契約は果されてこそ契約となる。
わたしは月になりたい。私は太陽になりたい。ワタシは機械になりたい……
望むのなら人は自由だ。だが、それを手に入れようとするとき、
人は確かに――罪を犯しているのであろう。
ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、ACT 21です。
目の前の敵と対峙した。
「こんばんわ」
二回目の言葉。わたくしは返す気はまったくないもの。その赤い目をした異様の魔術師に、わたくしは真正面から対峙している。
リンはと云うと、気絶したみたい。……あの子が血とかに弱くてよかったわ。でも、申し訳ないけど、貴女をまたあの寮に連れて行ってあげることは難しいかもしれないわ……
先ず、目の前のあの異形に……わたくしは勝てるのか……それが問題。
前回の戦いのときは、運がよかった。
あの人が一つずつしか礼装を使用できないことと、何故だか解らないけれども、わたくし達が大した傷では無かった事によって今この場に立っている。これが奇跡といわずしてなんと言うのか、わたくしには想像もつかないわ。兎に角、それほどの運が作用して今わたくし達は生きている。
魔術を構成する。今、わたくしがこの目の前の女性に勝てる確率はゼロに等しいわ。なら――先手必勝、先に仕掛けないと、確実に死ぬ。
「――っ!」
わたくしは攻撃の魔術には適していないけれども……少しくらいなら行使できるわ!
黒の球が、勢いをつけて飛んだ。刹那の内に走り出す。あとは攻撃を読んで、一撃を叩きつける――!
きん、と音をたてて、球が落ちた。
「――!?」
それに気付いて、思った。
勝てない。
だってそうでしょう?
女性の心が……読めない。
「……」
襲う。わたくしに鎖が襲う。それはわたくしの体に巻きつき――女性が腕を振るうたびに、わたくしの体が浮く。そして、飛んだ――
「――きゃう!! ぐ……」
背中を、ビルの壁に叩きつけた。
みしりと、骨が軋みをあげる。そのまま、血の跡を残しつつ、ずるずると、わたくしは地面へと落ちる。
……なんて……無様。
「行き成りとはご挨拶ですね。私は出来るだけ戦わずに穏便に済ませたいんですけど……」
そんな事を、女性は言っている。
うそおっしゃい。なら、なんで攻撃してくるのよ。今も、そして前のときも。
「だって、貴女達を倒さないと、この『永遠の論舞曲』は終りません。なら、最小限の犠牲者でこの戦いを終らせるために、貴女達を殺さなくてはなりません」
言い分は正しい。
そうよ……それがこの戦いを終らせる一番効率の良い、そして、人のためになる終らせ方よ。一般人になるべく被害は出さず、『永遠の論舞曲』に参加する魔術師だけを殺していく……正しい、魔術師であるためのもの……
だがそれも――
「私が用があるのは、貴女ではありません。
……この子です」
女性は、ゆっくりと、指先を、リン……に、指した。
……………だめ。
「それだけは……駄目よ……」
立ち上がる。
身体の損傷は激しい。背中の背骨には罅が生えてるし、血管も、至る所が破裂している。魔力を通すだけの血管は……もう、全滅に近いわ。これ以上の魔術行使は自殺行為だし、何より、わたくしの命に関わるわね。
それでも、
「守る」
――一度手を繋いだのなら……もう離すな――――
ある男の言葉。
わたくしを、短期間とはいえ守ってくれた。そして、ゴルディアン・コフィンを諦めてまで、わたくしの理不尽な命令を聞いてくれた、あの男の言葉。
ええ、もう……何があっても、離すものですか――
それがたとえ禁じられたものだとしても……世界から見れば異端の事だとしても……
―― ……離すな、その手を――――
「――リン、わたくしは貴女を、これからの一生……」
はなさない
愛する、と……
“――誓えるか……?”
霞む目に、その男の姿。
真正面から……わたくしを見る。
ありえないものをみた。
何故、わたくしの目にその男が映るのか……でも、それはどうでも良いことよ。
男はわたくしに「誓えるか?」と問うた。
試すように、笑うように、そして、覚悟を決めろ、と……わたくしに言った。男が消える前に、二度と会えぬと悟ったときに、男は、せめてその手で幸せにしてやってくれ、と、言った。
頼み込んだ男が、今はわたくしの目の前に立って、わたくしを試している。莫迦な話ね。
その答えは決まっていると云うのに……
「誓うわ」
一言だけ、幻想の男に向かって誓った。
幻想の男は、一つ笑って……背中を向けた。
その背中を――追い越す。
「――リンから……離れなさい――」
ばちばち、と、頭、の、中、で、電撃、が、走、る。
がちゃり、と、頭、の、中、で、電源、が、入、る。
みしり、と、骨、が、罅、を、くっつけ、る。
がらん、と、心、が、空、に、なる。
ぱきり、と……、……、……、……。
「――貴女……」
女性は、目の色を、変えた。
色……と云うのは、比喩、だ。
「離しなさいッ!!!」
以降の……記憶……は……
Interlude......
藤咲ヒナは動いた。
女から見れば、それは悪足掻きに見える。
だが、それは無視できない。
「――!!」
ヒナの魔術が展開される。
先程より、動きが違う。
「そうですか……魔力を強制開放して、私を殺そうと……」
迫りくる脅威を眺めて尚、女にはまだ余裕があった。魔力を開放し、暴走させている魔術師程度に、女は屈する事は無いであろう。今までがそうであったように、女に立ち向かう魔術師は全て、“不可抗力”で殺してきた。……只一人、例外を除いて。
「――カラドボルグ」
右手に剣を取る。装飾など何一つ無い。鉄をそのまま剣にした様に鈍い色をしたその剣は、今、ヒナに牙をむく。
横に一閃。線を描き、太刀筋はヒナを襲う。
女は斬った、と思った。
「――ッ!」
金属音を立ててカラドボルグは宙を舞う。
「え……」
女の顔が……歪んだ。
驚愕の顔だ。
カラドボルグを……落とされた。自らが確実に殺したと思った一撃を、目の前の少女、藤咲ヒナは容易く、まるで其処に来るのが解っていたかの様に軽くあしらった。
「――ッ!!」
ヒナの動きは早い。
そして、右腕に走る魔力。
それを……
女は、掴んだ。
「――っ……!」
ヒナの顔があがる。
其処にある、女の綺麗な顔が……笑っていた。
刹那、無数の剣がヒナを襲った。
Interlude END
意識が戻ったとき、わたくしの目の前に、リンの姿は無かった。
「……あ」
お腹を触る。そこにあった筈の穴は、無い。それどころか、わたくしの体に外傷は見られない。
起き上がると、そこは、リンの部屋。
「――」
辺りを見渡すと、誰もいない。
そして思った。
あの光景が本当だったら……わたくしは……
「起きた?」
後ろを見ると、由香さんが居た。
「……わたくしは……リンを……」
朦朧とした意識で……問うた。
由香さんは、頷いた。
「……ええ。――最悪の、ケースよ」
眉間に皺を寄せて、
が!!!!!!
わたくしを……殴った。
……涙なんて、出るわけ、無いじゃない。
* A L I C E *
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