少女は平和の為に戦う。
少女は平穏の為に戦う。
少女は取り戻す為に戦う。
少女は想う為に戦う。
どちらが罪で、どちらが罰なのか、少女は識る余地も無く……
螺旋は終わり、男の決意と、男の背中が少女の目に焼きつくであろう。
ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説――散り行くのはどちらか? ACT 13です。
もう云うまでも無いですが不快な表現が所々に……あるかと。
-8 days
Interlude......
既に日にちは変わった頃合、時刻が漸く一時を迎えようとした頃、暗闇の聖マリア学院の屋上に少女が一人、立っていた。
「……」
少女の正体は、魔術師、山上耀子。
本来正式な参加者ではない少女である。
果たして、そんな彼女にも聖痕は宿っていた。
どの様な方法で手に入れたかは解らない。だがそれでも、聖痕を持っている時点で、『永遠の論舞曲』と云うシステムは、彼女を正式な参加者として認めている。
彼女が彼から手に入れた魔術は二つ。『掃射』と『結界』である。
敵をロックオンし、魔力を使用し砲撃する『掃射』と、自らのエンチャントを此の世に埋め込み、一時的に自らの領域とする『結界』……どれも特異と言えば特異な能力であった。
が、幾ら特異能力といえども、使い勝手の悪い結界、そして当たりにくい掃射の魔術だけでは、この『永遠の論舞曲』にて生き残ること、ましてや勝利することは不可能である。
それは彼女に能力を与えた彼が言っていたことだ。
『キミには戦う能力の覚醒は望めない。性格が幾らその様な性格でも、人の根本には向き不向きがある。魔術は根本と云うものに左右されるからね』
それを聞いて、耀子は調べた。
自らの地位を利用して、生徒会室の横にある書庫を利用した。魔術書があることは、彼から聞いていた。
暫らく書庫に入り浸る生活が続き、そんなある日に、耀子は一つの書物を見つけた。
『結界召喚魔術』――それが本の題名であった。
内容は、使い勝手の悪い結界を使用しての召喚魔術の事であり、神代の時代に居た大魔術師が行使したと呼ばれる悪魔の召喚……その詳細が載っている本であった。
「……これなら、アイツを殺して、願いまでも叶えることが出来る――」
直ぐに準備に取り掛かった。
この魔術を行使するには、複数の結界を張り、その結界を使用して更に召喚円を導き出し、行使するものであった。
場所は困らない。何故なら標的は最初から耀子の通う聖マリア学院なのだから。
先ず、手始めに学校の地下室に結界の魔術円を敷いた。
順調に進み、今では学校に七つの結界を張っている。残り三つ。召喚するのに必要な魔術円は一〇個。
そして今、山上耀子は八つ目の魔術円を描いていた。
「ふふ……うふふふ。待っててください、ヒナさん。今、私が……貴女の隣を歩きます」
不敵な笑い声が……聖マリア学院の屋上に響いた。
Interlude......
「……増えてるわね」
わたくしと由香さんは、屋上に立っていた。
昨日あれからリンに変化は無く、問題は無いと云う事で部屋に返した。
当のわたくしはと云うと、学校に違和感を感じて校舎に入ったところ、学校に張られていた結界の数が増えていた事に気付いて、今日、朝早くから由香さんと望さん、そしてカレンさんに起きてもらい、偵察をしていた。
「魔術形式が一つ一つばらばらです。これでは誰が張ったのかすら解りません」
カレンさんが調査報告を述べる。
この結界の解除までがわたくし達の協定期間。それが終れば再び敵となるのだけど、矢張り協定期間中はこうして情報の交換をする事になる。
「ざっと……八つ」
望さんが呟く。
「そんなに……」
驚愕するわたくし。
……こんな短期間で同じ場所に結界を八つも……行動が読めない。同じところに結界を幾つも張っても意味が無い。それに維持するための魔力を著しく喰うだけ……デメリットの方が多いはず。結界が使いにくいと言われる所以。
考えるわたくし達。
この結界は、一人によるものなのか、それとも複数の人間の結界なのか……だとしても、由香さんの報告だと、あの連続辻斬りの件で三人は脱落している。そして、先日倒した聖凪。あわせて四人の脱落が考えられる。
故に、現在『永遠の論舞曲』で生き残っているのはわたくしも含めて八人。結界が使えないリンとカレンさんとわたくしを抜かすと五人……平均一人二つは結界を張っていると云う事?
「まさか。私が結界なんて使うわけないじゃない」
「……同感」
と、すぐさまに由香さんと望さんの否定の言葉が割り込む。
ふぅん、それでは振り出し……と云う事ですか?
「そうなりますね……兎に角、私は斉藤さんをマークします」
そう言うと、カレンさんは屋上を出て行った。
確かに、そろそろ生徒が登校してくる頃ね。
「わたくしも生徒会室に戻りますわ。リンが来た時に誰も居ないと不審がられるんで」
「そ。ま、凛が出ているのなら察するでしょうけどね……」
背中で由香さんの台詞を受けながら、わたくしは屋上の扉をくぐった。
「資料は如何しますか?」
「其方のほうに入れてもらえる?」
リンに場所を的確に指示をして、わたくしは自分の作業に入る。別段、変わったことは無い。あの結界が発動させられることも無い。
がちゃり、と、生徒会室の扉が開いた。
「藤咲さん、資料のほうを……」
耀子が其処に居た。
「……」
きん、と、空気が凍ったような感覚がした。
「――っ」
資料を床に置いて、耀子は直ぐに生徒会室を出て行った。
ちょっと! 耀子!?
わたくしが追いかける。
「ヒナさん!?」
「ごめんなさい! 床においてある資料を仕上げてくれる? 終ったら今日は終わりでいいわよ!」
そう、リンを“独り”にして、わたくしは生徒会室を出た。
◇
耀子を追い掛け回した後、わたくしは耀子を見失った。
「――はぁ、はぁ……もう、耀子ったら何処に……」
授業中で、生徒は皆教室に居るのでしょうね、廊下は静かだった。
それだから余計に響いたのでしょうね、わたくしの目の前にはエルダー・トマスが居た。
「何事ですか?」
おっとりとしたエルダー・トマスの声がわたくしの耳に響く。
「ええ、ちょっと……。あのエルダー・トマス、二年のよう……いえ、山上さんを見ませんでしたか?」
わたくしが言うと、エルダー・トマスは少し考えるような素振りをした後……
「いえ、見てませんね。ミス・ヤマガミはこの所欠席気味ですからね」
……え? それはどう言うことですか?
「あら? 知らなかったのですか? ミス・ヤマガミは一週間程前から授業にはどれも出ていないのですよ。其方に報告があったものかと職員全員思っていたのですが……」
そんな報告は受けておりません! 第一、耀子は……
そんな中、ぐぉん、と音をたてて視界が切り替わった。
「え――?」
一面を覆い尽くすような……紫。
頭ががんがんする……これは……結界!?
身体に魔力を回らせ、対性を作り出す。体に及ぼす全てにディスペル――
「が……」
思わず身体を壁に押さえつける。魔力の逆流は思った以上に大きかった。それでも、よくも解らない魔術の結界を抑えられるだけまともと考えられるわ。
しかし、魔力に対性の無いエルダー・トマスはどさりと床に倒れた。
「エルダー! しっかり……!」
揺らしても返事が無い。……何、この結界……
走る。
一つ一つの教室の扉を開けていくと、皆が机に伏していたり、床に倒れていたりしていた。
……これは……生気を、吸い取られている……?
魔力の流れを感じる。
場所は……上?
屋上――!
「ランスロット!」
「御意!」
わたくしの心を察したのか、ランスロットは直ぐに屋上に向かって跳躍をした。
階段は比較的長い。
わたくしは圧力に押しつぶされそうになりながらも、階段をのぼる。
運がよければ先行しているランスロット既に決着をつけているはず……!
扉を開けて……
「ランスロ――」
ット、と言う前に、その光景が目に飛び込んできた。
「……リン――?」
目の前に居る人物は三人。
ランスロット、そして耀子。
更に……耀子に首を締め上げられている、リン――!
「放しなさいッ!!」
魔術を行使。
七つの神経に七つの魔力。作られし攻撃は弾丸の如く――! 刹那、掃射!
手の平より、魔力の塊が飛ぶ。
だけどその攻撃は阻まれる。此処は耀子の結界、イレギュラーたるわたくしの攻撃は通じない。
魔力を開放する。こうしている間にもリンは命を削られていく。……凛は――あの状態じゃ無理ね……! 元来リンの意識との集合体なんだから、リンの意識が奪われた以上、表に出てくることは出来ない。今までも、リン自身が意識を失ったから凛が出てこれた。でも今回は意図的に耀子に意識を奪われている。凛が出てこれるはずは……無い。
ならどうする!? リンを……見殺す――?
出来るわけが無い。
だってリンは、わたくしの……
「藤咲さん」
耀子の言葉が飛ぶ。
「貴女の大事な人の命を奪ってあげる。……これで、貴女が見るべき人は、私だけになる――!」
そう言って、いっそうリンを掴む腕の力を強めた。
青く……痣が出来ている。このままだと、呼吸困難で……リンが死ぬ。
「……」
ランスロットは黙っている。
わたくしも黙っている。
何も出来ない。
……リン――最後なら……貴女に……
「――わ、け」
! 今、何て?
わたくしは目前に居るランスロットに目をやる。
「――たわけ!! その手を放せ――! 小娘!!!」
ばきーん、と、何かが割れた音がした。
「嘘!」
それは耀子の叫び。
「……藤咲の魔力パターン以外はこの多重結界で動けない筈なのに――!」
ランスロットの攻撃は早かった。
「―― 、 構築。 魔術、肯定、接続、世界」
ランスロットの言葉が響く。
刹那――
「――“フルンティング”」
ランスロットによって開放されたその剣は、まるで矢のように回転しながら一気に耀子を襲う――!
「――っ!」
咄嗟に、耀子がリンを掴んでいた手を放した。どさりと音をたててリンが落ちる。
「マスター!」
ランスロットの叫びで覚醒したわたくしは、頷いてリンの元に駆け寄る。
「よかった……リン!」
抱きかかえて、一旦引く。
と、
「なんで! なんでその子だけェ―――――ッ!!!!」
耀子の叫びが響いた。
その叫び声に反応するかの様に結界が一回動く。
「たわけめ! 余所見をしている場合か!?」
……強い。
今わたくしの目の前に居るランスロットは、あのガヴェインと戦ったときよりも、そして、どんなときよりも鬼神染みている……その姿に、わたくしは魅せられる。
鋭い太刀。一閃。
その攻撃により、耀子の服が一つ、また一つと切り刻まれていく。
「……っ! 構成構築、掃射!」
耀子の攻撃が飛ぶ。
でもわたくしの目には既に視得ていた。
「ランスロット!」
承知、と聞こえる。
避ける。
一つ一つ、まるでダンスを踊っているかの様に軽やかにランスロットは避ける。そして手には……短剣。
「ふ――」
投げつけた。
弧を描いて剣は耀子の足に突き刺さった。
「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
絶叫。
耀子は耐え切れずに倒れた。
その姿を、ランスロットがアロンダイトを引き抜き、眺める。
「チェックメイトだ、山上……いや、“耀子”」
そう、まるで知っている人の様にランスロットは呟いた。
ゆらり、と、耀子がランスロットを見た。
誰? と、言わんばかりに。
だけど、それは唐突の轟音で妨げられた。
「何――!」
……瞬間、わたくし達はとんでも無いものを視た。
それは……化け物なのか……
おぞましいものが其処に居た。
――人のカタチをしているけど……目は光り、そして腕は砕け、そして血を流し……何より、大きい。優に三メートルはあるんではないか……
それが……神話に登場する……『サイクロプス』に見えた――
「召喚魔術!? そのための結界だったのか……!」
ランスロットが舌打ちをする。
わたくしにも判る。このサイクロプスが持っている魔力の保有量の大きさ。大魔術師なんて度ではない。それはさながら、神を連想させるほどの魔力量……
勝てない。
ぞくり、と背筋に悪寒が走った。
「逃げるわよ!」
再び舌打ちをして、ランスロットはわたくしを抱えて跳ぶ。
「逃がさないで――!! あの子を……二ノ宮を殺して!!! サイクロプス!!!!」
「■■■■■■■ヲヲヲヲヲヲヲヲォォォォォォォ!!!!!!!」
咆哮を上げて……サイクロプスは動き出した。
* A L I C E *
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