飛べると思った。
足が地面に着くと思った。
精神を無に返せると思った。
イメージは常に前へとある。
前へ、前へ、前へ……
ぐしゃり、と、音を立てて散る……百合の花を見た。
精神異常者との戦いは終わりへと……ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、消え行く一人の少女、ACT 11です。
云うまでもありませんが、リアルな表現? 簡単に云うと不快な表現が入っておりますのであしからず。
またね、と声がした。
忘れかけている数年前の記憶。
毎日楽しい日々。そして、毎日起きるのが楽しい日々。
それが苦痛に変わったのは何時からだったか……
「あの子とはもう遊んじゃいけません、てママが言ったから」
一人、そしてまた一人……友達は居なくなって行って、中学に上がるころには私は虐めと呼ばれる現代社会の異端者に与えられるものの対象として完成していた。
普段からぱっとしない、“クライ”人間だった私は、良い対称だったんだと思う。
様々な虐めを同姓に受けた。男の子は影で口を叩くだけで、肉体的なことは何もしなかった。多分、したら拙いって解っているんだと思う。男の子は何時もそう。女の子に罪を擦り付けて、何時も楽な道を選んでいく。
何人か、私の味方になってくれる人も居た。だけど、直ぐに周りの空気に飲まれて私の敵になっていく。
「貴女がいるから」
「オマエがいるから」
「死んでください」
「私の前から消えて」
「ウザイから」
「なんで此処にいるの? ねぇ?」
「何とかいいなよ!」
「ばぁか」
「泣けよ」
「ねぇねぇ、■ってさー」
「どうして……此の世に居るの……?」
そうして私は壊れた。
家にこもる私。それを学校に行く様に促す両親と教師。人前だけは口を揃えて友人を気取るクラスメイト……
全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが
五月蝿くなった。
気付けば、私は神様から力を貰って、そんな人たちを粛清していった。
跪いて助けを求めそれを拒絶して殺す快楽快楽殺しを楽しむ私を止める人間は誰一人いない皆曲がって曲がって曲がって曲がって曲がって血が溢れてスプリンクラー泣いてわめいて最後の助けを求めても私はその人を殺して殺して殺して罪を犯して汚れて壊れて綺麗になって奇麗になってキレイになって全てをクリアにしてもう既に恐れるモノは何一つ無いからそうもう誰も居ないクラスメイトも両親も教師も学校も校長先生も教頭先生も全て全て全て……………………
そんな感覚。
私は気付いたらベッドの上に居た。
クラスメイトは皆生きてて、私なんて知らないって言っている。教師も両親も生きていて、早く治そうね、て声をかけてくる。
それの意味は解らないけど、私はどうやら病気らしい。
聞いた話だと、私は数年前から……小学に上がった辺りから病気らしい。箇所は……心臓の……なんだったかな?
そんなある日、私は女神に会った。
「貴女、だれ?」
夜のベッド。ふと、月が見たくて体を起こして、深夜二時を回ろうかと云う時刻に月を視た。
其処に居たのは、一人の女性。
私の問いに、女の人は、
「ガヴェイン。貴女の騎士」
そう答えた。
最近誰もお見舞いに来てくれないから私は嬉しくなって、その人の手を取った。
「あそびましょ!」
ガヴェインは……笑って、
「貴女の思い通りに……私の姫」
◇
半裸の状態で地べたに座っていた少女は、ランスロットの調査では聖凪と言う子らしい。
重度の精神異常以外はわかっていないけど、かなり拙い相手と云うことは何回も戦って解った。
『逆理』――理を捻じ曲げるそれは今の私の能力で抑えられるかどうか……
「……由香さん、望さん、そしてカレンさん?」
わたくしは問うた。
頷いてくれた。もうわたくし達は女としてでは無く、魔術師として覚醒する。
「いいわ……遊んであげるわよっ!!!」
由香さんの叫び声から戦いは始まった。
「あはははははははははははははははははははははははははははは、はは、は、あははは!!!!!!」
聖凪の笑い声が響く。
まるで、戦いそのものを楽しむかの様に……
聖凪が走る。着ているワイシャツが靡いて、全裸姿が目に写る。いえ、写しては駄目。彼女と目を合わせれば即死。
「Destruction and square. This, object, destroyed the near future object or life
object――!」
由香さんの呪文が響く。
刹那――あらゆる物体が発火し、急速冷凍され、砕け散る。
その中を、
「――はぁああああああ!!!」
カレンさんが疾走する。
右腕に強化魔術を施し……
「――Ouvrir !!」
叫んで一気にその拳を聖凪に叩き付けた。
かに見えた。
「―― 、 るえ視 」
即座に、わたくし達の目の前から聖凪が消えた。
いえ、気配はある。なのに……視えない?
「大丈夫、位相がずれているだけ……」
望さんが出遅れてそのまま、
「――構成、破壊、目標、位相、ずれたものを直視する」
望さんの言葉に反応するように、光球が何も無い壁に向かって飛んだ。
爆音が響いた。
……居た!
「視えたわ! カレンさん、右角度三〇度に居るわ!」
わたくしの予知は敵が視えなければ意味を成さない……。けど、視えなくても変則的に予知できる場合がある。
それが――
「視える?」
「視えていてよ?」
他人の視界に割り込み、直視した場合。
今私の目は望さんの視界を片方映している。
カレンさんの一撃は直撃したらしい。聖凪の姿が直視できるようになる。
「ああん……」
痛みを、感じていないの……?
にやりと笑う聖凪。その不気味さが逆に美しさを増させている。
「……イイよ……イイよッッッ!!!!」
叫んだ。
聖凪の後ろから騎士であるガヴェインが現れる。
「ヤッちゃって! ガヴェイン! あの子達の■■、吸っちゃえ!!」
ペロリ、と現れたガヴェインは舌で唇を濡らす。
ぞくり、背筋が震える。
「ランスロット!」
わたくしが叫ぶと、ランスロットが現れる。
じゃきり、と音を立てて剣を取り出すランスロット。そして無限の剣を取り出すガヴェイン。
「――ふーふー。ランスロット、アイツを引き付けるだけで良いわ」
息遣いは荒い。超能力の行使は必要以上に脳に負担をかける。
わたくしの命令に何時もの様に御意、と言うのかと思ったら……
「それは出来ない相談だ」
そんな、莫迦みたいな答えが返ってきた。
「……何言っているのかしら、ランスロット?」
怒りを混ぜたわたくしの言葉に、ふ、と笑って、
「なぁに、引き付けるのは無理だが……倒せないとは言っては居ないぞ?」
その言葉に、わたくしは目を大きく見開く。
「では……参る!」
ランスロットはガヴェインに剣を向けて、飛び出す。
見えなくなった頃、聖凪は……
「え――?」
笑っていた。
ガヴェインは居ない、ランスロットは居ない。
そして聖凪は……
「―― 、 理無 、 成構 、 界結 」
そんな事を呟いた。
ぐわん、と、世界が反転した。
それは、異界だった。
暗闇の世界に、一つビル。
月が輝き、そんな世界の中心に、聖凪が立っている。
「 」
言葉は無い。
恐らくこの結界は違う。
普通の結界とは違う。
具現化された平行結界では無い。かと云って、普通の結界とも違う。
故に此の世界は、空っぽ。虚ろ。
「――此の世界は……」
カレンさんの呟き。
「平行結界? いや違う」
望さんの言葉。
そして……
――さぁ、踊ってよ――
ぐん、と体が動く。
「――ぇ」
動いた後、
――さぁ、飛んでよ――
足が浮いて……
――ねぇ、死んでよ――
そのまま、ビルの屋上を飛び降りて……………ぁ――ぐしゃり。
◇
「あはははははははッッあはッははは、■■■■■■■■■■――――――ッ!!!!
いいよ! みんなみんな……キレイだよ!!!」
私の言葉にみんなが従う。
私の言葉に世界が踊る。
私の言葉で世界が動かせる。
百合の花みたいに散って行った女の子たちは……今頃、死んじゃったかなぁ?
大丈夫、下半身だけは私がオイシク頂くから……
ね、安心し、
て。
ねぇ、何で?
私の世界に、人が居るの?
◇
「随分と派手にやったな。
たのしそーだったから見てただけだったけど……オマエ、面白いから、試しに死んでくれる?」
そうして私は、結界を斬って少女、聖凪と対峙した。
大体、これ、結界なんてレベルに達して無いだろ?
「オマエは只、結界と銘打った人が気付かない魔術を施しただけで何も変わっちゃ居ない。場所が変わったのも、どうせその言葉で瞬間移動でも何でもしたんだろうよ」
ま、瞬間移動なんてありえない話だ。
大方、催眠的な何かで此処までおびき寄せたんだろう。……全く、変に敏感な一般人が釣られてきたから、殺すはめになったじゃない。
「貴女――なんで? どうして? 私の命令に、従わないの?」
曲がれ、とか落ちろ、とかそんな単調な用語は私には通用しない。
だって、もとより此の世に存在する筈の無い二つ目の人格を、誰が裁けるってんだ?
人格ってのは神サマが決めたものだ。
人間は人格は一つって決めたんだよ。
だから、二つ目はありえない。二つ、三つ、どれでもいい、与えられた人格以外の人格を持つ者は既に神を凌駕している。神の創造を超えている。
そんなモノを、言葉一つで殺せる程……世界は器用じゃない。
白銀に光るナイフ。
魔力はたっぷり吸っている。まったく、いやに良いナイフだ。
風が吹く。そんなに長くは無いが、私の髪はさらりとなびく。同じ様に、聖凪の髪も揺れる。
月は、まだ昇ったばかりだ――
「さぁ、オマエが望むように……殺し合ってやるよ」
刹那、私達は動いた。
走る足は軽い。毒が抜けたかの様に軽い。
その足に魔力を叩き込み、一気に飛ぶ。
重力加速度をつけた私は、手に持ったナイフを聖凪に向けて、一気に切り捨てる!
「―― 、 るた当 !!!」
ごッ、と当たる音はした。
が、当たったのは、石!?
「――― …… 、 れ散け砕 !!!」
拙いッ!
避けた。
『逆理』の命令はビルの柵に直撃し、まるでガラスが割れたかの様に音を立てて砕け散った。……あぶねーなこのやろー。あと少しで新しい腕が木っ端微塵だったじゃねぇか!
ぐちゅり、と音を立てて、聖凪は血を舐める。どうやら私のナイフが掠ったらしい。
ぺちゃくちゃ、くちゅ、くちゅ、ごぷ。
「……悪趣味だな。人が、しかも同姓がもだえている姿が好きか?」
ナイフを突きつける。
月に照らされて、輝く。
「いたい」
「あ?」
突然の言葉に、眉を顰める。
「いたい、いたい、いたい。苦しい」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐ……ッ!
腕が暴れた。
体の至る所を掴み、そして乱れる。
「痛い――――― ッ ―― ッ!!」
おいおい、マジかよ。痛みで開眼って、ありえねぇだろ?
つか、いままで開眼してなかったのか……ははぁ、すげぇな。アレだけの芸当が出来てまだ覚醒してなかったって云うのはすげ。
快感だ。
ぞくり、と背筋が震える。
ナイフを構えなおす。
聖凪は既に全裸。……。
「は――ふぅ!!」
一気に、飛んだ。
聖凪はそのまま右腕を突きつけ、
「――――――――――― 、 eid dna redro fo tuo eb !!」
魔術。
だけどな、オマエ
動きが単調すぎんだよ。
するりと、筋肉と筋肉のつなぎ目の間を……ナイフで切り落とした。
「きゃ――あ」
「じゃあな、痴女」
ごくり、と、私は聖凪の■■を飲みほし、口の中に残る不快なさわりを堪能しながら、そう呟いた。
此処に、長かった精神異常者との戦いは終結した。
◇
調査報告。
聖凪。
六歳の頃に精神異常者として精神科に入院。以後、数年間入院した後、一二歳の頃に退院。
その後、中学に進学。
が、長い間病院で勉学や、生活をしてきたことから虐めに合う。
精神的ダメージから家に引きこもり、不登校になる。
その後、超能力に目覚めたと考えられ、次々に自分を笑ってきた人間たちに復讐をする。
が、結局殺すまでは至らずに彼女は失神。病院に運ばれた。
超能力者と云う事は解らぬまま、聖凪は再び病院生活になった。
彼女の被害者は皆聖凪の超能力により脳を損傷し、聖凪が襲ってきた理由も、そして殺そうとしたことも忘れており、現在は普通に生活を送っている。
当の聖凪は、精神の異常が再び再発。現実と空想の区別が出来なくなったと考えられる。
故に、彼女は外に出回り、人を殺すことを夢と考え、ベッドの上で寝ていることを現実と見た。
無論、正格には正反対であり、彼女は病院になど戻っていない。証拠に、随分前から捜索願が出されている。
しかし、彼女はある重大な病気を抱えていた。
「……心臓ガン」
調べ上げた書類を生徒会室の机の上に上げて、わたくしはぎしりと音を立てて椅子に腰を預ける。
「ヒナさん、紅茶です」
「ありがとう。……リン、腕を上げたわね」
「はい」
笑顔で席に戻っていくリンを眺める。
昨日の戦闘は何処へやら、リンは笑顔だ。
でも、わたくしは誰に助けられたのでしょう?
落ちた筈なのに……
◇
上空から落ちてくる影。
少女達が落ちてくる。
「……Weight change, zero」
少年は呟いた。
と、少女達は突然紙の様に左右運動を続けながら落ち、少年の腕に収まった。
「……」
少年は少女達を地面に降ろすと、背を向けて、歩き去った。
「まて」
剣がコンクリートを抉る。
その剣は青く、……そう、それはアロンダイト。
少年の後ろに立っていたのは、ガヴェインを抱えているランスロットだった。
「誰だ、オマエは」
ランスロット“すら”知らないその人物。
その人物は、
「上川強気――『魔法使い』なんぞをやっている」
そう、簡潔に述べた。
戦いは一時の休息を得る。
歯車は狂っている。
矛盾を現実にする少女は消えた。
ああ、それは幻想か……
救急車の音がする。
忙しなく救急隊員が患者の手当てをしているけど、手遅れでしょうね。
「飛び降り自殺ですか?」
「……そうね」
その死体を視て、わたくしは目を瞑った。
耐え切れなかったのでしょうね。
心臓の病は治らない可能性が高い。
多分、残酷な報告を受けたんでしょうね。
死体は……聖凪のモノだった。
* A L I C E *
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