精神異常者の狂乱は続く。
そして、新たなアリスが行動を始める……
魔術師が魔術師を呼ぶ、少女が少女を呼ぶ。
ハスミ林檎 様(いい加減に別の呼び方を考えます)に捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説――新手のACT 7です。
どこか遠くで、じゃり、と音がした。
◇
Interlude......
響いた。
金属と金属がぶつかるようなその音は、無論、ランスロットとガヴェインによる攻撃の音である。
ランスロットが剣一本に対し、ガヴェインは無限に剣を作りだし、一気に放つ。オールレンジ攻撃とはこの事である。逃げる隙のない、剣の檻……まさにそんな喩えが似合う。
片や、超能力と超能力をぶつけていた。
「―― 、 逆向方行進」
少女が呟く。と、藤咲ヒナの動きが変わる。
「う――、Verstärkung Hüpfer!!!」
瞬間、ヒナが標的とは逆方向に跳ぶ。
彼此、この様な戦闘を始めてから数十分。戦闘とは、ほんの一瞬で勝敗が決まる。が、今でもこうして戦闘を続けているのには訳があった。
一つ、そう、藤咲ヒナと、少女の相性である。
「……おかしいわ。だって私の方が強いもの。なのに、何で貴女には通用しないの?」
少女の些細な疑問。
本来、戦闘相手にその様な事を聞くのは有り得ないことなのであるが、少女自身、今戦闘を行っているのは夢だと思っているが故、この様な質問を投げ掛けているのであろう。
暫らくの沈黙があった。相変わらず、後ろ側では激音が響いていた。
「当り前よ」
更に一言の攻撃を避ける。
「何故なら、わたくしは人の心を読む超能力者だもの」
それは、確実に有り得ない。
元来、人の心と云うモノは文章化が出来ないものであり、その心理は世界すら把握することは出来ない。喩え、神が居たとしても、人間の心の内を読むことは出来ない。その感情は、その人間だけのものである。他の誰のものでもない。
故に、人の心を読む超能力など無い。
只唯一……読心術と云うものを具現化した超能力が存在する。
『反射真』――それは限界までパラメーター化された脳の能力を最大限まで魔力で強化し、相手が取りうる行動……つまり、目の動き、足の一瞬の動き、更には息遣い等々、人に見える無限の動作を人間の反射神経を使用し、考え、これから取る行動を完全予測する。
それが、藤咲ヒナの超能力、『反射真』である。確かに、読心術に似たような所はある。
が、人に完全に他人の心を読むことなど出来ない。
「――ッ!」
少女の苦痛の顔。
超能力とは神経、そして異常なまでの魔力を消費する。苦しむのは当り前である。
しかし、この光景を夢だと思い込んでいる少女にとって、これはいずれは止む痛みである。構ってなど居られない。今は只、目の前に居る自分の同類を殺すだけ……。
「――― 、 転逆界視!!!!」
その言葉を予測する、が、
「っ!」
視界が暗転した。
“いけない、視界を……”
そんな思考が廻る一秒、刹那、
「ガヴェイン! この子を殺して!!」
聞こえた。
自分への殺戮宣言を聞いたヒナは、急いで能力の行使をする。が、視界を奪われている藤咲ヒナの能力は発動しない。視界あってこその『反射真』、潰されればそれは無力化される。
ガヴェインの御意の声があった後、剣戟が飛んだ。
風を切る音を立てる。
が、それは突如現れたランスロットの手によって止められる。
「ヒナ、一旦退くぞ!」
「――! まだ!」
反論するヒナ。が、しかし、
「愚か者! この状況で勝てるか!」
そんな一閃があった後、ランスロットはヒナを抱え、この場を離脱する。
後ろからの追ってはなかった……。
消えた二人。
二人だけになった少女とガヴェイン。安堵半分、そして恐ろしさ半分を抱えながら少女は座り込んだ。いや、正格には、倒れこんだと云うべきか。兎に角、力尽きたのか倒れこんだのである。
“このまま眠れば、目を覚ます。そして、何時もの日常を……”
少女はそう頭の中で呟く。もう、意識も消えている。
意識が消えた少女を、ガヴェインは抱えた。
「せめて眠りの中では楽しく遊んでいてくださいね。……聖凪」
自らの契約主の名前を呟いて、ガヴェインは凪を家のベッドに寝かせるべく、歩を進めた。
Interlude END
目を覚ます。
それは、玄関の扉が開いて、閉じた音だった。
「……ヒナさん?」
わたしが玄関に向かって言う。見れば、時刻は七時半だ。
「ごめんなさい。旧知の知り合いに会っていたものだから、つい遅くなってしまったわ。待ってなさい、今夕食を作るから」
そうか、夕食は何時も会食で全校生徒同じ部屋での食事になるけど、わたしが風邪で寝込んでいるからヒナさんも今日は家で食べなくちゃいけないのか……なんか、悪いことをした感じ。
「別によくってよ? だって、久しぶりに二人で食事が出来るもの」
その言葉を聞いて、記憶の中から思い出を手繰り寄せる。
「えー、と、以前食べたときは……去年の林間学校でしたか?」
「ええ、そうね。あの時は遠野さんが風邪をひいたんでしたね」
「はい、覚えてます」
わたしは素直に頷いた。
ヒナさんから差し出されたカップスープを受け取ると、それを一口啜る。うん、眠気が覚めた。
「テレビつけてもよくってよ。貴女と居ると退屈しないから、久しぶりに見たくなったわ」
笑顔でヒナさんはそう言う。
わたしはそのヒナさんの言葉に甘えて、テレビの電源を入れた。徐々に明るくなるテレビ画面。朝方わたしが見たときと同じチャンネルになっている。故に、現在はバラエティ番組とか、旅番組の時間である。お馴染みのアナウンサーがふるさとの味とか云う特集をしている。
「ニュースにしてくださる? 今日のニュースが見たいの。終ったら貴女の好きな番組にしてもいいわ」
はい、とわたしは答えて、チャンネルをニュースに変更した。
『さて、現在入ってまいりました速報です』
暫らく他愛の無いニュースが流れた後、突然、用紙を受け取ったアナウンサーがそう言った。
『市内の路上で「異臭がする」との市民からの通報を受けた警察が調べたところ、一人の少女の死体が、頭を切断された状態で発見されました。
警察は、その切り口などから、数日前まで多発していた連続女子高生辻斬り事件と同一犯と見て、調査をしております』
……突き落とし連続殺人事件もあるのに、また辻斬り事件。最近この町が物騒な気がする。
そして部屋に嫌な空気を残したまま、ニュースは終った。
「……いいわよ、リン、貴女の好きな番組に変えても」
そんな重いヒナさんの言葉に促されて、わたしは番組を先ほどの旅番組に変えた。
時刻が九時過ぎになったところで、わたしは眠ることにした。
ヒナさんは先ほどからわたしの横で授業の復習をしている。……本当に、完璧の裏には努力があるんだな、て思う。わたしも予習も復習もするけど、ヒナさんのペースとは大違い。わたしがウサギだとしたら、ヒナさんは戦闘機並みだ。
布団の中に潜る、と、
「眠るの?」
ヒナさんが聞いてきた。
「はい。明日には授業に出たいので……今熱も下がってますし」
そう言うと、徐にヒナさんは今まで開いていたノートを閉じた。
「わたくしも寝るわ。灯りが点いていたら眠れないでしょう?」
「いえ、大丈夫ですから……」
「いいのよ、偶にはわたくしも早く寝たいの。
さ、少し横にずれて下さる?」
…………………………………え?
今ヒナさん……なんて……?
横に――ずれて?
「ええ、ベッドは一つしか無いのよ? なら二人一緒で寝るしか無いでしょう?」
まぁ確かにこの部屋にあるベッドは一つだけ。それはわたしが保証する。
「え、でも!! わたしの風邪とか、移るのかも! 知れませんよ!!」
「別によくってよ? 風邪は人に移すと直ると言うわ」
やんわりと答えるヒナさん。
「でも! わたし寝相悪いですよ! ヒナさんを突き落としてしまうかも知れません!!」
「大丈夫よ、昨日見たときは寝相は良かったから」
やんわりと答えるヒナさん。
……打つ手なし。完全にわたしの手は潰された。
観念したと解ったのか、ヒナさんは布団の中に入ってくる。
うう、何でわたしってこういう時に弱いかな……
「それでは、おやすみなさい」
「あ、はい」
わたしはヒナさんのおやすみなさいの挨拶を、同じおやすみなさいで返すと、目を瞑った。
最後、
「っ」
額に、軟らかい何かが当たった。
ああ、わたし今夜失神してるかも……それはヒナさんのキス。
◇
夜……と言っても七時を回った頃、私、渡辺明日香は新しい太刀を持って一つの死体を凝視していた。
首から飛び出る血しぶきはいかれた蛇口みたいにどばどばと鮮血を流している。……ふん、これも仕方が無いことだから同情はしないけど、やっぱり余り人の血の臭いは好きじゃないわね。
こんな異臭、いずれ気付く住民がいるでしょう、今の内に逃げておこう。
「はい待ってねー」
と、少し明るい口調の声が響いた。
「あーあーあー、こんなに食い散らかして」
死体の横にしゃがむ乱入者。服装からして、この前侵入したあの聖マリア学院の生徒だろう。髪の毛をポニーテールにしている。
少女はさて、と呟いて私に面と向かった。
「漸く見つけたわよ。辻斬り事件の犯人、渡辺明日香」
随分私の事調べたわね。
「そりゃもう。そしたら吃驚、死んだ女の子全員、『永遠の論舞曲』の参加者だったんだから。で、計算してみると、もう九人しか残っていないのよねー、この戦いの魔術師は」
そう。私が殺したから。今まで対した相手は居なかった。只手ごわかったのは、あの女だった。妙な技を使ってきたから。
「そこで質問。あんたも“ゴルディアン・コフィン”狙ってる?」
「……無論」
私は正直に答えた。
だって、目の前の少女の足には『永遠の論舞曲』参加者の証の聖痕があったのだから……
「貴女」
「自己紹介しておこうかなー、これ以上他の人間殺させるわけにもいかないし、知っておけば、あんた私しか狙わないでしょう?」
少女はウインクをすると、手に魔術円を作り出した。……早い、そして式の証明が適格だ。確実に魔術師としての素質を持って生まれている。『永遠の論舞曲』参加者に与えられる魔術師としての魔力ではなく、生まれつきの魔術の天才としての、素質を――
「私の名前は遠野由香。さ、相手してあげる」
* A L I C E *
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