凶器準備集合罪過失傷害罪脅迫罪強要罪逮捕監禁罪略取誘拐罪強姦罪住居侵入罪不退去罪信書開封罪秘密漏示罪名誉毀損罪侮辱罪窃盗罪強盗罪詐欺罪恐喝罪横領罪逃走罪建造物等損壊罪器物損壊罪――生きる上での全ての罪という罪を犯せしオマエに生きる権利は無いそうさもう既に終っている人生をやり直す術など無い消えろ今直ぐ此の世から命を消せそして贖罪しろ懺悔しろ神の前で悪魔の前で命を捨てろそう許されることでは無いと解っていてもオマエにはそれしかする事が無いといえる肯定――
流れ込む感情を抑えきれず、思い出した光景を忘却に望み、わたしの、私の意識は消え行くかも知れない。
そう、わたしは、私は何をしてきたか? 殺人衝動を抑え切れなかった私は? 全てのことに耳を塞ぎ、目を背けてきたわたしはどうなる? 死して罪を償ったわけではない。
今でも、わたしは生きている。
目の前でトブ少女達はどうだ?
キレイだろう? そう、わたしよりずっとキレイだった。
ふと、過ぎる、台詞、……キレイって、どういうことを云うの?
Interlude......
「逃げられた?」
少女は自らの騎士に問うた。
すりむいた部分から血が流れているものの、他に目立った外傷は無く、治癒魔術が効いているので直に自然治癒するであろう。
一方、問われた騎士は、自らの剣を仕舞い、肯定の頷きを目の前の少女に返した。
「面目ない。ガヴェインにしてやられた……」
そう返す騎士こそ、藤咲ヒナの騎士たるランスロットであり、当然、目の前に居る少女は彼の主である藤咲ヒナ以外のほかでも無い。
そんな会話を繰り返す中、向こう側から三人の少女、遠野由香、雨宮カレン、そして那古望が歩み寄る。
「結界の方は解除されたみたいよ。……まぁ、形式上誰が張ったかはさっき明らかになったけど」
「……調査済」
由香はメモを取ったルーズリーフをヒナに渡す。
「……汚い字ね」
ヒナが呟くと、しょうがないでしょ! と言う由香の声が飛んだ。
“……これが本当なら、少し厄介ね。下手をすればこの学院の生徒達全員が死ぬでしょうね……”
ルーズリーフを由香に返し、後ろから二ノ宮リンを抱えて歩いてくる雨宮カレンの方を向く。
「大丈夫です。気を失っているだけです」
「そう」
安堵の溜息を漏らす。
が、そんな合い間も束の間で、
「で? どうするの? 私たち、余り長いこと一緒に居るとジャッジメントに裁かれちゃうけど?」
ジャッジメント――それは一種の監視役の様なモノであり、この『永遠の論舞曲』において絶対権限を持っているものである。
それは絶対神言……神の時代と呼ばれた七世紀以前の神が齎したといわれる絶対権限。故に逆らえるモノはいない。
ヒナは爪を噛む。二ノ宮リンが『永遠の論舞曲』の参加者と解った以上、戦わなければなら無い。が、藤咲ヒナにとってそれは出来ない相談である。ならば、ジャッジメントに逆らってでも今は二ノ宮リンを護らなくてはならない。無論、二ノ宮凛はその範囲に入っているかどうかは不明であるが……
「それは私も一緒よ。だからこそ、覚醒する可能性のあった此の子の傍に居て、此の子だけは戦いに巻き込まれて無いように、それでこそ割れ物を扱うようにやってきたんだから」
由香は腕を組みながら言う。
つまり、遠野由香と云う人物もまた、藤咲ヒナと意見を同じにするものなのである。
「あなた達は?」
ヒナは望とカレンの方向に視線を移す。
「私は……兎に角、あまり人が死ぬのが好きじゃないんです。でも、向かってくるなら――」
つまり、戦う意思が無ければカレンは襲わない。
次に視線を望に移す。
「……わたしは、護るだけ」
思わず誰を? と聞きたくなる様な言葉だったが、彼女自身首を振ったので聞かないことにした。つまり、目下のところ、この場に残ったメンバーに戦闘意思は無い。
「――ならば問いましょう。
この結界を消すまで、此の少女、二ノ宮リンのシュヴァリエとなりますか?」
その言葉に、一同は――取り敢えず――頷いた。
今此処に、この学校の結界を解くまでの間“だけ”の同盟が結ばれた。
Interlude END
◇
頭が痛く、目を閉じる前に交わした契約を思い出す。
「助けて欲しいか?」
その人はそう言った。
わたしに、私に答えを求めた。
二ノ宮リン、二ノ宮凛に答えを求めた。
助けて欲しいか? と。
「コレは契約だ。オマエを助ける。オマエが差し出すものは、唯一つ……」
その差し出すものに、わたしは、私は躊躇う事無く頷いた。
しかば、私は人を殺すであろう。
しかば、わたしは逃げるであろう。
しかし、この契約からは逃げられない、殺せない。
わタSHIには、もう、逃げ場は無い。
「貴方は、誰ですか?」
震える唇で、その人に聞いた。
「上川強気――『魔法使い』なんぞをやっている……」
そう、吐くように言った。
* A L I C E *
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