現れた絶望。
直面した現実から逃げるために、少女の取った行動。
消え行く参加者は、ついに……
ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、それが人、ACT 19です。
-5 days
……機械的な何かで、わたくしは目覚めた。
「―― ……」
横を見ると、窓から光が差し込んでいて、逆側を見ると、白い壁と、点滴に繋がれているわたくしの左手。
体を起こす。別段支障なく、体は動いてくれた。どうやら、わたくしは今病院にいるようですね。
「馬鹿なこと、言わないでください、姉さん」
扉の向こう側から、林檎が出てきた。
……此処が病院では無いと云う事は……
「――家なのね」
「ええ」
わたくしは点滴を抜く。恐らく、佐々木が手当てしてくれたのでしょう。
「そうよ。態々来てもらったのよ」
それは悪いことをしたわね……。
わたくしはそのまま部屋を出る。
途端、記憶が覚醒した。
「――わたくし、どうして生きているの?」
振り返って、林檎を見る。
あの胸に聖痕を持った女性――あの一つ一つの武器が、礼装に見えたけど……あんなものに直撃して、わたくしよく生きていたわね……
「――待ちなさい! 他の子は!? リンは!?」
林檎に詰め寄る。
一瞬驚いたような顔をしたけど、林檎は直ぐに冷静さを取り戻し、取り乱すわたくしを押さえ、
「……大丈夫ですわ。皆さん、無事です……。一先ず、よく生きていましたわね……」
掴んでいた林檎の服を離す。よかった、本当に……
でも、そうなると本格的に、どうして生きていたのか解らないわ。そして、あの女性は、一体……
◇
部屋に入れば、紅茶を飲んでいる由香さんとカレンさんが居た。
「おじゃましてます」
カレンさんがお辞儀をする。
……由香さんは、きつい目をしている。勿論、理由は解っていますけど……それでも、あれはわたくしが思うには――
「解っていますよ、生徒会長サマ。……私が悪かったです……」
そっぽを向いて言う辺り、由香さんぽい。
それよりリンは――
「まだ寝てますわ。今のところ、人格のほうはリンさんのほうです」
「そう――それじゃあリンが起きてくる前に、この話に決着をつけないといけませんわね」
わたくしのその言葉に、一同は頷いた。
「先ず、わたくし達はどうして生きているのかしら? あの時、確実にわたくしたちはあの礼装に貫かれた筈よ」
その言葉に、林檎が答える。
「それは私に言われても解りませんわ。聖マリア学院でいざこざがあったと聞いたので、事の収束に来たのですから。お姉様たちを助けたのも、魔術が外界に出回らないための配慮ですわ。
お姉様たちは、私が見つけたときには瓦礫から出されていて、傷一つない状態で横にされていましたわ。周りに人がいなかったことから、誰にも気付かれていなかったようでしたので、そのまま回収しました。因みに、点滴をうったのは一応の配慮です」
林檎の説明を聞く。
そう考えると、誰がわたくし達を助けてくれたのかは不明と云うわけなのね……あの状況から助け出したと云う事は、かなりのやり手のようね。恐らく、あの武器に対応できるほどの量の武装を持っていたと考えられるわね。
「そうとも言えますが、他にも強力な礼装を一つ持っていたのかもしれません」
カレンさんが付け足す。
「ありえない話だけど、『平行結界』と云う線もあるわよ」
そして由香さんも付け足す。
そうね、由香さんの方は中々ある話じゃないけれども、その二つも尤もな話ね。
「遠野さんの話を聞いた限りでは、お姉様、その女性は胸に聖痕を持ち、武装をかなり持っていると……」
「ええ」
わたくしは肯く。
「では先ず、その敵を倒すか、それとも保留させるかが問題では無いですか?」
……そうね。先ずそこから考えましょう。
「その話なんですが……」
考えを始める前に、カレンさんが手を挙げた。
そして、由香さんと共に、徐に腕を捲る。
「……そんな」
そこには、綺麗に聖痕が消えた腕があった。
Interlude......
女は朝日が昇るのを見ていた。
「……上川君」
女が言うと、後ろから上川と呼ばれた少年が現れた。
「仕留めたのか?」
上川が聞く。が、その言葉に女は首を横に振った。
上川は、そうか、と呟いて、空を仰いだ。
「……気が付いたらいなかったのです。私の武器も皆叩き落されていましたし、ギンヌンガププも発動前に無効化されました」
女が言うと、上川は再びそうか、と応えた。まるで、興味など無い、といわんばかりに、上川は女の口から発する言葉に無関心であった。それは完全な拒絶か、それとも本当に無関心なのかは解らない。
「何故、カヲリを殺した」
代わりに、上川は別の言葉で返した。
女は一回躊躇ったが、応えた。
「……私の目的に邪魔だったからです。
ごめんなさい、大切な人でしたね……」
いや、と上川は返した。
「……本当にスキなのかどうかは解らない。ただ似ているだけだ……それに、アイツが死んだのなら、もう、此処にいる理由も無いしな」
「そう、ですか」
女は俯いた。
上川の言葉はどんな言葉を返すときも無気力で、無関心である。それでもたった一つ、無関心では無いときがある。――それこそが、唯一、斉藤カヲリの話のときだけである。今もそうであり、女の言葉に感心を見せなかった上川が、唯一、感情を込めた言葉を発した。
多くの契約と、盟約。そして挙句の果てに与えた力……。この上川と云う人物が何を考えているのか、女には理解が出来なかった。
いや、理解できないのではなくて、出来ないのではないのか? そう思うときもある。
上川と女が出会ったのはつい最近だ。と云っても、一ヶ月前の話である。胸に聖痕を授けられし女に行く導を説いた少年である。
「……貴方は、何をやろうとしているの?」
徐に、この一ヶ月間疑問に思っていたことを女は問うた。
「――やらなくてはならないことがある……大切な、約束がある――」
誠意を込めた言葉で、少年は呟いた。
そして、夜は明ける。
Interlude END
聖痕が無くなった腕を直視したあと、わたくしは脱力した。
「……つまりは……」
その事実を口にするのは余りにも、わたくしにとっては残酷過ぎた。
「この戦いで生き残っているのは……あの女性と、リン、望さんだけと云う事――?」
由香さんも、カレンさんも肯く。
「それと、望は一昨日から連絡が取れない」
由香さんが付け足すように言う。
絶望的ね……つまりは、リンを護るべき人が、望さん以外望みが無いと云うわけね……『永遠の論舞曲』の参加者の中だけでは。
「脱落した私達には、ゴルディアン・コフィンの恩恵がありません。聖歌も歌えませんし……聖痕を持っている人間の気配も辿れません。下手をすれば、死ぬこともあります」
カレンさんが顔を顰めて呟く。……。
「それに問題点も幾つかあるわ。望は説得するとしても、あの女をどうやって倒すの? ……あんな、出鱈目でキチガイ染みてるヤツ、倒せる保障が何一つ無いわ。最悪、全員でかかっても敵わないでしょうね」
確かに、あの女の人を倒すことは難しいでしょうね。わたくしの礼装を使っても、恐らく、由香さんやカレンさんが持っている礼装を総動員しても、無理でしょうね。
八方塞がり、と言うわけね。運よく凛が望さんを何とかしたとして、最後の一対一の戦いになったとき、凛が勝てる可能性はゼロに近いわね。――そもそも、凛の魔術が強化だけで、まともな魔術が何一つ行使できないと云う辺りも絶望的ね。
「……お姉様、あの人の持っている兵装は全て『庭園』で失われたものの筈です。『庭園』の方に報告したらどうですか?」
林檎の提案は尤もな話ね。
「それは無理よ。先ず、『庭園』が選んだ筈の『ジャッジメント』しか、『庭園』に報告する神言を持っていないの。わたくしが『永遠の論舞曲』に参加していた以上、戦いが終るまで、藤咲家はこの件に関する権限を持たないわ」
まして、お父様やお母様がいない藤咲家は、何の価値もないはずですからね……
「――本当に拙いわね。どうする? 生徒会長サマ?」
由香さんの言葉。それは確かなのだけれども……
「如何しようも無いのよ。対抗する方法も……
兎に角、今は望さんを捜索しましょう。あの女の人なら後でも何とかなりますし……」
わたくしの提案に、一同は少し悩んだようだったけれども、直ぐに顔を上げて肯いてくれた。
Interlude......
少女、那古望は目標を見つけていた。
「――見つけた」
足を強化し、一気にビルの間と間を跳ぶ。結んだ二つの髪が靡く。
ローファーの底がビルの屋上に付く。そして、その音を聞いて、望が目標としていた、目の前の人物が振り向く。
「……『名護』の末裔か……難儀だな。ニノミヤへの貸しを返すつもりか?」
人物の言葉に、望は眉を顰める。
「……貴方には関係ない。
上川強気――貴方は此処で消えて――」
静まり返った夜のビルで、二つの影が交錯を始める。
Interlude END
* A L I C E *
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