番外編。
遡ること数ヶ月前、二ノ宮リンが聖マリア学院に入学して間もない頃の話……。
関係が無いようで、関係のある――
全ては繋がっている……。
桜が舞い散る季節。
フィクション世界とかである桜の花びらの中歩いて行く主人公たち。でも桜が満開の中でそんなに花びらが散っている幻想的なシーンは実際には存在しない。だからそんなシーンを楽しみたいんだったら、葉が緑になるころに行くことをわたしはおススメする。
期待と夢を胸に持ったまま入学した聖マリア学院は、やっぱり良い所。
通い始めてから一週間が経った。四月も中旬に差し掛かる中――
わたしは、運命に出会った。
* A L I C E *
THE EPISODE OF FIRST CONTACT
「うわぁ! やっぱり聖マリア学院は広いなぁ!」
わたしは中学の頃からの親友である、遠野由香と一緒に校庭を歩いていた。
「そうね、まぁ、噂に聞く名門だしね。小さかったら受験料返して貰うところよ」
え、とソレは駄目なんじゃ……。
由香は他にも国立や県立の高校も受けていて、どれも受かっていたんだけど、何故かエリート街道を蹴ってこの聖マリア学院に入学した。
ううん、これって、わたしのせいなのかな?
「な訳無いでしょ。こっちの方が全寮制で、女しか居ないから。――まぁ、確かにリンと居たいと云うのも混じっているけど」
その言葉に、わたしの心が輝く。
「……うん、有り難う」
そんな会話をした後、わたしと由香はそのまま庭を歩く。
入学したばかりの生徒は、先ず、学校の歴史と、中の構造を学ぶことから始まる。午前中に授業をチョイスしている人は午後に、午後に授業をチョイスしている人は午前に、両方にチョイスしている人は、休み時間や、シフトがあいているときに、こうやって膨大な敷地の中を散歩がてらに探索する。
本日は晴天。お日様の光が気持ちい午後。
「それにしても、本当に無駄に広いわね。……迷子になる上級生とか居ないのかしら?」
ははは、と笑う。
「それは無いと……思うよ――」
と返したけど、なんか突然自身が無くなってきた。
だって目の前に、地図を持ってうろうろしている上級生さんが居るんだもの。
「……」
「――」
えーと、これは声をかけたほうが良いのかな?
そんな事していると、向こう側が此方に気付いたようで、こっちを向く。
「すみません。此処って、クロケー広場でしたっけ?」
長髪で、所々に寝癖みたいにぴんぴんと立っている特長的な髪の毛と、眼鏡をかけた上級生さんは、地図を持ってわたしたちに話しかけてきた。
わたしたちも余り詳しくないけど、地図があるなら現在地くらいは……
「え、と、此処はハート広場です」
そう答えると、上級生さんは、ええ~! と叫んで、
「如何しましょう!! 此処ではないのですわー!!!」
とうろたえ始めた。
……この人大丈夫でしょうか?
と、痺れを切らしたのか、由香が出てきて。
「何処に行きたいんですか? 私たちも入学したばかりであまり詳しくは無いですが、地図があれば何とか……」
そう手をのばした。
「お願いします! 下級生さん!」
由香は地図をわたしから受け取ると、何処ですか? と再び上級生さんに問う。
「白うさぎ広場に行きたいんですけど……あ、それじゃ駄目ですね……。え、と白うさぎ広場の外れにある『ウサギの穴』に行きたいんです」
? はて、『ウサギの穴』なんてあったかな?
聞けば、その『ウサギの穴』と云う洞窟は、途中で行き止まりになっているらしい。上級生さんは、そこに用があるらしい。
上級生さんは宇佐野洋子と言う人らしい。……わたし人の名前覚えるの苦手だけど、とりあえず、宇佐野さんと覚えておく。夏休み辺りには忘れていそうです。
宇佐野さんはずれた眼鏡をくい、と上げると、歩き出す。勿論、先頭は由香。
この現在居るハート広場とこれから向かう白うさぎ広場までは、間に二つの広場を挟んだ所にある。で、その例の『ウサギの穴』って云うのがどうやら敷地の一番端っこにあるみたい。
「そのまた昔、魔術師が住んでいたそうで、そこに迷い込んだ少女が不思議の国に行った、と証言していることから、そう言われているそうです」
そうか、『不思議の国のアリス』と云うところね。
で、漸く辿り着いた時には、此処から見える時計塔の針が、既に四時を挿したころだった。
「此処です」
……えー、これは何ですか? 凄いカオスってますけど……。何かよくないものが住み着いていそうです。
「あ、それは此の前ゴーストスレイヤーさんに来てもらって除霊してもらったので」
「居たの! ユーレイ居たの!!」
吃驚だよ。
此処って、一応クリスチャンの学校ですよね? クリスチャンは人の死を信じない、つまり輪廻転生を推奨しているから霊は余り無いと思ったんだけど……居たんだ。
洞窟に入る。なんでわたしたちまで来ているかは不明だけど。
「まぁいいじゃん。面白そうだし」
そんなお気楽な由香。……ねぇ、わたしがユーレイだいっきらいなの知ってるでしょ?
「だから呼ばれたんですけどね」
そんな事を宇佐野さんが言う。
あれ? 今誰のことを言ったんだろう?
着々と奥に進んでいく。度に段々暗くなっていく。
と、宇佐野さんがライトを点けた。かなり明るい。この洞窟をわたし達の範囲内隅まで照らす位に。
「きゃあ!」
……きゃあ?
今の声、誰?
「其処でしたか、会長」
へ?
わたしと由香が同時に上を向くと……
「ぱ、パンツ丸見えです!」
「気付くのは其処じゃないでしょ!」
兎に角、人が居た。しかも瓦礫の山の上に、キレイな人が。
暫らく見とれていると、
「あーなる。宇佐野センパイは、あそこに居る生徒会長サマを助けるためにきたと……よく此処から携帯電話繋がりましたね」
生徒会長さん――と、思われる人――の手にはしっかりと携帯電話が握られていた。この学校、携帯電話は禁止ではありませんでしたっけ? まぁ、こんな洞窟の中でよく繋がりましたね、電波。
「……兎に角、早く下ろしてくれると助かるのですが……」
その言葉を聞いて、漸く想像の世界から解き放たれたわたしは、如何しようかと辺りを見渡す。
「跳べば良いんじゃないですか?」
由香の一言。それはちょっと……。
「こわく――じゃなくて、危ないじゃない!」
で、会長さんの一言。
これは多分埒が明かないんじゃないだろうか?
取り敢えず、矢張り跳ぶ以外に方法は無いのでは?
「その……受け止め、ますか?」
心なしか、下級生に敬語の生徒会長さん。
「キャッチできるかどうかはわかりませんが……少なくとも、由香は何とか取れると思います」
わたしのその言葉に、由香は、まぁー、と否定はしない。あ、取れる自信あるんだ。
が、矢張り怖いモノは怖いみたい。わたしも同じ立場だったら怖いかも。暫らく考えている後に、深呼吸一つして、
「……じゃあ、行くわよ」
えい! と、生徒会長さんは跳んだ。
と、ここで点けていたライトが突然消えた。
なんでしょうか? 此の漫画みたいな展開は……じゃありません。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
生徒会長さんの絶叫が響く。此処から瓦礫の山からの高さはわたしたちの身長から見ては約二メートル弱。かなり高い。
そんな暗闇の中、
「ちょっ! マズ、見失った!!」
由香の声。
あ、これは拙いのかな?
……気付けば、走った。
暗闇に目が慣れるのは、わたしの方が早い。昔からそんな体質で、夜目が利く。
――見えた、人の形! 首筋の辺りに見える光のような筋や、胸に見える光の玉はなんなのか解らないけど、取り敢えず、わたしはその光目掛けて走った。
刹那――
「もっふ!!!」
「きゃあ!!!」
多分……生徒会長さんのお尻が、わたしの顔に直撃したと思う。
そのまま、ばたんと音を立ててわたしは倒れる。
「え、あ! 大丈夫!?」
急いで体を上げる生徒会長さん。取り敢えず怪我も無いみたい。
と、ライトが点いた。
「あ、会長、無事でしたか」
と、宇佐野さん。
そんな宇佐野さんの様子を見て、
「宇佐野! 貴女は何やってるの! ほら、此の子が怪我してるかもしれないわ」
「いえ……大丈夫です」
わたしは体を起こす。
確かに、体の問題は無い。我ながら頑丈な体……。
「そんな事は無いはずよ。ほら、顔の部分に傷がついて血が出てるわ……あ、さわっちゃ駄目よ。
来て、手当てしますから」
わたしはそんな言葉に甘えて、生徒会長さんのところに行く。
生徒会長さんに手を取られて、そのまま洞窟の外に出る。
「これでいいわ」
傷口を水で洗って、バンソウコウを貼る。
「有り難う御座います」
「いえわたくしこそ、受け取ってくれて有り難う」
はい、と答える。
うわ、目の前で見ると本当にキレーな人……見とれちゃうくらい。
そんな中、由香が、
「生徒会長サマ……なんであんなところに居たんですか?」
一番気になる質問をした。
由香の言葉に、えーと、と少し言い辛そうな顔を生徒会長さんはする。……なんか問題でもあるんでしょうか。
「……き、禁則ですわ。ほら、宇佐野! 行くわよ」
「は、はい! それでは!」
そう言って、生徒会長さんと宇佐野さんは行ってしまった。
と、思ったけど、突然生徒会長さんが振り向いて、
「貴女、名前は?」
わたしにそんな質問を投げ掛けた。
「え、あ、リン。二ノ宮リンです」
質問に答える。
と、生徒会長さんはコロっと笑って、
「わたくしの名前は藤咲ヒナ。この学校で生徒会長をしております。よろしくね、リン」
あ、名前で――。
それが出会い。
なんだか日常ではありえない、フィクション世界みたいな出会いだけど……
多分、最高のファーストコンタクト――。
* A L I C E *
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