大きな戦いは終った。
力を失った少女は、たとえ関係ないとしても、新たなる騎士として再び行動を開始する。
そして、裏で動く一人の人物の姿は――
ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、戦いは終幕へと、ACT 15です。
-7 days
「それでは……これ以後はもう迷惑をかけないようにしてくださいね。お姉様」
「解っていてよ。貴方こそ、本家のほうを任せたわよ」
「それこそ、私に言う言葉ですか?」
そう言って、わたくしの妹である、藤咲林檎は背中を向けて帰って行った。
ふぅ、魔術礼装一つ取りに行くのに此処まで掛かるとは知らなかったわ……イギリスの方も大変みたいね。確か第三五リミッター魔術師が見つかったって言ってたわね。
ふと、校舎を見上げる。
かつーん、かつーん、と音を立てて業者の人たちが作業を進めている。
昨日の事件から一日。漸く落ち着きを取り戻したエルダー達が見たものは、ほぼ半壊状態の四階と、一部破損状態の二、三階。一階は被害こそは無いものの、あの結界の魔術円を無理矢理剥がしたから地下の第二機械室が破損して、学校の照明が点かなくなったり、冷暖房が機能しなくなったりしている。
教室も一部損壊しているところもあって、とても授業が出来る環境じゃないと云う事で、せめて三階の修理が終わるまで学校は休校にすることをわたくしは決めた。
流石に全校生徒が一階と二階だけで授業することは出来ないし、何より、それが『永遠の論舞曲』を仕切っている『ジャッジメント』が決めたこと。
わたくしは資料の運び出しをリンに任せて、礼拝堂に足を運んだ。
「矢張り此処でしたか……」
目の前には、一人の女性が手をあわせて祈りを捧げていた。幸い、この学校のシンボルであるマリア像は壊れていなかった。
「……藤咲さん」
其処に居たのはエルダー・サキ。
「ステンドグラスに光が灯りました」
エルダー・サキは静かにそう言った。
「そう、ですか……」
わたくしは腕を捲る。
と、昨日まで其処にあったはずの聖痕が消えていた。
そしてつまり、目の前にいるエルダー・サキは、『ジャッジメント』と云うこと。……わたくしも、つい先日までは知りませんでした。てっきり、今回の『ジャッジメント』はあの屋敷の魔女かと思いましたけど……
「本来、『永遠の論舞曲』にて呼び出された騎士が死んだ場合、その主たる魔術師は、脱落したことにはならない筈なのですが……
貴方の騎士、ランスロットが消えた途端、このステンドグラスに、貴方分の席が灯りました」
「……」
脱落した人間の魔力が灯るこのステンドグラス。全てのステンドグラスが灯ったとき、ゴルディアン・コフィンが現れる。
だと言うのに……わたくしはこうして魔力行使が可能だと云うのに、そして、わたくしは騎士を失っただけだと云うのに、『永遠の論舞曲』敗退となった。
「復帰は……」
「不可能でしょうね……」
わたくしは、唇を噛み、礼拝堂を後にした。
林檎から受け取ったわたくしの礼装も、仕舞わなければなりませんからね。
「あ、ヒナさーん」
寮に行こうとしたら、リンと会った。
「あらリン、どうしたの?」
何時もの平然さを装い、わたくしはリンに面と向かった。
「資料を仕舞おうと思ったんですけど……あの、ヒナさんの部屋でよかったんですよね?」
「ええ……それが如何したの?」
きょとんと、わたくしは聞く。
……何か問題があったかしら……
この間リンはわたくしの部屋に泊まったから場所は解っているでしょうし、何処に置けば良いのかも言っておいたから別段問題も無い筈なのだけど……
「昨日、ヒナさん部屋に帰りました?」
? そういえば事件後の処理とかで病院とか……消えたカヲリさんの捜索とかで、表向きは病院で検査入院と云う事になっていたけど、部屋には帰らなかったわね。
いえ、と答えるわたくしに、リンは無言で手招きをする。
暫らく歩いて、突き当りを曲がり、わたくしの部屋のある所へと来る……
「て、ええッ!?」
我ながら素っ頓狂な声を上げたと思う。
でも許してもらいたい、何故ならわたくしの目の前には、破壊された寮があったんだから。
……魔力が停滞している。こんな馬鹿げた質量を持っていたモノなんて、あの場に居たサイクロプスと、ランスロットぐらいよね……
恐らく戦いの合い間に此処を通りかかって、ランスロットが礼装か何かでも放ったんでしょうね。
でもこの状況は困ったわ。資料は兎も角、わたくしの礼装も、そして料理も出来ないのだけど……
片手じゃもてないほど大きい包みを抱えて、わたくしは自らの部屋“だった”所に立ち尽くす。
「ヒナさ、ん?」
溜息を漏らす。
一体わたくしに何処で住めといっているのかしら? しかも学校は立ち入り禁止で、保健室も壊滅的被害を受けていると云うのに……
そうわたくしが途方に暮れているところ、
「あのヒナさん。ご迷惑じゃなければですけど、この前のお礼と云う事で、わたしの部屋に来ませんか?」
そう、リンが言った。
……顔が耳たぶまで真赤になっていく感覚がする。
「え? え?」
状況を理解できない、いえ、しているのだけれども、突然のことで……それより、リンから言ってくるなんて……
「道具はわたしが運ぶんで、先にその……大きい何かをわたしの部屋においてきてください」
リンはわたくしの持つ礼装を指差す。布で覆われていたから良かった。もし覆われていなかったらリンはさぞかし吃驚したでしょうね。
さて、此処で考えるべきことがある。
この前リンがわたくしの部屋に来たとき、わたくしは何をしましたか?
……キス、しましたよね? 額に。
と、なると、もし……もしですわよ? 間違いが……いえ、リンも女の子よ、そんな事はありえないはず……
そうやってもんもんとしているわたくしを不審に思ったのか、リンはわたくしの顔を覗いてくる。
「あの、ヒナさん?」
「え!? ええ、と……」
このまま外で野宿するのも淑女っぽくもありませんし、此処はリンの言葉に甘えることにしましょう。……わたくしが間違いを起こしませんように、と。
「なら、お願いしようかしら」
二コリを笑顔を作って、わたくしはリンの言葉に甘えることにする。
笑顔で返してくれたリンは、わたくしの部屋“だった”ものに入っていって、瓦礫の中からわたくしの日用品を取り出している。
本当は危ないのだけれども、いざとなったら凛が出てくるでしょうね、心配は無いわ。
わたくしは重い礼装を持ち、リンの部屋まで歩を運んだ。
Interlude......
息切れ。
肩で息をしている。
既に足が限界。
起動しない。
「――っ、はぁ――!」
熱い息を漏らす。
これ以上ないほど、今までで一番、熱いと思う息を吐く。白い息が、宙に舞う。
歩くごとに痛い。足の爪が割れているみたい……
追ってはいる。
まだ……健在だ。
「なんで――!」
罵倒。
先ほどから最大出力で発火を機能させている。
だと云うのに――
目の前の敵はどうして生きているのか!?
「追いかけっこは終りましたか?」
その人は、綺麗だった。
私の通っている学校のミススクールよりも……っと言うより、私の出会った人間の中で一番綺麗だ。あの人は……同姓である私がときめくくらい、魅力的で、綺麗。
清楚で、汚れがない。年上のおねーさんを連想させる。少し茶髪がかった髪の毛――勿論、地毛なんだろうけど……――そして、何より、少し赤い目が、暗闇の中に光っている。……ありえない。
私が不思議でならないのは、先ほどから死力を尽くしている。
その中で、炎に巻き込まれて、確実に死んだ、と思ったことが何回もあった。瓦礫に埋れて死んだ、と思ったことが何回もあった。暴走させた車を直撃させて、普通の魔術師だったら確実に死んだ、と思ったことが一回あった。
だと云うのに――
「なんでっ! 死なないのよ!!」
「――そうですわね」
私の罵倒に、その女性はうなる。その仕草すら、眩しい。
「まぁ、私の技量が貴方を上回っていたと云う事で……許してくれません?」
笑えない。
その……………………後ろのモノは何なのか――
「これですか? ……知りませんか? 『ジークフリード』と云う英雄の名前を……」
目を見開いて、その言葉を聞く。
「ジークフリードは、『ニーベルンゲンの歌』で、ニーベルンゲン族を壊滅させて、莫大な魔法の隠れ家と財宝を手に入れたと言っています。
さぁ、此処で問題です。その莫大な財宝の中には、古代、世界を統一していたギルガメシュと言われる半神の英雄の宝具が貯蔵されていたと言われています」
あぁ……
「つまり、宝剣です」
その汚れ一つ無い兵装は……もう、この世のものではない。
「た――」
すけて、と言う前に……
「ごめんなさいね」
そんな言葉を最後に聞いて、頭の中が飽和反応を起こした。
最後、私の一撃で破けて、開けたその胸に……黒い、痣の様なモノがあった……
Interlude END
わたしはヒナさんの部屋を探る。
「んしょ、んしょ……あれ?」
がらん、と、一本、刀がでてきた。
ヒナさん、こんな趣味があるのかな? ……あれ? 意識が急に……
「こんな所に隠してやがったか」
瓦礫の中に見つけた。ふん、あの時の女の大太刀、こんな所に隠していやがったか。
さて……早い所これを片付けて、部屋に戻ってあのナイフも回収するか……
まて、大太刀は持って帰ったら目立つな……かと言ってリンに持たせていったら藤咲のなすがままに大太刀を渡すだろうな。
仕方がない、この大太刀は布にでも巻いて、他の荷物と共に持ってくか。普通に持っていくよりはましだ。
……ふん、藤咲の部屋に未練は無いが、めぼしいものの一つや二つ……
「――ッ!」
こ、こここ、これは!?
なんだこの……う、う、うさぎさんは……!
べ、別に可愛いとか思っていない! 断じて……私誰に何を言っているんだ!?
「他に……何か、無いのか?」
これは、ベリーちゃん! なんであんな女が持ってやがる! 私が貰っておく!
もっと、もっと……
「あ?」
何だコリャ。
「藤咲が……もう一人いやがる」
写真だった。
どんなに会いたくても、もう二度と会えない人もいる。
そう、それはどんなに祈っても……会えない人……
「貴方もその一人でしょう」
胸に聖痕を持つ女性は、暗闇の奥にいる一人の少年に呟いた。
少年は、
「不可能を可能にするのが……ゴルディアン・コフィンだ」
そう、吐く様に言った。
to be continued......
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