契約は此処に、
誓いは此処に、
霊体たる私が告げる。
“――根源開放――”
戦いは次なるラウンドへ、ハスミさんに捧げる『美少女翻弄学園伝奇SFファンタジー』小説、交錯するACT 10です。
嫌な、と云うより直接的では在りませんが不快な表現を使っておりますので……ご注意ください。
-10 days
情報のもみ消しの方は中々手っ取り早く済んだと思う。
表向きでは、ガス漏れによる学校内の一部の生徒の中毒症状によるものだと報道されているし、わたくしもまた、その被害者の一人として、公欠扱いで寮の自室に居るところ。他の生徒達も、三日間の学校検査休みで、学校の検査、そして安全性のチェックが終るまで、わたくしと同じく部屋に閉じこもっている。
無論、カレンさんと望さん、そして由香さんも別ではない。あの三人も今頃自室に居るでしょうね。
一方のリンはと云うと……
わたくしの部屋に居た。
「……」
未だに眠っている。流石に無茶な魔術の行使のし過ぎでの神経の乱れ。そして暴走する魔力。脳の損傷……全てを直すのに時間は掛かりそう。脳の損傷はたいした事無いから、取り敢えず日常生活に支障は無いでしょうね。
でも、一番深刻なのは……右腕。
二の腕の辺りからあらぬ方向に曲がっているし、多分、痛みで熱もでる。
尤も問題なのは、リンが目覚めた時に、この現実を如何受け止めるか……。
あらぬ方向に曲がった腕を直す方法などありはしない。コレは確実に切断の類。直すことが出来ないのなら、失くしてしまった方が楽だから。
「……無様よね、わたくし。一番傷つけられたくない人を巻き込んじゃっているんですから」
自慰するように呟く。
今直ぐ、直せるものなら直してあげたいその腕。だけどそれは無理。喩えるなら、食べてしまったものを元に戻すと同じこと。――同じ料理は作れても、食べてしまった物自体を戻すことは出来ない。
そんな中、ふと、部屋の扉がノックされた。
「あいていてよ?」
「私です」
返してきたのは、紛れも無くカレンさんの声だった。
わたくしは扉を開き、カレンさんを招きいれた。
カレンさんは思い表情のまま部屋に入り、わたくしが促した椅子に座り、リンを眺めた。そして開口一番に、
「結界の持ち主は特定できてませんが、一つ、二ノ宮さんの腕に関しての情報を手に入れました」
「それ、本当?」
はい、と頷くカレンさん。
その話を聞いて、わたくしは唖然とした。
◇
わたくしとカレンさん、そして由香さんに望さんは、一つのアンティークショップ、『ワンダーランド』と呼ばれる所へと来ていた。
扉を開けると、店員の声が飛ぶ。
「いらっしゃませー」
此処に来た理由は一つ、わたくしは店員を呼び止めて、
「腕が欲しいんです」
一言、言った。
さぁ、と青くなる目の前の少女は、その表情のまま、後ろへと引っ込んで行った。……話が判る人を呼びに行ったのでしょう。無理に止めることも無く、わたくし達は、少女を待った。
暫らくして、一人の少年とも取れる容姿をした……が、体格的には少女のものなので、少女なのでしょう……兎に角、そんな少女一人と、もう一人、少女を連れてきた。
「此の人たちが……腕が欲しいって……」
少女は連れてきた二人を盾にしてそう状況を説明した。
連れてこられた二人の少女は、同時に眉を顰めた。
「……魔法使い?」
「みたい」
――正体を見破られたと云う事は、この二人の少女もまた、魔術師なんでしょうね。カレンさんが紹介するのも無理は無いわ。あんなもの、普通の人形師には制作不可能ですし。
二人の少女は互いにわたくし達を見た後に、
「で? 欲しい腕はなんだ? 人形の腕か?」
その質問にわたくし達はノーと応えた。
「わたくし達が欲しいのは……人の腕よ」
言った。
そう、カレンさんが持ち出した提案は一つ。魔術行使に必要な神経を通した特殊な義腕をリンに装着させること……。それならば、魔力を通している間は元の腕の様に自在に動く。只、機械的な部分をどう隠すかは問題になってくるけど。
目の前の少女三人に、リンの腕のサイズを手渡す。此処に来る前に計っておいたものよ。
それを手に取ると、なにやら三人の少女は話し合いを始めた。
「少し話が長くなる。キミ達はそこでお茶でもしていてくれ。アリス、良いか?」
「おっまかせー!」
ぴゅん、と風の様に奥へと戻っていったアリスと呼ばれる少女は、暫ししたのちに、わたくし達の座っているテーブルに、人数分の紅茶とスコーンを持って来た。
「今日の紅茶はー、スコーンに良く合う『プリンス・オブ・ウェールズ』でーす」
そう言って次々と置いていく。
手際のよさ、かなりなれているみたい。というより慣れていなければ店なんてモノは出来ないでしょうけど……。
「取り敢えず、暫しお待ちくださーい」
Interlude......
大太刀を取り出し、女、渡辺明日香は少女と対立していた。
少女の名前は聖凪。『逆理』を司る超能力者である。
刹那、空間が捻じれた。
「――」
捻じれた空間を視界の片隅に、明日香は自らの大太刀を振りかざし、一気に死極へと剣戟を繰り出す。
吸い込まれるように、剣戟は一筋の線となって凪を襲う。
しかしそれは一つの影によって阻まれる。
「ち……」
舌打ちを一つし、明日香は後退する。
そう、目の前には凪の騎士であるガヴェインの存在。二対一、明らかに不利な状況である。この状況を打破する手は無い。只一つ、逃走と云う手段を除いては……
明日香は背を向けるわけには行かない。足を魔力で強化し、凪とガヴェインに正面を見せたまま、バックステップで後ろに下がる。
瞬間、剣が三本飛んだ。
しかし、動きが単純すぎる。回転が掛かっているわけでも無く、只一直線に飛んでくる剣は、常人にとってはあらぬスピードであり、避けることは不可能である。が、戦闘慣れしているモノ、そして魔術を学び、日々命を狙われているような環境で育ってきた明日香にとって、その三撃は苦にもならない。ましてや、今の明日香には魔力が廻っており、目にも強化が施されている。
が、そんな考えは甘かったと言える。
明日香の目の前に来ようかとした刹那、剣の弾道があらぬ方向へと曲がった――
「――な……」
驚きと恐怖。
瞬間のうちに、明日香の右足に剣が一本突き刺さる。
苦痛に顔を歪める。
――剣が放たれた数瞬前、一直線に進むと云う物理法則を付加された剣は、文字通り、一直線に進んだ。が、それが突然弾道を変えた……。
それこそ盲点である。弾道を変えるなど、物理法則では無理な話である。それが、“直角に”曲がったのなら尚の話。
そう、聖凪の『逆理』がそれを可能にした――
“意思の無い物体にまで命令を下せるの――!? 何て出鱈目!”
そう心で叫びつつ、明日香は撤退しか無いと考える。
魔力でバネを作り、一気に開放。刹那の内に、明日香は戦線を離脱した。
片足に怪我を負うと云うリスクを背負いながら……
明日香が逃走した後、凪は深い溜息を吐いた。
「なぁんだ、詰まんない。誰も私に勝てないなんて……」
殺人衝動の果てであろうか、少女には今、自分と同等に戦えるモノを欲する精神異常殺戮者となっていた。まさに、殺人にこそ娯楽がある。
それを、まるで宝物を護るかの様に見守るガヴェイン。
「折角新しい力も手に入れたのに……凄いよね、今度は普通のモノにも干渉できるようになったんだ!」
新しいおもちゃを買ってもらった子供、と言うべきであろうか、少女は喜びに顔を歪めた。
さぁて、と呟き、ガヴェインに振り返る聖凪。
「そろそろ食事の時間だよ、ガヴェイン」
「……了解です、マスター」
幸い、今では泊まる場所に一万と掛からない。泊まる場所を選ばないのであれば、ビジネスホテルだろうと、ラブホテルだろうと、格安で泊まれる場所は多い。
あえてラブホテルを選んだのは、雰囲気を考慮しての話であろう。
二人は“食事”をするために、ラブホテルへと姿を消した。
……翌日、当のラブホテルで、数人の女性が■■され、廃人となったニュースを聞くのは、後数時間を要する事になる。
Interlude END
一時間が経った。
そろそろ戻らないと門限に遅れる、と云う途端に、三人の少女が漸く姿を現した。
その手には、とても言葉には表せないものを持って。
「……」
わたくし達一同は言葉を失った。
当然でしょう? だって、手に持っている水槽には、一つ、腕が浮かんでいるんだから。
それを受け取ると、少女の一人が言った。
「いいか? それは本物の腕だ。パチモノなんかじゃない、本物だ。だからな、本人が此の場に居ないと駄目なんだよ」
つまり遠回りに、リンを此処に連れて来い、と云う事かしら。
「そうなるねー。移植自体は私たちでも出来るけど、その後のことは専門家にやらせるからー」
少し悩んだ後、わたくし達はその条件を呑んだ。
今は一刻も早くリンを助けなくてはならない。目が覚めたときに、自らの腕の惨状を見て悲しむリンを、わたくしは見たくは無い。
「……解ったわ。深夜で良いんなら、今夜来るわ」
わたくしが言うと、少女三人も納得したのか、うん、と頷いた。
そうして、深夜一二時ジャストに、わたくし達はまた此処に集まることにした。
揃って行くために、わたくし達は今日だけ、わたくしの部屋に泊まることになった。
玄関の扉を開ける、と、不自然なことに、不気味に光っている。
その光の正体を、わたくしはシッテイタ……
「よぉ……」
二ノ宮凛。
彼女が、その目をらんらんと光らせて、ベッドの上に座っていた。……糸一つ纏わぬ姿で。
耳たぶまでわたくしの顔が真赤になっていくのを感じる。
その細すぎるウエストと、少しふくらみのある胸。さらりと顔に垂れかかった金髪。凛の外見はそれである。
「ちょっと、何やってんのよ」
わたくしが言おうとしたことは、後ろにいた由香さんが言ってくれた。
何時もと同じく強気な口調を聞いて、く、と一つ不敵な笑いを凛は作って、足を組み、
「何って、シャワー浴びただけよ。べたべたすんのは趣味じゃなくてね。逆は趣味だけど……」
ぺろり、と舌で唇を舐める凛。
……本当にリンとは正反対過ぎる。
「……悪趣味」
望さんの突っ込みに、結構、と凛は応える。
「それよかさ、私の右腕、どーなんの?」
ごろりと横になる凛。……此処が女子学校でよかったと刹那に思う場面である。
「代わりの腕を上げるわよ。
あ、勘違いしないこと、コレはリンのためであって、貴女の為ではないわ」
「あ、そうかい。ま、かわらねぇけどな……ははははははははッ!」
笑う凛。正直、その声で笑うのはやめて欲しかった。
その後、凛に事情を話し、右腕を取り戻したかったら、大人しく従うことを前提に話し合いを進めて、漸く凛は了承した。
一つ、戦闘に巻き込まれたら即座に人格を変更すること。
これは闇である凛の魔力が強いために、一方的な人格変更が可能なためである。無論、全部凛から聞いた話だけど。
二つ、わたくし達と一時期協力すること。
この二つである。
「――別に私は人が殺せれば仲間とか敵とかカンケー無いし」
ナイフをくるくる回しながら凛は言う。
取り敢えず外に出かけると云う事で制服を着せた。まだ出る訳ではないけど。
「そう、なら良いわ。でもね、無関係の人を殺すのは止めなさい」
「け――!」
不機嫌な凛であったが、右腕の自由と引き換えなのである。直に凛は大人しくなった。
もう、と呟きたくなる。
すねる凛は……殺人鬼とは思えないほど、可愛らしかったのだから……
◇
ワンダーランドに辿り着いたのは、一二時を五分ほど過ぎた頃合だった。
わたくし達は扉をがちゃりと音を立てて開け、中に入った。
中は黒一色で、人が居る気配なんて一つも無い。と、思ったけど、目の前に一つの人影がある。
「……あのー」
カレンさんが話しかける。
その人はクルリと此方に顔を向けた。
男の人だった。と、云うより少年と云う言葉の方が適切。目の前に居る少年は、わたくし達より背は高いものの、周りの少年たちに比べると、真中か、少し低い類に入るほどの身長だった。
髪の毛をワックスか何かでつんつんに立て、前髪で顔を隠している。時々、目が見えるか見えないかの瀬戸際。
着ている服は黒のアンダーシャツの上に、ダウンジャケットを着ただけの、此の時期では寒い格好。
そんな少年は、わたくし達を見、その後、あの水槽に浮いていた腕を手に取り、指だけで、くい、と凛を呼ぶ。
「……きにいらねぇけど、まぁいいさ」
がちり、がちり、がちり、と音を立てる。
何の音かは解らない。只気付いたときには移植は完了していた。
ごとり、とあらぬ方向に曲がって居た凛の腕が床に落ちる。
「こりゃあ良いわ。なによ、元からあったみたいにぴったり」
はしゃぐ凛。
こう見ると精神年齢は低いように見えるけど……実際のところはどうなのでしょうかね。
そんな光景を他所に、少年は何も云う事無く立ち去った。
「……誰?」
望さんが、去り行く少年に問うた。
「上川強気――『魔法使い』なんぞをやっている」
台本の台詞のように、そう言った。
Interlude......
吐息が漏れる。
■■に口を付けるたびに聞こえるあえぎ声は、私を快楽へと導く。……ふふ、もうちょっと我慢してねー。
ぐしゅり、と音を立てて、その女性は壊れた。
正格には、砕けたと言った方がいいかも、うん。
「――あああああ、はぁあ」
それは快楽の叫びか、それとも苦しみの叫びかは解らない。只、そんな言葉を漏らして、通産一八人目の女性を喰らった。
ぐちゅ、ぺちょり、じゅるるる――
一九人目の女性に手を出す。
「いやあああ!! やめてェ!!!」
そんな言葉は通用しない。裸の女性に一言、
「―― 、 えゃちっが曲」
ぱきぃいいい――
「――あ」
腕足、腰に、首。
骨が折れた音。
食事は終らない……あはははははははは。
ごくり、ごくり、ごくり、ふぅ――
漏らしたと息は快楽へと。
開いた扉は快楽へと。
殺すことこそ快楽になる。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、タノシイー。
Interlude END
歩く。
夜道を歩く。
そんな中、一つ、不快な音がした。
「……」
それは――の音なのでしょうね。聞いたことは無かったけど、そいつ、近くに居るみたい。
「あそびましょーーーーーーーーーーーーー」
居た。
悪魔みたいに顔をゆがめて、半裸の状態で道端に座っている……
聖 凪
精神異常者が――
* A L I C E *
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